2021
■あの子は内巻き後ろ向き
++++
「うー……すがやーん、ホントどーしよー」
「大丈夫だって、怒ってるような感じでもなかったし。なっ。元気出せって。せっかくのロールケーキ、ぬるくなるぞ」
「でも、本当に食べちゃっていいのかなあ」
授業が終わって、今日もサークル。おはようございますと部屋に入ると、先にすがやんとくるみが来ていたみたいだ。くるみの前にはコンビニのロールケーキ。くるみは甘い物が好きみたいだからきっと間食のために買って来たんだろう。それにしては顔が困ってる感があるけど。フォークが無かったのかな。
「おはよう。すがやん、くるみはどうしたの」
「おはようサキ。それがなー。今さっきくるみとコンビニに行ったんだよ」
「それは見ればわかるよ。ロールケーキを買ったんでしょ、おやつに」
「くるみがロールケーキを食べたいっつってデザートコーナーを覗くじゃん。無くなってたんだよな」
「……あるけど?」
「先に高崎先輩がロールケーキゲットしてて、それがラストだったぽくて」
話としては、どうしてもロールケーキが食べたかったくるみが高崎先輩にロールケーキを譲って欲しいと結構強めに言ったところ、それを先輩が会計した後で「そんなに食いたいならやるよ」と本当に譲られてしまったそうなんだ。で、高崎先輩本人はエクレアで妥協していたと。
最初は言ってみるものだなあと喜んでいたくるみだけど、時間が経つにつれて本当に貰って良かったのかどうかと罪悪感に駆られてしまって、食べたかったはずのロールケーキがなかなか食べられなくなってしまったんだそうだ。ただの交換ならまだ良かったんだけど、お金を出してもらったというのもあって。
「で、すがやんはそれを宥めてるんだ」
「別に高崎先輩も怒ってるような感じでもなかったし、なんならコンビニ以外にも学内でロールケーキ売ってるところを教えてくれたりもして、親切だったぜ」
「だったら、食べたらいいんじゃない」
「でもだよサキ! あたし高崎先輩の腕を掴んで振り回したんだよ!?」
「確か、この前にもソースカツ丼を巡って因縁があったよね」
「こないだのは事故だけど、今回のは絶対的にあたしが悪いじゃん! ああ~、もう先輩に顔向け出来ない~! また歌聞かれちゃうし~!」
「歌を聞かれるのは、くるみがどこでも歌うからでしょ」
「絶対無礼な1年だって思われてるよね! こないだシノがやらかしたのより数段悪質じゃん!」
で、さっきからずっとこの調子のくるみをすがやんが宥めてるんだけど、堂々巡りで一向に何も進む様子がないんだそうだ。すがやんは優しいからくるみの話をうんうんって聞いてあげてるけど、いつまでそうしてればいいのって話で。
「それでくるみ、食べるの、食べないの」
「え」
「くるみが食べないなら悪くなる前にすがやんが食べればいいじゃない」
「え、俺が食うの?」
「そのままダメにしたら高崎先輩も譲り損でしょ」
「まあ、それも一理あるけどなあ。くるみ、食えないなら俺が食うか?」
「ダメ! これはあたしの!」
「ならさっさと食べなよ」
「でも~」
「でもじゃない」
ああだこうだ言いながらロールケーキを眺めてるだけの時間が本当に非生産的と言うか、ムダなんだよね。すがやんにあげるなりしてきっぱりとなかったことにするか、せっかくもらった物を美味しくいただくか、どっちかに早く決めたらいいんだ。中途半端に悩み続けるのが一番良くない。
「サキ、いつになく厳しいな」
「これが普通だよ」
「ああそう」
食べるなら食べなよと言うと、くるみはとうとうロールケーキの封を切った。食べ始めるとあれだけうだうだ悩んでいたのが嘘みたいにもぐもぐ食べてるんだから、結局何だったんだろうって思うよね。
「えもは、でんへふのせんはいひ」
「飲み込んでから喋りなってレナに言われてたでしょ」
「んっ。でもさ、伝説の先輩に失礼なことをしたって事実は残るでしょ?」
「失礼は失礼だね」
「やっぱり!」
「でも、それくらいで根に持つような人ならそもそも伝説にはならなくない?」
「ソースカツ丼の件は!?」
「高崎先輩がこないだサークルを見に来たのは、ソースカツ丼の因縁よりササとレナが話してた放送観の方が気になってでしょ」
