2021
■己の五感で確かめよう
++++
「サキー、お疲れー」
「ごめん、課題やってて。先生に質問したりしてたら遅くなっちゃった」
「いいっていいって。そんな待ってねーし。そしたら、行くか?」
「うん。行こう」
授業が終わって、サキと落ち合う。こないだからサキと約束してたんだけど、ハナ先輩がバイトしてるパン屋に行ってみようって話になってたんだ。サークルのときにハナ先輩が持って来てくれるパンがめっちゃ美味いから、店に行けばもっといろいろ種類があるんじゃないかって思って。
その店っていうのがナチュールっていう名前で、ササによれば豊葦では大人気らしい。人気のあるパン屋って開店してから売切れ次第終了っていうところが多いみたいだ。だけどナチュールはまあまあ大きい店で1日に何回もパンを焼く。それで夜9時くらいまでやってるから、今から行っても結構余裕があるらしい。
「いつもハナ先輩が持って来てくれるのでも結構種類あるじゃんな。店だったらどんだけ種類があんのかって、楽しみでしょうがねーよな」
「そうだね。商品にならなかったのでもいろんな人の好みに合うだけの種類があるから、店でしっかり売り切れる物だともっと好みのがあるかも」
「サキってどんなのが好きなんだ? やっぱこないだの塩パンみたいなシンプルなヤツ?」
「そうだね。塩パンの前はくるみパンを食べたけど、弾力があってもちもちしてるのが美味しかったかな。すがやんは? こないだが紅茶パンでその前はチョコチップメロンパンだったでしょ」
「あー、そうだなー。俺はあっさり系の甘いのが好きかな」
ハナ先輩が持って来てくれるパンの種類はいろいろあるけど、俺たち1年6人の好みはあんまり被ってないみたいなんだ。くるみはとにかくあっまい菓子パンが好きみたいし、ササはぶどうパンとか金時パンとか、ちょっと大人の味っぽいのが好きみたいだ。シノはガッツリ系の総菜パン、レナは果物やジャムの乗ったデニッシュ。
そんな風にしてサークルメンバーの好みを見てハナ先輩も持って来てくれるものを選んでるみたいなんだ。強いて言えば俺がその時と場合によって食べる系統が違ってるらしい。でも、人が美味しいって言ってたのとかは自分でも試してみたくなるしなー、しょうがないよなーって。
「あっ、あれかな」
「そうだね」
「すげー車いるじゃん。どっか空いてっかなー」
「あ。あそこ、出そうじゃない?」
「ホントだ」
空いたところに車を止めて、店の中に入る。もうすっごいいい匂いだもんなー。店自体がめちゃくちゃ広くて、人もたくさんいる。奥の方にはイートインスペースもあってカフェみたいな感じになってるんだ。俺とサキはトレーとトングを持って、人の波に乗って回る。
「こうやって見るとどれも美味そうだなー」
「あ。これ、おいしそう」
「何だこれ。フレンチロール? 何か、白くて丸いけど。でも、サキが好きそうな感じだな。もちもちしてるのかな」
「1個70円とかだし、2つほど買ってみよう」
「うわ、これ美味そう」
「どれ?」
「カレーパン。揚げたてだって」
「いつものすがやんのテイストとは少し違うね」
「こういうのも普通に好きだから。サークルでは大体シノが先に持ってっちまうけどさ」
「……それは、すがやんがこれがいいですって主張すればいいんじゃないの」
「いいんだよ。俺は何でも好きだからさ。何が残っても美味しくいただけるしな。残り物には福があるとも言うじゃん?」
「そういうものかなあ。そしたら、紅茶パンとチョコチップメロンパンはすがやんの本意じゃなかったってこと?」
「いや、たまたま俺の一番食べたかったものが残ったんだよ」
「ふーん。強運なんだね」
「6人の好みは大体わかって来てるから、選ぶものが被らないだろうって、何となく強気にも出れるんだよ」
