2021
■音に揺れる
++++
「リン君てさあ、普段どういうところでピアノの練習してるの?」
「家であったりゼミ室であったり、音を出さない方が良ければヘッドホンをすればいいだけの話だから場所は選ばんな」
「そっかー……いやー、どうしたモンかなー」
「ギターを練習する場所が無くて困っているのか」
「隣から壁ドンされる率がメチャクチャ上がっててさ」
「そう言えば最近は実況中の声も抑えがちではあったな」
ゲーム実況やギターの練習をするにあたって、俺が直面していたのが騒音問題だ。今のところまだアパートの管理人から注意をされたとかではないんだけど、隣の部屋からの壁ドンがどんどん強くなっている気がする。そろそろ歩いただけで殴られるんじゃねーかってレベルで即ドンだもんな。
確かに最初は騒音になってるとは気付いてなかったけど反省はしてるし、そろそろ真面目に実況とギターに影響が出始めていた。どうしたものかとリン君に相談したものの、俺とは状況が違い過ぎてあまり参考にはならなかったなど。誰だよエレキはヘッドホン通すの前提にしてないとか言ったのは! 菅野だな!
「割と真面目にどうしたものかと困ってる」
「部屋に防音対策を施したところで、来春には引き払うのだろう」
「そうだね。星港市内にはいるつもりだけど、家はさすがに引っ越すつもり」
「ほう、星港市内での就職か」
「実家に帰らなきゃいけないってワケでもないから。家には兄貴がいるし。俺は独立しようが何しようが」
「部屋の本格的な防音対策は引っ越してからするとして、簡易的な防音対策をどうしたものかという話だな」
「そうです…!」
引っ越してからの本格的な防音対策は、部屋がごちゃついてしまう前……と言うか荷物を入れる前にやってしまった方がいいのかもしれない。USDXメンバーを付き合わせてやってもいいかもしれない。もちろん、付き合わせる候補はタメの連中だ。間違っても京川さんと塩見さんにそんなことはさせられない。
「そもそも、音というのは周波数による振動だ。この振動を吸収して通過させないことが防音における重要なファクターだな」
「うん」
「吸音材などもあるが、材質の密度と質量、厚みでかなり防音性能が変わる物だ」
「やっぱり、お高いんですか?」
「まあ、それなりにはな」
「やっぱり…!」
防音の方法をリン君が音とは何ぞやという面から解説してくれているのだけど、どうにもこうにも俺はド文系。科学的なその話をちゃんと聞いてはいるのだけど、だんだん理解が追い付かなくなってくる。空気を伝わってうんたらかんたらとか、床からも音は隣の部屋に伝わるぞ、ということはわかった。
「DIYで防音ブースを作るにしても、既製品を買うにしても、必要なものは財力だな」
「財力なー……」
「逆に、金を積んでサイレントギターを買うという手段もある。最悪これが一番安いまであるな」
「サイレントギター?」
「アコギにはなるのだが、イヤホンやヘッドホンに繋いで練習出来るし、ミキサーがあれば普通に配信でも使える。お前はバンドなどの経験はないが、ミキサーは扱えるのか」
「ああ。菅野ほどガチではないけど一応使える。部活で使ってたからな」
「そうか。ならギターとコンパクトミキサーを買っても10万で釣りが来るはずだ。既製品の防音ブースなどは、ギターの弾ける空間を確保しようと思うとどれだけ安くても10万は下らん。安くて20万からの世界だと思え」
防音は財力ということをひしひしと痛感しつつ、今現状家にある物で何とか防音出来ないものか。それか、安くて防音効果の高い材質の物はないものか。効果をちゃんと期待するなら金を掛けなきゃいけないということはわかっている。だけど俺には金がない。スタジオに通いまくる財力もない。
