2021
■最強の血脈
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とうとう初心者講習会の講師陣が勢揃いした。アナウンサー講師の果林先輩、ミキサー講師のL先輩、そして全体講師の野坂先輩だ。正式に講師を引き受けてくれた先輩たちと、最初の簡易打ち合わせということでMBCCのサークル室に集まった。対策委員代表は俺とエイジ。まあ、緑ヶ丘大学だしアナミキいるからっていう事情だね。
講習会では1年生にインターフェイスでやるラジオがどんな物かをイメージしてもらうための見本番組をやってもらうことになっている。15分の短い番組だけど、サンプルとしてはちょうどいいボリューム感だ。今はその番組の構成を3年生の先輩たちが3人揃って考えているところだ。
「すげーなー、これが緑ヶ丘の機材かー。こんなのがあるから他の機材をいろんな大学に分配しても余裕なんだなー」
「ウチのゼミのヒゲが新しい物好きでねー。しかもタカちゃんが正式にゼミ生になったでしょ? 多分これからもっと機材買いまくるんじゃないかな」
MBCCの機材群は、大掃除を経て大きく組み変わった。まず、パソコンを入力と出力の両方で使えるようにしてある。それから、ミキサーも佐藤ゼミのお下がりでもらった比較的新しい物と交換した。サークル室に壁を作っていた機材は使える物を選別して他大学さんに分配された。
現在インターフェイスではパソコンを使って番組をMP3形式のファイルで保存出来るようにしている。そして、ゆくゆくは大量のMDに記録されている音楽もパソコンに音声ファイルとして保存し直してミュージックライブラリ化しようという話を定例会議長のL先輩が提案している。
そうやってインターフェイスで新しいことをやる前に、試験場としての役割もあるのがMBCCだ。L先輩が定例会議長で、俺が対策委員の機材管理担当ということもあって、話し合いもここで比較的楽に進む。それに、思いついたことを実際に試してみるにも自大学で出来る。
「ウチなんか未だにチャンネルスイッチもない古いミキサーだもんな。PFLをやるにもめんどくせーのなんの」
「でも、インターフェイスのミキサーもPFLはなかなか手順が煩雑ですよね。MBCCのミキサーに慣れているとインターフェイスの機材にはなかなか対応出来ないので、向島には向島の良さはあると思います」
インターフェイスの機材は財政問題のこともあってなかなか新調出来ないでいる。インターフェイスの機材と同じくらい古い物を使っているのが向島さんだ。だから、夏合宿なんかの前には行くのが多少面倒でも向島で練習する、というのが最近の風潮らしい。本番に近い環境だからね。
「で、番組の構成な。基本中の基本でいいんだろ?」
「そうですね。そのようにお願いします」
「よくある番組の構成だったら野坂にキューシート書いてもらえばいいんじゃない? この中で1番基本が出来てるっしょ」
「いやいや、そこは緑ヶ丘勢だろ」
「ほら、アタシとタカちゃんは基本中の基本とかすぐ飽きちゃうからさ」
「お前らはなー……キューシート書いてんのにアドリブ合戦始めんのをどうにかしろと何遍言えばわかるのか」
L先輩は呆れかえっているようだけど、果林先輩とやるなら遊びたいっていう気持ちが強くなるんだよなあ。キューシートは書く。それこそ基本の構成でやろうとしたこともあったけど、気付いたら原型が無くなってるんですよねー。
「あー……まあ、タカティに関しては最早構成壊しが代名詞的なところがあるもんな。俺は菜月先輩とやってた定番の構成を磨き上げるしかなかったけど」
「俺が基本的な構成を外すことの背中を押してくれたのも、奥村先輩でしたけどね」
「はっ…! 基本中の基本も極めて、かつアソビのある番組も出来る菜月先輩が結局最強だったワケか!?」
「それで間違いないとは思いますよ」
「それを言い始めたら結局4年生の双璧に落ち着きますよねー。で、現役最強は誰だって話になって来るから」
「現役最強は講師の先輩らでいいんじゃないすか? 実際俺らから見て名実が伴うから講師をお願いしてるワケっすし」