「なるほど。運だけじゃなかったんだ」
そう言ってサキは三角の蒸しパンをトレーに乗せた。俺のトレーにはカレーパンとぶどうパン、こないだサキが絶賛してた塩パンに、オレンジデニッシュ。それから、重いぞってハナ先輩がくるみを脅してたメープルくるみカステラ。みんなが食べていた物がどんどん増えていく。
「フレンチロールと蒸しパンと塩パンと……食パンも買って行こうかな」
「サキのトレーが白い」
「すがやんのトレーは雑多だね」
「みんな食ってたのがどれも美味そうだったから、自分でも食ってみたくてさ。あ、あのピザも美味そうだな」
「そんなに買って食べ切れるの」
「うちの家族にも分けるからいいんだよ。弁当にしてもらってもいいし」
「それじゃ結局すがやんは食べられないのが出るじゃない」
「まあ、また来ればいいよ。道はわかったし」
「何だかなあ」
すがやんてお人好しだよねとサキは呆れたように溜め息を吐く。せっかくだから今イートインスペースで食べるのも選ぶことに。2つくらいは全然食べれるし、何にしようかな。甘いのとしょっぱいのがいいかな。
「あ。クッキーとかラスクもあるんだ」
「ラスクもいいなー、美味そう」
「クルトンも便利だね」
「スープに浮かべて良し、サラダにかけてよしだな」
「ラスク買ってこう」
「サキ、もちもちしてるのじゃないのも食べるんだな」
「食べるよ」
end.
++++
すがサキが仲良くパン屋さんに行ってるだけの話。自分に需要があるので供給しただけである。
ハナちゃんが持って来てくれるパンが美味しいのでそのお店に行ってみようぜっていう、車があるからこその行動。
シンプルもっちり系が好きらしいサキと、あっさり甘い系が好きと見せかけて何でも好きなすがやん。何でも好きだから人に譲っても全然平気なんだね
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「サキー、お疲れー」
「ごめん、課題やってて。先生に質問したりしてたら遅くなっちゃった」
「いいっていいって。そんな待ってねーし。そしたら、行くか?」
「うん。行こう」
授業が終わって、サキと落ち合う。こないだからサキと約束してたんだけど、ハナ先輩がバイトしてるパン屋に行ってみようって話になってたんだ。サークルのときにハナ先輩が持って来てくれるパンがめっちゃ美味いから、店に行けばもっといろいろ種類があるんじゃないかって思って。
その店っていうのがナチュールっていう名前で、ササによれば豊葦では大人気らしい。人気のあるパン屋って開店してから売切れ次第終了っていうところが多いみたいだ。だけどナチュールはまあまあ大きい店で1日に何回もパンを焼く。それで夜9時くらいまでやってるから、今から行っても結構余裕があるらしい。
「いつもハナ先輩が持って来てくれるのでも結構種類あるじゃんな。店だったらどんだけ種類があんのかって、楽しみでしょうがねーよな」
「そうだね。商品にならなかったのでもいろんな人の好みに合うだけの種類があるから、店でしっかり売り切れる物だともっと好みのがあるかも」
「サキってどんなのが好きなんだ? やっぱこないだの塩パンみたいなシンプルなヤツ?」
「そうだね。塩パンの前はくるみパンを食べたけど、弾力があってもちもちしてるのが美味しかったかな。すがやんは? こないだが紅茶パンでその前はチョコチップメロンパンだったでしょ」
「あー、そうだなー。俺はあっさり系の甘いのが好きかな」
ハナ先輩が持って来てくれるパンの種類はいろいろあるけど、俺たち1年6人の好みはあんまり被ってないみたいなんだ。くるみはとにかくあっまい菓子パンが好きみたいし、ササはぶどうパンとか金時パンとか、ちょっと大人の味っぽいのが好きみたいだ。シノはガッツリ系の総菜パン、レナは果物やジャムの乗ったデニッシュ。