「今何か出来ないかな」
「床にウレタンでも敷いておけ。それから、壁際に本棚を置くなどして物理的距離を取るしかなかろう。カーテンを変えるという手段もないことはないが」
「カーテンで変わるの?」
「遮光カーテンという物があるだろう」
「あるね」
「遮光・遮音カーテンというものがあってだな。そういう物を使うのも手ではある」
「へえ、そんなのがあるんだ。どっちにしても財力か……」
「そもそも、金は配信で稼げばいいではないか」
「配信で?」
「投げ銭をもらえるレベルの配信をして、キョージュにこれだけの成果を出したのだから防音対策の補助をくれと申請する」
「あー……俺の財力じゃ確かにそれが一番早くて確実な気がする」
なんならサイレントギターを買ってそれを練習配信に使ってしまえばいいんじゃないかとすら思う。見てくれてる中にギターの経験者の人がいればリアルタイムでアドバイスをもらえたりしないかとも思うし。今は何にせよ音を出さないということが一番大事だ。段ボールでも被りながら喋ればいいのだろうか。
「とりあえず床にマットを敷くとか、パソコンを隣の部屋から離すとか、出来ることから始めるといいだろう」
「リン君、今から模様替えするって言ったら手伝ってくれる?」
「お前の部屋は足の踏み場もないのが基本だろう。まさか片付けから始めさせる気ではないだろうな」
「今は綺麗です!」
「お前の言う“綺麗”が信用に値しないのだが」
「や、伏見に「これはケーキを食べる部屋じゃない」って怒られてウンヶ月ぶりに本格的な掃除をしたんだ。今は突然来られても全然平気だ」
「オレたちがどれだけ言っても物を端に寄せる程度の片付けだったにもかかわらずな。さすがに“彼女”のお叱りは響いたか」
end.
++++
隣人からの壁ドンがエスカレートしてきていたPさん、反省はしているものの、そろそろ隣の奴のが短気過ぎじゃね?とムカついて来てもいる模様。
リン様が普通に良き友人ですね。ちな朝霞PはUSDX唯一の文系。塩見さんは非公開として、あとのメンバーはみんなバリバリの理系。
朝霞Pの部屋がきちんと片付けされたと聞いたら疑う人と驚く人と感動で泣いちゃう人とって感じでいろんな反応が見れそう。
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「リン君てさあ、普段どういうところでピアノの練習してるの?」
「家であったりゼミ室であったり、音を出さない方が良ければヘッドホンをすればいいだけの話だから場所は選ばんな」
「そっかー……いやー、どうしたモンかなー」
「ギターを練習する場所が無くて困っているのか」
「隣から壁ドンされる率がメチャクチャ上がっててさ」
「そう言えば最近は実況中の声も抑えがちではあったな」
ゲーム実況やギターの練習をするにあたって、俺が直面していたのが騒音問題だ。今のところまだアパートの管理人から注意をされたとかではないんだけど、隣の部屋からの壁ドンがどんどん強くなっている気がする。そろそろ歩いただけで殴られるんじゃねーかってレベルで即ドンだもんな。
確かに最初は騒音になってるとは気付いてなかったけど反省はしてるし、そろそろ真面目に実況とギターに影響が出始めていた。どうしたものかとリン君に相談したものの、俺とは状況が違い過ぎてあまり参考にはならなかったなど。誰だよエレキはヘッドホン通すの前提にしてないとか言ったのは! 菅野だな!