「……さ、やるぞ」
「そーね」
3年生の先輩たちが、改めて白いキューシートを広げてどうするああすると構成の話を始めた。今回お願いするのはアナウンサーの果林先輩を軸に、野坂先輩には従来のMDを使った番組を。そしてL先輩にはパソコンを使って全く同じ構成の、将来の番組をやってもらうことになっている。
言ってしまえば3年生の実力者の先輩たちが今更どうするああすると話し合うような規模の番組でもないんだけど、だからこそどんな要素を入れれば1年生に伝わりやすいかということを話し合ってもらっている。現役の先輩だからこそわかる、今のインターフェイスに即した番組になると思う。
「あ、って言うか野坂」
「何?」
「アンタ今度からウチで練習するんでしょ? いつから来る?」
「あー、そしたら来週からお世話になろうかな。そっちの1年に対するネタバレとかは気にしなくて平気か?」
「んー、いいんじゃない? ちなみにウチの活動日は月水金だけど、別にウチのメンバーいればいつでも開けれるし」
「土日とかでも俺に言ってもらえれば、家がそこだしすぐ開けるから」
「そういうことだから好きな時に来てもらったらいいよ」
「あざっす。如何せんウチはアナ不足で、昼放送も満足に出来なくてだな」
「あー、今ヒロしかいないもんね。今からでも1年生入ってくれればいいんだけどね」
「本当にそれに尽きる。ま、何にせよ来週からお邪魔します」
end.
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3年生の講師陣が正式に揃って、真面目に話し合いを始めるかと思えば始まらないのがナノスパ。機材の話が始まった
ノサカとタカちゃん、どちらも菜月さんによって代名詞となっている番組のスタイルを開花させられた者同士。結局菜月さんが最強やったんや……
そして来週からノサカの緑大遠征が始まります。1年生たちとの交流めいた話とかもやってみたいけど、一応講師さんだからなあ。どうかな。
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とうとう初心者講習会の講師陣が勢揃いした。アナウンサー講師の果林先輩、ミキサー講師のL先輩、そして全体講師の野坂先輩だ。正式に講師を引き受けてくれた先輩たちと、最初の簡易打ち合わせということでMBCCのサークル室に集まった。対策委員代表は俺とエイジ。まあ、緑ヶ丘大学だしアナミキいるからっていう事情だね。
講習会では1年生にインターフェイスでやるラジオがどんな物かをイメージしてもらうための見本番組をやってもらうことになっている。15分の短い番組だけど、サンプルとしてはちょうどいいボリューム感だ。今はその番組の構成を3年生の先輩たちが3人揃って考えているところだ。
「すげーなー、これが緑ヶ丘の機材かー。こんなのがあるから他の機材をいろんな大学に分配しても余裕なんだなー」
「ウチのゼミのヒゲが新しい物好きでねー。しかもタカちゃんが正式にゼミ生になったでしょ? 多分これからもっと機材買いまくるんじゃないかな」
MBCCの機材群は、大掃除を経て大きく組み変わった。まず、パソコンを入力と出力の両方で使えるようにしてある。それから、ミキサーも佐藤ゼミのお下がりでもらった比較的新しい物と交換した。サークル室に壁を作っていた機材は使える物を選別して他大学さんに分配された。
現在インターフェイスではパソコンを使って番組をMP3形式のファイルで保存出来るようにしている。そして、ゆくゆくは大量のMDに記録されている音楽もパソコンに音声ファイルとして保存し直してミュージックライブラリ化しようという話を定例会議長のL先輩が提案している。
そうやってインターフェイスで新しいことをやる前に、試験場としての役割もあるのがMBCCだ。L先輩が定例会議長で、俺が対策委員の機材管理担当ということもあって、話し合いもここで比較的楽に進む。それに、思いついたことを実際に試してみるにも自大学で出来る。
