2021
■かつての外野の軌道から
++++
「今日も北星は忙しいような感じなんだね」
「そうみたいっすね」
「締め切りが近づくとこんな感じらしいっす」
AKBCというサークルは、毎回全員がガチガチに参加してるって感じの雰囲気でもなく、用事があるときとかは普通に来なかったりも出来る。今でも結構緩めだなって思うんだけど、少し前はもっと緩かったらしい。初心者講習会が終わってから、北星は1度もサークルに顔を見せていない。
北星はネット上で動画を作る仕事を受注していて、それの稼ぎがあるからよくある普通のバイトをしていない。と言うか、普通のバイトをする時間が取れないと言った方が正しいかもしれない。最近はそんな感じで授業が終わったらすぐに帰って行ってしまう。よっぽど時間に追われてるんだろう。
「講習会が終わってから1回も見てないけど、何か言ってた?」
「講習会についてですか?」
「うん。私も出てたけど、マリンと一緒に受けてたし。講習会受けた結果つまんなかったからサークルはもういいかなってなってるとかじゃないよね?」
「そんな感じではなかったですね。一応、新鮮で面白かった~って言ってましたし」
「単純に仕事が詰まってるだけっすよ」
「うーん、締め切りっていつなんだろ。ほら、もうちょっとしたら夏合宿の連絡も入って来るだろうし、それをどうするのかってのも聞かなきゃいけないからさあ」
「夏合宿」
雨竜と声が揃う。インターフェイスという組織が運営する行事のひとつで、他校の人と6人くらいの班を編成して番組を作るんだそうだ。合宿本編では初心者講習会より少し踏み込んだラジオの講習をやるけど、どちらかと言えば2日目以降に行われる番組のモニター会が本番とのこと。
「ハマちゃん先輩、合宿ってどういう合宿なんですか?」
「どういう合宿って」
「どういう成り立ちで始まったのかなって」
「やー? 俺もよく知らねーんだわ。でも、昔はウチも普通に参加してたっぽいし、脈々と続く伝統なんじゃね? そう考えたらマジパねえ」
「へー、そんな昔からやってるんですねー」
「ただ、ヒロさんはスキー場のDJ? ってのにも行ってるらしいし、昔のインターフェイスはもっといろいろやってたらしいなー」
「スキー場にも行ってたんすか!? えっ、スキー場でどんなことやってたんすか!? DJ!? マジカッケー! 俺もやりてー!」
「出たよ、雨竜の派手好き」
「スキー場で何かやってた記録だったら昔の記録が残ってないかなー? ちょっと漁ってみるかー」
青浪敬愛大学のキャンパス移転でAKBCのサークル室も新しいキャンパスの方に移転したらしい。その引っ越し作業で昔のノートも梱包して持って来たそうだ。今までは特に古いノートに用事がなかったけど、ここでようやく日の目を見ることになった。
3年以上前の記録は残ってるかなとみんなでノートを漁るだけの仕事だ。すると3年前、今の4年生が1年生の頃の記録が残っていた。スキー場DJにいつからいつまで行っていたとか、どこの誰と行っていたとか、そんなことを書いてある。
「でも、これだとよくわかんないっすね」
「うーん」
そんなことを言っていると、部屋のドアの影から、のそりと人影が動いて来るのが見える。
「おはよう」
「あ、ヒロさん。どうしたんすか?」
「ヒマだったから」
人影の主は、4年生の長野さんだ。本来AKBCは3年生で引退だけど、長野さんは去年消化器系の病気で入院してサークル活動を少し休んでいたそうだ。その影響で大学卒業も半年遅れるから時間的な余裕も少しあるとかで、気分で覗きに来ることがあるとかないとか、っていう風に聞いていた。
「ちょうどいいところに来てくれたっす!」
「何が」
「インターフェイスの夏合宿って、いつ、どんな目的で始まったんすか? ヒロさん対策委員だったし何か知らないっすか?」
「いつ始まったかは知らないけど、目的はね、スキー場DJに行くための選抜だね」
「選抜?」
「スキー場って無条件じゃ行けなかったんすか?」
