2021(02)
■シノキ君の本気をどうする
公式学年+1年
++++
「うわあ……わかっちゃいたけどすごい人だな」
「全国から来るからな」
「佐々木君相倉君、カメラセット出来たよ」
「ありがとう」
とうとう緑ヶ丘大学のオープンキャンパス当日を迎えた。3日間の日程で、高校生を対象とした体験講義や、部活動が体験入部の催しをやっていたりするそうだ。社会学部佐藤ゼミではその総合インフォメーションのアナウンスを担当していて、センタービルのど真ん中に特設ラジオブースを設けて丸1日ぶっ通しで放送をすることになっている。
――とは言え、主にインフォメーション放送をするのは3年生だし、俺たち2年生は体験講義をやっている時間を埋めるように、班ごとに制作した50分間の番組をやるという感じでタイムテーブルが組まれている。体験講義の時間帯は人通りもかなり少ないし、正直俺たちの番組は「何かやってるな」という程度のそれだ。
そして2年生の仕事はもうひとつ。カメラ番だ。丸1日やっているラジオブースを、延々と上から撮り続けるんだ。俺たちも去年の映像を見たし、映像の用途は翌年以降の資料として残すことだろう。カメラ番の当番は大体半日くらいで、その間何をするでもなく上からブースを見下ろすことになるのだろう。
「大量の人を見てると手榴弾投げ込むかマシンガンぶっ放してみたくなるよね」
「菅沼さん、今のマイクに拾われてたらヤバくないか」
「ライトなゲーム脳の戯言だよ」
菅沼結さんはゲームが好きで、特に銃をぶっ放す系のゲームが好きなんだそうだ。ホラーゲームやオンラインバトルロワイヤルゲームへの造詣もあって、その強みでゼミに受かったようだ。他に、下梨麦君と村上和君という個性豊かなメンバーでこの3班は構成されている。
「あっいた! ちょっと陸!」
「まいみぃ。もう録画してるから声拾うよ」
「それどこじゃない! アンタ智也がインフルだって知ってた!?」
「えっ、って言うか来てなかったのか!?」
「そーだよそもそも来てないの! てかそっからのレベル!?」
物々しい空気を漂わせてまいみぃがやって来たから何事かと思えば、シノがインフルで来てないだって!? 一応相棒をやっているとは言え、ゼミでは違う班だし常に行動を共にしているわけではない。え、インフルってことはしばらく出て来れないってことだよな。部屋から引き摺って来るわけにもいかなさそうだ。
「智也いないとウチの班のミキサーがいないワケ!」
「ああ、まあ、そうだよなあ。でも、大体もう1人くらいミキサーの練習とかしてたりしない?」
「してないから困ってんだって! だって智也がいると思ってるから! でさ、アンタもMBCCなワケだしミキサーのひとつやふたつ、パパーッと使えない? 智也のピンチヒッターでさ」
「出来る気がしないけど、一応、キューシート見せてもらえる?」
「はい」
打ち合わせの段階でシノは結構激しい波のキューシートを書いていたように思う。一応頭の中でその構成で鳴らしてみているけど、よくあるスタンダードな番組構成とは全然違うということはわかる。たくさんの人が来るからって張り切り過ぎたな。
最終的にどんな番組構成になったのかは今初めて確認したけど、これはとてもじゃないけど、ちょっとミキサーを練習しただけの俺が片手間にやれるような構成じゃない。って言うか人もロクに通らない時間帯の番組でどんな派手な構成にしてんだよアイツ。
「えっと、これはちょっと俺じゃ厳しいな。もっと簡単な構成にしてやるとか出来ない?」
「ムリ。アタシらこれで練習してるから」
「……だよなあ」
「誰かさ、そっちの班でミキサー上手い子とかいない?」
「フツーに考えて、シロートの俺らがシノキ君と同じことを出来るワケないじゃんってな。佐々木君で出来ねーなら俺らにはまずムリよ」
「むぎぃちょっとキビシくなーい?」
「来須には悪いが下梨の言う通りだ」
「亮真まで言うじゃん」
「責めるつもりはないとは言っておく」
「じゃあさ陸、ミキサーがムリならアンタのアタマを貸してよ。どーしたらアタシらは路頭に迷わなくて済む?」
