2021

■無視しといて、虫だけに

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「夏合宿の班が~……ねーえー! 聞いてよー! こんなに可愛いサドニナが喋ってるのにー! みんなちゅうもーく! 合宿の班が、決まったのー!」
「サドニナうるさい! ちょっと黙ってて!」
「えー!? 真面目な話なんですけどー!」
「アンタこの状況わかってる? 場が落ち着いてから喋りなよ」
「なーんーでー!」

 もちろんみんな夏合宿のことが気にならないワケじゃない。だけど、現在ABCのサークル室は緊急事態。たまーに出るんだよね、ゴキブリとか足がいっぱい生えてるような変な虫が。今回はゴキブリとムカデっぽい虫が同時に出たということで大パニック。いつも虫と戦ってくれる直クン先輩もさと先輩もいないから。
 Kちゃん先輩は虫が……その中でも特にゴキブリは大の苦手だし、なっちゃんもすっかりしぼんじゃって、誰が戦うのっていう状態になってる。虫は跳んだり這ったり、とにかく動きが予測出来ないからみんな目が離せなくて。正直サドニナの話を聞くどころじゃないんだよね。真面目な話は虫を何とかしてから。

「ユキちゃん何とかして!」
「あたしですかー!? ねえ、1年生で誰か虫平気な子いないの!?」
「あたしは苦手です~!」
「美雪先輩!? わたくしに虫を始末しろとおっしゃいますの!?」
「まあ、ちとせとエマはダメっぽそうだよねえ……みわとまつりは!?」
「引っ叩いてもいいですけど、空振りして他の物を壊す自信しかないです!」
「あー、壊すのは勘弁して。やっぱまつりは大人しくしてて」

 ほわほわ系のかわいいちとせと、お嬢様のエマは虫自体がダメって言われてもそうだよねって納得する。虫自体は大丈夫だけど、暴れ馬系のまつりに任せると勢い余ってサークルの備品を壊しかねない。力も紗希先輩や直クン先輩程じゃないけど女子の平均よりは強い感じだもんね。

「みわ!? あなたこの状況の中よく真顔でお菓子をつまめますわね!?」
「口がルマンドを求めてたから。で、虫? 潰したらいいんじゃない」
「それを出来る人がいないのが問題ですのよ!?」
「お菓子食べたらやるね」
「みわちゃ~ん…! はやく~!」
「ん。もうちょっと待ってね。あ、こぼれた」

 ぽろぽろと欠片をこぼしながらみわはルマンドを食べるのをやめない。ルマンドって美味しいけど割れやすいんだよね。ってそうじゃないそうじゃない! みわは感情をあまり表に出さないからクールな子なのかなと思ってたんだけど、どうにもこうにもただマイペースなだけなんじゃないのかって疑惑が最近浮上してるよね。

「もう! バルサンも焚いてたのにどうして虫が出る環境に戻ってるの!」
「ヒビキ先輩が引退した後はお菓子が放置されることも少なくなりましたもんね。お茶会はやってますけど掃除しますし」
「サークル室でお菓子を食べることに関しては、ヒビキ先輩が抜けた分みわが入って来てプラマイゼロ、むしろみわの方が糖分高めだし危ないまである」
「え。チーズおかきやピーパリのこともありますよ?」
「お菓子の種類の話じゃないの」
「啓子先輩顔が怖いです」
「いいから! みわ! 早く戦闘準備をしなさい!」

 は~い、とみわは気の抜けたような返事をして、サクサクサクと食べる物を食べてしまう。やる気があるんだかないんだか。備品のハエタタキを手に、みわは虫を狙っている。ゴキブリが先か、足がいっぱい生えたよくわかんない気持ち悪いのが先か。

「っていうかKちゃん先輩、あたし気付いちゃったんですけど」
「どうしたのユキちゃん」
「虫を凍らせて退治するスプレーみたいなのを買えば、別に叩いて潰さなくてもいいんじゃないかなって」
「完全に盲点だったよね。直と沙都子が毎回処理してくれるから」
「そういうの買いません? あたしたちでも戦えますし」
「今日の帰りにでも」
「啓子先輩、倒しました」
「みっ、見せなくていいから早く片付けて!」

 みわは先にゴキブリをやっつけたようなので、続けて足の多い虫を狙っている。控えメンバーたちはゴキブリの歩いていた場所を念入りに掃除。ついでに、みわがお菓子を食べていた場所の床も。うーん、確かにこれはヒビキ先輩がいたときと何も変わってないかも。じゃがりこがルマンドになっただけだ。

「こっちも獲りました」
「だから見せなくていい!」
「それじゃ外に捨てときますね」

 みわがのそのそと窓から退治した虫を外に戻して、サークル室には一旦平和が戻ったように見える。虫がいた場所の掃除も完璧だ。場が落ち着けば、サドニナは話を戻していいですか~と不貞腐れながら許可取りをして、それにみんないいでーすと返事をする。ようやく真面目な話が出来る環境になったから。

「昨日の対策委員でー、夏合宿の班が決まりましたー。班割りは貼っとくんでー、みんな見といてねー」
「班長から連絡来る感じ?」
「来るところもあるんじゃない? 人による」
「人によるぅ?」
「サドニナは今からだけどねっ! 印象に残るド派手な挨拶を考えてるトコだし!」
「挨拶を考えるのは結構だけど、ド派手である必要性は皆無だからね。アンタその辺ちゃんとやんなさいよ」
「Kちゃん先輩はー、ちょっとアタマが固すぎると思うんですよねぇー。もっとサドニナみたく柔軟性を持った方がいいと思いますよ?」
「無視無視……」
「今日のメイン話題が虫だけに」
「あの、みわ、多分関係ないと思うよ」

 そしてみわはまたお菓子の袋を開けてサクサクと食べ始める。うん、夏合宿の班でもマイペースを乱すことはないんだろうな。みんなそれぞれの班でちゃんとやれるかな。どうかな。

「あ、あたしみわと同じ班なんじゃん。え、実質お守り役!?」


end.


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青女の1年生4人のキャラクターを詰めたいという理由で部屋に虫を出しました。虫平気組がまつりとみわらしい。みわはお菓子枠でもある。
この1年生4人はみんなタイプが違うけどきゃっきゃしてる分には楽しそうだしきっとかわいい。エマが意外にしっかりしてそう。
啓子さんは安定の虫嫌い。いつもは頼れる啓子さんも、虫の対処は直クンとさとちゃんに頼りっ放しでした。

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