2021
■リズムの平衡
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ゴールデンウィークが過ぎて、平常授業に戻って来た。先輩たちから聞いていた話では、この辺りから学内の人が少しずつ減って来るんだそうだ。4月には人が多くて歩きにくかった学内だけど、学食でもスムーズに食事が出来るようになるとかで。
それというのも、進級や入学で緊張感を持って大学に来ていたはずが、連休で遊びやバイトに呆ける形で生活リズムが狂ってしまうと緊張感の糸がプツッと切れる現象が起こるらしい。俺の隣の空席を見ても、そういうことなのかな、とうっすら察することは出来る。
木曜1限は必修科目の社会心理学Ⅰという授業なんだけど、授業が始まって30分経っているのにシノが来ていない。前々から朝が辛いという風には言っていたけど、それでも一応は眠そうなりにちゃんと来ていたと思うのだけど。
「いやー、1本乗り遅れたら見事に乗り継ぎがズレにズレてこのザマよ」
「必修科目だぞ。大丈夫かよ」
「見事に寝坊したよな」
「典型的な休みボケなんじゃないのか」
1限が終わり、2限が始まる前にシノと合流。曰く1限をすっ飛ばした理由は寝坊だという。シノは電車で1時間半かけて通学してきている。9時始まりの1限に間に合うように電車に乗ろうとしたら、7時には乗っていなければならない。
大学から原付で10分の所の住む俺は、8時起きでも余裕で間に合う。シノの話を聞いていると、住む場所によって時間の使い方は大きく変わって来るなということを痛感する。それに、電車通学には乗り継ぎの都合もあるし、いろいろ難しいんだなと思う。
「あー、マジで1人暮らししたい。大学の近くに住んでりゃ6時起きとかしなくてもいーじゃんな」
「それはそうだろうけど、元々向島エリア内に住んでるのに1人暮らしの必要性ってあるのかな。家賃とか光熱費とか、いろいろお金だってかかってくるだろうに」
「それはお前、浮いた通学時間で稼げばよくね? 俺の場合、単純計算で3時間ちょいは自由に使える時間が増えるんだぞ」
「確かに3時間はデカいな」
「だろっ? ちょっと、真面目に親に頼んでみるかなー」
1人暮らしのメリットの方をシノは取りたいようだけど、実家暮らしには実家暮らしのメリットもそれなりにあると思う。例えば、生活費のことだとか。大学生になってバイトも始めたことでスマホ代は自分で払うことになったけど、食費とかはあんまり出さないし。
1人暮らしをするということは、炊事洗濯に代表される一切の家事を自分でやらないといけないということだし、生活リズムや体調を整えることも自己責任だ。1人暮らしで堕落する大学生の話も知識としてはあるしサークルでも聞くから、その辺の怖さはやっぱり、ある。
「MBCCで1人暮らししてる人っつったらL先輩に高木先輩、ハナ先輩か」
「ハナ先輩は車だからともかく、高木先輩はそれらしい足もないのに星港市内に住んでるって話だろ。1人暮らしって言ったら大学の近くがメジャーな感じはするけど、どうして星港市内だったんだろ」
「言って足がなきゃこの辺で暮らすのってただただしんどくね? 買い物するにも一苦労じゃん」
「ああ、そういう。買い物の度にいちいち電車使うのも確かにめんどうだよな」
「山を切り開いただけの土地と端の方でも星港市内だったら圧倒的に星港市内の方が暮らしやすそうではある。ただ、遠い分授業に出る気力は削がれそうだな」
「そうだよ、授業にはちゃんと出ないと本末転倒だ。シノ、このゴールデンウイークで生活リズムが狂ったんじゃないか?」
「真面目にその可能性はある。多分バイトのせいだとはわかってる」
「どんな働き方してたんだ」
シノは地元のネットカフェでバイトを始めたらしい。シノが働いている店のいいところは雰囲気が緩いところや髪型や髪色に規則がないというところだという。で、休みになるとどうしても深夜客も増えて来るということで、夜のシフトに入ることも出て来たんだとか。
