2021
■オールS以上の難題
公式学年+1年
++++
「おざまーす」
「シノキ君。7月だよぉ、君ぃ」
「はい。7月っすね」
「7月っすねじゃないんだよ君ぃ。私の言いたいことくらいわかるでしょう」
「えっと、オープンキャンパスっすか?」
「それもあるけど、もっと大事なことがあるでしょう」
「もっと大事…?」
スタジオにやってきて早々佐藤先生に捕まっているシノだ。多分先生が言いたいのは月末にある春学期末考査、つまりテストのことなんだろうとは思う。だけど素でピンと来てないらしいシノだ。この感じだとまず間違いなく先生にどやされるな。
「テストだよ! 学生の本分は勉学! 君も実技型なのはこの数ヶ月でわかってきたけど、それでもちゃんと勉強もやってもらわないと困るんだよ君ぃ」
「あ~! テストっすか!」
「君の去年1年間の成績が本来佐藤ゼミに入るのに必要なラインからどれだけ足りなかったのかを今ここで読み上げてもいいんだよ」
「ちょっ、それは勘弁してください! ちゃんとやります、やりますから!」
「そういうことだから佐々木君、君も頼んだよ」
「わかりました」
「ササも成績のボーダーに……や、引っかかるワケねーわ」
「何をすっとぼけたことを言ってるんだい。佐々木君は今年の2年生の中ではトップ3に入るほど優秀なんだからね。佐々木君に頼んでるのは君の面倒だよ、まったく」
自分でもそれなりにやれてるとは思ってたけど、トップ3圏内なのは初耳だ。アナウンサーの俺にはMBCCとしての優位はほとんどないから、シノのバーターとしての側面の他に、成績もゼミ生選抜を勝ち抜くための材料になったのかもしれない。
どっちにしてもシノとは一緒にテスト勉強をするつもりだったから、そうやって先生に釘を刺してもらえれば声をかけやすい。今年のシノは対策委員でもバタバタ走り回ってるし、学業面でのサポートは先輩たちからも期待されているポイントだ。
「何をどう言っても響かない鈍い子もいるけどね、シノキ君には佐々木君ていう優秀な友達がいるんだから」
「先生に何をどう言われても響かないってその人相当図太いんすね。俺だったら相当ビビるっすけど」
「ホントにな。でもそういう胆力も必要なんだろうな」
「君たちの先輩だよ。まったく」
「あっ」
多分俺とシノが思い浮かべた顔は同じだ。高木先輩だったら先生に何をどう言われてもマイペースを貫き通してるんだろうなという想像には難くない。実際2年生のときの成績もお察しだったっぽいし。車校も眠くて何度もキャンセルしてる間に仮免ギリギリになったって言ってたもんな。
そんなこんなで、高木先輩という前例があるので、シノには同じ轍を踏ませたくないというのが先生の考えらしい。高木先輩の成績のことを自分に言われても、と果林先輩がキレ散らかしてたのも懐かしい。でも、確かにそうだよなあ。俺とシノみたく同学年ならともかく。
「おはよー」
「おはようございまーす」
「やあおはよう。君たちも。テストを頑張るんだよ」
「もしかして智也、先生に捕まってた系?」
「系」
「まーそーだよね。アンタぶっちゃけ成績だけだったら佐藤ゼミ落ちてるレベルだよね? それをMBCCのミキサーだからってだけの理由で1抜けしてんだし」
「そう言うお前はどうなんだよ!」
「アタシ? まー人並みよ」
「来須君は今年の2年生の中では中の上くらいだね。私が思ったよりやってたよ」
「そーでしょセンセ。おまけに畑メインのアウトドア系動画配信者! 家庭菜園が趣味の佐藤センセがビビッと来ないワケがないってね! あいまいみぃー」
ちなみに先生的に上中下はゼミ生の25人を8人くらいずつに分けて、さらにまた分けて……という感じで評価しているようだ。中の上のまいみぃは、2年生の中なら10番前後ということだろうか。確かに、失礼だけど思ったよりやってた。
「アタシで中の上なら陸は上の中とか上とか?」
「佐々木君は上の上だよ」
「あーやっぱ。さすリク」
「当たり前だぞ俺の相棒だぞ」
「下の下が何か言ってんすけどー」
「は!? お前オープンキャンパスでその下の下に番組構成とか全部投げただろーがよ!」
「アンタがやるのが筋っしょ? それで通ってんだから」
「動画の編集とかしてんだからお前も十分やれんだろ!」
シノとまいみぃが言葉の応酬を始めると、一気に場はヒートアップしていく。今に限らずいつもだ。先生もすっかり呆れているし、羽場君は圧倒されている。同じ班なのにまだ慣れないのかって思ったけど、これは圧倒されるか。
「でも、オープンキャンパスか。どんな感じなんだろ」
「今日はそれをやるから心配しなくて大丈夫だよ佐々木君。過去の映像も見せるから。君にはぜひ知的なトークで高校生にアピールしてほしいところだけど、2年生の時間は例年人通りが少ないからね。今年は雰囲気を掴むって感じで、来年からは君が頼むよ。千葉君も卒業するんだし」
あー、そっか。そういうことか。確かオープンキャンパスでは昼休みの時間に1時間ほど2年生のお試し番組とも3年生のインフォメーションとも違うフリースタイルのラジオ番組を公開でやるって言ってたな。えっ、今年は果林先輩がいるけど、もしかしなくても、来年以降は…?