まいみぃの班の番組は昼休みが終わった後の1時過ぎからだ。今が10時過ぎだから、3時間弱の時間がある。その間でどういう策を採るか。オープンキャンパスの期間中はシノが来れないことを考えると、どうするのが一番現実的か。班員はもうこのキューシートに沿って練習をしてしまっているらしいし。
「正直、スケジュールを何日ズラしたところで俺とか、少しミキサーを触っただけの人がシノのこの構成でミキサーを触れるようにはならないから」
「じゃあどーすんの。今から番組書き換え?」
「いや、ダメ元で高木先輩に当たってみるのが一番現実的な策じゃないかなと思う。書き換えたところでまいみぃたちは新しい構成で練習してないわけだし」
「あ、そうじゃん! 先輩いるじゃん! でも、いくら高木さんでもこんなの急に言って出来るモン? 3時間しかないじゃん」
「高木先輩ならそれだけあれば出来る」
「よーし! 当たるだけ当たるかー! ちょっとアタシ高木さん探して来るわ! あんがとねー!」
高木先輩には申し訳ないけど、可能性はそれしか残ってないんだよな。ちょっと、後で俺も改めてお願いと、謝りに行っとこう。で、今日が無事に過ぎたらお見舞いがてら事の顛末を報告しにシノの部屋に殴り込んでやろう。
「ササ」
「どうした亮真」
「高木さんは、12時から昼のインフォメーション放送が入っていたはずだろう。残り時間は実質2時間弱だと思うが」
「あ」
「失念していたという顔だな」
「……あー……まあ、そ、それだけあれば出来る、と思うけどなー…?」
end.
++++
オープンキャンパス当日、シノのやらかしです。と言うかこの時期にやらかすとか普通にテストとか対策委員にも影響出てそう。
佐藤ゼミのササ班の方にも人を何人か増やしたいなと思ってちょこちょこ増員。キャラ立ちはこれから。
そのときは番組をちゃんとやるけど後日ブチ切れの高木パイセンも見てみたいし、すみませんすみませんって謝り倒すササシノも見たい
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公式学年+1年
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「うわあ……わかっちゃいたけどすごい人だな」
「全国から来るからな」
「佐々木君相倉君、カメラセット出来たよ」
「ありがとう」
とうとう緑ヶ丘大学のオープンキャンパス当日を迎えた。3日間の日程で、高校生を対象とした体験講義や、部活動が体験入部の催しをやっていたりするそうだ。社会学部佐藤ゼミではその総合インフォメーションのアナウンスを担当していて、センタービルのど真ん中に特設ラジオブースを設けて丸1日ぶっ通しで放送をすることになっている。
――とは言え、主にインフォメーション放送をするのは3年生だし、俺たち2年生は体験講義をやっている時間を埋めるように、班ごとに制作した50分間の番組をやるという感じでタイムテーブルが組まれている。体験講義の時間帯は人通りもかなり少ないし、正直俺たちの番組は「何かやってるな」という程度のそれだ。
そして2年生の仕事はもうひとつ。カメラ番だ。丸1日やっているラジオブースを、延々と上から撮り続けるんだ。俺たちも去年の映像を見たし、映像の用途は翌年以降の資料として残すことだろう。カメラ番の当番は大体半日くらいで、その間何をするでもなく上からブースを見下ろすことになるのだろう。
「大量の人を見てると手榴弾投げ込むかマシンガンぶっ放してみたくなるよね」
「菅沼さん、今のマイクに拾われてたらヤバくないか」
「ライトなゲーム脳の戯言だよ」
菅沼結さんはゲームが好きで、特に銃をぶっ放す系のゲームが好きなんだそうだ。ホラーゲームやオンラインバトルロワイヤルゲームへの造詣もあって、その強みでゼミに受かったようだ。他に、下梨麦君と村上和君という個性豊かなメンバーでこの3班は構成されている。
「あっいた! ちょっと陸!」
「まいみぃ。もう録画してるから声拾うよ」
「それどこじゃない! アンタ智也がインフルだって知ってた!?」
「えっ、って言うか来てなかったのか!?」
「そーだよそもそも来てないの! てかそっからのレベル!?」