「そうだね。一般の施設で番組をやるわけだから、最低限の技量に達してない人はスキー場DJの班編成の候補に残ることが出来ないって決まりがあったんだ。で、個々人の技量を合宿で見てたんだよ。その名残がモニター会だね」
「へー、そんなシビアな世界だったんすねー」
長野さんが1年生の頃は、今ほどみんな仲良くっていう雰囲気でもなく、ただ技術を向上させて、プロを目指す人は目指す。そのために各校が連携しているというだけで、友達を作りに来る物でもないし馴れ合う場でもなかったそうだ。
だけどその雰囲気が学年が上がるごとに変わって行って、各大学で交流しましょうだとか仲良く楽しくやりましょうだとか、今の空気が形作られた。映像系大学2校は、施設の都合でスキー場DJが終わるのと同時に何となくフェードアウトしていった。
「今の1年生も何人かインターフェイスに出てるんでしょ。どんな感じ?」
「俺たちは楽しくやらさせてもらってます。なあ雨竜」
「そうっすね!」
「ふーん。ならよかったね」
あまりに淡々と言うものだから、この人は本当に1年の動向に興味があるのかと不安になったけど、ハマさんによれば長野さんはこういう感じの人で、よかったねという言葉には恐らく嘘はないという。分かりにくい人だな。
「で、当麻と雨竜は夏合宿の話が出たら、参加してみようって思う?」
「俺は出たいっす!」
「そうですね、俺も出てみようかなと思います」
「だったら北星も付いて来るんじゃない?」
end.
++++
青敬のあれやこれや。北星は友達の当麻と雨竜が行くよーって言ったら俺も~ってふらふら付いて行くタイプ。
そういや長野っちは卒業半年遅かったなーって思ったし、別に卒業が遅くなくても気紛れでイタズラしに来そう
インターフェイスの夏合宿をやっていた元々の目的はメンバー選抜でしたね。そう考えると随分空気が柔らかくなったのかな
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「今日も北星は忙しいような感じなんだね」
「そうみたいっすね」
「締め切りが近づくとこんな感じらしいっす」
AKBCというサークルは、毎回全員がガチガチに参加してるって感じの雰囲気でもなく、用事があるときとかは普通に来なかったりも出来る。今でも結構緩めだなって思うんだけど、少し前はもっと緩かったらしい。初心者講習会が終わってから、北星は1度もサークルに顔を見せていない。
北星はネット上で動画を作る仕事を受注していて、それの稼ぎがあるからよくある普通のバイトをしていない。と言うか、普通のバイトをする時間が取れないと言った方が正しいかもしれない。最近はそんな感じで授業が終わったらすぐに帰って行ってしまう。よっぽど時間に追われてるんだろう。
「講習会が終わってから1回も見てないけど、何か言ってた?」
「講習会についてですか?」
「うん。私も出てたけど、マリンと一緒に受けてたし。講習会受けた結果つまんなかったからサークルはもういいかなってなってるとかじゃないよね?」
「そんな感じではなかったですね。一応、新鮮で面白かった~って言ってましたし」
「単純に仕事が詰まってるだけっすよ」
「うーん、締め切りっていつなんだろ。ほら、もうちょっとしたら夏合宿の連絡も入って来るだろうし、それをどうするのかってのも聞かなきゃいけないからさあ」
「夏合宿」
雨竜と声が揃う。インターフェイスという組織が運営する行事のひとつで、他校の人と6人くらいの班を編成して番組を作るんだそうだ。合宿本編では初心者講習会より少し踏み込んだラジオの講習をやるけど、どちらかと言えば2日目以降に行われる番組のモニター会が本番とのこと。
「ハマちゃん先輩、合宿ってどういう合宿なんですか?」
「どういう合宿って」
「どういう成り立ちで始まったのかなって」
「やー? 俺もよく知らねーんだわ。でも、昔はウチも普通に参加してたっぽいし、脈々と続く伝統なんじゃね? そう考えたらマジパねえ」
「へー、そんな昔からやってるんですねー」