「ウチなんか未だにチャンネルスイッチもない古いミキサーだもんな。PFLをやるにもめんどくせーのなんの」
「でも、インターフェイスのミキサーもPFLはなかなか手順が煩雑ですよね。MBCCのミキサーに慣れているとインターフェイスの機材にはなかなか対応出来ないので、向島には向島の良さはあると思います」
インターフェイスの機材は財政問題のこともあってなかなか新調出来ないでいる。インターフェイスの機材と同じくらい古い物を使っているのが向島さんだ。だから、夏合宿なんかの前には行くのが多少面倒でも向島で練習する、というのが最近の風潮らしい。本番に近い環境だからね。
「で、番組の構成な。基本中の基本でいいんだろ?」
「そうですね。そのようにお願いします」
「よくある番組の構成だったら野坂にキューシート書いてもらえばいいんじゃない? この中で1番基本が出来てるっしょ」
「いやいや、そこは緑ヶ丘勢だろ」
「ほら、アタシとタカちゃんは基本中の基本とかすぐ飽きちゃうからさ」
「お前らはなー……キューシート書いてんのにアドリブ合戦始めんのをどうにかしろと何遍言えばわかるのか」
L先輩は呆れかえっているようだけど、果林先輩とやるなら遊びたいっていう気持ちが強くなるんだよなあ。キューシートは書く。それこそ基本の構成でやろうとしたこともあったけど、気付いたら原型が無くなってるんですよねー。
「あー……まあ、タカティに関しては最早構成壊しが代名詞的なところがあるもんな。俺は菜月先輩とやってた定番の構成を磨き上げるしかなかったけど」
「俺が基本的な構成を外すことの背中を押してくれたのも、奥村先輩でしたけどね」
「はっ…! 基本中の基本も極めて、かつアソビのある番組も出来る菜月先輩が結局最強だったワケか!?」
「それで間違いないとは思いますよ」
「それを言い始めたら結局4年生の双璧に落ち着きますよねー。で、現役最強は誰だって話になって来るから」
「現役最強は講師の先輩らでいいんじゃないすか? 実際俺らから見て名実が伴うから講師をお願いしてるワケっすし」
「……さ、やるぞ」
「そーね」
3年生の先輩たちが、改めて白いキューシートを広げてどうするああすると構成の話を始めた。今回お願いするのはアナウンサーの果林先輩を軸に、野坂先輩には従来のMDを使った番組を。そしてL先輩にはパソコンを使って全く同じ構成の、将来の番組をやってもらうことになっている。
言ってしまえば3年生の実力者の先輩たちが今更どうするああすると話し合うような規模の番組でもないんだけど、だからこそどんな要素を入れれば1年生に伝わりやすいかということを話し合ってもらっている。現役の先輩だからこそわかる、今のインターフェイスに即した番組になると思う。
「あ、って言うか野坂」
「何?」
「アンタ今度からウチで練習するんでしょ? いつから来る?」
「あー、そしたら来週からお世話になろうかな。そっちの1年に対するネタバレとかは気にしなくて平気か?」
「んー、いいんじゃない? ちなみにウチの活動日は月水金だけど、別にウチのメンバーいればいつでも開けれるし」
「土日とかでも俺に言ってもらえれば、家がそこだしすぐ開けるから」
「そういうことだから好きな時に来てもらったらいいよ」
「あざっす。如何せんウチはアナ不足で、昼放送も満足に出来なくてだな」
「あー、今ヒロしかいないもんね。今からでも1年生入ってくれればいいんだけどね」
「本当にそれに尽きる。ま、何にせよ来週からお邪魔します」
end.
++++
3年生の講師陣が正式に揃って、真面目に話し合いを始めるかと思えば始まらないのがナノスパ。機材の話が始まった
ノサカとタカちゃん、どちらも菜月さんによって代名詞となっている番組のスタイルを開花させられた者同士。結局菜月さんが最強やったんや……
そして来週からノサカの緑大遠征が始まります。1年生たちとの交流めいた話とかもやってみたいけど、一応講師さんだからなあ。どうかな。
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