2021
■pretending not to recognize
++++
「いやあ、それにしても衝撃的な30分間だったね」
「いろんな意味で今後が楽しみだけど、どうなることやら」
先週の金曜日、普段通りにラーメンを食べようと入った学食で衝撃的な番組を耳にして1週間、今週は圭斗を巻き込んでランチついでにそれを聞きに来た。圭斗はうちからランチに誘われたことを不審に思いながらも、番組の始まる12時20分になった瞬間呼びされた意図を理解したようだ。
その番組の何がどう衝撃的だったのかというと、まず、本来ミキサーのはずのカンザキがアナウンサーとしてトークをしていたというところにある。それだけだったらまあ、お隣の緑ヶ丘大学でもサッカーのワールドカップ時期限定とは言え機材を触りながら生放送でトークをしていたミキサーがいたし、収録ならまだ不可能じゃない。
それじゃあ何が規格外だったのかと言うと、パーソナリティーが完全にキャラクターとなっていて、カンザキはそれを演じているという印象だったのだ。先週と今週ではパーソナリティーの名前もキャラクターも、話し方までもが全く違っていて、まさかこの路線で毎週やるのかと、末恐ろしさすら感じた。
うちなら“なっち”、圭斗なら“トニー”というDJネームこそ持っているものの、あくまでその当人が話していることには違いない。だけど、カンザキのやっていた“イカリザキトシロウ”だの“あんみつ五郎”だのと言ったキャラクターたちは、それまで歩んで来た人生すら全く違う人格たちのようだった。
「やァー、菜月先輩に圭斗先輩。お揃いで」
「やありっちゃん。裏口から出て来たということは番組明けかな?」
「そースね。先輩らはどーしたンす?」
「僕は菜月さんから金曜昼の学食に来ると面白い物が聞けるからと誘われてね。久々に一緒にランチをしていたところだよ」
「で、面白いモノは聞けヤしたか」
「先週のとは違ったけど、今週のは今週ので、よくもまあ」
「よくもまあッつー評価スか。ま、付け焼き刃スからね」
「ところで、りっちゃんは3限はあるのかな? よければいろいろ話を聞きたいところだけど」
「あ、大丈夫スよ」
「菜月さんは」
「うちも大丈夫だ」
――というワケで、お茶をしつついろいろ話を聞くことに。まあ、お茶と言ってもその辺のカフェとかじゃなくて学食に戻ってきたワケだけど。4年になってからはサークルに顔を出していないし、新歓のこととか、いろいろ聞きたいことはないことはなかったんだ。
「と言うか、あの番組は何なんだ?」
「どうもこうも、枠を埋めるためだけの番組スわ」
「さすがにヒロの1番組だけでは、という判断だったんだね」
「そーゆーコトすね。まァ、さすがにキツけりゃ隔週のつもりだったンすけど、案外イケたんでやれるところまでやりヤすかァーってなノリすね」
「ヒロは何曜日に誰と組んでやってるんだ?」
「ヒロは奈々と組んで水曜日にやってヤすね。昨年度末くらいからの謎の覚醒がまだ微妙に続いてるンで、番組としてのクオリティはそれなりにはなってヤすよ」
「水曜日か。菜月さん、大学に来てるかい?」
「さすがに来てないな」
「へえ。菜月さんもさすがに来ない日があるんだね」
「バカにしてるのか」
「ん、バカにしてるね」
失礼な男だ。社会学部のメディアコースは3年以降になればコース固有の授業も増えて、それなりに真面目にやっていたというのに。いくら単位のためと言え興味のない授業を履修したくはないし、ちゃんとやってる科目はそれなりの成績だ。3年次の1年間だけでも単位数自体はそれなりに追いついて来てるんだぞ。
それはそうとしてヒロと奈々の番組が水曜日に、そしてカンザキとりっちゃんの番組が金曜日にやっているということで、サークルとしての活動も一応それなりにやってますよという体裁を保つことは出来ているのかなと。そうなると、今期はノサカが昼放送のペアからはハブられたような形になるのか。秋に期待するしかないな。
「ところで、1年生は入ったかな?」
