2021
■どんなときもお茶会マジック
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いよいよ植物園ステージが明日に迫り、みんなその準備に奔走していた。このステージは伝統的に2年生が主としてやることになっている。その中で実質的なまとめ役として走り回っているユキちゃんは、今日も最後の最後まで啓子を引き留めていろいろなことの確認に忙しくしている。
2年生が主体だからと言って3年生が何もしないということではないんだけど、基本的に2年生からの指示で動くという形になっている。いつからそういう風にやっているのかはわからないけど、ボクたちも去年の今頃はそうしていた。来年は1年生たちがこうやって走り回ることになるのかな。
「つ、疲れた~……」
「ユキ、ちょっとだらしなさすぎない? 明日本番なんですけどー」
「はいはい」
「ちょっと、反論するとか何かしてよー! サドニナはこんなに可愛いのに!」
「ユキちゃん、怒る気力もないって感じだね」
「直、ユキちゃんはサドニナの相手してられるほどヒマじゃないの」
「ユキちゃん、これ食べて元気出して。今日は長丁場になると思っておやつにスコーン作ったんだ」
「わー、ありがとうございまーす」
「みんなも食べよう。お茶とジャムも用意してるからね」
沙都子が至れり尽くせりなのも毎度のことだね。衣装合わせも済んで、仕事の半分が実質終わったような感じだから余裕があるのかな。沙都子は植物園ステージのMCが得意なんだよね。雰囲気が子どもたちには受けやすいのかな。
テーブルセッティングが進んでいくと、本当にそれらしくなるんだ。こないだ沙都子の誕生会もやったんだけど、部屋が大道具や小道具でごちゃっとしてるのに、テーブルクロスを敷くだけで机の周りだけは空気が変わる。それがお茶会マジックなのかもしれない。
「まあ! クリームも添えられていますのね! さすが沙都子先輩、素敵なクリームティーですわ!」
「うふふ。エマちゃんのお眼鏡に適うといいんだけど」
「エマちゃん、クリームティーってなに?」
「アフタヌーンティーの一種ですのよ。紅茶とスコーン、それからクロテッドクリームとジャムが添えられるのが基本ですわね」
「へー、何か緊張するなあ。上流階級のお茶会って感じで」
「もちろん上流階級の社交の場としての側面もありますけど、本場の英国でも現在は幅広い階級に広がった習慣で、高級ホテルのティールームでもなければ肩肘張ることもありませんのよ。こちらで本番前の決起集会と行きませんこと?」
さすが、エマは青葉女学園大学には一定数いると言われるお嬢様だなと、紅茶関係の所作を見ても感心する。用意して貰った物を飲食する専門家と思いきや、よくある一般的なポットから紙コップにお湯を注ぐのすらそれらしく様になっているのだから、慣れてるんだなあと。
「美雪先輩? お好みのジャムがありましたら申し付けてくださいませ?」
「あ、届くから大丈夫だよ。ありがとうねエマ」
「エマちゃんて、やっぱり家でもお茶会があったりするの?」
「幼少の頃はよく呼ばれることもありましたけど、近頃では家で簡単にお茶を飲む程度ですわ。家政婦の昌子さんが作るスコーンが絶品ですのよ」
「家政婦さんかあ。さすがエマちゃんのおうちだけど、ご飯とか洗濯とかをしてくれてるの?」
「そうですわね……昌子さんは住み込みの家政婦ですから、家事一般に加えて、わたくしが小学生の頃などは勉強も見てくれていましたわね」
「そうそう。家政婦さんと家事代行サービスってまたちょっと出来ることが違ってて、家事代行サービスの場合は料理だけとか掃除だけとか、半日とか2、3時間とか、派遣元の企業によってまた違って来るんだよ」
「さすが沙都子先輩。お調べになられているのですね」
