2021
■深夜テンションまたは素か
++++
「……実苑、それを持ってはしゃぐのはやめろし」
「えー。だって、もうすぐ実物が見られると思ったらワクワクするじゃないですか唯香さん! 買い出しの人たち、早く帰って来ないかなー」
いよいよ文化会発表会の当日。とは言っても今はまだ深夜帯。授業が終わってから前日夜にかけては発表会に向けて会場の準備をすることになっている。文化会の部活の偉い人やら巻き込まれた人やらが集まって、展示や機材の調整をしている。
アタシは美術部の展示をして、自分の作品もベタベタと壁やら床やらに貼ってたんだけど、実苑が例によってはしゃいでいる。発表会の準備が初めてで、いろんな人に話しかけに行って積極的に手伝ってるんだけど、物好きだなあと思う。
「ほら、周りの人も引いてるし!」
「ではこれは机の上に置いておくことにしましょう」
「だから、見えるところに置くなし!」
実苑が遊びで作ったハンバーガータワーの模型はかなり精巧な作りだ。元々造形をメインに活動してる人なんだけど、作品作りの息抜きに別の模型を作るっていう感じで作ったそれを見つけた人間はみんなビビったよね。
ハンバーガータワーというのは、この文化会発表会の前日準備で見られる光景だ。夜食の差し入れとして用意される100個からのハンバーガーが山のように積まれた物。たまにチーズバーガーが混ざっているけど、発表会の風物詩のような物だ。
この発表会に向けて一生懸命動いている文化会の偉い人ってのは既に徹夜状態になってるのが普通で、かなり変なテンションだ。その人らがノリで素ハンバーガーを大量に買い込んで来る。巻き込まれてる一般の部員にしても縁起でもないタワーだなーって感じで。
「あ。唯香さんの写真をまじまじと見ている人がいますよ」
「やることなくてヒマなんでしょ。アタシも去年は雰囲気を掴むためーとか何とか言って連れて来られたけど実際何もすることなくてヒマだったし」
「こういう展示に興味があるのか聞きに行きましょう」
「だからそれを持って行くなし」
「あのーすみませーん」
実苑は人に話しかけに行くことを恐れないから、その辺にいる人にすぐ絡みに行く性質がある。ゼミで知り合った鵠沼にしろ高木にしろバイト先やら入学式やらで実苑から話しかけられて友達になってたらしいし。
アタシがフロア一帯に展示した写真を見ていたやたらデカイ男に実苑は話しかけている。どこの部活の人ですかーとか何年生ですかーとか。その写真があーだこーだと目の前にある物から話を広げているようだ。
「唯香さん唯香さん、この子は自然科学研究会の1年生で、相倉亮真くんというようです。唯香さんの猫の写真に食い付いていますよ。亮真くん、この人がここ一帯に展示された写真の撮影者で、安曇野唯香さんです」
「相倉です」
「安曇野です」
沈黙。壁と床は写真でやかましいのに、音がない。
「……実苑、間が持たない。何とかしろし」
「自然科学研究会はどんな展示をするんですか?」
「1年間の活動のスライドショーを作っていたみたいです」
「内輪のアルバムを一方的に見せられて眠くなるヤツだし」
「唯香さん! でも、暗幕を引くのでよほどインパクトがなければ、発表順によっては確かに眠くなってしまうでしょうね」
「せっかくキャンプとか流行ってんだからさ、そーゆーのを実演で見せてけばいいんじゃないの? 思い出の写真ばっかり見せられても」
「ですが、楽しそうに活動しているとサークルや部活を探している1年生にアピールしていく必要がありますから。部活ごとの方針もありますし」
「ってか文化会発表会に来る1年なんか既にどっかの部活に入ってる連中っしょ?」
――などとアタシと実苑がやんやと横槍を挟むのを、1年は黙って聞いている。この発表会の準備に巻き込まれたクチなのか、自分の部活がディスられていると解釈して不機嫌なのか、はたまた元々口数が少ないのか。まあ何でもいいわ。今後そう絡まないだろうし。
「浦和さんの持っている、それは?」