「ヤ、音沙汰なしスわ。まァ、菜月先輩は6月加入ッつー風には聞いてヤすし、その前例を噂に聞いてるンで今はそこまで絶望的な感じではないンすけど、さすがに秋学期になってもこの状態なら来期以降のサークルの存亡にもリアルに関わって来るかなァーとは」
「こればっかりはどうにもしようがないもんなあ。ポスターの掲示は続けてるのか?」
「自分らが外してはないンで、あるはずスね。一応自分が見かけたときには一番上になるように貼り直してるンすけどねェ。ま、なるようになると思ってやってくしかないスね」
そうりっちゃんは言うけど、ポスターを一番上に貼り直す作業をやり続けているということは、なんとかしないとマズいという意識が他小なりともあるのかなと。だけど、なるようになると思っていつものスタンスでいることがサークルの雰囲気を保つためには必要なのかもしれない。あくまで推測に過ぎないのだけど。
「何にせよ、MMPがこーゆーお遊び……もとい、最終手段を使える風土で良かったなとは思いヤす」
「ある一定のクオリティだからこそ怒られてないだけだということを忘れてもらっちゃ困るけどな。普通じゃまず考えないことだし」
「だから自分とこーたの番組のことは野坂には、つか誰にも言ってないンすけどね」
ノサカには言ってないという言葉にうちと圭斗の「あー……」という声が揃った。確かに、ノサカに知れたらナンダッテーと騒ぎ始めるだろうからな。何にせよ、使える手を使ってサークルとしての体を守ろうとしてくれているようで、何より。
end.
++++
今年の4年生はまだひゃっほーいと遊びに行くということをしていないのですが、そのうち計画くらいはし始めるかな? 7月くらいにでも。
ノサカも悪乗り耐性はあるのですが、やっぱり基本的には真面目なので突拍子もないことを実際にやるには用心深かったりするのかしら
悪ふざけでも一定のクオリティだから怒られてないだけで基本的にはNGだとさりげなくチクッと刺す菜月さん。相変わらずです。
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「いやあ、それにしても衝撃的な30分間だったね」
「いろんな意味で今後が楽しみだけど、どうなることやら」
先週の金曜日、普段通りにラーメンを食べようと入った学食で衝撃的な番組を耳にして1週間、今週は圭斗を巻き込んでランチついでにそれを聞きに来た。圭斗はうちからランチに誘われたことを不審に思いながらも、番組の始まる12時20分になった瞬間呼びされた意図を理解したようだ。
その番組の何がどう衝撃的だったのかというと、まず、本来ミキサーのはずのカンザキがアナウンサーとしてトークをしていたというところにある。それだけだったらまあ、お隣の緑ヶ丘大学でもサッカーのワールドカップ時期限定とは言え機材を触りながら生放送でトークをしていたミキサーがいたし、収録ならまだ不可能じゃない。
それじゃあ何が規格外だったのかと言うと、パーソナリティーが完全にキャラクターとなっていて、カンザキはそれを演じているという印象だったのだ。先週と今週ではパーソナリティーの名前もキャラクターも、話し方までもが全く違っていて、まさかこの路線で毎週やるのかと、末恐ろしさすら感じた。
うちなら“なっち”、圭斗なら“トニー”というDJネームこそ持っているものの、あくまでその当人が話していることには違いない。だけど、カンザキのやっていた“イカリザキトシロウ”だの“あんみつ五郎”だのと言ったキャラクターたちは、それまで歩んで来た人生すら全く違う人格たちのようだった。
「やァー、菜月先輩に圭斗先輩。お揃いで」
「やありっちゃん。裏口から出て来たということは番組明けかな?」
「そースね。先輩らはどーしたンす?」
「僕は菜月さんから金曜昼の学食に来ると面白い物が聞けるからと誘われてね。久々に一緒にランチをしていたところだよ」
「で、面白いモノは聞けヤしたか」
「先週のとは違ったけど、今週のは今週ので、よくもまあ」
「よくもまあッつー評価スか。ま、付け焼き刃スからね」