物々しい空気を漂わせてまいみぃがやって来たから何事かと思えば、シノがインフルで来てないだって!? 一応相棒をやっているとは言え、ゼミでは違う班だし常に行動を共にしているわけではない。え、インフルってことはしばらく出て来れないってことだよな。部屋から引き摺って来るわけにもいかなさそうだ。
「智也いないとウチの班のミキサーがいないワケ!」
「ああ、まあ、そうだよなあ。でも、大体もう1人くらいミキサーの練習とかしてたりしない?」
「してないから困ってんだって! だって智也がいると思ってるから! でさ、アンタもMBCCなワケだしミキサーのひとつやふたつ、パパーッと使えない? 智也のピンチヒッターでさ」
「出来る気がしないけど、一応、キューシート見せてもらえる?」
「はい」
打ち合わせの段階でシノは結構激しい波のキューシートを書いていたように思う。一応頭の中でその構成で鳴らしてみているけど、よくあるスタンダードな番組構成とは全然違うということはわかる。たくさんの人が来るからって張り切り過ぎたな。
最終的にどんな番組構成になったのかは今初めて確認したけど、これはとてもじゃないけど、ちょっとミキサーを練習しただけの俺が片手間にやれるような構成じゃない。って言うか人もロクに通らない時間帯の番組でどんな派手な構成にしてんだよアイツ。
「えっと、これはちょっと俺じゃ厳しいな。もっと簡単な構成にしてやるとか出来ない?」
「ムリ。アタシらこれで練習してるから」
「……だよなあ」
「誰かさ、そっちの班でミキサー上手い子とかいない?」
「フツーに考えて、シロートの俺らがシノキ君と同じことを出来るワケないじゃんってな。佐々木君で出来ねーなら俺らにはまずムリよ」
「むぎぃちょっとキビシくなーい?」
「来須には悪いが下梨の言う通りだ」
「亮真まで言うじゃん」
「責めるつもりはないとは言っておく」
「じゃあさ陸、ミキサーがムリならアンタのアタマを貸してよ。どーしたらアタシらは路頭に迷わなくて済む?」
まいみぃの班の番組は昼休みが終わった後の1時過ぎからだ。今が10時過ぎだから、3時間弱の時間がある。その間でどういう策を採るか。オープンキャンパスの期間中はシノが来れないことを考えると、どうするのが一番現実的か。班員はもうこのキューシートに沿って練習をしてしまっているらしいし。
「正直、スケジュールを何日ズラしたところで俺とか、少しミキサーを触っただけの人がシノのこの構成でミキサーを触れるようにはならないから」
「じゃあどーすんの。今から番組書き換え?」
「いや、ダメ元で高木先輩に当たってみるのが一番現実的な策じゃないかなと思う。書き換えたところでまいみぃたちは新しい構成で練習してないわけだし」
「あ、そうじゃん! 先輩いるじゃん! でも、いくら高木さんでもこんなの急に言って出来るモン? 3時間しかないじゃん」
「高木先輩ならそれだけあれば出来る」
「よーし! 当たるだけ当たるかー! ちょっとアタシ高木さん探して来るわ! あんがとねー!」
高木先輩には申し訳ないけど、可能性はそれしか残ってないんだよな。ちょっと、後で俺も改めてお願いと、謝りに行っとこう。で、今日が無事に過ぎたらお見舞いがてら事の顛末を報告しにシノの部屋に殴り込んでやろう。
「ササ」
「どうした亮真」
「高木さんは、12時から昼のインフォメーション放送が入っていたはずだろう。残り時間は実質2時間弱だと思うが」
「あ」
「失念していたという顔だな」
「……あー……まあ、そ、それだけあれば出来る、と思うけどなー…?」
end.
++++
オープンキャンパス当日、シノのやらかしです。と言うかこの時期にやらかすとか普通にテストとか対策委員にも影響出てそう。
佐藤ゼミのササ班の方にも人を何人か増やしたいなと思ってちょこちょこ増員。キャラ立ちはこれから。
そのときは番組をちゃんとやるけど後日ブチ切れの高木パイセンも見てみたいし、すみませんすみませんって謝り倒すササシノも見たい
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