「そういうことだからね。君に関してはね、成績の心配は全くしてないんだけどね。MBCCのアナウンサーとしての技量を、贅沢を言えば高崎君レベルまで持って行ってもらう努力をね。ちなみに彼は勉強も出来たから。学部棟の資料室に彼の卒論を読みに行ったらいいよ。何かの参考になるかもしれないし。そういうことだから、ね」
「あ、はい~……頑張ります……」
高崎先輩レベルとか簡単に言うけど、それがどんなに難しいことなのかはアナウンサーだからこそわかるんだ。テストで全教科Sを取るより格段に厳しい要求をされてしまって、これからどうしたものか。
end.
++++
ササも優秀なので、ノサカほどではないけどSメインの素敵な成績だぞ! 全教科Sを取るより難しい無茶ぶりもありつつ。
シノはまいみぃに下の下とはっきり言われてますが、Sがひとつもないワケではないのでまだ救いはある?
何をどう言っても響かない先輩に関しては、最早悟りとかの域にあるんだろうなあ
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公式学年+1年
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「おざまーす」
「シノキ君。7月だよぉ、君ぃ」
「はい。7月っすね」
「7月っすねじゃないんだよ君ぃ。私の言いたいことくらいわかるでしょう」
「えっと、オープンキャンパスっすか?」
「それもあるけど、もっと大事なことがあるでしょう」
「もっと大事…?」
スタジオにやってきて早々佐藤先生に捕まっているシノだ。多分先生が言いたいのは月末にある春学期末考査、つまりテストのことなんだろうとは思う。だけど素でピンと来てないらしいシノだ。この感じだとまず間違いなく先生にどやされるな。
「テストだよ! 学生の本分は勉学! 君も実技型なのはこの数ヶ月でわかってきたけど、それでもちゃんと勉強もやってもらわないと困るんだよ君ぃ」
「あ~! テストっすか!」
「君の去年1年間の成績が本来佐藤ゼミに入るのに必要なラインからどれだけ足りなかったのかを今ここで読み上げてもいいんだよ」
「ちょっ、それは勘弁してください! ちゃんとやります、やりますから!」
「そういうことだから佐々木君、君も頼んだよ」
「わかりました」
「ササも成績のボーダーに……や、引っかかるワケねーわ」
「何をすっとぼけたことを言ってるんだい。佐々木君は今年の2年生の中ではトップ3に入るほど優秀なんだからね。佐々木君に頼んでるのは君の面倒だよ、まったく」
自分でもそれなりにやれてるとは思ってたけど、トップ3圏内なのは初耳だ。アナウンサーの俺にはMBCCとしての優位はほとんどないから、シノのバーターとしての側面の他に、成績もゼミ生選抜を勝ち抜くための材料になったのかもしれない。
どっちにしてもシノとは一緒にテスト勉強をするつもりだったから、そうやって先生に釘を刺してもらえれば声をかけやすい。今年のシノは対策委員でもバタバタ走り回ってるし、学業面でのサポートは先輩たちからも期待されているポイントだ。
「何をどう言っても響かない鈍い子もいるけどね、シノキ君には佐々木君ていう優秀な友達がいるんだから」
「先生に何をどう言われても響かないってその人相当図太いんすね。俺だったら相当ビビるっすけど」
「ホントにな。でもそういう胆力も必要なんだろうな」
「君たちの先輩だよ。まったく」
「あっ」
多分俺とシノが思い浮かべた顔は同じだ。高木先輩だったら先生に何をどう言われてもマイペースを貫き通してるんだろうなという想像には難くない。実際2年生のときの成績もお察しだったっぽいし。車校も眠くて何度もキャンセルしてる間に仮免ギリギリになったって言ってたもんな。
