2021

■演出するザ・アウトドア

公式学年+1年

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 いよいよ明日は佐藤ゼミのバーベキューの日。2年生の幹事は亮真がやってくれることになっていて、今日は予定の合う有志で買い出しに来た。大学から豊葦市街の方面へ車を走らせること10分、まずやって来たのは業務用の資材などが揃うスーパーだ。

「亮真、ここでは何を見るんだ?」
「箸や紙皿といった資材や、冷凍の食材でいいものがあれば」
「そーだ亮真、パエリアするって話覚えてるよね?」
「覚えている。海鮮と米を買えばいいんだろう」
「覚えてるならいーよ」

 結局、バーベキューや屋外での食事に関してはアウトドアの経験が豊富な亮真とまいみぃが強いので、この2人が中心になって動いているような感じ。俺は豊葦の地理担当で、シノは賑やかしが今のところの主な役割だろうか。

「予算2万5千円でどれだけ上手いことやれるかだからね!」
「2万5千円かー。つか学年が25人で2万5千円って1人1000円しか食えないってことか!? すっくね~…! 腹いっぱいにならなさそー……」
「お金をくれるときに先生は「毎年2年生は食材を余らせる」と言っていた」
「サークルの先輩によれば、2年生はアルコールに資金を割けない分食材を買うしかないから他の学年より食材が多くなる傾向にあるらしい」
「でも1人1000円はちょっと食えなさすぎじゃね?」
「焼きそばとか、今回ならパエリアで安くかさ増しすればイケるって! てか智也アンタどんだけ食べるつもりだったの?」
「そりゃあ、肉もサイドも腹いっぱい?」
「アンタ、他の人のことも考えて食べてよね」
「努力はする」

 まいみぃの心配はご尤もって感じだな。俺も人のことはあまり言えないのだけど、シノはMBCCの現役で一番量を食べるから。さすがに果林先輩ほどの異次元レベルの胃袋ではないんだけど、それでも食べる量は物凄い。だからまだ背が伸びるのかな。
 お米同好会に所属するまいみぃがパエリアをプロデュースしてくれるそうなんだけど、如何せん海鮮は結構高い。こういうところでエビやイカといった海鮮系食材の冷凍パックなどがないかなと見に来たそうだ。
 シノはまだビギナーだけど、亮真もまいみぃも1人暮らしをしているからスーパーの歩き方なんかは割と分かっている方だ。正直、買い物のことに関してはこの2人に任せておけばまず間違いないかなと。本格的にMBCC勢が冷やかしみたいだな。

「てか、そんなに食材って余るモンなの? 買う物結構多いじゃんね。ジュースとかお茶とかもここから出さなきゃでしょ?」
「今の4年生は食材を余らせなかったそうだけど、比較対象にしてはいけないと。2年生は余らせるからジャンケンで食材を分けなさいと聞いた」
「……まあ、今の4年生っつったら、食材が余る理由がねーんだよなあ」
「まさにそれだな」
「えっ!? あっ! “黄色の悪魔”!?」
「何だそれ」
「アンタMBCCなのに知らないの!? 学祭でやってるウチのご飯ブースでとにかく食べてくヤバい人、黄色い悪魔っていうんだけど、ウチのゼミの4年生だったんだって!」
「や、心当たりしかねーけど、何だその二つ名はって思って。黄色の悪魔?」
「だってあの人黄色いジャージじゃん」
「高木先輩曰く、果林先輩はあれでもお米同好会のご飯食べ比べは手加減してるらしいからな」
「は!? 出禁一歩手前なんですけど!?」

 ちなみに今回のバーベキューについては高木先輩とも少し話していたんだけど、4年生ともなると就活などの都合で参加は任意になる。だけど学年ごとの予算は2万5千円のままだから、果林先輩は肉の量を取るか質を取るかでかなり悩んでいたそうだ。

「今回アタシらの学年のテーマがザ・アウトドア飯ってテイストじゃん? ここはぜひテキトーに写真撮ってもいいなーってなるような、そんなバーベキューを演出していきたい!」
「麻衣、お前の動画チャンネルじゃねーんだぞ」
「亮真、主導権が完全にまいみぃに移ってるけど大丈夫か」
「積極的に動いてもらえるのは、ありがたいと思う」
「でしょ? アンタらみたいに細かいこと気にしないんだよ亮真は」

 確かに、こんな感じでやりますっていうのがパッと見でわかるようにしてもらえればこっちもとっつきやすい。それに、やりたいことのビジョンが見えて次は何が必要かっていうのがイメージしやすくはあるんだよな。

「アウトドア飯と言えば、やってみたいことがある」
「おっ、いーじゃん! 亮真、やろうよ! 予算の範囲内ならオッケーじゃんね!」
「それで、やりたいことっていうのは」
「パンを焼きたいと思っている」
「パン?」
「バーベキューの炭火でパンが焼けるそうだ。やったことがないから、試してみたい」
「へー。アタシも興味あるよね。ウインナーとか巻いたら美味しいじゃん」
「ミツに食わして品評してもらおうぜ! せっかくパン同好会がいるんだから」
「しかし、小麦粉などのパンの材料を買って余らせたらどうするのかと」
「え、アタシフツーに欲しいし。野菜パンとか作りたいよね」
「や、お前が良くても今ここにいない残り21人の意向とかもあるだろ」
「みんなバーベキューでパンなんか焼けると思わないからすごーいってテンション上がると思うけどね。ねー、いーじゃんいーじゃん、やろーよ」

 結局、パンの材料については次の一般的なスーパーまで持ち越されることになった。パンの作り方か。バーベキューでそんなことが出来るとか凄すぎないか。と言うか、俺が普通に食べたいまである。

「つか焼きそばにパエリアにパンって。案外炭水化物が多いぞ」
「それはそれでいいんじゃないのか。シノ、腹いっぱいになりたかったんだろ」
「いや、肉を食いたいだろそこは」


end.


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まいみぃと亮真が案外ガンガン物事を進めるので、場合によってはシノがツッコミになってしまう世界観である。
キャンプとかアウトドア方面で強い2人が中心になって進めるバーベキューはきっと見た目にも美味しいし、俗っぽく言うと映える。
例によって黄色の悪魔と呼ばれて恐れられている果林である。出禁になると果林の楽しい学祭ライフが残念なことになっちゃうよ!

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