2021
■見学ツアーと現地民
++++
「おはよーございますですー。あれっ、ゲンゴローだけです?」
「おはようマリン。つばめ先輩は今日班長会議だよ」
「ああ、そうだったです。それじゃあしばらくは2人で練習です」
インターフェイスで出ていたファンタジックフェスタが終わって、これからは放送部の本丸と言えるステージに向かってやっていくことになるのかな。例年通りなら夏、8月の頭に丸の池公園でやらせてもらうことになっている。
部で借り上げているミーティングルームの、隅の角の小さなスペース、そこが戸田班に与えられたブースになる。部屋をパーテーションで分けて班ごとのブースを作ってるんだけど、お世辞にも広いとは言えないスペースにはいろいろな物が詰め込まれている。
「それじゃあ、談話室に行く?」
「行くですよ」
戸田班では部で持っている機材の他に、班で持っている自前の機材がある。部の機材を使おうにも、手続きが面倒なんだよね。いつ、どこの班が、何の目的で機材を使うとかっていちいち申請しなきゃいけないとかで。面倒極まりないって理由で緑ヶ丘さんから貰ったんだって。
その機材を使って戸田班では日常的に練習をしてるんだけど、練習に使わせてもらっているのが部室棟にある談話室っていう小さな教室。ここに班の機材を運び込んでやってるんだ。ファンフェス前ならラジオの練習だし、もちろんステージにも対応出来る。自前の機材があると楽でいいなあって実感してる。
「あっ、アンタら、談話室に行くトコ?」
「つばめ先輩おはようございますです!」
「そうですね。談話室に行こうかと思ってました」
「なら丁度いいわ。向こうで会議の報告するから」
「わかりました」
戸田班は班長でディレクターのつばめ先輩と、プロデューサーとアナウンサーを兼任するマリン、それからミキサーの俺という3人で構成された班だ。部の中では規模の小さい班で、まあ、ちょっと変わった班とも言えるかな。
「えー、それじゃあ班長会議ね。1年がまあまあ入ったからもうちょっとしたら班の見学ツアーってのをやるんだって」
「見学ツアーです?」
「1年生を引き連れて各班を見て回るって感じですか?」
「まーそんなコトらしい。1年の引率は白河がやるらしいんだけど、フツーに班の活動はやってていいらしいからウチらはいつも通りここで練習してればいーかなって」
「それで1年生が入る班を決めるんですか?」
「そーね。班を決める参考にはなるだろうね。でも、ウチに1年が来るかっつったらまあ来ないだろうから、接待なんかしなくていいし」
つばめ先輩によれば、今年の1年生は現段階で15人ほど入っているそうだ。放送部は何気に大きい部活だから、人数も多いんだよね。ちゃんと活動してるかはともかく、各学年に20人近くいるのかな。部全体では50人から60人ほどいるんだって。
例年1年生は何となく自分に合いそうだな~っていう班を探してお世話になりに行くんだけど、今年は見学ツアーっていうのを開いてもらえるらしい。全部の班を回って実際に様子を見られるのは参考になりそうだしいいね。
ただ、戸田班は代々“流刑地”って呼ばれた変わり者や部の方針に反した人の流れ着く場所。そんなネガティブな性質を持っているから、つばめ先輩が言うように好き好んで1年生が入って来るとは考えにくい。
俺はつばめ先輩に誘われて、元いた班の班長にもポジティブに送り出してもらってここにいる。だけど、マリンは部長にケンカを売って元いた班を飛び出して今に至っている。放送部って、何かそういう身分とか階級制度みたいなしがらみが面倒らしいんだよね。
「ま、戸田班に1年が入るかどうかはゲンゴローにかかってるからね」
「ゲンゴローです?」
「そーだよ。初心者講習会でインターフェイスの連中と積極的に絡んでるような奴とか、コイツはイケそうだって奴を一本釣りして来るんだよ。ゲンゴローもアタシがそうやって一本釣りしてきたからね」
「そうだったです? ゲンゴローは何が良かったんです?」
