2021
■拠点は地雷原
++++
「お疲れー」
「お疲れです。……どうだった?」
「どうもこうも。序盤だけに様子見じゃないけど、感じを掴むので精一杯だよ」
「だよなー」
6月になり、来春卒業する学生の採用面接が本格的に始まりましたよーという体の空気になる。正直6月になる前からちょこちょこやってはいたんだけど、大きな波はやっぱりここから来るなっていう感じ。
今日も今日で面接だったんだけど、そこで鉢合わせたのが就活友達の朝霞クン。志望する業界だとか職種だとかが似通ってるから、情報交換とかをしてたんだけど、普通に気が合って就活って言葉を抜かした友達になってたよね。
面接を終えて、戦果を報告し合う。これからどう攻めていくかとか、そんなようなことも少し。会社近くのカフェにスーツ姿の学生ってのはあからさま過ぎるから、地下鉄で少し移動したところのパン屋さんに駆け込む。イートインスペースがあるんですよ。
「わ、このメロンパンサックサクのふわっふわで美味しい。帰り彼氏さんに買ってってあげよう」
「そんな美味いの」
「ちょっとあげるよ。はい」
「ありがと。ん、これは美味い。メロンの香りと、パンの風味がふわっと広がって」
「でしょ? 朝霞クンのそっちの緑のは何?」
「ああ、これはグリーンティークリームパン」
「朝霞クン緑茶好きだよねえ。家にお邪魔しても絶対緑茶出してくれるもんね」
「お茶は山羽人の心だからな」
ちょっとあげるよと味見の分をもらって食べるとお茶の風味がふわっと来て美味しかったので、この珍しいクリームパンも買って帰ることに。今はちょうど焼きたてのパンが並ぶ時間帯なのか、店中に美味しい匂いがしてたまんないよねえ。
「そういや話は面接の方に戻るんだけどさ」
「はいはい」
「宮林さんて普段からパソコン使ってるし、リモート面接派かなってちょっと思ってた。対面面接でちょっとビックリした」
「いやいや、ブーメランですよ。でもさあ、移動時間も物書きの時間に充てたいけれど、外で見聞きしたものをその物書きに生かすのがうちらじゃない? ねえ」
「その通りです、はい」
昨今では、企業の面接官の人と直接顔を合わせるだけじゃなくて、パソコンのディスプレイ越しに面接をするリモート形式での面接の形を採る企業もちょこちょこあるみたい。どっちにもどっちの長所や短所があるよね。
確かにうちは日頃からパソコンに向かってるし、なんなら部屋でもパソコンに向かってない時間の方が少ないくらい。あ、でもゲームもしてるからパソコンとは半々くらいなのかなあ。でも何かしらの画面と向き合ってるよね。物書きとか動画見るのに忙しいから。
でも朝霞クンも、今ではゲーム実況グループUSDXの一員としてバリバリやってるし、パソコンに向かって何か書いてるかゲームしてる時間はかなり長いはず。お互い、リモート面接をしようと思えば出来るけど、従来通りの対面面接なんだねえとしみじみ。
「まあ、リモートでやろうと思えば出来るんだけどさ。全国いろんな所にオン友さんがいるワケでしょ? オンライン飲みみたいなこともちょくちょくやるから、ああいうツールの使い方だとか目線をどうするかみたいなことは何となく把握出来てるし」
「じゃあ、何でやらなかったの?」
「うちのパソコンは武器であると同時に、バクダンでもあるんですよ…!」
「ああー……何が飛び出すかわからない的な」
「的な。何かの間違いで年齢制限のある物が表に出たらどうなると思います? 何かの間違いで動画の音が再生されたり」
「怖っ!」
「でしょう? だからうちは対面派なんですよ……それで、朝霞クンがリモートでやらなかった理由は?」
「部屋が汚いからです」
「あっ」
背景問題。つまるところはそう。朝霞クンはお客さんにお茶を必ず出してくれるくらいおもてなしはちゃんとしてる人なんだけど、部屋はお世辞にもあんまり綺麗とは言えなくて――って、うちもカズがやってくれなきゃ悲惨になるから人のことは言えないんだけど、その分気持ちはわかると言うか。
一応ツール側で背景隠しの機能があったり、背景用の布っていうのが売ってたりもするんだけどね。それでもいつ何がどうなるかわからないからっていう理由で、確実に背景のない対面面接にすることにしたんだって。お互いリモートをやらない理由が残念すぎる!
