2021
■1年後の視点は
++++
「直。お疲れ」
青女の一大イベントである植物園ステージが終わった。俺は定例会議長としてという建前でこのステージを遠巻きに見ていたんだけど、実際は直が頑張っている様子というのを見に来ていた。いや、定例会議長としていろいろ見てなきゃいけないってのもそれなりにはあるし。
例年このイベントでの直は着ぐるみを着てMCの後ろとかで子供に飽きられないように常に動いているそうだ。だけど、今年はミキサーに専念するために着ぐるみを脱いだ。生身で植物園ステージを迎えるのが慣れなくて緊張する、とは言っていたけど、至って普通だったと思う。
「類、見に来てたの?」
「後ろの方で見てたよ。一応対象年齢が子供のステージを、大学生の男が真ん前で見てるってのもおかしいだろ」
「まあ、違和感はあるね。何はともあれありがとう」
「メシでも行くか?」
「うん。行きます」
食べたい物があればとリクエストを募ったところ、チーズが食べたいと返って来た。なので、チーズ料理の店へ向かうことに。濃~いチーズを、思いっ切りとろ~っと引き伸ばして食べたいんだそうだ。実際チーズって美味いもんな。俺も好きだし。
植物園からチーズの店までは地下鉄でも結構かかる。電車に乗り込んで、しばらくは談笑タイムになりそうな感じ。だけど、これはこれで。何だかんだ付き合い始めてまだ3ヶ月弱。何をしてても楽しい時期だからってのは大いにある。
「それで、ステージはどうだった?」
「や、良かったよ。ちゃんと子供が楽しんでるなって見てて思った」
「私は今回なっちゃんの後ろでフォローするのが主な仕事だったんだよ」
「ああ、そうだよな」
「あの、類から見てなっちゃんのミキサーはどうだった?」
「いい意味で普通だった」
「変な間が出来るとか、音量のバランスが悪いとかでなく」
「うん。普通。見てる側がステージに集中出来る音だった」
インターフェイス的に言うとわかば。そのわかばが大きな舞台でメインミキサーを務めるという場でもあった今回、直はその後ろでわかばに付いていたんだそうだ。だから着ぐるみを脱いでいたんだけども。でも、わかばは何と言うか、さすが野坂信者だけあって基本に忠実なミキシングで、見ていて特に不安もなかったように思う。
「私は初めてこれだけゆっくりステージを……何て言うのかな、ある意味での客観視? することが出来て、MCの言ってることに子供たちが返事したり、動きで応えてくれるっていうのが、嬉しくもあり、かわいくもありって感じで、ちょっと感動した」
「今まではそこまで見る余裕もなかったか」
「そうだね。着ぐるみだとさすがに」
「そういや今回の着ぐるみって誰だった? ミドリと一緒に誰だ誰だってずっと考えてたんだけど、もしかしてKちゃんだった?」
「うん。今回は啓子だね」
実は去年も青女のステージを見には来ていた。カズ先輩から「来年はお前がインターフェイスの先頭に嫌でも立たなきゃいけないんだから腹括っとけ」って言われて、自分には何が出来るんだろうと考え始めた頃だった。
去年も去年でこのステージを見て青女は凄いなあと思ってたんだけど、今年は今年でやっぱり青女は凄いなあと思ったんだ。ただ、今年はこれを受けてインターフェイスではどう、一般の人に向けた番組だの、企画だのを打ちだしていくのか、というところを考えて行かなければならない。ファンフェス以外でどうするか。
「そう言えば、ミドリも見に来てくれてたんだね」
「ユキが頑張ってんの見てたしーって。実際はいろいろ愚痴られてたっぽいけどな。サドニナがああだこうだって」
「あはは……サドニナはね。でも、ユキちゃんは本当によく頑張ってくれたと思うよ。ユキちゃんが頑張ってるのを見て1年生たちも自分から何かお手伝いしますかーって言ってくれてて、感心したもん」
「1年生たちはいい子だってユキも言ってたみたいだな、ミドリ曰く」
「あ、そういう話もしてるんだね。それじゃあ本当にサドニナの愚痴が……あ、いや、サドニナもね、悪い子ではないんだよ」
「知ってるよ。ここぞというときの度胸は一番あるんだろ」