「ああ、確かにそんな感じだったよなー。くるみ、本当にヤバいことしてたんならその場で何か言われてるはずだし、次気を付ければ大丈夫だって」
「次があるかなあ……」
「そうやって後ろ向きにうだうだしてるより、次どうしたらいいか考える方がいいよ。こないだ聞いたラジオで今のくるみと似たような話があったんだけど、パーソナリティーは「これからその相手といい関係を築きたいなら、ただ謝るよりも自分の強みを生かして次に繋がる行動を起こした方がいい」って言ってたんだ」
「くるみの強みかー」
「すがやん、何かある?」
「やっぱ元気なトコとか、物怖じしないトコ?」
「サキは? 何かある?」
「スイーツの知識」
元気だとか物怖じしないとかで言えばシノがいるからくるみが絶対に1番とは言えないけど、スイーツの知識だったら間違いなくくるみがサークルで1番だ。俺とすがやんの思いついたそれをどう生かすかは本人が考えることだけどね。
「これらを統合して辿り着いたあたしが結論は!」
「結論は?」
「依田くるみプレゼンツ、豊葦の美味しいスイーツで謝ろう大作戦! そうとなったら美味しいスイーツのある豊葦のカフェを調べなくっちゃ! あっ、でも高崎先輩て甘いの好きかな? ううん、コンビニでスイーツを買うくらいだから好きだよね!」
「……これは、元気になったのでいいのかな」
「いいんじゃね? でも、これでこそくるみかな。おーいくるみ、食ったゴミ捨てとかねーとL先輩とエージ先輩に怒られるぞー」
「あっゴメーン!」
end.
++++
ゴミを捨てないとL先輩とエージ先輩に怒られるのか。でもタカちゃんがカロリーメイトの箱の件で結構Lから怒られてたっすね。
すがくるが学内のコンビニで高崎と会った話は20年度でやったけど、それを受けての話は初めて。サキがご意見番になりつつある。馴染めてきました。
くるちゃんは豊葦のカフェを調べて高崎に挑もうとしてるんだけど、生憎(?)その高崎は豊葦のカフェマスターなのであった
.
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「うー……すがやーん、ホントどーしよー」
「大丈夫だって、怒ってるような感じでもなかったし。なっ。元気出せって。せっかくのロールケーキ、ぬるくなるぞ」
「でも、本当に食べちゃっていいのかなあ」
授業が終わって、今日もサークル。おはようございますと部屋に入ると、先にすがやんとくるみが来ていたみたいだ。くるみの前にはコンビニのロールケーキ。くるみは甘い物が好きみたいだからきっと間食のために買って来たんだろう。それにしては顔が困ってる感があるけど。フォークが無かったのかな。
「おはよう。すがやん、くるみはどうしたの」
「おはようサキ。それがなー。今さっきくるみとコンビニに行ったんだよ」
「それは見ればわかるよ。ロールケーキを買ったんでしょ、おやつに」
「くるみがロールケーキを食べたいっつってデザートコーナーを覗くじゃん。無くなってたんだよな」
「……あるけど?」
「先に高崎先輩がロールケーキゲットしてて、それがラストだったぽくて」
話としては、どうしてもロールケーキが食べたかったくるみが高崎先輩にロールケーキを譲って欲しいと結構強めに言ったところ、それを先輩が会計した後で「そんなに食いたいならやるよ」と本当に譲られてしまったそうなんだ。で、高崎先輩本人はエクレアで妥協していたと。
最初は言ってみるものだなあと喜んでいたくるみだけど、時間が経つにつれて本当に貰って良かったのかどうかと罪悪感に駆られてしまって、食べたかったはずのロールケーキがなかなか食べられなくなってしまったんだそうだ。ただの交換ならまだ良かったんだけど、お金を出してもらったというのもあって。
「で、すがやんはそれを宥めてるんだ」
「別に高崎先輩も怒ってるような感じでもなかったし、なんならコンビニ以外にも学内でロールケーキ売ってるところを教えてくれたりもして、親切だったぜ」
「だったら、食べたらいいんじゃない」
「でもだよサキ! あたし高崎先輩の腕を掴んで振り回したんだよ!?」
「確か、この前にもソースカツ丼を巡って因縁があったよね」
