2021(02)

■捻じ曲がる正論ショット

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「さ、前原さんもう1本行きましょうか」
「ちょ、もう勘弁してくれ。マジで死ぬ」
「前原さんて体力ないのが最大の弱点すよね」
「いや~? 松居君が特別元気なんだと思うぜ?」
「そりゃ~ブランクはあれど体育会系、人並みの体力は持ち合わせてますとも」

 今日もいつものように奏多は前原さんに挑んでは打ち負かされている。素人の俺からすれば奏多は何が悪くて毎回勝てないのかが全くわからないんだけど、それでも連戦連敗。奏多風に言えば勝ち逃げされている状況が続いている。
 前原さんはすげー強いけど、確かにスタミナは他の人に比べて少なめと言うか。準備体操を流してたり、負けそうにならないと本気を出さないっていうのはそれが少なからず影響してるのかな。本人風に言えば歳を食っているからか、酒とタバコの影響か。

「奏多、前原さんが他の人とやってバテてるときに勝負を挑めばいいんじゃね?」
「あの人バテてるときはぜってー俺とやろうとしねーし。それに、万全の状態の時に勝たないと何の意味もないしな」
「わかる。ごめんな、考えりゃ当たり前のことだったわ」
「いや、誰でも1回はそう考えるぜ~」
「どっこいせ。いやー、若者は元気でよろしい」
「前原さん、アンタ若者若者言いますけど俺1コ下っすからね?」
「1コ違えば十分若いだろ」

 俺がMMPの方に行っていていない時も、奏多は前原さんに勝負を挑んでは負けてを繰り返している。他の人とも話すようだけど、コート外でのお喋りよりも、前原さんと打ち合っている時が一番楽しいんだそうだ。
 前原さんも前原さんで、奏多からの勝負には連戦でバテているとかでなければ応じてくれるそうなので、見かけによらず熱いのかもしれない。毎回勝ってたらもういいだろって突っぱねる人とかもいそうだけど。

「おーい、マエトモー」
「あーん? 何だ真希ぃー」
「アンタこの子に何を吹き込んだんだい? アタシに苦情を言われてもどうしようもないんだけど?」
「ンなこた俺も知るかよ」

 真希さんがやれやれと言った様子で連れてきたのは萌香だ。俺と一緒にMMPを見学して、そのままお試し参加している。MMPでは一応ミキサーだけど、あんまりガチってる感じではないなーとは思ってたし、その辺のところを先輩にも聞かれてたんだよな。

「そもそも俺この子と喋ったことねーし」
「真希ちゃん、何をクレーム付けられてんです?」
「この子、希と一緒にMMPを見学してそのまま掛け持ちを始めただろ? 向こうの様子はどうだって聞いたらイケメンがいないだのなんだのと。そりゃどういうことだいって聞いたらマエトモがそんなことを言ってたーっつって」
「だってそう聞きましたもん。美男美女がいて、イケメンやら可愛い子に出会えるって」
「ンなコト言ったかなぁ? 春日井君、どうだった?」
「美男美女の件は聞きましたけど、出会いの件は言ってなかったと思うっすよ」
「ほーら見たか! 無罪!」

 MMPには俺の知ってる美男美女がいて、顔もちょっとだけなら通じるからみたいなことは確かに言ってたんだよな。で、多分それは菜月先輩と、こないだサークルに遊びに来てた圭斗先輩のことなんだよな。あの人らは確かに美男美女だ。

「でも、こないだアルバム見せてもらったけど、みんなすげーカッコ良かったし、キレーな人ばっかだったじゃんな」
「それが引退してる4年とか聞いてないし!」
「つーか、別にそれが何年生とは言ってないのに勘違いして飛びついた方が悪くね? それでいちゃもん付けられるとか前原さんと真希ちゃんカワイソ」
「イケメンがいると思って行ってみたら、大した男はいないし。この人はまだいいかなって思ったら男好きでドン引きだし」
「MMPにはゼミの後輩いるけど、確かに顔はいいんだよな。運動神経がよくて成績もオールSで。ただ、イケメン好きのオタクではある」
「理系でオールSはヤバいっすね」
「オタクとか一番ないし!」
「でもMMPで活動やってりゃ他校にも友達出来るんだろ? なあ春日井君」
「そっすね。俺も合宿の関係でいろいろ知り合ってますし。今度緑ヶ丘の子と一緒に世音坂に行こうって話してます」

 合宿の顔合わせが終わってから、班のグループLINEで先輩も含めたみんなとちょこちょこ連絡を取り合っている。真面目な番組の話もするけど、ちょっとした世間話もあったりして既にちょっと仲良くなれている気がする。

「春日井くんて平和だよね」
「奏多、もしかして誉められてはない?」
「難なら真正面からディスってんね」
「私の班なんかオタクかちんちくりんしかいないし、男に媚びてる女までいるしでもーう最悪! 今からでも辞めよっかなー」
「男に媚びてんのはお前なんだよな」
「って言うかアンタさっきから何? 性格最悪なんですけど!」
「俺はお前と反りが合わない判定されて嬉しいね。つか、辞めるならさっさと辞めちまえよ。向こうの人も迷惑だろうし」
「奏多、さすがに言い過ぎだろ」
「こいつはかっすーと違ってラジオがやりたくてサークルを掛け持ってるワケじゃないんだ。そんな態度でやってても、ウチのサークルや先輩の評判が落ちるだけだしただただ迷惑だろ」
「は? そんなコト言って、私に構って欲しいとか? 喋らなきゃまあ、私の横に置いといていいんじゃない?」
「言ってろ、ドブ臭えクソビッチがよ」

 萌香にナメてんなコイツって思ったけど奏多がめちゃくちゃこえーし、なんなら最後の方の萌香は声も震えてるし負け惜しみです感ハンパなかったから逆にかわいそうになったよな! いや、でもやっぱ正式加入はないなこの感じだったら。なら合宿の話になる前にやめりゃよかったのに。

「いやー松居君、言うねえ。そっちのラリーだったら俺勝てんわ」
「や、俺はちゃんとバドミントンの方で勝つんで」


end.


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奏多もまあ緩そうに見えて真面目なところのある性格なのかもしれない。マジで緩ければ春風がシメてるだろうからなあ
この感じで萌香が合宿に行って、イケメンを見つけたときの反応だったりとかがどんな感じかは気になるところ。
前原さんが卒業した後、バドサーでの目標ややることがガチでなくなりそうな奏多である。卒業までに果たして勝てるのか

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