2021(02)
■人とノリの大学間ギャップ
++++
「いや~、おはよ~。今年の対策委員はこんな顔触れね!」
「ダイさんおはようございますッ! 対策委員の一部ですッ!」
今日は対策委員の有志……議長のアオ、委員長のエイジ、機材管理担当の俺、そして向島代表の奈々という4人で特別な会議を開かせてもらっている。夏合宿に向けて決めるべき最重要事項が、他でもない講師。今日の議題は講師問題について。
とは言え、俺たちの人脈なんか高が知れているし、去年の合宿のことを思い返した結果、今年も水沢さんにお願い出来ないかなあという話になるのにはそんなに時間はかからなかった。実力も実績もあるのにフランクで親しみやすい人柄なんだよね。講習もわかりやすかったし。
「奈々も相変わらず元気だね~」
「元気っす! うっすうっす」
「えっと? 一応自己紹介した方がいい?」
「あの、うちらはダイさんのことは知ってるんで、こっちが名乗る側の自己紹介をしましょうかッ!」
「そうだね、うっすら覚えてるけど、顔と名前をはっきりさせるために一応聞いとこうか」
というワケで、対策委員が名乗る側の自己紹介をやることに。確かにこれは大事なことなので、しっかりと時間をとることに。司会進行は自然と奈々がやっていた。
「そしたらアオから順にお願い」
「はい。対策委員議長で、星大の高山蒼希です」
「えーと、去年は野坂の班で、確か圭斗と組んでたよね?」
「そうです」
「覚えてるよ~。あのクソマイペースな色男をよくもまあ操縦したなあって感心したもんね。そっか、アオちゃんが議長になったのね。しっかり者だし対策委員も安泰だねえ」
「じゃあ次エージ」
「対策委員委員長の、中津川栄治っす。緑ヶ丘のアナウンサーっす」
「あ~…? 確か、つばちゃんとやってた文学ロック坊主だよね!」
「そうっす! え、まさか全員覚えてるとかっすか?」
「さすがに全員パッとは出て来ないけど、対策委員になるような子たちって、その学年でも特に存在感のある子だからね。まあまあ覚えてるよ。向島の子がいた班の子なら尚更ね」
誰にどういう印象があって、というようなことをきちんと覚えている水沢さんの記憶力が物凄いなあと思うけど、そういうことを記憶とか、知識と繋げていくのはラジオだけじゃなく、携帯端末売りの仕事の方にも繋がっているんだとか。
でも、確かにアオにしてもエイジにしても、去年の夏合宿では班に向島の人がいたなあと思う。そうなってくると、俺の班には奥村先輩と土田先輩がいたし、きっとそれなりに覚えられてる可能性がグッと高まっているような。
「はい、じゃ次タカティ」
「はい。機材管理担当の高木隆志です。緑ヶ丘の、ミキサーです」
「出た~、満を持してのタカティだね~。今ってインターフェイスの機材とか、パソコンを導入したりしてタカティが面白いことやってんでしょ? 次代を担うスーパーエースだって風に聞いてるけど」
「あ、いえ、そこまで言われるほどでは。と言うか、そんなに誇張した表現で誰が――……っと、もしかして、野坂先輩ですかね?」
「おっ、せいかーい。よくわかったねえ」
「初心者講習会の準備期間に野坂先輩がウチのサークル室で練習や打ち合わせをしていて、そのときにいろいろ話をしていたので」
「あーそっか、アイツ講師だったもんね!」
と言うか、実際にインターフェイスの機材周りの改革をしているのはL先輩で、俺はその補佐的役割を担ってるだけなんだよなあ。それでも緑ヶ丘の中で起こってることだし、他の大学の人からすれば俺の立ち位置でも十分最先端なのかもしれない。
「自己紹介も終わりましたので本題に入らせてもらいます。この度水沢さんには去年に引き続いて夏合宿の講師を依頼させていただきたくことになりました。つきましては……」
「これがアオちゃんのいいところで、性格なんだろうけど、ちょっとカタいねえ」
「カタ、……え?」
「俺が真面目な打ち合わせが苦手なのかもね。いい大人なんだからちゃんとしなきゃいけないとは思ってるんだけど」
「奈々、私はどうすれば」
「アオはそのまんまで大丈夫ッ! 真面目に不真面目をやるのはMMPの担当っす、うっすうっす! あっ、エージとタカティはいつも通り漫才やってくれればいいからねッ」