「ああ、これですか? これはですね、この文化会発表会の風物詩と言われるハンバーガータワーのミニチュア模型ですよ! これを作るために2日間はハンバーガーを主食にしていましたから、思い入れの強い物なんです。いよいよ実物がお目見えするということで興奮が隠しきれないんですよ」
「あー……何でそれに触れたし。無知な1年故の過ちか」
エレベーターが動いたのを察知して、少し場所を変える。ガコンと扉が開くと、縁起でもない紙袋を提げた偉い人たちがお目見えする。それに目をキラキラと輝かせるのは実苑。とうとう実物を拝めるというワケで。それを積んでからじゃないと招集はかからないからね。
2人とも行きましょうと実苑はアタシらを401教室へと引き摺る。普段は授業を受ける机の上に、偉い人らがピラミッドのようにハンバーガーを積み上げていく。それに気付いた人らも夜食が来たのを察したのか、ざわざわし出した。
「これが本物ですか!」
「そう考えると、かなり精巧な模型ですね」
「部室には断面図バージョンもありますよ」
「断面図…?」
「ハンバーガーの肉や野菜といった具の再現がとても楽しくてですね。あっ、ちょっと取ってきますよ! せっかくだから見てください!」
そう言って実苑は持っていた模型を1年に預けて部室へと駆けて行った。実苑が息抜きで作った無数の模型の中において、ハンバーガー関係の物はよほどお気に入りなのかきちんと飾られているし、探す時間もそうかからないはずだ。
「アンタ、今のうちにハンバーガー取って来たら?」
「そうですね。浦和さんの分はどうしますか?」
「1コあれば十分だし」
end.
++++
公式+1年枠佐藤ゼミ生から現世への出現率という意味で一歩リードしている亮真。今度は文化会発表会です。展示を見てたのはきっとヒマだったんだろうな。
多分ミソノって普段ハンバーガー的なジャンクな物はあまり食べないと思うのよね。1人暮らしだけど、鵠さんと同じく学食のまかないが夕飯のメインっぽそう。
あずみんと亮真はワンチャン+1年の時間軸でも絡みが出てくるかもしれないね。安曇野姐さん的なポジションでさ。
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「……実苑、それを持ってはしゃぐのはやめろし」
「えー。だって、もうすぐ実物が見られると思ったらワクワクするじゃないですか唯香さん! 買い出しの人たち、早く帰って来ないかなー」
いよいよ文化会発表会の当日。とは言っても今はまだ深夜帯。授業が終わってから前日夜にかけては発表会に向けて会場の準備をすることになっている。文化会の部活の偉い人やら巻き込まれた人やらが集まって、展示や機材の調整をしている。
アタシは美術部の展示をして、自分の作品もベタベタと壁やら床やらに貼ってたんだけど、実苑が例によってはしゃいでいる。発表会の準備が初めてで、いろんな人に話しかけに行って積極的に手伝ってるんだけど、物好きだなあと思う。
「ほら、周りの人も引いてるし!」
「ではこれは机の上に置いておくことにしましょう」
「だから、見えるところに置くなし!」
実苑が遊びで作ったハンバーガータワーの模型はかなり精巧な作りだ。元々造形をメインに活動してる人なんだけど、作品作りの息抜きに別の模型を作るっていう感じで作ったそれを見つけた人間はみんなビビったよね。
ハンバーガータワーというのは、この文化会発表会の前日準備で見られる光景だ。夜食の差し入れとして用意される100個からのハンバーガーが山のように積まれた物。たまにチーズバーガーが混ざっているけど、発表会の風物詩のような物だ。
この発表会に向けて一生懸命動いている文化会の偉い人ってのは既に徹夜状態になってるのが普通で、かなり変なテンションだ。その人らがノリで素ハンバーガーを大量に買い込んで来る。巻き込まれてる一般の部員にしても縁起でもないタワーだなーって感じで。
「あ。唯香さんの写真をまじまじと見ている人がいますよ」
「やることなくてヒマなんでしょ。アタシも去年は雰囲気を掴むためーとか何とか言って連れて来られたけど実際何もすることなくてヒマだったし」
「こういう展示に興味があるのか聞きに行きましょう」
「だからそれを持って行くなし」
「あのーすみませーん」