ボクはごくごく普通の一般家庭に生まれ育っているから家政婦さんを雇うというようなことは想像したこともないんだけど、最近では家事代行サービスっていう形で家のことを人に頼むのも割と普通になって来てるのかな。
沙都子の作ったスコーンとエマが淹れてくれたお茶、それからクリームとジャムを囲んで話が弾む。クリームが先かジャムが先かという話もあるようだけど、どこの国でもあるつぶあんかこしあんか、粒のあるピーナッツクリームか滑らかなピーナッツクリームかという論争のひとつだそうだ。
「Kちゃん先輩、この後もうちょっと詰めを手伝ってください」
「もちろん」
「ん~、このクリーム美味しいですねさと先輩。これも作ったんですか?」
「これはさすがに既製品だよ。輸入食材店とかに売ってて」
「お腹と糖分はこれで結構補給出来たんで、もうちょっと頑張ります」
「ユキちゃん、頑張りすぎちゃダメだよ。私と直クンのことも頼っていいんだからね」
「ありがとうございます。そしたら直クン先輩はもうちょっとなっちゃんのリハをお願いします。さと先輩は~、え~と」
「沙都子先輩は傍らで微笑んでいていただければよろしいかと思いますのよ」
「それだ。ナイスエマ。さと先輩はあたしのこっち側に座っててください。別名サドニナガードで!」
「沙都子、責任重大だからね」
もうしばしお茶会で休憩をしたら、本番前のラストスパート。ボクはなっちゃんと一緒にミキサーとしての最終確認を。啓子と沙都子はユキちゃんを両脇で固めてサポートを。泣いても笑っても明日だからね。で、無理のない時間で終わってちゃんと寝て。
end.
++++
青女の植物園ステージ前日です。ユキちゃんは相変わらずバタバタしてるし、頭からそのうち煙が出そう。枝冠が燃えなければいいが
さとちゃんと言えばケーキのイメージが強いけど、もちろんスコーンも焼けるぞ! そしてそれっぽいお茶会。
1年生のキャラ付けが課題。ちとせ・エマは少しずつ出来て来たのであとはみわ・まつりですね。夏に期待。
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いよいよ植物園ステージが明日に迫り、みんなその準備に奔走していた。このステージは伝統的に2年生が主としてやることになっている。その中で実質的なまとめ役として走り回っているユキちゃんは、今日も最後の最後まで啓子を引き留めていろいろなことの確認に忙しくしている。
2年生が主体だからと言って3年生が何もしないということではないんだけど、基本的に2年生からの指示で動くという形になっている。いつからそういう風にやっているのかはわからないけど、ボクたちも去年の今頃はそうしていた。来年は1年生たちがこうやって走り回ることになるのかな。
「つ、疲れた~……」
「ユキ、ちょっとだらしなさすぎない? 明日本番なんですけどー」
「はいはい」
「ちょっと、反論するとか何かしてよー! サドニナはこんなに可愛いのに!」
「ユキちゃん、怒る気力もないって感じだね」
「直、ユキちゃんはサドニナの相手してられるほどヒマじゃないの」
「ユキちゃん、これ食べて元気出して。今日は長丁場になると思っておやつにスコーン作ったんだ」
「わー、ありがとうございまーす」
「みんなも食べよう。お茶とジャムも用意してるからね」
沙都子が至れり尽くせりなのも毎度のことだね。衣装合わせも済んで、仕事の半分が実質終わったような感じだから余裕があるのかな。沙都子は植物園ステージのMCが得意なんだよね。雰囲気が子どもたちには受けやすいのかな。
テーブルセッティングが進んでいくと、本当にそれらしくなるんだ。こないだ沙都子の誕生会もやったんだけど、部屋が大道具や小道具でごちゃっとしてるのに、テーブルクロスを敷くだけで机の周りだけは空気が変わる。それがお茶会マジックなのかもしれない。
「まあ! クリームも添えられていますのね! さすが沙都子先輩、素敵なクリームティーですわ!」
「うふふ。エマちゃんのお眼鏡に適うといいんだけど」