「奈々、いいね~」
「や、俺は漫才なんかやってた覚えはないべ」
「タカティがボケるから、必然的にエージがツッコまざるを得ないでしょ」
「じゃ俺は悪くないっていう」
「えー、俺もボケてるつもりはないんだけどなあ」
多分、真面目な打ち合わせに耐えられないというのは向島の人に一定は見受けられる性質なのかもしれないな。固くて重い空気をどうにかしたいとか、雑談で場を和ませていい雰囲気やチームワークを作っていきたいっていうスタイルの。
真面目な内容の打ち合わせはちゃんとしつつも、合間合間に少し脱線。人間の集中力なんか全然続かないんだから休憩も必要なのよ、と水沢さんは軽く言う。でも確かに番組をやっててもトークタイムは基本3分だし、ダブルトークでも精々5分だもんな。
「ダイさん、今年の初心者講習会の資料ありますけど見ます?」
「見る見る! 今年はまたちょっと違ったんでしょ? お~、レジュメがクソ真面目~、さすが野坂~。このフォーマットが懐かしい! この書き方さ~、ウチのゼミでよくやる書き方で~」
「レジュメとかレポートの書き方ってゼミによって色が出るらしいっすねッ!」
「そう言えば奈々、こないだメディア仕事の現場でお姉ちゃんに会ったよ。水鈴ちゃん、相変わらずキレーだねえ」
「ミーちゃんに会ったんすかッ!? ミーちゃんひとつも言ってくれないんだからーッ!」
「……エージ、今日の会議に奈々がいてくれてよかった」
「違いねーべ」
「向島の人のノリって特殊だからね」
end.
++++
ナノスパの中では大人枠のダイさんも、所詮向島の人なのでノリはあんなモンです。村井のおじちゃんとも仲良しだからね。
というワケで夏合宿の講師問題も無事解決。ダイさんが今年の対策委員を覚えてたのは記憶力だけでもなさそうだけど。
今は向島のノリだけど、もうそろそろ覚悟を決めなければならない時期が奈々にも迫る。そのときにどう存在感を出していくか。
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「いや~、おはよ~。今年の対策委員はこんな顔触れね!」
「ダイさんおはようございますッ! 対策委員の一部ですッ!」
今日は対策委員の有志……議長のアオ、委員長のエイジ、機材管理担当の俺、そして向島代表の奈々という4人で特別な会議を開かせてもらっている。夏合宿に向けて決めるべき最重要事項が、他でもない講師。今日の議題は講師問題について。
とは言え、俺たちの人脈なんか高が知れているし、去年の合宿のことを思い返した結果、今年も水沢さんにお願い出来ないかなあという話になるのにはそんなに時間はかからなかった。実力も実績もあるのにフランクで親しみやすい人柄なんだよね。講習もわかりやすかったし。
「奈々も相変わらず元気だね~」
「元気っす! うっすうっす」
「えっと? 一応自己紹介した方がいい?」
「あの、うちらはダイさんのことは知ってるんで、こっちが名乗る側の自己紹介をしましょうかッ!」
「そうだね、うっすら覚えてるけど、顔と名前をはっきりさせるために一応聞いとこうか」
というワケで、対策委員が名乗る側の自己紹介をやることに。確かにこれは大事なことなので、しっかりと時間をとることに。司会進行は自然と奈々がやっていた。
「そしたらアオから順にお願い」
「はい。対策委員議長で、星大の高山蒼希です」
「えーと、去年は野坂の班で、確か圭斗と組んでたよね?」
「そうです」
「覚えてるよ~。あのクソマイペースな色男をよくもまあ操縦したなあって感心したもんね。そっか、アオちゃんが議長になったのね。しっかり者だし対策委員も安泰だねえ」
「じゃあ次エージ」
「対策委員委員長の、中津川栄治っす。緑ヶ丘のアナウンサーっす」
「あ~…? 確か、つばちゃんとやってた文学ロック坊主だよね!」
「そうっす! え、まさか全員覚えてるとかっすか?」
「さすがに全員パッとは出て来ないけど、対策委員になるような子たちって、その学年でも特に存在感のある子だからね。まあまあ覚えてるよ。向島の子がいた班の子なら尚更ね」