どうして寝坊してしまったのかはそれだけで大方察することが出来たけれど、休日深夜帯の時給は平日昼とは比べられないくらい良かったりするし、稼ぐにはいいんだよな。いや、俺は書店だから深夜もクソもないんだけど。精々土日祝日100円増しがいいところで。
「ふあ~ああ」
「眠いのはわかったけど、授業はちゃんと起きててくれよ」
「努力はする」
「今日が火曜日じゃなくてよかったな」
「何で?」
「火曜2限は佐藤先生のマスコミ論だろ。ゼミに入りたいのにその先生の授業で態度悪かったりして目を付けられても嫌だろ」
「うわっ、そうじゃん! あー、木曜日でよかったぁー!」
「木曜日だから手を抜いていいってワケでもないんだぞ」
「や、最後まで言うな。分かってる。大丈夫だ。起きてるし」
全然大丈夫じゃなさそうだけど、こんな調子で大丈夫だろうか。いや、まだ大学に来ているだけいいのかもしれない。来なくなる人はここでパタッと消息が途絶えるという話も聞いたことがある。……シノの発見が遅れなければいいが。
「明日のサークルで先輩たちにどうやったらこの山場を耐えられるか聞いてみよう」
「深夜バイトに入る数を減らせばいいんじゃないのか?」
「いや、金は欲しいだろ。学食で大盛りにだってしたいし」
「まあな。そしたら、果林先輩じゃないか? あの人、深夜帯にバイトするのが基本みたいだし」
「そうだなー。ササ、教室入る前自販行っていい? せめてもの抵抗としてコーラ買ってくわ」
「それがいい」
end.
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MBCCの1年生で休み明けに授業をドロップアウトしそうなのはシノだろうなと。ただ、その間でなんとか持ちこたえている段階。
この辺りで通学がしんどくなってきたシノが親御さんに1人暮らしを打診するのかな? そうなるとバイトの仕方がアレになるんだよなあ
おにぎり作りを始めたばかりで無骨な握り飯なんかの話も見て見たいですね。デカけりゃいいと思ってそうな感じのヤツをさ。
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ゴールデンウィークが過ぎて、平常授業に戻って来た。先輩たちから聞いていた話では、この辺りから学内の人が少しずつ減って来るんだそうだ。4月には人が多くて歩きにくかった学内だけど、学食でもスムーズに食事が出来るようになるとかで。
それというのも、進級や入学で緊張感を持って大学に来ていたはずが、連休で遊びやバイトに呆ける形で生活リズムが狂ってしまうと緊張感の糸がプツッと切れる現象が起こるらしい。俺の隣の空席を見ても、そういうことなのかな、とうっすら察することは出来る。
木曜1限は必修科目の社会心理学Ⅰという授業なんだけど、授業が始まって30分経っているのにシノが来ていない。前々から朝が辛いという風には言っていたけど、それでも一応は眠そうなりにちゃんと来ていたと思うのだけど。
「いやー、1本乗り遅れたら見事に乗り継ぎがズレにズレてこのザマよ」
「必修科目だぞ。大丈夫かよ」
「見事に寝坊したよな」
「典型的な休みボケなんじゃないのか」
1限が終わり、2限が始まる前にシノと合流。曰く1限をすっ飛ばした理由は寝坊だという。シノは電車で1時間半かけて通学してきている。9時始まりの1限に間に合うように電車に乗ろうとしたら、7時には乗っていなければならない。
大学から原付で10分の所の住む俺は、8時起きでも余裕で間に合う。シノの話を聞いていると、住む場所によって時間の使い方は大きく変わって来るなということを痛感する。それに、電車通学には乗り継ぎの都合もあるし、いろいろ難しいんだなと思う。
「あー、マジで1人暮らししたい。大学の近くに住んでりゃ6時起きとかしなくてもいーじゃんな」
「それはそうだろうけど、元々向島エリア内に住んでるのに1人暮らしの必要性ってあるのかな。家賃とか光熱費とか、いろいろお金だってかかってくるだろうに」
