2021(02)
■スキマのラジオ
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公式学年+1年
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「えー、今度の連休には、緑ヶ丘大学のオープンキャンパスがあるということで、2年生の君たちにやってもらう番組の方はどうなってますか。今日のゼミではその番組の打ち合わせや機材を使った練習なんかをやってもらいます。それから――」
緑ヶ丘大学のオープンキャンパスは、今年は3日間開催されるそうだ。このオープンキャンパスというのが結構なイベントで、3日間で数万人が訪れると言われている。数万って。でも、一応結構な規模の総合大学だし、3日間もある。全国各地から観光ついでに来る高校生もいるのだろう。
そんな中で、佐藤ゼミは総合インフォメーションの仕事を担当しているそうだ。総合インフォメーションというのは、合間合間に各学部の体験講義の案内をするらしい。○○の講義は、今高く掲げられているあのプラカードの下に集合、という感じで。センタービルにゼミのラジオブースがあるんだけど、その外に改めてブースを構えるとのこと。
基本的に、3年生がインフォメーション、2年生は体験講義が行われている時間帯の、ちょっとしたラジオ番組を担当することになっている。先週のゼミで過去の映像は見たけど、黒山の人だかりになっている講義の合間に比べて、2年生が番組をやっている時間帯の人通りはまばらだ。みんな教室に入っているから。
「君たちも、佐藤ゼミにいる以上はラジオの機材も使えるようになってもらわないと困るんだけど、まあ今回は初めてだからねえ。しっかり練習をするように。使い方がわからないとかがあればちゃんと聞きなさいよ。壊されても困るからね」
さて、MBCCの宿命というのを果林先輩から予めアドバイスをもらっていたので、俺も最低限機材を扱えるようにサークルの場で予習してある。サークルの機材が基本だから、それを扱えればゼミのそれも仕様が違うだけでやること自体は同じであると。機材の扱いは高木先輩から簡単にレクチャーしてもらいましたよね。
「やっぱり、ササはMBCCだし機材の扱いも一通りは出来るのか」
「あっ、そうだ佐々木君てラジオのサークルだよね!」
「えっと、俺はトークする方のアナウンサーだから、機材の扱いに関しては専門じゃないんだ。でも、オープンキャンパスのために最近ちょっとずつ予習してるし、少しだけなら扱えるよ」
亮真から切り出されたそれがMBCCの宿命だ。知らない人が抱くのは「MBCCだからラジオのことは完璧」というイメージだ。アナウンサーとかミキサーとかそんなことは関係なくみんなトークが出来るし、みんな機材を扱える。そんな風に思われて機材の扱いを期待されがちなんだと。
「佐々木君、やってる? この班は佐々木君がいるんだし、番組の内容に期待したいねえ」
「内容ですか?」
「高校生を引き付ける知的な番組だよ!」
「はあ」
先生からよく言われる「知的」ということで結構悩んでいたけど、これも果林先輩がズバンと答えを出してくれていた。誰にでも理解出来る言葉で構成されたノイズにならないトークであればいい、ということだ。お昼にやっている佐藤ゼミのラジオは内容がニッチで入り口が狭い。万人に理解出来る番組というのがこのゼミのスキマなのだ。
「向こうの班はシノキ君と来須君が中心になって頑張ってるみたいだけど、彼女のやることだからきっとエンタメ寄りになるでしょう。だからこそだよ佐々木君! 2年生の立場は君にかかってるんだからね!」
それだけ言うと先生は次の班の見回りに行ってしまった。亮真や、他の班のみんなもドンマイと俺を励ましてくれる。俺にだけそんなに圧をかけることないのにな、と一定の同情は得られたようだ。佐々木君だけじゃなくてみんなで頑張ろうと改めて確認をする。俺のいる3班の班員はみんな優しいなと、知っていたけど再確認した。
「確かにシノとまいみぃの声は大きいな」
「な。つい見てしまうと言うか」
