2021

■a gift only you can give

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「はいノサカ」
「何だその手は」
「ノサカ、何かボクにあげたいなーって気になっとるやろ?」
「いや、全く。それどころか俺がお前からもらわなければならないと常々思っている」

 ヒロが野坂に向かって「はい」ッつーて手を広げてるンすけど、唐突に何が始まったンすかねェー。ま、今日はヒロの誕生日スし、大方その関係で強請ってあわよくばを期待してるッつー感じスかね。別に誕生日関係なくいつでもやってるコトすけど。何にせよ、あンまり深く首を突っ込まない方が良さそうスね。

「何で!? 今日ボクの誕生日やん! 何かくれるべきやん!」
「それじゃあお前は俺の誕生日に何かくれたか?」
「何でボクがそんなコトしなアカンの」
「はい。それじゃあそういうことで」
「なーんーでー!」

 野坂によって一瞬で論破されたヒロが次に自分らに目を付けないかが気がかりではありヤすね。まァ、ここはひっそりとしておきヤしょう。下の自販機でコーヒーをごちそうする程度で済むンであれば何の問題もないンすけどね。ヒロの言うことはちッと予想が付きにくいンすわ。

「ヒロ、誕生日プレゼントが欲しいなら三井先輩にでも声をかければいいじゃないか。あの人は何でもやってくれるじゃないか。レクリエーションからプレゼント進呈まで」
「あの人はちょっとやーやわ。センスないしおもんないし」
「否定はしないが言ってやるな」
「野坂さんも否定はしないんですね」
「自分らの中じャ野坂が最大の被害者スからね」
「でも、みんなの誕生日にわざわざプレゼント買って来るとかマメやとは思うわ。言ってあんまお金持っとる人ではないやん」
「見返りがあるだろうと期待してやってるところもあるんだろ。MMPはそんなことを期待しても無駄な集団だというのに」
「ホンマやわ。MMP以外の人にもお金いっぱい使っとるんかな? 菜月先輩はよく焼肉奢ってもらったみたいなコト言っとるやん。あっボク焼肉なら喜んで奢られたいわ」
「それは俺も奢られたいに決まってるだろ」
「私もです」
「自分もー」

 自分らMMPの3年は三井先輩を“財布の人”と表現することがあるンすけど、それってーのは結構な貢ぎ癖からなンすよね。基本は惚れた女性に対する金には糸目を付けないって感じなんスけど。自分らサークルメンバーの誕生日にもわざわざサプライズプレゼントを用意して来るンすよね。
 ただ、それが全く贈られる側の需要やセンスには合ってないンすよね。特に酷かったのは野坂に贈られた男性用の下着セットなンすけど、結構アレな感じのTバックだったと記憶してヤす。それから、こーたに対しては結構な嫌がらせをしてヤした。自分の誕生日はスルーされヤしたが、正直助かったなと。
 それから、忘れちゃいけないのが菜月先輩スわ。菜月先輩は1年の頃から三井先輩を財布として利用しているとは圭斗先輩談でシて、総額何万かな? 10万を超えていても不思議じゃないねとは。確かに焼肉チェーンの最上級コースに飲み放題を付けた食事を何回もしてりャあ軽くイッてそースね。

「律、そういやお前の姉さんはその後どうなったんだ」
「ああ、冴スか? 次の春に移るまでは財布として利用するだけしてヤしたそースね」
「ええ……土田さんのお姉さんまで春の対象にしていたのです…? ちょっと見境がなさすぎて引きますね」
「まァ、自分らは二卵性スし土田なんかよくいる名前スからね。よっぽど事情通がいない限りパッと見双子とはわかりヤせん。それに奈々の姉さんの写真にも美人だ何だと一瞬盛り上がってヤしたよね」
「でも奈々のお姉ちゃんは実際きれーな人やと思うよ。奈々がちんちくりんになったんあのお姉ちゃんが全部とってったんやわ」
「ヒロさん、今のは奈々の前では言ってはいけませんよ」
「でも、きれーな人に財布ちらつかせるって何かやーじゃない?」
「綺麗な人に限らず、異性に対して財力でしかアピール出来ないのが残念なんですよ」
「そうやって気になった人に当たっていける度胸だけは凄いと思うけど、ああはなりたくないな」

 そりゃァ野坂はそーでしょーよ。言って野坂は菜月先輩一筋なンで、他の綺麗な人がどうしたこうしたっつー話題にもなかなか興味がないし理解が及ばないンすよね。菜月先輩以外の女子は見事にカボチャかジャガイモすわ。ただ、お前は当たって行かなさ過ぎるのがダメだッつー話は圭斗先輩とはよくしてヤす。

「まあ、そーゆーコトやし三井先輩はどーでもええからノサカ、ボクに何かちょーだい」
「嫌だと何度言えば理解するんだお前は」
「じゃあ、何かじゃなくて具体的に頼んだらええ? カブっとる授業のノートとプリントちょーだい」

 ヒロの欲しかった物がわかったところで、自分とこーたは安全圏にいるとわかって一安心スわ。確かに、理系は留年だの何だのの危機が割といつも迫ってヤすからね。普通にやってりャまず安心らしースけど。まァ、ヒロすからね。

「カブっとる授業のノートとプリントと、去年ノサカとっとってボク今年とっとる授業のノートとプリントもあったらボクラクなんやけど」
「そんなこったろうと思ったぜ! 誰がお前を助けるか! 誕生日プレゼント? 冗談じゃない! お前が俺の誕生日に何をした!」
「ゆーてさ、ノサカ早生まれやろ? 4月始まりならボクの方が先攻やし、最初になんかしてくれれば後で返って来るんちゃうん」
「お前が俺に何か返してくれる図が全く想像出来ない」
「そースね」
「否定はしません」
「ほら、律とこーたもこう言っている」
「何やの」


end.


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久々にMMP3年生4人。ヒロがこんだけわーわー言ってるのも久し振り。財布の人の話題もチラリ。
財布の人がどれだけ見境がないのかっていう話は、フェーズ1のナノスパでも十分にやってきたので割愛。今もどこかに春があるのかな。春財布の縁起よ
この4人の4竦みの図も見てみたいものだけど、その状況がなかなか難しい。ツッコミで回せばいいのかしら。

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