「それはお前、浮いた通学時間で稼げばよくね? 俺の場合、単純計算で3時間ちょいは自由に使える時間が増えるんだぞ」
「確かに3時間はデカいな」
「だろっ? ちょっと、真面目に親に頼んでみるかなー」
1人暮らしのメリットの方をシノは取りたいようだけど、実家暮らしには実家暮らしのメリットもそれなりにあると思う。例えば、生活費のことだとか。大学生になってバイトも始めたことでスマホ代は自分で払うことになったけど、食費とかはあんまり出さないし。
1人暮らしをするということは、炊事洗濯に代表される一切の家事を自分でやらないといけないということだし、生活リズムや体調を整えることも自己責任だ。1人暮らしで堕落する大学生の話も知識としてはあるしサークルでも聞くから、その辺の怖さはやっぱり、ある。
「MBCCで1人暮らししてる人っつったらL先輩に高木先輩、ハナ先輩か」
「ハナ先輩は車だからともかく、高木先輩はそれらしい足もないのに星港市内に住んでるって話だろ。1人暮らしって言ったら大学の近くがメジャーな感じはするけど、どうして星港市内だったんだろ」
「言って足がなきゃこの辺で暮らすのってただただしんどくね? 買い物するにも一苦労じゃん」
「ああ、そういう。買い物の度にいちいち電車使うのも確かにめんどうだよな」
「山を切り開いただけの土地と端の方でも星港市内だったら圧倒的に星港市内の方が暮らしやすそうではある。ただ、遠い分授業に出る気力は削がれそうだな」
「そうだよ、授業にはちゃんと出ないと本末転倒だ。シノ、このゴールデンウイークで生活リズムが狂ったんじゃないか?」
「真面目にその可能性はある。多分バイトのせいだとはわかってる」
「どんな働き方してたんだ」
シノは地元のネットカフェでバイトを始めたらしい。シノが働いている店のいいところは雰囲気が緩いところや髪型や髪色に規則がないというところだという。で、休みになるとどうしても深夜客も増えて来るということで、夜のシフトに入ることも出て来たんだとか。
どうして寝坊してしまったのかはそれだけで大方察することが出来たけれど、休日深夜帯の時給は平日昼とは比べられないくらい良かったりするし、稼ぐにはいいんだよな。いや、俺は書店だから深夜もクソもないんだけど。精々土日祝日100円増しがいいところで。
「ふあ~ああ」
「眠いのはわかったけど、授業はちゃんと起きててくれよ」
「努力はする」
「今日が火曜日じゃなくてよかったな」
「何で?」
「火曜2限は佐藤先生のマスコミ論だろ。ゼミに入りたいのにその先生の授業で態度悪かったりして目を付けられても嫌だろ」
「うわっ、そうじゃん! あー、木曜日でよかったぁー!」
「木曜日だから手を抜いていいってワケでもないんだぞ」
「や、最後まで言うな。分かってる。大丈夫だ。起きてるし」
全然大丈夫じゃなさそうだけど、こんな調子で大丈夫だろうか。いや、まだ大学に来ているだけいいのかもしれない。来なくなる人はここでパタッと消息が途絶えるという話も聞いたことがある。……シノの発見が遅れなければいいが。
「明日のサークルで先輩たちにどうやったらこの山場を耐えられるか聞いてみよう」
「深夜バイトに入る数を減らせばいいんじゃないのか?」
「いや、金は欲しいだろ。学食で大盛りにだってしたいし」
「まあな。そしたら、果林先輩じゃないか? あの人、深夜帯にバイトするのが基本みたいだし」
「そうだなー。ササ、教室入る前自販行っていい? せめてもの抵抗としてコーラ買ってくわ」
「それがいい」
end.
++++
MBCCの1年生で休み明けに授業をドロップアウトしそうなのはシノだろうなと。ただ、その間でなんとか持ちこたえている段階。
この辺りで通学がしんどくなってきたシノが親御さんに1人暮らしを打診するのかな? そうなるとバイトの仕方がアレになるんだよなあ
おにぎり作りを始めたばかりで無骨な握り飯なんかの話も見て見たいですね。デカけりゃいいと思ってそうな感じのヤツをさ。
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