「うん。サドニナの勇気と度胸は、本当に凄い。ちゃんとやれば出来るってこともみんなわかってるんだよ。だからこそ、真面目に練習してくれればっていう気持ちが強くなるんだよね、啓子も、ユキちゃんも」
俺と同じような事情でこのステージを見に来ていたミドリとは、去年カズ先輩からされたのと似たような話をしていた。これからのインターフェイスの事だとか。ただ、去年と決定的に違う点があるとするなら互いの彼女の話が含まれていたという点か、強いて言うなら。
「啓子や沙都子とも言ってたんだけど、ユキちゃんにミドリがいてくれて本当に良かったなあと思って」
「ああ、青女の外で受け止めてくれる存在的な?」
「そう。それでいて、事情もある程度わかってくれて、話をうんうんって聞いてくれて、思いっ切り甘やかしてくれる存在的な。沙都子も衣装作りながら長野先輩といろいろお話しながらやってたみたいだし、順調そうだなあと」
「で、直は甘やかされたい願望とかはあんの?」
「えっ!? や、その!? 普通でいいよ!」
「わかった。じゃあそのように」
「はー、ビックリした。急に何を言い出すの」
生憎、俺もそうそう甘やかす? みたいなやり方を知っている方ではないので、普通に付き合って行くんだろうとは思うんだけども。でも、青女は山を越えたし、これからは今までよりも会うのに躊躇は要らなくなるかな。
「さ、もうすぐ花栄だ」
「チーズ楽しみだね」
「ああ。店のは久し振りだもんな」
end.
++++
久々にL直。植物園ステージを終えて。今回は着ぐるみじゃなかったので前髪が汗で張り付くとかそういうアレがなかった直クン。さわやかです。
定例会議長の視察と言えば聞こえはそれらしいけど実際のところは彼女の応援なんだもんな。それならミドリの方がよっぽど正直。
サドニナは残念なところがクローズアップされがちだけど、実際いいところもそれなりにあるので、そういう部分もたまにはやっていきたいですね。
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「直。お疲れ」
青女の一大イベントである植物園ステージが終わった。俺は定例会議長としてという建前でこのステージを遠巻きに見ていたんだけど、実際は直が頑張っている様子というのを見に来ていた。いや、定例会議長としていろいろ見てなきゃいけないってのもそれなりにはあるし。
例年このイベントでの直は着ぐるみを着てMCの後ろとかで子供に飽きられないように常に動いているそうだ。だけど、今年はミキサーに専念するために着ぐるみを脱いだ。生身で植物園ステージを迎えるのが慣れなくて緊張する、とは言っていたけど、至って普通だったと思う。
「類、見に来てたの?」
「後ろの方で見てたよ。一応対象年齢が子供のステージを、大学生の男が真ん前で見てるってのもおかしいだろ」
「まあ、違和感はあるね。何はともあれありがとう」
「メシでも行くか?」
「うん。行きます」
食べたい物があればとリクエストを募ったところ、チーズが食べたいと返って来た。なので、チーズ料理の店へ向かうことに。濃~いチーズを、思いっ切りとろ~っと引き伸ばして食べたいんだそうだ。実際チーズって美味いもんな。俺も好きだし。
植物園からチーズの店までは地下鉄でも結構かかる。電車に乗り込んで、しばらくは談笑タイムになりそうな感じ。だけど、これはこれで。何だかんだ付き合い始めてまだ3ヶ月弱。何をしてても楽しい時期だからってのは大いにある。
「それで、ステージはどうだった?」
「や、良かったよ。ちゃんと子供が楽しんでるなって見てて思った」
「私は今回なっちゃんの後ろでフォローするのが主な仕事だったんだよ」
「ああ、そうだよな」
「あの、類から見てなっちゃんのミキサーはどうだった?」
「いい意味で普通だった」
「変な間が出来るとか、音量のバランスが悪いとかでなく」
「うん。普通。見てる側がステージに集中出来る音だった」
