2021(02)

■名前会議の悪ふざけ

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 インターフェイスの待ち合わせの定番が花栄駅地下噴水前の本屋だとするなら、会議場所の定番はその地上にあるカフェなんだそうだ。指定されたそのカフェに、ようやくインターフェイス夏合宿の顔合わせで出向くことが出来た。
 サークルでみんなの話を聞いてると、班長がどんな人だったとか、こういう子とペアになってどんなテーマの番組をやることになってとかって、やっぱ面白そうだなーって思ったんだ。だから、俺も早く顔合わせに行きたいって思ってたし。

「あの、すみません」
「インターフェイスの子?」
「そうです」
「6班の顔合わせだったらここだね」
「そしたら失礼します」

 適当な飲み物を買って、それらしい人に声をかける。俺の応対をしてくれた女の人とは別に、先に人が来ているようだ。自己紹介の時間はみんな揃ってから設けるのだろうか。それとも来た人から順番に名乗っていくような感じなのか。

「私は副班長で青敬の諏訪あやめ。で、こっちが向島の子かな」
「向島の春日井希っす。DJネームはカノン!」
「あ、俺は緑ヶ丘の菅谷徹平。DJネームはすがやんです」
「あ~、よかった~、DJネームがある~」
「え、どういうことですか?」
「他の班の子の話を聞いてると、DJネームがなかったり、あっても名前そのままの子が多かったんだって! まあ、私も人のことは言えないんだけど。その点カノンとすがやんは、何かこう、イイ! 的な?」

 名前そのままのDJネームと言えば、ウチならレナとかくるみとかになるのかな。ササ、シノ、サキの3人は加入当日にゴティ先輩がつけてくれたって聞いた。誰がどういうササキかを区別するためらしい。確かにササキが3人はややこしい。全員漢字も違うし。

「すがやんは、菅谷だからすがやんになったの?」
「多分そうですね。見学に行ったその日に同期のくるみとシノがそう呼び始めて、定着したって感じで」
「へー、そうなんだ。つけてくれる人がいるといいね」
「そうですね」
「カノンの由来は?」
「俺が見学に行ったときに、DJネームをどうするか的な会議が開かれたんすよ」
「えっ、1人の名前決めんのに会議なんかすんの」
「うん。それで、俺の情報をホワイトボードに書けるだけ書いて、そこから思いつく名前を延々と出して」
「……さすが向島だね」
「で、最終的に春日井のんたんの略でカノンになったっす」
「それが比較的まともな名前だったと」
「ぶっちゃけそうっす」

 大学が違えばDJネームの付け方も、センスも違うんだそうだ。それから、そういうのが得意な人がいるとハイセンスな名前がポンポン出るとか。ゴティ先輩にL先輩、それから高木先輩のタカティというDJネームも現4年のカズ先輩がポンポーンとつけてくれたそうだ。

「あやめ先輩はどうして名前そのままのDJネームで行くことになったんすか?」
「青敬って普段ラジオやらないし、DJネームって概念がないんだよ。それこそ去年の夏合宿の顔合わせでDJネームどうするって話になるじゃん」
「そうですね」
「そのときDJネームがなかったのは私と、星ヶ丘のマリンっていう子なんだけど。班長だった向島の野坂先輩と、今4年生の圭斗先輩って人がじゃあ今つけようって時間とって会議が始まるよね」
「DJネームを決めるのに時間をかけるのは向島のカラーなんすかね」
「それだけ名前を大事にしてくれるっていいですね」
「マリンは名前が茉莉奈で、その日ボーダーの服を着てたし海の日近くの生まれだからマリンって決まって」
「なかなかいいですね。名前になぞらえつつも、それだけじゃない、しかもかわいい名前で」
「私は圭斗先輩の「あやめも花の名前でかわいらしいし、そのまま行ってもいいんじゃないかな」っていう鶴の一声で名前そのままで行くことになったんだよ」

 へー、と俺とカノンの声が揃う。あやめじゃなければどうなってたんですかって聞いたら、向島の人特有の悪乗りでとんでもない名前になってたよ、とあやめ先輩は死んだ目をする。これに激しく同意するのがカノンだ。……うん、すがやんっていいあだ名だな。

「あの、すみません。インターフェイスの待ち合わせって……」
「あ、ここですー。どうぞー」
「失礼します」
「私は副班長で青敬の諏訪あやめ。それからこっちが向島と緑ヶ丘の子だね」
「向島の春日井希、DJネームはカノン!」
「緑ヶ丘の菅谷徹平です。DJネームはすがやんです」
「あ、星ヶ丘の大沼樹生です」
「星大の若狭有紀です」

 あやめ先輩が用意してくれていた6つの席のうち、5つが埋まった。今の時間は、打ち合わせ時刻まで10分前だ。俺は念のため早く来てたんだけど、まあこんな感じか。あとは班長のサドニナ先輩の到着が待たれる。

「あやめ先輩、班長さんまだっすかね」
「サドニナの考え方は、主役は最後に登場する物らしいからね。多分時間ギリギリかちょっと遅れて来るよ。見ててみて」
「はあ」
「そしたら、今来た2人のDJネームがあるかないか聞いて、なかったらつけちゃおう」
「そうっすね! 俺も向島の人間らしく、バシッと決めるぞ~!」
「ちょっと待ってカノン、向島のノリで決めるとか大博打だから! 普通かちょっと捻るくらいでいいんだからね!」
「任せてくださいっす!」
「えっと、DJネームを新しく決める方向で話してますけど、まずはそもそもDJネームがあるかないかを聞かないといけないんじゃ?」
「そーだすがやん、そうそう! えっと、そしたら2人、DJネームはある? 番組で使う名前なんだけど、普段呼ばれてるあだ名とか、新規で作るとか――」


end.


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タイミングがタイミングであれば、カノンももれなくエイジ班にぶち込まれていたであろうキャラクターだなと思いました。
これで一応全ての班の顔合わせが終わったという体で話は進みます。各班1年生のキャラ付けが課題。青女と星大だよ主に
今は向島のノリに驚いているすがやんも、後にそのカラーに馴染んで行くし、向こうの文化をMBCCに持ち帰る役目を担うのである

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