そんな風にしてサークルメンバーの好みを見てハナ先輩も持って来てくれるものを選んでるみたいなんだ。強いて言えば俺がその時と場合によって食べる系統が違ってるらしい。でも、人が美味しいって言ってたのとかは自分でも試してみたくなるしなー、しょうがないよなーって。
「あっ、あれかな」
「そうだね」
「すげー車いるじゃん。どっか空いてっかなー」
「あ。あそこ、出そうじゃない?」
「ホントだ」
空いたところに車を止めて、店の中に入る。もうすっごいいい匂いだもんなー。店自体がめちゃくちゃ広くて、人もたくさんいる。奥の方にはイートインスペースもあってカフェみたいな感じになってるんだ。俺とサキはトレーとトングを持って、人の波に乗って回る。
「こうやって見るとどれも美味そうだなー」
「あ。これ、おいしそう」
「何だこれ。フレンチロール? 何か、白くて丸いけど。でも、サキが好きそうな感じだな。もちもちしてるのかな」
「1個70円とかだし、2つほど買ってみよう」
「うわ、これ美味そう」
「どれ?」
「カレーパン。揚げたてだって」
「いつものすがやんのテイストとは少し違うね」
「こういうのも普通に好きだから。サークルでは大体シノが先に持ってっちまうけどさ」
「……それは、すがやんがこれがいいですって主張すればいいんじゃないの」
「いいんだよ。俺は何でも好きだからさ。何が残っても美味しくいただけるしな。残り物には福があるとも言うじゃん?」
「そういうものかなあ。そしたら、紅茶パンとチョコチップメロンパンはすがやんの本意じゃなかったってこと?」
「いや、たまたま俺の一番食べたかったものが残ったんだよ」
「ふーん。強運なんだね」
「6人の好みは大体わかって来てるから、選ぶものが被らないだろうって、何となく強気にも出れるんだよ」
「なるほど。運だけじゃなかったんだ」
そう言ってサキは三角の蒸しパンをトレーに乗せた。俺のトレーにはカレーパンとぶどうパン、こないだサキが絶賛してた塩パンに、オレンジデニッシュ。それから、重いぞってハナ先輩がくるみを脅してたメープルくるみカステラ。みんなが食べていた物がどんどん増えていく。
「フレンチロールと蒸しパンと塩パンと……食パンも買って行こうかな」
「サキのトレーが白い」
「すがやんのトレーは雑多だね」
「みんな食ってたのがどれも美味そうだったから、自分でも食ってみたくてさ。あ、あのピザも美味そうだな」
「そんなに買って食べ切れるの」
「うちの家族にも分けるからいいんだよ。弁当にしてもらってもいいし」
「それじゃ結局すがやんは食べられないのが出るじゃない」
「まあ、また来ればいいよ。道はわかったし」
「何だかなあ」
すがやんてお人好しだよねとサキは呆れたように溜め息を吐く。せっかくだから今イートインスペースで食べるのも選ぶことに。2つくらいは全然食べれるし、何にしようかな。甘いのとしょっぱいのがいいかな。
「あ。クッキーとかラスクもあるんだ」
「ラスクもいいなー、美味そう」
「クルトンも便利だね」
「スープに浮かべて良し、サラダにかけてよしだな」
「ラスク買ってこう」
「サキ、もちもちしてるのじゃないのも食べるんだな」
「食べるよ」
end.
++++
すがサキが仲良くパン屋さんに行ってるだけの話。自分に需要があるので供給しただけである。
ハナちゃんが持って来てくれるパンが美味しいのでそのお店に行ってみようぜっていう、車があるからこその行動。
シンプルもっちり系が好きらしいサキと、あっさり甘い系が好きと見せかけて何でも好きなすがやん。何でも好きだから人に譲っても全然平気なんだね
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