「他校の男子連中と話してたんだよ。エージだのタカティだの」
「よく見る光景です」
「や、ウチの連中って基本教室の後ろの方で内輪だけで群れてんだよ。そうじゃない奴は脈あり判定を出していいって言える。戸田班の運命はアンタにかかってんだよ、ゲンゴロー!」
そう言ってつばめ先輩は俺の肩をパンッと勢いよく叩く。でも、実際そうなんだろうな。ただ、今年は班見学ツアーがあるってことは、6月にある初心者講習会までにみんな行きたい班が決まっちゃうんじゃないかって気がしないでもない。大丈夫かなあ。
「そう言えば、班ごとの特色って何かあるです? 戸田班と小林班以外は正直差別化が難しいです。あ、悪い意味で長門班も際立ってますけど」
「あーね。それを何とか説明すんのが監査サマの手腕じゃない? まあ白河なら無難に誤魔化すっしょ」
そうなんだよね。今年の監査は俺が元々いた鎌ヶ谷班でお世話になってたマロ先輩なんだ。どこの班の人に対しても分け隔てない接し方をするタイプなんだよね。監査になったって聞いた時はビックリしたけど、いろいろ話しやすそうではあるな。
「ま、何にせよアタシらはステージに向けてやってくだけだからね」
「台本の準備はしっかりしていくですよ!」
「えーと……俺は、人に声をかける勇気を身に付けたいですね」
「そーね。ステージに向けての人員確保、これはすっごい大事な仕事だからね」
end.
++++
ここからは星ヶ丘放送部の話なんかもちょこちょこやっていくことになるのかしら。戸田班の運命はゲンゴローにかかっている?
忘れがちだけどマリンは部長にケンカを売って柳井班を飛び出してきたんでしたね。行くところがつばちゃんの元しかなかったんですよ、たまたま
ツアーで1年は来ないだろうと思ってノー接待を決めたつばちゃん。果たして吉と出るか凶と出るかが見ものですね
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「おはよーございますですー。あれっ、ゲンゴローだけです?」
「おはようマリン。つばめ先輩は今日班長会議だよ」
「ああ、そうだったです。それじゃあしばらくは2人で練習です」
インターフェイスで出ていたファンタジックフェスタが終わって、これからは放送部の本丸と言えるステージに向かってやっていくことになるのかな。例年通りなら夏、8月の頭に丸の池公園でやらせてもらうことになっている。
部で借り上げているミーティングルームの、隅の角の小さなスペース、そこが戸田班に与えられたブースになる。部屋をパーテーションで分けて班ごとのブースを作ってるんだけど、お世辞にも広いとは言えないスペースにはいろいろな物が詰め込まれている。
「それじゃあ、談話室に行く?」
「行くですよ」
戸田班では部で持っている機材の他に、班で持っている自前の機材がある。部の機材を使おうにも、手続きが面倒なんだよね。いつ、どこの班が、何の目的で機材を使うとかっていちいち申請しなきゃいけないとかで。面倒極まりないって理由で緑ヶ丘さんから貰ったんだって。
その機材を使って戸田班では日常的に練習をしてるんだけど、練習に使わせてもらっているのが部室棟にある談話室っていう小さな教室。ここに班の機材を運び込んでやってるんだ。ファンフェス前ならラジオの練習だし、もちろんステージにも対応出来る。自前の機材があると楽でいいなあって実感してる。
「あっ、アンタら、談話室に行くトコ?」
「つばめ先輩おはようございますです!」
「そうですね。談話室に行こうかと思ってました」
「なら丁度いいわ。向こうで会議の報告するから」
「わかりました」
戸田班は班長でディレクターのつばめ先輩と、プロデューサーとアナウンサーを兼任するマリン、それからミキサーの俺という3人で構成された班だ。部の中では規模の小さい班で、まあ、ちょっと変わった班とも言えるかな。
「えー、それじゃあ班長会議ね。1年がまあまあ入ったからもうちょっとしたら班の見学ツアーってのをやるんだって」