シノとまいみぃがヒートアップしているので、隣の班の打ち合わせについ目が行ってしまう。元々佐藤ゼミ2年生のムードメーカーの2人だからか、班ごとに分かれているにも関わらず、空気の中心になっていると言うか。2年生全体の雰囲気で言うなら、確かに俺は落ち着いた枠でもいいのかもしれない。
「なーなーササ!」
「どうしたシノ。班の打ち合わせ中だろ」
「や、ちょっと確認。オープンキャンパスの機材って、あのブースからどのレベルまで減るんだっけ?」
「インターフェイスにカフを足した程度」
「オッケ、最低限な! よ~し、燃えて来た~! 腕が鳴るぜ~!」
そう言ってシノが翻したキューシートには、遠目からでもはっきりとわかる荒い波が躍っていた。相当凝った構成にするつもりだな。まいみぃのリクエストに応えてるのかもしれないけど。まあ、シノならどんな構成でもやれるっちゃやれるからな。最初は難しくても期日までにやれるように練習するのがシノだし。
MBCCの人間に課せられる宿命めいたものは、先輩たちから教わっている。その情報を生かしてどう立ち回ることが出来るかだ。とりあえず、俺はダブルトークの練習もしつつ、機材の扱いも最低限は出来るようにしておくことだ。番組の持ち時間は体験講義と同じ50分。長いような、短いような。
「佐々木君、1回機材の使い方教えてもらっていい?」
「わかったよ。そしたら、まずは――」
end.
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佐藤ゼミの宿命というものと戦っているササとシノです。でも、シノは案外楽しんでいる様子。ササも頑張っている。
で、TKGな。疫病神と呼ばれるレベルで面倒事に巻き込まれるポジションをササシノに押し付けたいので2年生の育成を頑張っているぞ!
確か、+2年の概念のあった17年度では、このオープンキャンパスでシノがやらかしていたけれど、フェーズ2の+1年の概念版ではどうなる……
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公式学年+1年
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「えー、今度の連休には、緑ヶ丘大学のオープンキャンパスがあるということで、2年生の君たちにやってもらう番組の方はどうなってますか。今日のゼミではその番組の打ち合わせや機材を使った練習なんかをやってもらいます。それから――」
緑ヶ丘大学のオープンキャンパスは、今年は3日間開催されるそうだ。このオープンキャンパスというのが結構なイベントで、3日間で数万人が訪れると言われている。数万って。でも、一応結構な規模の総合大学だし、3日間もある。全国各地から観光ついでに来る高校生もいるのだろう。
そんな中で、佐藤ゼミは総合インフォメーションの仕事を担当しているそうだ。総合インフォメーションというのは、合間合間に各学部の体験講義の案内をするらしい。○○の講義は、今高く掲げられているあのプラカードの下に集合、という感じで。センタービルにゼミのラジオブースがあるんだけど、その外に改めてブースを構えるとのこと。
基本的に、3年生がインフォメーション、2年生は体験講義が行われている時間帯の、ちょっとしたラジオ番組を担当することになっている。先週のゼミで過去の映像は見たけど、黒山の人だかりになっている講義の合間に比べて、2年生が番組をやっている時間帯の人通りはまばらだ。みんな教室に入っているから。
「君たちも、佐藤ゼミにいる以上はラジオの機材も使えるようになってもらわないと困るんだけど、まあ今回は初めてだからねえ。しっかり練習をするように。使い方がわからないとかがあればちゃんと聞きなさいよ。壊されても困るからね」
さて、MBCCの宿命というのを果林先輩から予めアドバイスをもらっていたので、俺も最低限機材を扱えるようにサークルの場で予習してある。サークルの機材が基本だから、それを扱えればゼミのそれも仕様が違うだけでやること自体は同じであると。機材の扱いは高木先輩から簡単にレクチャーしてもらいましたよね。