インターフェイス的に言うとわかば。そのわかばが大きな舞台でメインミキサーを務めるという場でもあった今回、直はその後ろでわかばに付いていたんだそうだ。だから着ぐるみを脱いでいたんだけども。でも、わかばは何と言うか、さすが野坂信者だけあって基本に忠実なミキシングで、見ていて特に不安もなかったように思う。
「私は初めてこれだけゆっくりステージを……何て言うのかな、ある意味での客観視? することが出来て、MCの言ってることに子供たちが返事したり、動きで応えてくれるっていうのが、嬉しくもあり、かわいくもありって感じで、ちょっと感動した」
「今まではそこまで見る余裕もなかったか」
「そうだね。着ぐるみだとさすがに」
「そういや今回の着ぐるみって誰だった? ミドリと一緒に誰だ誰だってずっと考えてたんだけど、もしかしてKちゃんだった?」
「うん。今回は啓子だね」
実は去年も青女のステージを見には来ていた。カズ先輩から「来年はお前がインターフェイスの先頭に嫌でも立たなきゃいけないんだから腹括っとけ」って言われて、自分には何が出来るんだろうと考え始めた頃だった。
去年も去年でこのステージを見て青女は凄いなあと思ってたんだけど、今年は今年でやっぱり青女は凄いなあと思ったんだ。ただ、今年はこれを受けてインターフェイスではどう、一般の人に向けた番組だの、企画だのを打ちだしていくのか、というところを考えて行かなければならない。ファンフェス以外でどうするか。
「そう言えば、ミドリも見に来てくれてたんだね」
「ユキが頑張ってんの見てたしーって。実際はいろいろ愚痴られてたっぽいけどな。サドニナがああだこうだって」
「あはは……サドニナはね。でも、ユキちゃんは本当によく頑張ってくれたと思うよ。ユキちゃんが頑張ってるのを見て1年生たちも自分から何かお手伝いしますかーって言ってくれてて、感心したもん」
「1年生たちはいい子だってユキも言ってたみたいだな、ミドリ曰く」
「あ、そういう話もしてるんだね。それじゃあ本当にサドニナの愚痴が……あ、いや、サドニナもね、悪い子ではないんだよ」
「知ってるよ。ここぞというときの度胸は一番あるんだろ」
「うん。サドニナの勇気と度胸は、本当に凄い。ちゃんとやれば出来るってこともみんなわかってるんだよ。だからこそ、真面目に練習してくれればっていう気持ちが強くなるんだよね、啓子も、ユキちゃんも」
俺と同じような事情でこのステージを見に来ていたミドリとは、去年カズ先輩からされたのと似たような話をしていた。これからのインターフェイスの事だとか。ただ、去年と決定的に違う点があるとするなら互いの彼女の話が含まれていたという点か、強いて言うなら。
「啓子や沙都子とも言ってたんだけど、ユキちゃんにミドリがいてくれて本当に良かったなあと思って」
「ああ、青女の外で受け止めてくれる存在的な?」
「そう。それでいて、事情もある程度わかってくれて、話をうんうんって聞いてくれて、思いっ切り甘やかしてくれる存在的な。沙都子も衣装作りながら長野先輩といろいろお話しながらやってたみたいだし、順調そうだなあと」
「で、直は甘やかされたい願望とかはあんの?」
「えっ!? や、その!? 普通でいいよ!」
「わかった。じゃあそのように」
「はー、ビックリした。急に何を言い出すの」
生憎、俺もそうそう甘やかす? みたいなやり方を知っている方ではないので、普通に付き合って行くんだろうとは思うんだけども。でも、青女は山を越えたし、これからは今までよりも会うのに躊躇は要らなくなるかな。
「さ、もうすぐ花栄だ」
「チーズ楽しみだね」
「ああ。店のは久し振りだもんな」
end.
++++
久々にL直。植物園ステージを終えて。今回は着ぐるみじゃなかったので前髪が汗で張り付くとかそういうアレがなかった直クン。さわやかです。
定例会議長の視察と言えば聞こえはそれらしいけど実際のところは彼女の応援なんだもんな。それならミドリの方がよっぽど正直。
サドニナは残念なところがクローズアップされがちだけど、実際いいところもそれなりにあるので、そういう部分もたまにはやっていきたいですね。
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