誰にどういう印象があって、というようなことをきちんと覚えている水沢さんの記憶力が物凄いなあと思うけど、そういうことを記憶とか、知識と繋げていくのはラジオだけじゃなく、携帯端末売りの仕事の方にも繋がっているんだとか。
でも、確かにアオにしてもエイジにしても、去年の夏合宿では班に向島の人がいたなあと思う。そうなってくると、俺の班には奥村先輩と土田先輩がいたし、きっとそれなりに覚えられてる可能性がグッと高まっているような。
「はい、じゃ次タカティ」
「はい。機材管理担当の高木隆志です。緑ヶ丘の、ミキサーです」
「出た~、満を持してのタカティだね~。今ってインターフェイスの機材とか、パソコンを導入したりしてタカティが面白いことやってんでしょ? 次代を担うスーパーエースだって風に聞いてるけど」
「あ、いえ、そこまで言われるほどでは。と言うか、そんなに誇張した表現で誰が――……っと、もしかして、野坂先輩ですかね?」
「おっ、せいかーい。よくわかったねえ」
「初心者講習会の準備期間に野坂先輩がウチのサークル室で練習や打ち合わせをしていて、そのときにいろいろ話をしていたので」
「あーそっか、アイツ講師だったもんね!」
と言うか、実際にインターフェイスの機材周りの改革をしているのはL先輩で、俺はその補佐的役割を担ってるだけなんだよなあ。それでも緑ヶ丘の中で起こってることだし、他の大学の人からすれば俺の立ち位置でも十分最先端なのかもしれない。
「自己紹介も終わりましたので本題に入らせてもらいます。この度水沢さんには去年に引き続いて夏合宿の講師を依頼させていただきたくことになりました。つきましては……」
「これがアオちゃんのいいところで、性格なんだろうけど、ちょっとカタいねえ」
「カタ、……え?」
「俺が真面目な打ち合わせが苦手なのかもね。いい大人なんだからちゃんとしなきゃいけないとは思ってるんだけど」
「奈々、私はどうすれば」
「アオはそのまんまで大丈夫ッ! 真面目に不真面目をやるのはMMPの担当っす、うっすうっす! あっ、エージとタカティはいつも通り漫才やってくれればいいからねッ」
「奈々、いいね~」
「や、俺は漫才なんかやってた覚えはないべ」
「タカティがボケるから、必然的にエージがツッコまざるを得ないでしょ」
「じゃ俺は悪くないっていう」
「えー、俺もボケてるつもりはないんだけどなあ」
多分、真面目な打ち合わせに耐えられないというのは向島の人に一定は見受けられる性質なのかもしれないな。固くて重い空気をどうにかしたいとか、雑談で場を和ませていい雰囲気やチームワークを作っていきたいっていうスタイルの。
真面目な内容の打ち合わせはちゃんとしつつも、合間合間に少し脱線。人間の集中力なんか全然続かないんだから休憩も必要なのよ、と水沢さんは軽く言う。でも確かに番組をやっててもトークタイムは基本3分だし、ダブルトークでも精々5分だもんな。
「ダイさん、今年の初心者講習会の資料ありますけど見ます?」
「見る見る! 今年はまたちょっと違ったんでしょ? お~、レジュメがクソ真面目~、さすが野坂~。このフォーマットが懐かしい! この書き方さ~、ウチのゼミでよくやる書き方で~」
「レジュメとかレポートの書き方ってゼミによって色が出るらしいっすねッ!」
「そう言えば奈々、こないだメディア仕事の現場でお姉ちゃんに会ったよ。水鈴ちゃん、相変わらずキレーだねえ」
「ミーちゃんに会ったんすかッ!? ミーちゃんひとつも言ってくれないんだからーッ!」
「……エージ、今日の会議に奈々がいてくれてよかった」
「違いねーべ」
「向島の人のノリって特殊だからね」
end.
++++
ナノスパの中では大人枠のダイさんも、所詮向島の人なのでノリはあんなモンです。村井のおじちゃんとも仲良しだからね。
というワケで夏合宿の講師問題も無事解決。ダイさんが今年の対策委員を覚えてたのは記憶力だけでもなさそうだけど。
今は向島のノリだけど、もうそろそろ覚悟を決めなければならない時期が奈々にも迫る。そのときにどう存在感を出していくか。
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