2021
■助手席はトークリーダー
++++
「ああ、奥村さん。久し振り」
「何か、石川が豊葦にいるっていうのも変な感じがするな」
今日は朝霞君主催で行われる山口の誕生会というのがあるのだけど、その前に豊葦まで足を伸ばして奥村さんに会っている。それというのも、奥村さんはUターン組ということで地元の緑風エリアで就職をするようだ。就活でこっちと地元を往復する中で、お土産を美奈に送っていたようだ。
そのお土産というのが、米菓だ。あられや、煎餅の類の。それが結構な量で、美奈は俺たちにも分けてくれた。と言うか、リンが見境なく食いやがった。リンは腹が減っていると目の前にあるものを無遠慮に食う性質がある。美奈へのお土産であるはずのそれも大半はリンが食っていた。
俺たちもそのお土産の恩恵に与ったということで、お返しをした方がいいんじゃないかという話に至った。3人で百貨店に買いに行ったそれを、奥村さんが確実にこっちにいるタイミングの今日渡せばいいんじゃないかと。まあ何かいろんな事情を考えた結果俺が豊葦に行くのが早いという結論に達したんだ。
「そう、本題。これ、美奈へのお土産の、お返し」
「お返し?」
「奥村さんからのお土産、美奈がゼミ室で開いたのを俺とリンも美味しくいただいたので、3人で選びました」
「わ、何か悪いな。ほらうち、お土産とか選び始めたらあれもこれもって山積みにしがちでさ。この季節だしあれだけの煎餅とか湿気らないかなってちょっと心配してたんだけど。3人で食べたなら美味しいうちに無くなったのか」
「リンの野郎がほとんど食いやがった。美奈へのお土産だぞって言ってんのに「お前たちが食わんのならオレが食う」っつってバリバリ食ってやがるし」
「あはは……まあ、気に入ってもらえたなら良かった」
美奈が持って来たお土産はお菓子の他に日本酒もいくらかあって、それも3人で美味しくいただいたので今回のお返しのグレードもそれなりに高め。星港土産としての定番である縁の手帖という煎餅(ホタテ味)と、催事として限定出店しているキャラメルワッフルサンドをチョイスした。
「わー、間違いないヤツじゃないか! 縁の手帖はうちも実家によく買って帰るんだ。こっちも包装からして可愛いし、絶対美味しいヤツじゃないか」
「お気に召したようで何より」
渡したそれはひとまず奥村さんの部屋に置きに行くことに。俺は車で来ているので、彼女の住むマンションの駐車場を一瞬間借りして荷物運搬の往復を待つ。そして彼女が階段を下りて戻ってくると、俺の車でまた星港市内まで戻るのだ。
「石川の車も懐かしいな」
「間違いないな。こうしてると対策委員だった時みたいだなとは。ああ、そう言えば乗り物酔い大丈夫?」
「今から寝るのもあんまり現実的じゃないし、とりあえずはトークリーダー戦法で行くかあ。しばし付き合ってくれ」
「わかったよ」
対策委員だった当時は、奥村さんと高崎という乗り物酔いの酷い2人を抱えてよくもまあ車で移動していたなと思う。高崎は最悪自分の足があるからどうにでもなるとして、奥村さんだ。彼女の乗り物酔い対策はいくらかあるのだけど、今回はひたすら喋り続けるという手法を採ることにしたようだ。
共通の話題ということで美奈の話が多いのだけど、それに派生して少しリンの話が混ざる。何でも、星大の情報センターに三井君が女性を目当てに出待ちを繰り返していたということもあったそうで、その関係でリンと知り合ったとのこと。突っ込みどころはいくらでもあるけど、彼はどこにでも湧いてくるなというのが最初の印象だ。
「ところで、石川は車をどこに置いとくんだ? さすがに家には戻らないんだろ? 西海だっけ」
「ああ、大学に置いとこうかと。星港市内ならいくらでも夜を明かす場所はある。ゼミ室に行ってもいいし」
「大学に戻るって手段があるのか」
「多分どこの大学でも理系は結構やってると思うけど」
「うち、理系事情はあんまり詳しくないんだ。圭斗とも最近はあんまり会ってないしなあ」
