2021

■早食いと細かな食レポ

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「……何だこれ。めっちゃ美味そー…!」
「タケノコの味噌汁もあるよ」
「いいなあ、タケノコか。いただきます」

 大石の夕飯にお呼ばれして、照り焼きチキン丼とタケノコの味噌汁をいただく。一応、俺とコイツはほんの少し前までは結構な喧嘩をしてたはずなんだけど、それが解決して最初にやることがサシメシだ。
 さすが、大石は小5とかから自炊してただけあって料理のスキルが物凄く高い。鶏のもも肉を照り焼きにした物を米の上に盛り付けて、薬味だとかマヨネーズだとかをかけた上に温泉玉子。はいきたこれ間違いない。完璧だ。

「それじゃ、いただきまーす」
「いただきます。……あちっ」
「朝霞大丈夫? 水あるよ」
「もらう」

 ほんの何十分か前までしていた喧嘩というのが、何て言ったらいいんだろうな。大まかに言ってしまえば、人の気持ちというのは難しいという、それに尽きる。俺とコイツは考え方が正反対。だからこそ相手に感心することもあるけど理解出来ないところは全く出来ない。その理解の出来なさから反発し合った結果の2週間ほどだった。
 お互い勢いだけで言いたいことをぶちまけて、頭を冷やしてちゃんと話し合って、至る今だ。人のことばかり考えて自分の言いたいことも言えなかった大石が、少しずつ自分の気持ちというものを表に出す努力を始めるという。俺も、自分がガンガン進むだけだったのを、人の気持ちを慮らなければなと考えていた。
 で、そういう話が終わって最初に大石が“言いたかったこと”が「夕飯を作ってる最中だった。お腹空いた」と。確かにそんな時間に来た俺も俺ではあったんだけども、確実にいるって分かってる時間帯が今だったんだ、仕方ない。アポ取ると気まずさから逃げられるかもって思ったし。

「どう? 俺の味付けだから濃い目かもしれないけど」
「や、美味いぞ」
「良かったー。やっぱり丼って美味しいよね」

 コイツは何でもかんでも丼にしたがる癖がある。焼肉丼とか、麻婆丼とか、飯の上に乗せられる物は飯の上に乗せて、それをかき込んで食う。絶対に噛んでないだろって言いたくなるレベルで流し込んでるんだよな。絶対ただ飲んでるだけじゃねーかと。

「前々から思ってたけど、朝霞って一口小さくて長いよね。食べてる間にご飯冷めない?」
「俺は猫舌だから温いくらいの方が食いやすい」
「あそっか」
「いや、料理は出された時の温度が一番美味いんだろうとは思ってるぞ。つか、あんま口に物詰め込み過ぎたら噛めないだろ。ただもごもごするだけで味もよくわからないし。お前こそちゃんと噛んで食ってるのか。飲んでるだろどう見ても」
「噛んでるよ。って言うか兄さんからも言われるよ、そのうち喉を詰まらせるんじゃないかって」
「ベティさんにも心配かけてんじゃねーか。もうちょっと味わって食え。せっかく美味い飯が作れるんだ」
「美味しく作れても、1人で食べるのは味気ないものだよ。だからサッと食べてサッと片付けて、終わらせる。そういう風に習慣づいてるんだよね」
「1人で食うのが味気ないってのは、わからないでもない」
「たまにさ、あずさがおかずを持って来てくれてたんだよね。あずさのお母さんがさ、俺がまだ作れないような物……揚げ物とかを作ってくれてさ。やっぱり、一緒に食べる方が美味しかったんだよね」
「そのうち自分でお前に差し入れるおかずを作るようになったっつってたな」

 伏見は大石に差し入れるおかずを作る中で料理の腕を上げていったという話は本人からも聞いた。自分が食うと言うよりも人のために料理を覚えて、今でもそんな感じで俺にもいろいろ作ってくれているなと思う。伏見によれば、俺は食ったものの感想をちゃんと言ってくれるから作り甲斐があるらしい。
 大石は本当にちゃんと味わって食ってるのかっていう食い方だから、美味しいかと聞いても美味しいよとしか返ってこない。その代わり、飯を食ってる時の表情で自分がそれを読み取らなければならないそうだ。料理の技法についての話はよくしているらしい。ただ、食った物に対する細かい話はしない、と。

「ねえ朝霞」
「ん?」
「例えばだけど、この照り焼きチキン丼がさ、どんな風に美味しいかって言える?」
「あー……そうだな。まず、見た目に美味い。照り焼きの照りに、温泉卵の白、それから薬味の緑が食欲をそそる。それから、チキンが柔らかくてジューシーだ。皮も硬くないし食いやすい。何より照り焼きのタレが、甘くどさの中にほんのちょっとショウガと一味唐辛子が入ってんのかな、ピリッとしていい。米も丼に合う固さだし。味噌汁がついてんのがまたいい。……ザッとこんな感じだ」
「あー……確かに嬉しいかもしれない」
「伏見から何か聞いたのか?」
「うん。朝霞は料理にしても脚本にしても感想が細かくて本当に参考になるって。朝霞はいろいろ考えながら五感を働かせてるんだね」
「無意識だけど、考えてるのかもしれない」
「俺はさ、美味しい物は美味しいなーとしか思えないと言うか、文章で感想を言えないんだよね」
「だから向舞祭の食レポも美味しいですばっかりだったんだな」
「もー、それはいいじゃない! 朝霞まで~。兄さんと塩見さんにどれだけイジられてると思ってるの!」
「ベティさんはともかく、塩見さんってそういうイジり方する人なんだな」

 おっと、大石の地雷を踏んじまったか。だけどこれくらいだったらすぐにゴメンなって謝って、少しずつ食レポも練習しろよと返すことが出来る。改めて始まった友達としての付き合いがどんな風になっていくかはまだわからないけど、今までよりも軽いケンカはしやすくなったし、謝りやすくもなったんだろうな。うん、そうやってぶつかっていくのが俺のやり方だ。


end.


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今年は全然触れてなかったけど朝霞Pとちーちゃんの喧嘩はしれっと終わってご飯食べ始めました。ちーちゃんと言えば丼。照り焼きチキン丼。
ちーちゃんはなかなか料理が上手で美味しく作れるけど、1人で食べるのが味気ないので一気に食べて終わっちゃう。人と食べてても早いけど。
そういや朝霞Pって自炊するのかな。あんまりイメージにないけど。多分あんまりしないし出来なさそう。だからお店に食べに行くのよね。

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