「割と真面目にどうしたものかと困ってる」
「部屋に防音対策を施したところで、来春には引き払うのだろう」
「そうだね。星港市内にはいるつもりだけど、家はさすがに引っ越すつもり」
「ほう、星港市内での就職か」
「実家に帰らなきゃいけないってワケでもないから。家には兄貴がいるし。俺は独立しようが何しようが」
「部屋の本格的な防音対策は引っ越してからするとして、簡易的な防音対策をどうしたものかという話だな」
「そうです…!」
引っ越してからの本格的な防音対策は、部屋がごちゃついてしまう前……と言うか荷物を入れる前にやってしまった方がいいのかもしれない。USDXメンバーを付き合わせてやってもいいかもしれない。もちろん、付き合わせる候補はタメの連中だ。間違っても京川さんと塩見さんにそんなことはさせられない。
「そもそも、音というのは周波数による振動だ。この振動を吸収して通過させないことが防音における重要なファクターだな」
「うん」
「吸音材などもあるが、材質の密度と質量、厚みでかなり防音性能が変わる物だ」
「やっぱり、お高いんですか?」
「まあ、それなりにはな」
「やっぱり…!」
防音の方法をリン君が音とは何ぞやという面から解説してくれているのだけど、どうにもこうにも俺はド文系。科学的なその話をちゃんと聞いてはいるのだけど、だんだん理解が追い付かなくなってくる。空気を伝わってうんたらかんたらとか、床からも音は隣の部屋に伝わるぞ、ということはわかった。
「DIYで防音ブースを作るにしても、既製品を買うにしても、必要なものは財力だな」
「財力なー……」
「逆に、金を積んでサイレントギターを買うという手段もある。最悪これが一番安いまであるな」
「サイレントギター?」
「アコギにはなるのだが、イヤホンやヘッドホンに繋いで練習出来るし、ミキサーがあれば普通に配信でも使える。お前はバンドなどの経験はないが、ミキサーは扱えるのか」
「ああ。菅野ほどガチではないけど一応使える。部活で使ってたからな」
「そうか。ならギターとコンパクトミキサーを買っても10万で釣りが来るはずだ。既製品の防音ブースなどは、ギターの弾ける空間を確保しようと思うとどれだけ安くても10万は下らん。安くて20万からの世界だと思え」
防音は財力ということをひしひしと痛感しつつ、今現状家にある物で何とか防音出来ないものか。それか、安くて防音効果の高い材質の物はないものか。効果をちゃんと期待するなら金を掛けなきゃいけないということはわかっている。だけど俺には金がない。スタジオに通いまくる財力もない。
「今何か出来ないかな」
「床にウレタンでも敷いておけ。それから、壁際に本棚を置くなどして物理的距離を取るしかなかろう。カーテンを変えるという手段もないことはないが」
「カーテンで変わるの?」
「遮光カーテンという物があるだろう」
「あるね」
「遮光・遮音カーテンというものがあってだな。そういう物を使うのも手ではある」
「へえ、そんなのがあるんだ。どっちにしても財力か……」
「そもそも、金は配信で稼げばいいではないか」
「配信で?」
「投げ銭をもらえるレベルの配信をして、キョージュにこれだけの成果を出したのだから防音対策の補助をくれと申請する」
「あー……俺の財力じゃ確かにそれが一番早くて確実な気がする」
なんならサイレントギターを買ってそれを練習配信に使ってしまえばいいんじゃないかとすら思う。見てくれてる中にギターの経験者の人がいればリアルタイムでアドバイスをもらえたりしないかとも思うし。今は何にせよ音を出さないということが一番大事だ。段ボールでも被りながら喋ればいいのだろうか。
「とりあえず床にマットを敷くとか、パソコンを隣の部屋から離すとか、出来ることから始めるといいだろう」
「リン君、今から模様替えするって言ったら手伝ってくれる?」
「お前の部屋は足の踏み場もないのが基本だろう。まさか片付けから始めさせる気ではないだろうな」
「今は綺麗です!」
「お前の言う“綺麗”が信用に値しないのだが」
「や、伏見に「これはケーキを食べる部屋じゃない」って怒られてウンヶ月ぶりに本格的な掃除をしたんだ。今は突然来られても全然平気だ」
「オレたちがどれだけ言っても物を端に寄せる程度の片付けだったにもかかわらずな。さすがに“彼女”のお叱りは響いたか」
end.
++++
隣人からの壁ドンがエスカレートしてきていたPさん、反省はしているものの、そろそろ隣の奴のが短気過ぎじゃね?とムカついて来てもいる模様。
リン様が普通に良き友人ですね。ちな朝霞PはUSDX唯一の文系。塩見さんは非公開として、あとのメンバーはみんなバリバリの理系。
朝霞Pの部屋がきちんと片付けされたと聞いたら疑う人と驚く人と感動で泣いちゃう人とって感じでいろんな反応が見れそう。
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