「ところで、りっちゃんは3限はあるのかな? よければいろいろ話を聞きたいところだけど」
「あ、大丈夫スよ」
「菜月さんは」
「うちも大丈夫だ」
――というワケで、お茶をしつついろいろ話を聞くことに。まあ、お茶と言ってもその辺のカフェとかじゃなくて学食に戻ってきたワケだけど。4年になってからはサークルに顔を出していないし、新歓のこととか、いろいろ聞きたいことはないことはなかったんだ。
「と言うか、あの番組は何なんだ?」
「どうもこうも、枠を埋めるためだけの番組スわ」
「さすがにヒロの1番組だけでは、という判断だったんだね」
「そーゆーコトすね。まァ、さすがにキツけりゃ隔週のつもりだったンすけど、案外イケたんでやれるところまでやりヤすかァーってなノリすね」
「ヒロは何曜日に誰と組んでやってるんだ?」
「ヒロは奈々と組んで水曜日にやってヤすね。昨年度末くらいからの謎の覚醒がまだ微妙に続いてるンで、番組としてのクオリティはそれなりにはなってヤすよ」
「水曜日か。菜月さん、大学に来てるかい?」
「さすがに来てないな」
「へえ。菜月さんもさすがに来ない日があるんだね」
「バカにしてるのか」
「ん、バカにしてるね」
失礼な男だ。社会学部のメディアコースは3年以降になればコース固有の授業も増えて、それなりに真面目にやっていたというのに。いくら単位のためと言え興味のない授業を履修したくはないし、ちゃんとやってる科目はそれなりの成績だ。3年次の1年間だけでも単位数自体はそれなりに追いついて来てるんだぞ。
それはそうとしてヒロと奈々の番組が水曜日に、そしてカンザキとりっちゃんの番組が金曜日にやっているということで、サークルとしての活動も一応それなりにやってますよという体裁を保つことは出来ているのかなと。そうなると、今期はノサカが昼放送のペアからはハブられたような形になるのか。秋に期待するしかないな。
「ところで、1年生は入ったかな?」
「ヤ、音沙汰なしスわ。まァ、菜月先輩は6月加入ッつー風には聞いてヤすし、その前例を噂に聞いてるンで今はそこまで絶望的な感じではないンすけど、さすがに秋学期になってもこの状態なら来期以降のサークルの存亡にもリアルに関わって来るかなァーとは」
「こればっかりはどうにもしようがないもんなあ。ポスターの掲示は続けてるのか?」
「自分らが外してはないンで、あるはずスね。一応自分が見かけたときには一番上になるように貼り直してるンすけどねェ。ま、なるようになると思ってやってくしかないスね」
そうりっちゃんは言うけど、ポスターを一番上に貼り直す作業をやり続けているということは、なんとかしないとマズいという意識が他小なりともあるのかなと。だけど、なるようになると思っていつものスタンスでいることがサークルの雰囲気を保つためには必要なのかもしれない。あくまで推測に過ぎないのだけど。
「何にせよ、MMPがこーゆーお遊び……もとい、最終手段を使える風土で良かったなとは思いヤす」
「ある一定のクオリティだからこそ怒られてないだけだということを忘れてもらっちゃ困るけどな。普通じゃまず考えないことだし」
「だから自分とこーたの番組のことは野坂には、つか誰にも言ってないンすけどね」
ノサカには言ってないという言葉にうちと圭斗の「あー……」という声が揃った。確かに、ノサカに知れたらナンダッテーと騒ぎ始めるだろうからな。何にせよ、使える手を使ってサークルとしての体を守ろうとしてくれているようで、何より。
end.
++++
今年の4年生はまだひゃっほーいと遊びに行くということをしていないのですが、そのうち計画くらいはし始めるかな? 7月くらいにでも。
ノサカも悪乗り耐性はあるのですが、やっぱり基本的には真面目なので突拍子もないことを実際にやるには用心深かったりするのかしら
悪ふざけでも一定のクオリティだから怒られてないだけで基本的にはNGだとさりげなくチクッと刺す菜月さん。相変わらずです。
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