「こないだメンバー3人がうちに遊びに来たんだけど、部屋が汚いだの何だのと文句言いやがって。部屋の片付けに血液型なんか関係ねーだろーがよ」
「朝霞クン血液型何?」
「A」
「あー、それはちゃんとしてると思われがちなヤツだねえ」
「クソッ。どーせ俺はパセリ食うA型だよ」
「ああ、唐揚げレモンのテンプレね。ちなみに、唐揚げに勝手にレモンかけるのは?」
「重罪」
「そこはテンプレ通りなんだね」
レモンは自分のタイミングでかけたいし、パセリは飾りじゃなくて普通に付け合わせの野菜として美味しくいただくのが朝霞クン式唐揚げの流儀。
「ところで宮林さん、部屋は綺麗にしてる?」
「うちはほら、彼氏さんがいますし」
「え、彼氏さんそんなことまでしてくれんの? 確か家事一般ほとんど任せっきりみたいなこと言ってなかったっけ」
「言ってたね。おかげさまで梅雨なのに生乾き臭のないふかふかのタオルを毎日使わせていただいておりますよ」
「帰り、メロンパン以外にもお土産買ってった方がいいんじゃない?」
「そーねえ。そしたら彼氏さんが自分で焼けないようなの買ってこうかな」
「パンまで焼く人なのかよ…! どんな完璧超人だ!」
end.
++++
ビックリしてるようだけど、その完璧超人の顔を見たら何だお前かって納得するから安心するんだ朝霞Pよ。世間は狭い。
ナノスパ内の就活事情は昨今のあれこれを都合よく組み合わせた感じでリモート面接などはやってる様子。やらない理由がアレだけど。
朝霞Pの部屋は基本汚いし、キレイになったとしても一瞬でまたすぐ元通りになるだろうから残念なんだよねえ。だから朝霞班のブースがああだったんだ
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「お疲れー」
「お疲れです。……どうだった?」
「どうもこうも。序盤だけに様子見じゃないけど、感じを掴むので精一杯だよ」
「だよなー」
6月になり、来春卒業する学生の採用面接が本格的に始まりましたよーという体の空気になる。正直6月になる前からちょこちょこやってはいたんだけど、大きな波はやっぱりここから来るなっていう感じ。
今日も今日で面接だったんだけど、そこで鉢合わせたのが就活友達の朝霞クン。志望する業界だとか職種だとかが似通ってるから、情報交換とかをしてたんだけど、普通に気が合って就活って言葉を抜かした友達になってたよね。
面接を終えて、戦果を報告し合う。これからどう攻めていくかとか、そんなようなことも少し。会社近くのカフェにスーツ姿の学生ってのはあからさま過ぎるから、地下鉄で少し移動したところのパン屋さんに駆け込む。イートインスペースがあるんですよ。
「わ、このメロンパンサックサクのふわっふわで美味しい。帰り彼氏さんに買ってってあげよう」
「そんな美味いの」
「ちょっとあげるよ。はい」
「ありがと。ん、これは美味い。メロンの香りと、パンの風味がふわっと広がって」
「でしょ? 朝霞クンのそっちの緑のは何?」
「ああ、これはグリーンティークリームパン」
「朝霞クン緑茶好きだよねえ。家にお邪魔しても絶対緑茶出してくれるもんね」
「お茶は山羽人の心だからな」
ちょっとあげるよと味見の分をもらって食べるとお茶の風味がふわっと来て美味しかったので、この珍しいクリームパンも買って帰ることに。今はちょうど焼きたてのパンが並ぶ時間帯なのか、店中に美味しい匂いがしてたまんないよねえ。
「そういや話は面接の方に戻るんだけどさ」
「はいはい」
「宮林さんて普段からパソコン使ってるし、リモート面接派かなってちょっと思ってた。対面面接でちょっとビックリした」
「いやいや、ブーメランですよ。でもさあ、移動時間も物書きの時間に充てたいけれど、外で見聞きしたものをその物書きに生かすのがうちらじゃない? ねえ」
「その通りです、はい」