「何にせよ、今回の会場になってる店は星大からも結構近いから、割と真面目に大学に戻るっていうのが有効な手段ではあるんだ。奥村さんは飲みの後どうするの?」
「時間があんまり遅くならなければ普通に帰るつもり」
「方角的には高崎もいるし、家まで送らせたらいいよ。奥村さんの家の近く、俺が思ってたより女子の一人歩きには危なそうな感じだ」
「高崎なあ。電車で帰るんだとすれば、使い物になるのかっていうのがまず問題だけどな」
「ハッ。間違いないな。電車で酔ってグロッキーになるだろうなアイツなら。ま、アイツの睡魔が許せば延々と喋り通せばいい」
「トークリーダー戦法だな」
それからは他愛もない話をしていた。コンビニで買えるチョコレートの銘柄はどれがオススメか、とかそんなようなことなど。近頃はチョコレートと一言で言ってもいろいろあるからな。目的に応じて選べればいいんだろうけど、この季節だし保管も難しくて――って、そんなことはどうでもいいんだ。
「山口の誕生会なあ。しかし朝霞もよくやる」
「それに奥村さんが出向くっていうのも、当時を知ってる人間からすれば変な感じがする」
「一応は和解した上で、やっぱコイツムカつくわって毒を吐き合う間柄だぞ。仲良しでもないけど、完全NGでもないんだ。お前と圭斗よりはよっぽど割り切って付き合ってるぞ、うちらは」
「奥村さん相手だから多少は仕方ないとは言え、その名前を聞くのも多少不愉快だ」
end.
++++
そういや菜月さんへのお土産のお返しがどうしたこうしたとか言ってなかったっけと思いました。イシカー兄さん豊葦出張編。
兄さんも圭斗さんもお互い大っ嫌いだからね、仕方ないね。名前を聞いただけでムカつくんや。UHBCとかでそんな話ありましたねそういや。
三井サンに関しては兄さんもコイツはもうしゃーないと諦めてる感じはある。星大さんはそれだけ被害にたくさん遭って来たのです
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「ああ、奥村さん。久し振り」
「何か、石川が豊葦にいるっていうのも変な感じがするな」
今日は朝霞君主催で行われる山口の誕生会というのがあるのだけど、その前に豊葦まで足を伸ばして奥村さんに会っている。それというのも、奥村さんはUターン組ということで地元の緑風エリアで就職をするようだ。就活でこっちと地元を往復する中で、お土産を美奈に送っていたようだ。
そのお土産というのが、米菓だ。あられや、煎餅の類の。それが結構な量で、美奈は俺たちにも分けてくれた。と言うか、リンが見境なく食いやがった。リンは腹が減っていると目の前にあるものを無遠慮に食う性質がある。美奈へのお土産であるはずのそれも大半はリンが食っていた。
俺たちもそのお土産の恩恵に与ったということで、お返しをした方がいいんじゃないかという話に至った。3人で百貨店に買いに行ったそれを、奥村さんが確実にこっちにいるタイミングの今日渡せばいいんじゃないかと。まあ何かいろんな事情を考えた結果俺が豊葦に行くのが早いという結論に達したんだ。
「そう、本題。これ、美奈へのお土産の、お返し」
「お返し?」
「奥村さんからのお土産、美奈がゼミ室で開いたのを俺とリンも美味しくいただいたので、3人で選びました」
「わ、何か悪いな。ほらうち、お土産とか選び始めたらあれもこれもって山積みにしがちでさ。この季節だしあれだけの煎餅とか湿気らないかなってちょっと心配してたんだけど。3人で食べたなら美味しいうちに無くなったのか」
「リンの野郎がほとんど食いやがった。美奈へのお土産だぞって言ってんのに「お前たちが食わんのならオレが食う」っつってバリバリ食ってやがるし」
「あはは……まあ、気に入ってもらえたなら良かった」
美奈が持って来たお土産はお菓子の他に日本酒もいくらかあって、それも3人で美味しくいただいたので今回のお返しのグレードもそれなりに高め。星港土産としての定番である縁の手帖という煎餅(ホタテ味)と、催事として限定出店しているキャラメルワッフルサンドをチョイスした。
