2021
■不安が拭えない
++++
「それじゃあお疲れさまでしたー」
「お疲れーっす。高木、飯でも行くか。まだ結構時間早いけど」
「そうだね。ご飯食べよっか」
定例の対策委員の会議が終わったのは、会議開始からちょうど30分後の18時半。本当に早く終わったなあと思いつつ、エイジとご飯を食べに行くことに。まあ、対策委員の会議って大体こんな感じで、1時間かかることの方が少ないんだよね。
「しかしまあ、あっさりと話し合いが進んだっていう」
「何か穴があるような気がする……ねえエイジ、本当にこんなとんとん拍子に行くものなのかなあ」
「まあ、実際物事が上手くいってるときは周りが見えなくなりがちだっていう」
6月の初心者講習会に向けた話し合いは至極順調に進んでいた。俺たちの学年が対策委員をきちんと引き継いで、4月にその活動を始めてからは、議長のアオと委員長のエイジを中心に淡々と話し合いを続けているような感じだ。
会議自体も凄くスムーズに進んでいて、はじめから既定路線であろうことなんかは話し合うまでもなくアオが「これでいいよね」と確認する程度に留めるし、みんなそれを不思議に思うこともなく「いいでーす」と返事をする。議論が白熱するということはそうそうないよね。
今は初心者講習会の講師を誰にお願いするかというようなことを話し合っていたんだけど、これもすっぱり決まったなあという印象だ。まあ果林先輩と野坂先輩にお願いするよねって。実際先輩たちに依頼をするのはこれからだけど、もう決まってるかのように想像してたところがある。
「明日は果林先輩に講師をお願いするんだよね」
「そうだべ。まあ言って果林先輩は去年の対策委員だし、こっちの話なんかはわかってくれるっていう」
「そうだね。でも、果林先輩って高崎先輩とのプレゼンバトルで鍛えられてるでしょ。俺たちもそれを求められたらどうしようね」
「言ったら難だけど高崎先輩はその辺難しい人っつーか、そこまで求めなくても事情を酌めばいいのにっつーことでも事細かく詳細を求めただろ。聞かなくてもわかるようなことまで説明を求めてたっていう」
「まあねえ」
「効率とか時間的な意味でも、そこまでする必要あんのかねって気はするけどな。果林先輩はさすがにそこまで求めてこんべ」
高崎先輩のプレゼンバトルと言えば、傍から見ていても相当激しかったなあという印象がある。高崎先輩に対して案を提示するときには、その案に対する根拠や提案理由などを事細かに求められた。
なぜそうするのか、そして、それをすることでどうなるのかという見通し。これを高崎先輩風に言うとWhy so?とSo whatという表現の仕方をするらしい。So whatという言葉の意味は簡単に知っている。「それで何が言いたいの」とか「それで結論は?」とか、そんなようなことだ。
そう言うとWhy so?は言いたいことだとか、結論に対して納得出来る理由づけということになるのかもしれない。何事にも根拠を求める高崎先輩だ。論理的に、分かりやすく、きちんと話が整理されていることを求めるのだろう。
俺たちが高崎先輩相手にプレゼンしたのは去年の大学祭でのことになる。焼きそばのレシピを事細かに記録して提出したときに、ここでこれだけ経費を削減してここに対してはお金を出すけど、こうすることによって利益を出すのでお願いします、とかそんなようなことだ。
「対策委員として今までが順調に行ってるって思い込んでるけど、そもそもこれまで決まってることって否応なくそうなるようなことばっかりで、ちゃんと考えて話し合って決めることってこれが初めてだから不安になっちゃうよね」
「まあ、お前の言ってることもわからんでもないべ。講習会の日にちなんかはこれまでと同じくらいにしておけばまあ間違いないし、場所に関しても星大以外は何かしらの制約がある以上、そうせざるを得ないっていう。でもお前は心配し過ぎだべ」
「そうかなあ」
