2021
■見学ツアーで何を見る
++++
「はーい、それじゃあ1年生は集まって下さーい」
監査の白河さんが1年に号令を鳴らして、集合を促す。星ヶ丘大学放送部は50人とか60人とかいる結構な大所帯で、それぞれが班の単位に分かれて日々ステージの演目を作っているんだそうだ。俺たち1年はまだ班に属してないけど、それを決める参考にして欲しいと見学ツアーの日程が設けられたそうだ。
ツアーに出るにあたり、白河さんから軽く説明がされる。現在7つある班を順番に見ていくけど、どの班がどういうスタイルでやっているか、これから自分がどんな風にこの部でやっていきたいかをイメージしながら見てほしいと。そして、気になることがあればどんどん質問してくれとも。
「タツ、楽しみだな」
「そうだね。班の様子をちゃんと見る機会って、あるようでないもんね。彩人はどこの班でもやれそうだけど、俺はどうかなあ」
「7つもあれば1コくらい合うトコあるって」
放送部ではプロデューサー、アナウンサー、ミキサー、ディレクターっていう4つのパートがあるんだけど、まだどのパートに就くかも1年はまだ厳密には決めていない。パートごとの仕事内容を聞いたりして、大体の方向性は考えてるっていう段階だ。ただ、俺はプロデューサーとしてバリバリやるんだと決めている。
今は同期のタツこと大沼樹生と話すことがまあ多い。タツはちょっと大人しめの性格で、あんまりガツガツとはしていない。俺はプロデューサーとしてバリバリやるぞって思ってるけど、実際のところは陰キャの大学デビューだから、大人しいくらいの奴の方が話しやすかったりする。
「そしたらまず、柳井班から回るぞー」
最初に回った部長の班は、さすが部長の班だけあって、しっかりと打ち合わせをして班員がまとまってんなとか、エリート集団だなって印象を受けた。白河さんによれば、綿密な台本から成される計算され尽くしたステージは圧巻とのこと。
「うん、俺は、部長の班ってプレッシャーには耐えられそうにないな」
「部長なー。越える壁としては申し分ないんだろうけどなー、どうかなー」
「次は、小林班なー」
建物の外に出て、次に回るのは小林班という……一見軽音部か何かのように見える班だ。この班は実際バンド形式で自分たちが音楽をやりながら観衆にも乗ってもらうっていうスタイルらしく、放送部内でも結構特殊なんだとか。ドラマーとキーボーディストを絶賛募集中とのこと。
「キーボーディストの枠があんのか~…!」
「彩人、キーボードやってるの?」
「やってる。うーん、ここはここで魅力的ではあるな。一応キープしとこ」
それからいろいろ見て回ったけど部長の班と小林班の後は違いがあまりよく分からなくて、人の雰囲気とかで決めることになるのかなって感じだ。白河さんは一応班ごとにどういう特徴があるとかって解説を入れてくれてたけど、実際やってるところを見ないとよくわかんないっつーか。
ただ、タツは白河さんの班を回った時に、この班はまったりした人が多そうで自分でもやっていけるかもしれないと希望を抱いた様子。班長として部を切り盛りする白河さん本人の人柄というのもある。この班でお世話になりたいなあと半ば心は決まったようだ。
「それじゃあ最後、戸田班なー。今度は上るから」
放送部で借り上げているミーティングルームだけじゃなくて、外に出たかと思えばまた戻って今度は階を上がる。いろんなトコで散らばってやってんだなと、班見学ツアーの終盤にしてここまで歩かされることに疲れが出始めた頃合いだ。
談話室という小さな教室では、セットされた機材の前で班員の人が台本らしき物を片手に話し合っているようだった。白河さんが声をかけたものの、見学に来た俺たちには見向きもせずただただ自分たちの練習を続けている。
「ここは戸田班。インターフェイスの行事にも積極的に出てて、ステージだけじゃなくてラジオ的な活動もやってる。人数は少ないけど、個々の能力は高いのが特徴だな。それから、現場の叩き上げで――」
