2021

■バババン!ズギャン!と新編成

公式学年+1年

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「君たちもそろそろ本格的に作品制作に入って行くということで、最初の45分はその話し合いをしてちょうだい。じゃ、後は好きにやっといてね。私は奥にいるから」

 佐藤ゼミでは、座学の他に実技的、実践的な勉強の一環として、メディア作品制作をすることになっている。去年、2年生の時は社会学的なラジオ番組の制作ということで、番組の内容を考えて、フィールドワークに出たり素材を集めたりしてやっていた。
 3年生になると、作る物が映像作品になる。作る作品は2本、内容は自由でとにかく好きに遊んでいいものが1本と、社会学的な内容の作品というのが1本。いずれも時間は30分ということになっている。さすがに3年生ともなると1本の作品に掛けられる時間が少ない。どう時間を割り振るかが重要になる。
 それに伴って、少しの班替えが行われた。映像作品を作るに当たって班を5、6人体制にしなさいと。……とは言え、俺が元々属していた3班は全くそのままその形を残していて、ここに樽中くんが入って来たというくらいの変更だ。進級したときにゼミを辞めていった子もいたからね。いろいろあるんだね。

「これさ、“社会学的な”方の作品は真面目っぽいことをそれなりにやっとけばいいけど、お題が自由ってのは逆に何をどうするかってのが困るよね」
「それじゃんな。全く何もない状態から作品の脚本的な物をどう生み出すか」
「甘いし高木、鵠沼。ここで樽中サッカスの能力が生きるし!」
「そうだね。話を書くとか何もないところからアイディアを出すとかの面では物凄く頼りになる新戦力だよ」
「さっそくお役に立てちゃう感じ? やるよ~やっちゃうよ~」

 樽中くんは文芸部に所属していて、部活でも小説を書いているそうだけど、趣味でもネット上に小説を公開したり本を作ったりと、所謂同人活動をやっている人だ。安曇野さんや佐竹さんとはまた少し違うベクトルのオタクらしい。
 ただ、いざ作品の骨子となる脚本を書いてくださいと言われて、さあやろうとすぐに動き出せるタイプでない俺や鵠さんから見ても、樽中くんのこの能力は素直に頼りになるなと感心するだけだ。俺は撮影とか収録、それから素材が集まってからが主な仕事だろうなとは。
 元々いる3班の4人がどういうタイプの人で、どんな仕事が得意かっていうのはこの1年で大分わかって来た。だから誰がどう働くのかは暗黙の了解で決まる感がある。ここに樽中くんが加わってくれたことで、どうなっていくのかは楽しみでもある。

「ちなみに、樽中くんから見てこの班の印象って何かある?」
「そうだなあ……個の能力がずば抜けてるエリート集団なのにチームワークまで良くて、正直穴がないって感じ。でも、企画立案は基本的に佐竹さんと鵠沼君じゃん、だから真面目とか優等生の域を抜けないんだよね。そこで、アーティスティックな2人の個性を! ババン! ズギャン! と前面に出して来れば! もっと面白くなる! そう、俺は思うのです!」
「アーティスティック…? 安曇野さんはわかるけど、あと誰?」
「またまた、高木君! 高木君の感性は常人のそれとはちょーっと違うんだよ! せっかくのセンスをちまちまっとした編集だけに留めとくのはもったいない! 番組の構成の時点でもっと前に出て来よう!」
「ええ……」
「――ということで、フリー番組の構成は俺と高木君でやるから! 社会学的な方は今までの3班スタイルの継承ってことで佐竹さんと鵠沼君にお願いするし!」
「わかった。そういうことなら。唯香さんはどっちに付く?」
「え、由香里さんの方に付くし。そういうことだから高木、ファイト」
「えっ、ちょっと安曇野さん! 安曇野さんも指名されたでしょ!?」
「されてませーん。いやー、疫病神サマは健在だわー」

 何かとんでもないことに巻き込まれたような気がしないでもない……いつもMBCCやインターフェイスとかでやってるようなラジオ番組ならともかく、ゼミでやる映像作品でしょ? 俺にそんな、大層な番組構成を考えるだなんて荷が重すぎる。
 サークルの方でなら、番組構成が奇抜だとか何とかってことはよく言われるし俺の代名詞的になってるみたいだけど、映像でしょ…? いや、でも大まかな内容は樽中くんが考えてくれると思いたい。俺に出来るのは枠を決めることだけで、内容、ソフトの方はちょっと無理です!

「えっと、撮影技術の方は誰か得意な人いる? ビデオカメラになるのかな」
「まあ、安定の唯香さんでしょうね」
「アタシも撮影隊に回りたいとは思ってるけど、カメラもゼミの機材扱いだし無競争当選で高木もやることになるっしょ?」
「多分そうだと思う。って言うか元々の適性的にも」
「例によって朝昼の企画組と深夜の編集組に分かれてやる感じかー」
「そう、外から見てて思ってたんだけど、3班の作業効率は物凄くいいんだよね。24時間をフルに活用してて無駄がない」
「つか単純に高木と安曇野が夜型で俺が深夜ムリってだけの事情じゃんな」
「いやいやいや、意外とみんなそれを考慮しないんだよ。それぞれ得意な時間帯があるのに全員集合してぶっ通しで作業して? 手が空く人は必ず出て来るんですよ! ちなみに俺はどの時間帯でもイケるんでよろしくー。徹夜も出来まーす」

 何と言うか、樽中くんが結構頼れる新戦力だなっていうのはわかったんだけど、今までの班員にはなかったタイプの強引さもちょっと見受けられるかな。それがどっちに傾くかはわからないけど、早速俺は巻き込まれちゃってるし。どうしたものかなあ。


end.


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学年が上がって佐藤ゼミ3年生の方でも少し動きがあった様子。今年度は2年生ばっかり追ってたからなかなか新鮮ですね。
樽中サッカスが久し振りだったのでキャラブレのこととか考えたけど、よくよく考えなくても今からのキャラだったからどうにでもなるわ
忘れかけてたけど、疫病神と呼ばれていたTKGである。疫病神とか雨神様とかいろいろあったなあ……避雷針も大事なお仕事。

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