「やっぱり、ササはMBCCだし機材の扱いも一通りは出来るのか」
「あっ、そうだ佐々木君てラジオのサークルだよね!」
「えっと、俺はトークする方のアナウンサーだから、機材の扱いに関しては専門じゃないんだ。でも、オープンキャンパスのために最近ちょっとずつ予習してるし、少しだけなら扱えるよ」
亮真から切り出されたそれがMBCCの宿命だ。知らない人が抱くのは「MBCCだからラジオのことは完璧」というイメージだ。アナウンサーとかミキサーとかそんなことは関係なくみんなトークが出来るし、みんな機材を扱える。そんな風に思われて機材の扱いを期待されがちなんだと。
「佐々木君、やってる? この班は佐々木君がいるんだし、番組の内容に期待したいねえ」
「内容ですか?」
「高校生を引き付ける知的な番組だよ!」
「はあ」
先生からよく言われる「知的」ということで結構悩んでいたけど、これも果林先輩がズバンと答えを出してくれていた。誰にでも理解出来る言葉で構成されたノイズにならないトークであればいい、ということだ。お昼にやっている佐藤ゼミのラジオは内容がニッチで入り口が狭い。万人に理解出来る番組というのがこのゼミのスキマなのだ。
「向こうの班はシノキ君と来須君が中心になって頑張ってるみたいだけど、彼女のやることだからきっとエンタメ寄りになるでしょう。だからこそだよ佐々木君! 2年生の立場は君にかかってるんだからね!」
それだけ言うと先生は次の班の見回りに行ってしまった。亮真や、他の班のみんなもドンマイと俺を励ましてくれる。俺にだけそんなに圧をかけることないのにな、と一定の同情は得られたようだ。佐々木君だけじゃなくてみんなで頑張ろうと改めて確認をする。俺のいる3班の班員はみんな優しいなと、知っていたけど再確認した。
「確かにシノとまいみぃの声は大きいな」
「な。つい見てしまうと言うか」
シノとまいみぃがヒートアップしているので、隣の班の打ち合わせについ目が行ってしまう。元々佐藤ゼミ2年生のムードメーカーの2人だからか、班ごとに分かれているにも関わらず、空気の中心になっていると言うか。2年生全体の雰囲気で言うなら、確かに俺は落ち着いた枠でもいいのかもしれない。
「なーなーササ!」
「どうしたシノ。班の打ち合わせ中だろ」
「や、ちょっと確認。オープンキャンパスの機材って、あのブースからどのレベルまで減るんだっけ?」
「インターフェイスにカフを足した程度」
「オッケ、最低限な! よ~し、燃えて来た~! 腕が鳴るぜ~!」
そう言ってシノが翻したキューシートには、遠目からでもはっきりとわかる荒い波が躍っていた。相当凝った構成にするつもりだな。まいみぃのリクエストに応えてるのかもしれないけど。まあ、シノならどんな構成でもやれるっちゃやれるからな。最初は難しくても期日までにやれるように練習するのがシノだし。
MBCCの人間に課せられる宿命めいたものは、先輩たちから教わっている。その情報を生かしてどう立ち回ることが出来るかだ。とりあえず、俺はダブルトークの練習もしつつ、機材の扱いも最低限は出来るようにしておくことだ。番組の持ち時間は体験講義と同じ50分。長いような、短いような。
「佐々木君、1回機材の使い方教えてもらっていい?」
「わかったよ。そしたら、まずは――」
end.
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佐藤ゼミの宿命というものと戦っているササとシノです。でも、シノは案外楽しんでいる様子。ササも頑張っている。
で、TKGな。疫病神と呼ばれるレベルで面倒事に巻き込まれるポジションをササシノに押し付けたいので2年生の育成を頑張っているぞ!
確か、+2年の概念のあった17年度では、このオープンキャンパスでシノがやらかしていたけれど、フェーズ2の+1年の概念版ではどうなる……
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