心配になっているのには理由がある。さっきまでの会議の中で、講師を果林先輩と野坂先輩にお願いしようという話になったまではよかった。俺たちと奈々がそれぞれ先輩たちにお願いすることになったんだけど、どうお願いしたらいいのかがわからないんだ。
どう、というのは、講師には全体講習を担当する人とアナミキごとのパート別講習を行う人がいるはずなんだ。だけど、誰にどの講習をお願いするか、という部分の話し合いってしたっけ? してなくない? と思って悶々としている。もしかしたら俺が聞き逃しただけで、みんなわかってるのかもって思ったら聞くに聞けなくて。
「何て言うか、緊張するなあ」
「そうカタくなんなよ。果林先輩は話せばわかってくれるべ」
「話し方が問題なんだよなあ。仮にもアナウンス部長だし、高崎先輩の何をどこまで受け継いでるかとかってあるじゃない。あのレベルのプレゼンバトルを要求されたら俺に勝ち目はないんだけどなあ」
「俺もいるだろっていう」
「まあ、うん、そうなんだけどね。とりあえず、明日だね」
「美味いモン食って景気づけだっていう。何食う? 唐揚げでも食うか?」
「ああ、いいね。唐揚げ食べたい。この辺って唐揚げの店ってあるの?」
「唐揚げ専門店が流行ってるって言うし、検索すれば出て来るだろっていう」
まだまだ不安は尽きないけど、考えたって仕方ないところは仕方ないのかもしれない。当たって砕けろとも言うし、当たってみないことには始まらないんだよなあ。それはわかってるんだけど、怖すぎるよなあ。
end.
++++
しれっと初心者講習会に向けた話が進み始めていたのですが、それもこれも今期対策委員の会議があっさり終わり過ぎてるんすよ
普段はのほほんとしているTKGだけど、慎重になるところはなるし不安になるときは不安になる。エイジとは基本デコボコ。
そして懐かしのプレゼンバトル。高崎のそれはものっそい激しかったらしい。ロジカルシンキングに通じるやり方でもあるそうだけど
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「それじゃあお疲れさまでしたー」
「お疲れーっす。高木、飯でも行くか。まだ結構時間早いけど」
「そうだね。ご飯食べよっか」
定例の対策委員の会議が終わったのは、会議開始からちょうど30分後の18時半。本当に早く終わったなあと思いつつ、エイジとご飯を食べに行くことに。まあ、対策委員の会議って大体こんな感じで、1時間かかることの方が少ないんだよね。
「しかしまあ、あっさりと話し合いが進んだっていう」
「何か穴があるような気がする……ねえエイジ、本当にこんなとんとん拍子に行くものなのかなあ」
「まあ、実際物事が上手くいってるときは周りが見えなくなりがちだっていう」
6月の初心者講習会に向けた話し合いは至極順調に進んでいた。俺たちの学年が対策委員をきちんと引き継いで、4月にその活動を始めてからは、議長のアオと委員長のエイジを中心に淡々と話し合いを続けているような感じだ。
会議自体も凄くスムーズに進んでいて、はじめから既定路線であろうことなんかは話し合うまでもなくアオが「これでいいよね」と確認する程度に留めるし、みんなそれを不思議に思うこともなく「いいでーす」と返事をする。議論が白熱するということはそうそうないよね。
今は初心者講習会の講師を誰にお願いするかというようなことを話し合っていたんだけど、これもすっぱり決まったなあという印象だ。まあ果林先輩と野坂先輩にお願いするよねって。実際先輩たちに依頼をするのはこれからだけど、もう決まってるかのように想像してたところがある。
「明日は果林先輩に講師をお願いするんだよね」
「そうだべ。まあ言って果林先輩は去年の対策委員だし、こっちの話なんかはわかってくれるっていう」
「そうだね。でも、果林先輩って高崎先輩とのプレゼンバトルで鍛えられてるでしょ。俺たちもそれを求められたらどうしようね」
「言ったら難だけど高崎先輩はその辺難しい人っつーか、そこまで求めなくても事情を酌めばいいのにっつーことでも事細かく詳細を求めただろ。聞かなくてもわかるようなことまで説明を求めてたっていう」