そんなこんなで、高木先輩という前例があるので、シノには同じ轍を踏ませたくないというのが先生の考えらしい。高木先輩の成績のことを自分に言われても、と果林先輩がキレ散らかしてたのも懐かしい。でも、確かにそうだよなあ。俺とシノみたく同学年ならともかく。
「おはよー」
「おはようございまーす」
「やあおはよう。君たちも。テストを頑張るんだよ」
「もしかして智也、先生に捕まってた系?」
「系」
「まーそーだよね。アンタぶっちゃけ成績だけだったら佐藤ゼミ落ちてるレベルだよね? それをMBCCのミキサーだからってだけの理由で1抜けしてんだし」
「そう言うお前はどうなんだよ!」
「アタシ? まー人並みよ」
「来須君は今年の2年生の中では中の上くらいだね。私が思ったよりやってたよ」
「そーでしょセンセ。おまけに畑メインのアウトドア系動画配信者! 家庭菜園が趣味の佐藤センセがビビッと来ないワケがないってね! あいまいみぃー」
ちなみに先生的に上中下はゼミ生の25人を8人くらいずつに分けて、さらにまた分けて……という感じで評価しているようだ。中の上のまいみぃは、2年生の中なら10番前後ということだろうか。確かに、失礼だけど思ったよりやってた。
「アタシで中の上なら陸は上の中とか上とか?」
「佐々木君は上の上だよ」
「あーやっぱ。さすリク」
「当たり前だぞ俺の相棒だぞ」
「下の下が何か言ってんすけどー」
「は!? お前オープンキャンパスでその下の下に番組構成とか全部投げただろーがよ!」
「アンタがやるのが筋っしょ? それで通ってんだから」
「動画の編集とかしてんだからお前も十分やれんだろ!」
シノとまいみぃが言葉の応酬を始めると、一気に場はヒートアップしていく。今に限らずいつもだ。先生もすっかり呆れているし、羽場君は圧倒されている。同じ班なのにまだ慣れないのかって思ったけど、これは圧倒されるか。
「でも、オープンキャンパスか。どんな感じなんだろ」
「今日はそれをやるから心配しなくて大丈夫だよ佐々木君。過去の映像も見せるから。君にはぜひ知的なトークで高校生にアピールしてほしいところだけど、2年生の時間は例年人通りが少ないからね。今年は雰囲気を掴むって感じで、来年からは君が頼むよ。千葉君も卒業するんだし」
あー、そっか。そういうことか。確かオープンキャンパスでは昼休みの時間に1時間ほど2年生のお試し番組とも3年生のインフォメーションとも違うフリースタイルのラジオ番組を公開でやるって言ってたな。えっ、今年は果林先輩がいるけど、もしかしなくても、来年以降は…?
「そういうことだからね。君に関してはね、成績の心配は全くしてないんだけどね。MBCCのアナウンサーとしての技量を、贅沢を言えば高崎君レベルまで持って行ってもらう努力をね。ちなみに彼は勉強も出来たから。学部棟の資料室に彼の卒論を読みに行ったらいいよ。何かの参考になるかもしれないし。そういうことだから、ね」
「あ、はい~……頑張ります……」
高崎先輩レベルとか簡単に言うけど、それがどんなに難しいことなのかはアナウンサーだからこそわかるんだ。テストで全教科Sを取るより格段に厳しい要求をされてしまって、これからどうしたものか。
end.
++++
ササも優秀なので、ノサカほどではないけどSメインの素敵な成績だぞ! 全教科Sを取るより難しい無茶ぶりもありつつ。
シノはまいみぃに下の下とはっきり言われてますが、Sがひとつもないワケではないのでまだ救いはある?
何をどう言っても響かない先輩に関しては、最早悟りとかの域にあるんだろうなあ
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