「ただ、ヒロさんはスキー場のDJ? ってのにも行ってるらしいし、昔のインターフェイスはもっといろいろやってたらしいなー」
「スキー場にも行ってたんすか!? えっ、スキー場でどんなことやってたんすか!? DJ!? マジカッケー! 俺もやりてー!」
「出たよ、雨竜の派手好き」
「スキー場で何かやってた記録だったら昔の記録が残ってないかなー? ちょっと漁ってみるかー」
青浪敬愛大学のキャンパス移転でAKBCのサークル室も新しいキャンパスの方に移転したらしい。その引っ越し作業で昔のノートも梱包して持って来たそうだ。今までは特に古いノートに用事がなかったけど、ここでようやく日の目を見ることになった。
3年以上前の記録は残ってるかなとみんなでノートを漁るだけの仕事だ。すると3年前、今の4年生が1年生の頃の記録が残っていた。スキー場DJにいつからいつまで行っていたとか、どこの誰と行っていたとか、そんなことを書いてある。
「でも、これだとよくわかんないっすね」
「うーん」
そんなことを言っていると、部屋のドアの影から、のそりと人影が動いて来るのが見える。
「おはよう」
「あ、ヒロさん。どうしたんすか?」
「ヒマだったから」
人影の主は、4年生の長野さんだ。本来AKBCは3年生で引退だけど、長野さんは去年消化器系の病気で入院してサークル活動を少し休んでいたそうだ。その影響で大学卒業も半年遅れるから時間的な余裕も少しあるとかで、気分で覗きに来ることがあるとかないとか、っていう風に聞いていた。
「ちょうどいいところに来てくれたっす!」
「何が」
「インターフェイスの夏合宿って、いつ、どんな目的で始まったんすか? ヒロさん対策委員だったし何か知らないっすか?」
「いつ始まったかは知らないけど、目的はね、スキー場DJに行くための選抜だね」
「選抜?」
「スキー場って無条件じゃ行けなかったんすか?」
「そうだね。一般の施設で番組をやるわけだから、最低限の技量に達してない人はスキー場DJの班編成の候補に残ることが出来ないって決まりがあったんだ。で、個々人の技量を合宿で見てたんだよ。その名残がモニター会だね」
「へー、そんなシビアな世界だったんすねー」
長野さんが1年生の頃は、今ほどみんな仲良くっていう雰囲気でもなく、ただ技術を向上させて、プロを目指す人は目指す。そのために各校が連携しているというだけで、友達を作りに来る物でもないし馴れ合う場でもなかったそうだ。
だけどその雰囲気が学年が上がるごとに変わって行って、各大学で交流しましょうだとか仲良く楽しくやりましょうだとか、今の空気が形作られた。映像系大学2校は、施設の都合でスキー場DJが終わるのと同時に何となくフェードアウトしていった。
「今の1年生も何人かインターフェイスに出てるんでしょ。どんな感じ?」
「俺たちは楽しくやらさせてもらってます。なあ雨竜」
「そうっすね!」
「ふーん。ならよかったね」
あまりに淡々と言うものだから、この人は本当に1年の動向に興味があるのかと不安になったけど、ハマさんによれば長野さんはこういう感じの人で、よかったねという言葉には恐らく嘘はないという。分かりにくい人だな。
「で、当麻と雨竜は夏合宿の話が出たら、参加してみようって思う?」
「俺は出たいっす!」
「そうですね、俺も出てみようかなと思います」
「だったら北星も付いて来るんじゃない?」
end.
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青敬のあれやこれや。北星は友達の当麻と雨竜が行くよーって言ったら俺も~ってふらふら付いて行くタイプ。
そういや長野っちは卒業半年遅かったなーって思ったし、別に卒業が遅くなくても気紛れでイタズラしに来そう
インターフェイスの夏合宿をやっていた元々の目的はメンバー選抜でしたね。そう考えると随分空気が柔らかくなったのかな
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