「まあねえ」
「効率とか時間的な意味でも、そこまでする必要あんのかねって気はするけどな。果林先輩はさすがにそこまで求めてこんべ」
高崎先輩のプレゼンバトルと言えば、傍から見ていても相当激しかったなあという印象がある。高崎先輩に対して案を提示するときには、その案に対する根拠や提案理由などを事細かに求められた。
なぜそうするのか、そして、それをすることでどうなるのかという見通し。これを高崎先輩風に言うとWhy so?とSo whatという表現の仕方をするらしい。So whatという言葉の意味は簡単に知っている。「それで何が言いたいの」とか「それで結論は?」とか、そんなようなことだ。
そう言うとWhy so?は言いたいことだとか、結論に対して納得出来る理由づけということになるのかもしれない。何事にも根拠を求める高崎先輩だ。論理的に、分かりやすく、きちんと話が整理されていることを求めるのだろう。
俺たちが高崎先輩相手にプレゼンしたのは去年の大学祭でのことになる。焼きそばのレシピを事細かに記録して提出したときに、ここでこれだけ経費を削減してここに対してはお金を出すけど、こうすることによって利益を出すのでお願いします、とかそんなようなことだ。
「対策委員として今までが順調に行ってるって思い込んでるけど、そもそもこれまで決まってることって否応なくそうなるようなことばっかりで、ちゃんと考えて話し合って決めることってこれが初めてだから不安になっちゃうよね」
「まあ、お前の言ってることもわからんでもないべ。講習会の日にちなんかはこれまでと同じくらいにしておけばまあ間違いないし、場所に関しても星大以外は何かしらの制約がある以上、そうせざるを得ないっていう。でもお前は心配し過ぎだべ」
「そうかなあ」
心配になっているのには理由がある。さっきまでの会議の中で、講師を果林先輩と野坂先輩にお願いしようという話になったまではよかった。俺たちと奈々がそれぞれ先輩たちにお願いすることになったんだけど、どうお願いしたらいいのかがわからないんだ。
どう、というのは、講師には全体講習を担当する人とアナミキごとのパート別講習を行う人がいるはずなんだ。だけど、誰にどの講習をお願いするか、という部分の話し合いってしたっけ? してなくない? と思って悶々としている。もしかしたら俺が聞き逃しただけで、みんなわかってるのかもって思ったら聞くに聞けなくて。
「何て言うか、緊張するなあ」
「そうカタくなんなよ。果林先輩は話せばわかってくれるべ」
「話し方が問題なんだよなあ。仮にもアナウンス部長だし、高崎先輩の何をどこまで受け継いでるかとかってあるじゃない。あのレベルのプレゼンバトルを要求されたら俺に勝ち目はないんだけどなあ」
「俺もいるだろっていう」
「まあ、うん、そうなんだけどね。とりあえず、明日だね」
「美味いモン食って景気づけだっていう。何食う? 唐揚げでも食うか?」
「ああ、いいね。唐揚げ食べたい。この辺って唐揚げの店ってあるの?」
「唐揚げ専門店が流行ってるって言うし、検索すれば出て来るだろっていう」
まだまだ不安は尽きないけど、考えたって仕方ないところは仕方ないのかもしれない。当たって砕けろとも言うし、当たってみないことには始まらないんだよなあ。それはわかってるんだけど、怖すぎるよなあ。
end.
++++
しれっと初心者講習会に向けた話が進み始めていたのですが、それもこれも今期対策委員の会議があっさり終わり過ぎてるんすよ
普段はのほほんとしているTKGだけど、慎重になるところはなるし不安になるときは不安になる。エイジとは基本デコボコ。
そして懐かしのプレゼンバトル。高崎のそれはものっそい激しかったらしい。ロジカルシンキングに通じるやり方でもあるそうだけど
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