今この教室にいる3人が戸田班の全班員だという。今まで回って来た他の班は、5人も6人もいたから、班の規模としては小さめだとわかる。だけど、個々の能力が高くて現場の叩き上げで技術を磨けるっていうのはいいなって思った。実際、このスタンスなんだろう。とにもかくにも打ち合わせと練習でブラッシュアップするっていう。
「これで一通り回ったけど、どうだったかな。これから放送部でどうやって行きたいかっていうのが何となく見えたかな。そしたら、今日はこれからまた練習に入って行くから」
「タツ、どうだった? 結局白河さんの班に行くの?」
「うん。そうしようかなって思ってる。彩人は? 小林班?」
「やー……今んトコ、小林班か最後に見た戸田班。どっちかかな。今から熟考する」
「どっちも結構特殊っぽい感じだったけど、大丈夫?」
「その分面白そうではあるじゃんな。キーボーディストとしての腕を生かすのか、ステージだけじゃなくてラジオとか、他校を絡めた活動に足突っ込むのか。いろいろやれんのお得じゃん」
「なるほど、そういう考え方もあるか」
小林班と戸田班のどっちともに共通するのは、ガツガツ練習したり書くものを書かないと付いていけなくなりそうだっつーことだろう。まあ、班もパートも正式に決めんのはまだ先と言え、動くなら早い方がいいし、ちゃんと考えないとな。
end.
++++
星ヶ丘放送部の班見学ツアー。夏合宿シーズンにちょろっと出てたたっちゃんも今期からはちょっと喋らせたい。
彩人海月みちるの3人は戸田班に入ってから話すようになってるんだとは思うけど、今年の1年生はみんなで簡易講習みたいなのを受ける機会もありそう。
たまに忘れそうになるけど彩人はキーボード弾けるんですね。小林班はスガPカンDの穴を埋められるだけの人員を確保出来たのかしら
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「はーい、それじゃあ1年生は集まって下さーい」
監査の白河さんが1年に号令を鳴らして、集合を促す。星ヶ丘大学放送部は50人とか60人とかいる結構な大所帯で、それぞれが班の単位に分かれて日々ステージの演目を作っているんだそうだ。俺たち1年はまだ班に属してないけど、それを決める参考にして欲しいと見学ツアーの日程が設けられたそうだ。
ツアーに出るにあたり、白河さんから軽く説明がされる。現在7つある班を順番に見ていくけど、どの班がどういうスタイルでやっているか、これから自分がどんな風にこの部でやっていきたいかをイメージしながら見てほしいと。そして、気になることがあればどんどん質問してくれとも。
「タツ、楽しみだな」
「そうだね。班の様子をちゃんと見る機会って、あるようでないもんね。彩人はどこの班でもやれそうだけど、俺はどうかなあ」
「7つもあれば1コくらい合うトコあるって」
放送部ではプロデューサー、アナウンサー、ミキサー、ディレクターっていう4つのパートがあるんだけど、まだどのパートに就くかも1年はまだ厳密には決めていない。パートごとの仕事内容を聞いたりして、大体の方向性は考えてるっていう段階だ。ただ、俺はプロデューサーとしてバリバリやるんだと決めている。
今は同期のタツこと大沼樹生と話すことがまあ多い。タツはちょっと大人しめの性格で、あんまりガツガツとはしていない。俺はプロデューサーとしてバリバリやるぞって思ってるけど、実際のところは陰キャの大学デビューだから、大人しいくらいの奴の方が話しやすかったりする。
「そしたらまず、柳井班から回るぞー」
最初に回った部長の班は、さすが部長の班だけあって、しっかりと打ち合わせをして班員がまとまってんなとか、エリート集団だなって印象を受けた。白河さんによれば、綿密な台本から成される計算され尽くしたステージは圧巻とのこと。
「うん、俺は、部長の班ってプレッシャーには耐えられそうにないな」