「見学ツアーです?」
「1年生を引き連れて各班を見て回るって感じですか?」
「まーそんなコトらしい。1年の引率は白河がやるらしいんだけど、フツーに班の活動はやってていいらしいからウチらはいつも通りここで練習してればいーかなって」
「それで1年生が入る班を決めるんですか?」
「そーね。班を決める参考にはなるだろうね。でも、ウチに1年が来るかっつったらまあ来ないだろうから、接待なんかしなくていいし」
つばめ先輩によれば、今年の1年生は現段階で15人ほど入っているそうだ。放送部は何気に大きい部活だから、人数も多いんだよね。ちゃんと活動してるかはともかく、各学年に20人近くいるのかな。部全体では50人から60人ほどいるんだって。
例年1年生は何となく自分に合いそうだな~っていう班を探してお世話になりに行くんだけど、今年は見学ツアーっていうのを開いてもらえるらしい。全部の班を回って実際に様子を見られるのは参考になりそうだしいいね。
ただ、戸田班は代々“流刑地”って呼ばれた変わり者や部の方針に反した人の流れ着く場所。そんなネガティブな性質を持っているから、つばめ先輩が言うように好き好んで1年生が入って来るとは考えにくい。
俺はつばめ先輩に誘われて、元いた班の班長にもポジティブに送り出してもらってここにいる。だけど、マリンは部長にケンカを売って元いた班を飛び出して今に至っている。放送部って、何かそういう身分とか階級制度みたいなしがらみが面倒らしいんだよね。
「ま、戸田班に1年が入るかどうかはゲンゴローにかかってるからね」
「ゲンゴローです?」
「そーだよ。初心者講習会でインターフェイスの連中と積極的に絡んでるような奴とか、コイツはイケそうだって奴を一本釣りして来るんだよ。ゲンゴローもアタシがそうやって一本釣りしてきたからね」
「そうだったです? ゲンゴローは何が良かったんです?」
「他校の男子連中と話してたんだよ。エージだのタカティだの」
「よく見る光景です」
「や、ウチの連中って基本教室の後ろの方で内輪だけで群れてんだよ。そうじゃない奴は脈あり判定を出していいって言える。戸田班の運命はアンタにかかってんだよ、ゲンゴロー!」
そう言ってつばめ先輩は俺の肩をパンッと勢いよく叩く。でも、実際そうなんだろうな。ただ、今年は班見学ツアーがあるってことは、6月にある初心者講習会までにみんな行きたい班が決まっちゃうんじゃないかって気がしないでもない。大丈夫かなあ。
「そう言えば、班ごとの特色って何かあるです? 戸田班と小林班以外は正直差別化が難しいです。あ、悪い意味で長門班も際立ってますけど」
「あーね。それを何とか説明すんのが監査サマの手腕じゃない? まあ白河なら無難に誤魔化すっしょ」
そうなんだよね。今年の監査は俺が元々いた鎌ヶ谷班でお世話になってたマロ先輩なんだ。どこの班の人に対しても分け隔てない接し方をするタイプなんだよね。監査になったって聞いた時はビックリしたけど、いろいろ話しやすそうではあるな。
「ま、何にせよアタシらはステージに向けてやってくだけだからね」
「台本の準備はしっかりしていくですよ!」
「えーと……俺は、人に声をかける勇気を身に付けたいですね」
「そーね。ステージに向けての人員確保、これはすっごい大事な仕事だからね」
end.
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ここからは星ヶ丘放送部の話なんかもちょこちょこやっていくことになるのかしら。戸田班の運命はゲンゴローにかかっている?
忘れがちだけどマリンは部長にケンカを売って柳井班を飛び出してきたんでしたね。行くところがつばちゃんの元しかなかったんですよ、たまたま
ツアーで1年は来ないだろうと思ってノー接待を決めたつばちゃん。果たして吉と出るか凶と出るかが見ものですね
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