「こないだのは事故だけど、今回のは絶対的にあたしが悪いじゃん! ああ~、もう先輩に顔向け出来ない~! また歌聞かれちゃうし~!」
「歌を聞かれるのは、くるみがどこでも歌うからでしょ」
「絶対無礼な1年だって思われてるよね! こないだシノがやらかしたのより数段悪質じゃん!」
で、さっきからずっとこの調子のくるみをすがやんが宥めてるんだけど、堂々巡りで一向に何も進む様子がないんだそうだ。すがやんは優しいからくるみの話をうんうんって聞いてあげてるけど、いつまでそうしてればいいのって話で。
「それでくるみ、食べるの、食べないの」
「え」
「くるみが食べないなら悪くなる前にすがやんが食べればいいじゃない」
「え、俺が食うの?」
「そのままダメにしたら高崎先輩も譲り損でしょ」
「まあ、それも一理あるけどなあ。くるみ、食えないなら俺が食うか?」
「ダメ! これはあたしの!」
「ならさっさと食べなよ」
「でも~」
「でもじゃない」
ああだこうだ言いながらロールケーキを眺めてるだけの時間が本当に非生産的と言うか、ムダなんだよね。すがやんにあげるなりしてきっぱりとなかったことにするか、せっかくもらった物を美味しくいただくか、どっちかに早く決めたらいいんだ。中途半端に悩み続けるのが一番良くない。
「サキ、いつになく厳しいな」
「これが普通だよ」
「ああそう」
食べるなら食べなよと言うと、くるみはとうとうロールケーキの封を切った。食べ始めるとあれだけうだうだ悩んでいたのが嘘みたいにもぐもぐ食べてるんだから、結局何だったんだろうって思うよね。
「えもは、でんへふのせんはいひ」
「飲み込んでから喋りなってレナに言われてたでしょ」
「んっ。でもさ、伝説の先輩に失礼なことをしたって事実は残るでしょ?」
「失礼は失礼だね」
「やっぱり!」
「でも、それくらいで根に持つような人ならそもそも伝説にはならなくない?」
「ソースカツ丼の件は!?」
「高崎先輩がこないだサークルを見に来たのは、ソースカツ丼の因縁よりササとレナが話してた放送観の方が気になってでしょ」
「ああ、確かにそんな感じだったよなー。くるみ、本当にヤバいことしてたんならその場で何か言われてるはずだし、次気を付ければ大丈夫だって」
「次があるかなあ……」
「そうやって後ろ向きにうだうだしてるより、次どうしたらいいか考える方がいいよ。こないだ聞いたラジオで今のくるみと似たような話があったんだけど、パーソナリティーは「これからその相手といい関係を築きたいなら、ただ謝るよりも自分の強みを生かして次に繋がる行動を起こした方がいい」って言ってたんだ」
「くるみの強みかー」
「すがやん、何かある?」
「やっぱ元気なトコとか、物怖じしないトコ?」
「サキは? 何かある?」
「スイーツの知識」
元気だとか物怖じしないとかで言えばシノがいるからくるみが絶対に1番とは言えないけど、スイーツの知識だったら間違いなくくるみがサークルで1番だ。俺とすがやんの思いついたそれをどう生かすかは本人が考えることだけどね。
「これらを統合して辿り着いたあたしが結論は!」
「結論は?」
「依田くるみプレゼンツ、豊葦の美味しいスイーツで謝ろう大作戦! そうとなったら美味しいスイーツのある豊葦のカフェを調べなくっちゃ! あっ、でも高崎先輩て甘いの好きかな? ううん、コンビニでスイーツを買うくらいだから好きだよね!」
「……これは、元気になったのでいいのかな」
「いいんじゃね? でも、これでこそくるみかな。おーいくるみ、食ったゴミ捨てとかねーとL先輩とエージ先輩に怒られるぞー」
「あっゴメーン!」
end.
++++
ゴミを捨てないとL先輩とエージ先輩に怒られるのか。でもタカちゃんがカロリーメイトの箱の件で結構Lから怒られてたっすね。
すがくるが学内のコンビニで高崎と会った話は20年度でやったけど、それを受けての話は初めて。サキがご意見番になりつつある。馴染めてきました。
くるちゃんは豊葦のカフェを調べて高崎に挑もうとしてるんだけど、生憎(?)その高崎は豊葦のカフェマスターなのであった
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