「わー、間違いないヤツじゃないか! 縁の手帖はうちも実家によく買って帰るんだ。こっちも包装からして可愛いし、絶対美味しいヤツじゃないか」
「お気に召したようで何より」
渡したそれはひとまず奥村さんの部屋に置きに行くことに。俺は車で来ているので、彼女の住むマンションの駐車場を一瞬間借りして荷物運搬の往復を待つ。そして彼女が階段を下りて戻ってくると、俺の車でまた星港市内まで戻るのだ。
「石川の車も懐かしいな」
「間違いないな。こうしてると対策委員だった時みたいだなとは。ああ、そう言えば乗り物酔い大丈夫?」
「今から寝るのもあんまり現実的じゃないし、とりあえずはトークリーダー戦法で行くかあ。しばし付き合ってくれ」
「わかったよ」
対策委員だった当時は、奥村さんと高崎という乗り物酔いの酷い2人を抱えてよくもまあ車で移動していたなと思う。高崎は最悪自分の足があるからどうにでもなるとして、奥村さんだ。彼女の乗り物酔い対策はいくらかあるのだけど、今回はひたすら喋り続けるという手法を採ることにしたようだ。
共通の話題ということで美奈の話が多いのだけど、それに派生して少しリンの話が混ざる。何でも、星大の情報センターに三井君が女性を目当てに出待ちを繰り返していたということもあったそうで、その関係でリンと知り合ったとのこと。突っ込みどころはいくらでもあるけど、彼はどこにでも湧いてくるなというのが最初の印象だ。
「ところで、石川は車をどこに置いとくんだ? さすがに家には戻らないんだろ? 西海だっけ」
「ああ、大学に置いとこうかと。星港市内ならいくらでも夜を明かす場所はある。ゼミ室に行ってもいいし」
「大学に戻るって手段があるのか」
「多分どこの大学でも理系は結構やってると思うけど」
「うち、理系事情はあんまり詳しくないんだ。圭斗とも最近はあんまり会ってないしなあ」
「何にせよ、今回の会場になってる店は星大からも結構近いから、割と真面目に大学に戻るっていうのが有効な手段ではあるんだ。奥村さんは飲みの後どうするの?」
「時間があんまり遅くならなければ普通に帰るつもり」
「方角的には高崎もいるし、家まで送らせたらいいよ。奥村さんの家の近く、俺が思ってたより女子の一人歩きには危なそうな感じだ」
「高崎なあ。電車で帰るんだとすれば、使い物になるのかっていうのがまず問題だけどな」
「ハッ。間違いないな。電車で酔ってグロッキーになるだろうなアイツなら。ま、アイツの睡魔が許せば延々と喋り通せばいい」
「トークリーダー戦法だな」
それからは他愛もない話をしていた。コンビニで買えるチョコレートの銘柄はどれがオススメか、とかそんなようなことなど。近頃はチョコレートと一言で言ってもいろいろあるからな。目的に応じて選べればいいんだろうけど、この季節だし保管も難しくて――って、そんなことはどうでもいいんだ。
「山口の誕生会なあ。しかし朝霞もよくやる」
「それに奥村さんが出向くっていうのも、当時を知ってる人間からすれば変な感じがする」
「一応は和解した上で、やっぱコイツムカつくわって毒を吐き合う間柄だぞ。仲良しでもないけど、完全NGでもないんだ。お前と圭斗よりはよっぽど割り切って付き合ってるぞ、うちらは」
「奥村さん相手だから多少は仕方ないとは言え、その名前を聞くのも多少不愉快だ」
end.
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そういや菜月さんへのお土産のお返しがどうしたこうしたとか言ってなかったっけと思いました。イシカー兄さん豊葦出張編。
兄さんも圭斗さんもお互い大っ嫌いだからね、仕方ないね。名前を聞いただけでムカつくんや。UHBCとかでそんな話ありましたねそういや。
三井サンに関しては兄さんもコイツはもうしゃーないと諦めてる感じはある。星大さんはそれだけ被害にたくさん遭って来たのです
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