実苑は人に話しかけに行くことを恐れないから、その辺にいる人にすぐ絡みに行く性質がある。ゼミで知り合った鵠沼にしろ高木にしろバイト先やら入学式やらで実苑から話しかけられて友達になってたらしいし。
アタシがフロア一帯に展示した写真を見ていたやたらデカイ男に実苑は話しかけている。どこの部活の人ですかーとか何年生ですかーとか。その写真があーだこーだと目の前にある物から話を広げているようだ。
「唯香さん唯香さん、この子は自然科学研究会の1年生で、相倉亮真くんというようです。唯香さんの猫の写真に食い付いていますよ。亮真くん、この人がここ一帯に展示された写真の撮影者で、安曇野唯香さんです」
「相倉です」
「安曇野です」
沈黙。壁と床は写真でやかましいのに、音がない。
「……実苑、間が持たない。何とかしろし」
「自然科学研究会はどんな展示をするんですか?」
「1年間の活動のスライドショーを作っていたみたいです」
「内輪のアルバムを一方的に見せられて眠くなるヤツだし」
「唯香さん! でも、暗幕を引くのでよほどインパクトがなければ、発表順によっては確かに眠くなってしまうでしょうね」
「せっかくキャンプとか流行ってんだからさ、そーゆーのを実演で見せてけばいいんじゃないの? 思い出の写真ばっかり見せられても」
「ですが、楽しそうに活動しているとサークルや部活を探している1年生にアピールしていく必要がありますから。部活ごとの方針もありますし」
「ってか文化会発表会に来る1年なんか既にどっかの部活に入ってる連中っしょ?」
――などとアタシと実苑がやんやと横槍を挟むのを、1年は黙って聞いている。この発表会の準備に巻き込まれたクチなのか、自分の部活がディスられていると解釈して不機嫌なのか、はたまた元々口数が少ないのか。まあ何でもいいわ。今後そう絡まないだろうし。
「浦和さんの持っている、それは?」
「ああ、これですか? これはですね、この文化会発表会の風物詩と言われるハンバーガータワーのミニチュア模型ですよ! これを作るために2日間はハンバーガーを主食にしていましたから、思い入れの強い物なんです。いよいよ実物がお目見えするということで興奮が隠しきれないんですよ」
「あー……何でそれに触れたし。無知な1年故の過ちか」
エレベーターが動いたのを察知して、少し場所を変える。ガコンと扉が開くと、縁起でもない紙袋を提げた偉い人たちがお目見えする。それに目をキラキラと輝かせるのは実苑。とうとう実物を拝めるというワケで。それを積んでからじゃないと招集はかからないからね。
2人とも行きましょうと実苑はアタシらを401教室へと引き摺る。普段は授業を受ける机の上に、偉い人らがピラミッドのようにハンバーガーを積み上げていく。それに気付いた人らも夜食が来たのを察したのか、ざわざわし出した。
「これが本物ですか!」
「そう考えると、かなり精巧な模型ですね」
「部室には断面図バージョンもありますよ」
「断面図…?」
「ハンバーガーの肉や野菜といった具の再現がとても楽しくてですね。あっ、ちょっと取ってきますよ! せっかくだから見てください!」
そう言って実苑は持っていた模型を1年に預けて部室へと駆けて行った。実苑が息抜きで作った無数の模型の中において、ハンバーガー関係の物はよほどお気に入りなのかきちんと飾られているし、探す時間もそうかからないはずだ。
「アンタ、今のうちにハンバーガー取って来たら?」
「そうですね。浦和さんの分はどうしますか?」
「1コあれば十分だし」
end.
++++
公式+1年枠佐藤ゼミ生から現世への出現率という意味で一歩リードしている亮真。今度は文化会発表会です。展示を見てたのはきっとヒマだったんだろうな。
多分ミソノって普段ハンバーガー的なジャンクな物はあまり食べないと思うのよね。1人暮らしだけど、鵠さんと同じく学食のまかないが夕飯のメインっぽそう。
あずみんと亮真はワンチャン+1年の時間軸でも絡みが出てくるかもしれないね。安曇野姐さん的なポジションでさ。
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