2021(02)

■雨の音から気を散らす

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「高木、彩人、何か食うか?」
「ああ、そうだね。彩人も食べる?」
「いいんすか?」
「エイジ、何が出来そう?」
「ま~あ~……ジャガイモをレンチンして蒸かし芋にすんのが無難かなとは。パスタソースも2人分しかないっていう」
「マジすんません! 俺が上がり込んだ所為で」
「や、違う違う。元々次の休みに買い物に行くつもりだったっていう」

 向島エリアを中心に、物凄い勢いで雨が降っている。俺は母ちゃんから「危ないから帰って来るな」と連絡があって、高木の部屋に避難させてもらうことになった。まあ、高木の部屋に泊まるのは天気関係なくいつものことだし、肌着や洗い替えの服もあるという点では全然いい。
 そして今日は、星ヶ丘の1年で高木と夏合宿で一緒の班になった星ヶ丘の彩人もここに避難していた。彩人は山羽出身で、星ヶ丘大学近くのアパートに住んでいるらしい。だけど、雷が怖くて1人でいられなかったとのこと。確かに今日の雷は絶え間ないし、デカいしウルサイし、特段苦手じゃなくても心臓がバクバクするレベルだ。

「エージさん何か手伝いますか?」
「大丈夫だべ。お客さんなんだし座っとけっていう」
「え、つかエージさんもお客さんなんじゃないんすか?」
「俺は最早客扱いされないレベルで高木ン家に入り浸ってるし、台所とか水回り関係はコイツよりわかってるっていう」
「へー、1人暮らしだとそういうのもあるんすねー」
「彩人、部屋に友達遊びに来たりしないのか?」
「あ、先輩ならたまに来ますね。部活の4年生の先輩が隣の部屋に住んでて、たまにその人と飯食いながら飲んだりします」
「星ヶ丘の4年か。っつってもアニさんか朝霞さんしか知らないっていうな。あとIFサッカー部のスガさんとカンさん」
「朝霞さん知ってるんすか!? うちの隣が朝霞さんなんすよ!」
「へー、世間って狭いな。あれ、つかそしたら今日朝霞さんはどうした?」
「朝霞さん今日豊葦で用事があるからいないって言ってて、そんで、このアパートはもうダメだっつって現在に至ってるっす」

 台所で立ち話も難だし、せっかく手伝ってくれる気持ちがあったならと飯の支度を手伝ってもらうことにした。とは言え蒸かし芋だから、大してやることは多くない。ジャガイモを水で濡らしてラップでくるんでチンだ。あと、必要な調味料を揃えたり、あとは食器か。パンまつりの皿でいいか。
 そうこうしている間に家主はと言うと、ひたすらパソコンと向き合っていた。ディスプレイに映し出されているのは雨雲レーダーやニュースの映像。メッシュ地図が表しているのは星港ではなく、奴の地元、紅社エリアだ。いかにも危なそうな赤や紫に覆われた地図を見ながら、大きな溜め息をひとつ。

「彩人、高木に何飲むか聞いて来てくれ」
「え。あ。はい」

 まあ、さすがに今日は酒は飲まんだろうなとは思うけども。ジャガイモにコーヒーや紅茶も合わないだろうし、水か。

「エージさん、水でいいそうっす」
「だべな。はいこれ。机に頼む。珪藻土コースターあるからその上に」
「了解っす」

 1人2個くらいを目安に、ジャガイモを加熱する。しかし、デカイしいい芋だっていう。何でも、ミドリのバイト先に押し寄せて来た物らしい。1人暮らし(かつ俺も入り浸ってる)ならまあ食うだろうとケースでもらったとか。実際、食料として役に立っているし、保存の仕方さえ間違えなければ当分はやっていけそうだ。

「高木、地元が心配なのはわかるべ。でも、1回パソコン閉じた方がいいべ」
「そうだね。音楽にしとくよ」
「あーあー、そうしろ。今ジャガイモ蒸かしてっから。でもデカいからしばらくかかるな」
「彩人、好きな調味料ある? 大丈夫?」
「あ、バターもマヨもあるんで最高っす。黒コショウもあるし。でも、1人暮らしでなんちゃってじゃないガチなバターとか、かけるときに挽くコショウとか、ハイグレードっすね!」
「バターはさ、パンに塗るのに使うし、コショウは何にでも使えるからね。パスタとか、肉炒めとか」
「コイツはバイトもしないのにそんなトコばっかこだわるっていう」
「美味しいものを食べたいじゃない」

 相変わらず外は雨の音やら雷やらでうるさいけど、こうして話していると多少は気が紛らわすことが出来る。そろそろ食えそうかなとか、中まで火が通ってるかまだ怪しいぞと言いながら、時々フォークを刺してジャガイモの様子を窺うんだ。机の上の支度は完璧。あとは芋待ちだ。

「あー、こんな事態じゃなきゃ絶対ビール飲むんだけどなー…!」
「間違いないっすね」
「おっ、彩人、お前も酒飲みか」
「酒飲みって程でもないっすけど。ちょっと飲むくらいで。でも、朝霞さんとか戸田さんとかはめちゃくちゃ飲む人たちなんで、すげーなーとは思って話を聞いてます」
「あー、確かにあの人らはめちゃくちゃ飲むな、強い弱いは別にして」
「エイジも飲む量ならMBCCで指折りじゃない」
「お前が言うなっていう。大体お前は飲んでも飲みっぱなしで缶も瓶も全然片付けないのが性質悪いっていう! 降りてすぐ集積所なんだから即捨てろ」
「マンションにゴミ捨て場があるのはめちゃ贅沢っすよ。つか高木さんもエージさんも酒飲みなんすね」
「大学行ったらつばめサンとかゲンゴローに緑ヶ丘と酒飲みについて聞いてみ?」
「え、何か怖いんすけど」
「さ! さすがにそろそろ食えるだろ! 食うべ!」
「そうだね。まあ、ジャガイモはまだいっぱいあるし、今度は平和なときに飲みながらジャガイモを食べようか」
「ウインナーも買い足してな」
「いいね」


end.


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恒例になりつつある夏の大雨話、今年はタカちゃんの地元もまあまあ心配なんだろうなっていう感じをチラリ。どこで何が起こるかわからんしね
ミドリのジャガイモは例によって情報センターなんだけど、しれっと湧いてきて、いつ湧いたっていう話をやってないっていうね。まあいいか
星ヶ丘の代表的なキャラもだし、エイジもる~び~民なのでじゃがバタにもビールだし何にでもビールが美味いんだわ。タカちゃんは訓練中。

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