「部長なー。越える壁としては申し分ないんだろうけどなー、どうかなー」
「次は、小林班なー」
建物の外に出て、次に回るのは小林班という……一見軽音部か何かのように見える班だ。この班は実際バンド形式で自分たちが音楽をやりながら観衆にも乗ってもらうっていうスタイルらしく、放送部内でも結構特殊なんだとか。ドラマーとキーボーディストを絶賛募集中とのこと。
「キーボーディストの枠があんのか~…!」
「彩人、キーボードやってるの?」
「やってる。うーん、ここはここで魅力的ではあるな。一応キープしとこ」
それからいろいろ見て回ったけど部長の班と小林班の後は違いがあまりよく分からなくて、人の雰囲気とかで決めることになるのかなって感じだ。白河さんは一応班ごとにどういう特徴があるとかって解説を入れてくれてたけど、実際やってるところを見ないとよくわかんないっつーか。
ただ、タツは白河さんの班を回った時に、この班はまったりした人が多そうで自分でもやっていけるかもしれないと希望を抱いた様子。班長として部を切り盛りする白河さん本人の人柄というのもある。この班でお世話になりたいなあと半ば心は決まったようだ。
「それじゃあ最後、戸田班なー。今度は上るから」
放送部で借り上げているミーティングルームだけじゃなくて、外に出たかと思えばまた戻って今度は階を上がる。いろんなトコで散らばってやってんだなと、班見学ツアーの終盤にしてここまで歩かされることに疲れが出始めた頃合いだ。
談話室という小さな教室では、セットされた機材の前で班員の人が台本らしき物を片手に話し合っているようだった。白河さんが声をかけたものの、見学に来た俺たちには見向きもせずただただ自分たちの練習を続けている。
「ここは戸田班。インターフェイスの行事にも積極的に出てて、ステージだけじゃなくてラジオ的な活動もやってる。人数は少ないけど、個々の能力は高いのが特徴だな。それから、現場の叩き上げで――」
今この教室にいる3人が戸田班の全班員だという。今まで回って来た他の班は、5人も6人もいたから、班の規模としては小さめだとわかる。だけど、個々の能力が高くて現場の叩き上げで技術を磨けるっていうのはいいなって思った。実際、このスタンスなんだろう。とにもかくにも打ち合わせと練習でブラッシュアップするっていう。
「これで一通り回ったけど、どうだったかな。これから放送部でどうやって行きたいかっていうのが何となく見えたかな。そしたら、今日はこれからまた練習に入って行くから」
「タツ、どうだった? 結局白河さんの班に行くの?」
「うん。そうしようかなって思ってる。彩人は? 小林班?」
「やー……今んトコ、小林班か最後に見た戸田班。どっちかかな。今から熟考する」
「どっちも結構特殊っぽい感じだったけど、大丈夫?」
「その分面白そうではあるじゃんな。キーボーディストとしての腕を生かすのか、ステージだけじゃなくてラジオとか、他校を絡めた活動に足突っ込むのか。いろいろやれんのお得じゃん」
「なるほど、そういう考え方もあるか」
小林班と戸田班のどっちともに共通するのは、ガツガツ練習したり書くものを書かないと付いていけなくなりそうだっつーことだろう。まあ、班もパートも正式に決めんのはまだ先と言え、動くなら早い方がいいし、ちゃんと考えないとな。
end.
++++
星ヶ丘放送部の班見学ツアー。夏合宿シーズンにちょろっと出てたたっちゃんも今期からはちょっと喋らせたい。
彩人海月みちるの3人は戸田班に入ってから話すようになってるんだとは思うけど、今年の1年生はみんなで簡易講習みたいなのを受ける機会もありそう。
たまに忘れそうになるけど彩人はキーボード弾けるんですね。小林班はスガPカンDの穴を埋められるだけの人員を確保出来たのかしら
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