「エマちゃん、クリームティーってなに?」
「アフタヌーンティーの一種ですのよ。紅茶とスコーン、それからクロテッドクリームとジャムが添えられるのが基本ですわね」
「へー、何か緊張するなあ。上流階級のお茶会って感じで」
「もちろん上流階級の社交の場としての側面もありますけど、本場の英国でも現在は幅広い階級に広がった習慣で、高級ホテルのティールームでもなければ肩肘張ることもありませんのよ。こちらで本番前の決起集会と行きませんこと?」
さすが、エマは青葉女学園大学には一定数いると言われるお嬢様だなと、紅茶関係の所作を見ても感心する。用意して貰った物を飲食する専門家と思いきや、よくある一般的なポットから紙コップにお湯を注ぐのすらそれらしく様になっているのだから、慣れてるんだなあと。
「美雪先輩? お好みのジャムがありましたら申し付けてくださいませ?」
「あ、届くから大丈夫だよ。ありがとうねエマ」
「エマちゃんて、やっぱり家でもお茶会があったりするの?」
「幼少の頃はよく呼ばれることもありましたけど、近頃では家で簡単にお茶を飲む程度ですわ。家政婦の昌子さんが作るスコーンが絶品ですのよ」
「家政婦さんかあ。さすがエマちゃんのおうちだけど、ご飯とか洗濯とかをしてくれてるの?」
「そうですわね……昌子さんは住み込みの家政婦ですから、家事一般に加えて、わたくしが小学生の頃などは勉強も見てくれていましたわね」
「そうそう。家政婦さんと家事代行サービスってまたちょっと出来ることが違ってて、家事代行サービスの場合は料理だけとか掃除だけとか、半日とか2、3時間とか、派遣元の企業によってまた違って来るんだよ」
「さすが沙都子先輩。お調べになられているのですね」
ボクはごくごく普通の一般家庭に生まれ育っているから家政婦さんを雇うというようなことは想像したこともないんだけど、最近では家事代行サービスっていう形で家のことを人に頼むのも割と普通になって来てるのかな。
沙都子の作ったスコーンとエマが淹れてくれたお茶、それからクリームとジャムを囲んで話が弾む。クリームが先かジャムが先かという話もあるようだけど、どこの国でもあるつぶあんかこしあんか、粒のあるピーナッツクリームか滑らかなピーナッツクリームかという論争のひとつだそうだ。
「Kちゃん先輩、この後もうちょっと詰めを手伝ってください」
「もちろん」
「ん~、このクリーム美味しいですねさと先輩。これも作ったんですか?」
「これはさすがに既製品だよ。輸入食材店とかに売ってて」
「お腹と糖分はこれで結構補給出来たんで、もうちょっと頑張ります」
「ユキちゃん、頑張りすぎちゃダメだよ。私と直クンのことも頼っていいんだからね」
「ありがとうございます。そしたら直クン先輩はもうちょっとなっちゃんのリハをお願いします。さと先輩は~、え~と」
「沙都子先輩は傍らで微笑んでいていただければよろしいかと思いますのよ」
「それだ。ナイスエマ。さと先輩はあたしのこっち側に座っててください。別名サドニナガードで!」
「沙都子、責任重大だからね」
もうしばしお茶会で休憩をしたら、本番前のラストスパート。ボクはなっちゃんと一緒にミキサーとしての最終確認を。啓子と沙都子はユキちゃんを両脇で固めてサポートを。泣いても笑っても明日だからね。で、無理のない時間で終わってちゃんと寝て。
end.
++++
青女の植物園ステージ前日です。ユキちゃんは相変わらずバタバタしてるし、頭からそのうち煙が出そう。枝冠が燃えなければいいが
さとちゃんと言えばケーキのイメージが強いけど、もちろんスコーンも焼けるぞ! そしてそれっぽいお茶会。
1年生のキャラ付けが課題。ちとせ・エマは少しずつ出来て来たのであとはみわ・まつりですね。夏に期待。
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