昨今では、企業の面接官の人と直接顔を合わせるだけじゃなくて、パソコンのディスプレイ越しに面接をするリモート形式での面接の形を採る企業もちょこちょこあるみたい。どっちにもどっちの長所や短所があるよね。
確かにうちは日頃からパソコンに向かってるし、なんなら部屋でもパソコンに向かってない時間の方が少ないくらい。あ、でもゲームもしてるからパソコンとは半々くらいなのかなあ。でも何かしらの画面と向き合ってるよね。物書きとか動画見るのに忙しいから。
でも朝霞クンも、今ではゲーム実況グループUSDXの一員としてバリバリやってるし、パソコンに向かって何か書いてるかゲームしてる時間はかなり長いはず。お互い、リモート面接をしようと思えば出来るけど、従来通りの対面面接なんだねえとしみじみ。
「まあ、リモートでやろうと思えば出来るんだけどさ。全国いろんな所にオン友さんがいるワケでしょ? オンライン飲みみたいなこともちょくちょくやるから、ああいうツールの使い方だとか目線をどうするかみたいなことは何となく把握出来てるし」
「じゃあ、何でやらなかったの?」
「うちのパソコンは武器であると同時に、バクダンでもあるんですよ…!」
「ああー……何が飛び出すかわからない的な」
「的な。何かの間違いで年齢制限のある物が表に出たらどうなると思います? 何かの間違いで動画の音が再生されたり」
「怖っ!」
「でしょう? だからうちは対面派なんですよ……それで、朝霞クンがリモートでやらなかった理由は?」
「部屋が汚いからです」
「あっ」
背景問題。つまるところはそう。朝霞クンはお客さんにお茶を必ず出してくれるくらいおもてなしはちゃんとしてる人なんだけど、部屋はお世辞にもあんまり綺麗とは言えなくて――って、うちもカズがやってくれなきゃ悲惨になるから人のことは言えないんだけど、その分気持ちはわかると言うか。
一応ツール側で背景隠しの機能があったり、背景用の布っていうのが売ってたりもするんだけどね。それでもいつ何がどうなるかわからないからっていう理由で、確実に背景のない対面面接にすることにしたんだって。お互いリモートをやらない理由が残念すぎる!
「こないだメンバー3人がうちに遊びに来たんだけど、部屋が汚いだの何だのと文句言いやがって。部屋の片付けに血液型なんか関係ねーだろーがよ」
「朝霞クン血液型何?」
「A」
「あー、それはちゃんとしてると思われがちなヤツだねえ」
「クソッ。どーせ俺はパセリ食うA型だよ」
「ああ、唐揚げレモンのテンプレね。ちなみに、唐揚げに勝手にレモンかけるのは?」
「重罪」
「そこはテンプレ通りなんだね」
レモンは自分のタイミングでかけたいし、パセリは飾りじゃなくて普通に付け合わせの野菜として美味しくいただくのが朝霞クン式唐揚げの流儀。
「ところで宮林さん、部屋は綺麗にしてる?」
「うちはほら、彼氏さんがいますし」
「え、彼氏さんそんなことまでしてくれんの? 確か家事一般ほとんど任せっきりみたいなこと言ってなかったっけ」
「言ってたね。おかげさまで梅雨なのに生乾き臭のないふかふかのタオルを毎日使わせていただいておりますよ」
「帰り、メロンパン以外にもお土産買ってった方がいいんじゃない?」
「そーねえ。そしたら彼氏さんが自分で焼けないようなの買ってこうかな」
「パンまで焼く人なのかよ…! どんな完璧超人だ!」
end.
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ビックリしてるようだけど、その完璧超人の顔を見たら何だお前かって納得するから安心するんだ朝霞Pよ。世間は狭い。
ナノスパ内の就活事情は昨今のあれこれを都合よく組み合わせた感じでリモート面接などはやってる様子。やらない理由がアレだけど。
朝霞Pの部屋は基本汚いし、キレイになったとしても一瞬でまたすぐ元通りになるだろうから残念なんだよねえ。だから朝霞班のブースがああだったんだ
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