2021

■Time-delayed surprise

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 さて、初心者講習会の講師に抜擢されて以降、実践練習が必要だとかナントカという理由で緑ヶ丘大学にお邪魔することが増えていた俺である。MMPと緑ヶ丘はサークルの活動日がカブってるからな、コイツらの顔を見るのも久し振りダナー。
 緑ヶ丘はと言えば、インターフェイスの最新を行く機材事情に、定例会議長と対策委員の機材管理担当がいるという事情から行われるパソコンを用いた様々な実験が実に興味深かったし、何より1年生が若い! きゃっきゃしてる。
 そんなこんなで、2週間ばかりの居候生活を終えて、俺は元いたMMPの野郎連中と奈々のいるだだっ広い部屋に帰るんだなあと思うワケじゃんか。で、サークル活動日を迎えるだろ。いるんだよ、何か見たことないのが。

「ド、ドチラサマデ…?」
「野坂さん、未知との遭遇に戸惑うのはわかりますが、これは現実ですよ」
「お前が緑ヶ丘で浮気してる間にこっちはこっちなりの進展があったンすわ」

 何か、1年生とかいう未確認生物がいるじゃないか、男子と女子の1人ずつ。男子の方は春日井希君という、パッと見の印象では活発そうなタイプだ。女子の方は露崎萌香さんという、パッと見で抱く印象は特にないかな。何せ、俺のいない間に入ったらしい。
 この2人はバドミントンサークルとの掛け持ちらしく、春日井君もとい、DJネーム・カノンは正式にMMPにも加入したんだけど、露崎さんもとい萌香の方はお試し参加中とのこと。掛け持ち先の行事との関係で初心者講習会にも不参加だったらしい。

「何か俺のいない間にすげーことになってんな」
「緑ヶ丘の最新機材事情に現を抜かしてるヤツには黙っときヤしょーというのが暗黙の了解シたからね」
「この2人を引率してくださった菜月先輩にもこの事実は守秘していただきましたよ」
「いやお前菜月先輩まで巻き込むことじゃ――は!? 菜月先輩だと!? ナ、ナンダッテー!?」
「おお、時差式ナンダッテーが出ヤしたね」
「俺が緑ヶ丘に出張している間に! 菜月先輩がここにお越しになられていたというのか!?」
「この2人の引率スね」
「いや、つかお前ら何でそんな大事な仕事をOGの先輩にやらせてんだよ。一般的に考えて現役の仕事じゃないのか、意味が分からない」
「ゆーてバドサーのツテでこの2人は見学に来てヤすからね。何か、バドサー側からMMPに繋がる人脈が菜月先輩しかなかったらしースわ」
「いやいやいや、だからってなあ……」

 先日夏風邪を患っていらした菜月先輩のお見舞いに(勝手に)行った際にもそんなようなことは全く仰ってなかったぞ。むしろ講習会の心配をさせてしまったのが逆に申し訳なく思っていたんだけども、その時点ではもう1年2人はMMPに来てたって事だよな!?
 と言うか、バドサー側から繋がる人脈がどうとかって問題じゃないだろ。いや、菜月先輩のことだから律やこーたを驚かせるためにサプライズ演出をする可能性も全くないとは言い切れないんだけども、それでも見学の引率なんかは現役の仕事じゃねーのかと。

「2人、ちなみに、何きっかけでバドサーでMMPへの見学云々って話になったんだ?」
「俺は友達と先輩と、そーいやラジオのサークルがあったなーって話になって、それで、4年生の前原先輩って人がそのサークルだったらツテがあるからーって言って紹介してもらったっす」
「私はおまけです」
「前原先輩だと…!?」
「えっ、前原先輩のこと知ってるんすか!? あの人面倒見良くてバドもすげー上手いしすっごい人ですよね!」
「ゼミの先輩だけど、そんなにいい人だったか…? 酒とタバコとギャンブルと借金のイメージしかないんだが」

 カノンによれば、前原先輩は誰に対してもフランクに接するので(これはわかる)、1年側としても話しやすい先輩なんだそうだ。また、人脈も凄くて(これもわかる)、別の友達の友達が胡散臭いと悪名高い天文部に入ると言った際にも「天文ガチ勢で囲って守れ」と口利きをしたとか。
 ただ、俺がゼミで見ている前原先輩のイメージとしては、基本気怠げな感じでいい加減だ。プログラミングのセンスと腕が凄いのは事実としてあるけれども、如何せんだらしない。磐田先輩に金を無心してはそれを返さず次のギャンブルに充てているという印象だ。

「ああ、確かにあの人金はあんま持ってないっすよね!」
「と言うか、菜月先輩より前に現役の俺に話を通してもらえれば良かったのでは…? MMPだということも知っているはずなのに」
「同じゼミにMMPの後輩がいるって話も聞いてたんすけど、その後輩からクズ認定されてるから自分の話はまともに聞いてもらえないって言ってたっす」
「や、クズ認定はしてるけど話を聞くかどうかは内容次第でだな」
「やァー、先輩をクズ認定はしてるンすね」
「野坂さん自身も相当なクズ人間なんですけどね。自分のことは棚に上げてよく言いますよ」
「そーやそーやー」
「こーたはともかくヒロにヤジられる覚えはないと言っておく。誰のおかげで進級出来たと思ってるんだ」
「それはボクが頑張ったからやん」
「や、間違いなく野坂のおかげスよ」
「そうですよヒロさん。そこは野坂さんのおかげであると認めておきましょうよ。卒業の危機に瀕した際に助けてもらうためにも」

 何はともあれ、MMPに1年生が入ったらしい。お試し参加の方はともかく、正式に入ってくれた子が1人はいる。正直まだまだ心許ないけど、細々と続いていくための希望は繋がれたという感じか。何にせよ、これを足がかりに活動の方も活性化したらいいなとは。

「何にせよ、野坂にはこの2人にラジオ云々のことを教えるっつー仕事がありヤすから?」
「いや、俺がやるのかよ!」
「まァ、留守にした分くらいはネェ」
「やります」


end.


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去年は確か講習会前にノサカが1回そろそろ来いやって召集されてたけど、今回は講習会後のサプライズです。
でも3年生4人がやいやいやってると1年生は空気になりがち。でも先輩たちがクズっぷりを隠さずぎゃあぎゃあやってる話はもっとやりたい
ここから1年生がどうMMPというサークルに絡んでくるのかが楽しみではあるけど、季節は夏合宿に向かっていくのである。

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