2021

■隅っこの角を取る

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「こんにちはー。見学したいんですけど、今日って大丈夫ですか?」
「はーい。1年生の子かな。そしたらこっちに座ってもらって」

 やっぱり、4月の間はまだまだ見学の子が来るような感じかな。今日来たのは、明るくて人当たりが良さそうな男の子だ。見学に来た子を迎えるのももう慣れたもの。流れ作業みたくもなっちゃってるよね。
 今いる1年生たちもサークルの空気に慣れて来て、こういう件を何回かやってる間に見学に来る子に対しても歓迎ムードを出すようになってたよね。特にシノとくるみが率先してお出迎えしてるような感じで。

「えっと、学部と名前をいいかな?」
「文学部の菅谷徹平です」
「文学部の、菅谷徹平くんね」
「文学部!? 文学少年だったらササと話合うんじゃね! あっ、俺は社学の篠木智也、シノっていうんだけど。ササはコイツな! コイツは読書好きの文学少年なんだよ」
「君がシノな。で、そっちが、ササ?」
「佐々木陸です」
「よろしく。でも、俺は文学少年ってワケじゃないんだ」
「文学部なのに?」
「俺がやってるのは考古学とか文化財学っていって、文学部のよくあるイメージみたく文学とか言語とか、そういうのじゃないんだ。発掘メインでさ」
「へー」
「そしたら文学部っつっても歴文か」
「あっ、そうです!」
「俺は日文科の中津川栄治っていう。2年な」
「エイジ、歴文って?」
「歴史文化学科の略な。社学でもあるべ、そういう略称みたいなの」

 やっぱり同じ学部の人がいると話がちょっと弾む感じがあるよなあ。今来た菅谷くんは文学部ということで、同じく文学部のエイジが掴みの話をしてくれている。でも、学科によって本当に全然やってることが違うんだね。

「それで菅谷くんはどうやってMBCCに辿り着いたのかな」
「最初は考古学研究会に顔出してたんですけど、何か違うなって思ってからはもらったビラの中からサークル巡りをしてたんです。バドサーとか自然科学研究会とか天文部とかいろいろ見て、今日はラジオ行ってみようかなー的な?」
「的な。ところで、バドミントンと天文部はイメージでわかるんだけど、自然科学研究会って何やってるトコなの?」
「キャンプとか釣りとか……アウトドア部って感じっすね」
「へー、そういう部活もあるんだね」

 話を聞いていると、くるみ以上にいろいろなことに興味がありそうな子だなっていう感じ。結構アクティブな感じなのかな。そういう子がMBCCに辿り着いたっていうのも不思議な感じがするけど、せっかくの見学なのできちんと対応してあげなきゃね。

「ラジオには馴染みがあるの?」
「車運転してる時に聞くんすよ」
「へえ、車に乗ってるんだ」
「で、自分でもやれるなら面白いかもなーと思って」

 ――というワケで、実際こんな感じでやってますよという見本番組とも言えない触りだけのオープニングトークをエイジと一緒に見せてあげる。すると菅谷くんはすげーすげーと楽しそうにしている。きっとどこのサークルでも楽しさを見出してるんだとは思うけど。
 シノとくるみは菅谷くんを囲んで楽しそうに話をしているし、ササとレナもその話を微笑ましく聞いているような感じ。一方、それに関心があるのかないのか、サキはいつもの指定席でいつものようにちまっと収まって昔のノートを読み耽っているんだ。

「それ、何読んでるんすか?」
「……俺に聞いてる?」
「やたら古そうなノートだし、気になって」
「昔の議事録」
「いつぐらい前の?」
「……せっかくの見学でしょ、俺のことにはお構いなく」
「すがやん、サキは基本口数少ないし、こういう感じでずーっとノートばっかり読んでるんだよ」
「俺は全然わかんねーんだけど、サキにはこれが楽しいんだと。で、ひたすらノートを遡ってんだよ」

 シノとくるみが暗に話を戻そうとするんだけど、それでも菅谷くんはジッとサキの方を見ている。で、何をしたかと思えば、サキの横のイスに腰掛けて、何を発するでもなく彼の隣にいるだけ。これにはさすがのサキも驚いた様子で彼に目をやる。

「ここ、いいポジションだなー」
「サキの指定席が? いいポジション?」
「ノートを読みながらでもみんなの様子がちゃんと見えるんだよ。それに、スピーカーからの距離も近過ぎず遠すぎないから音もちょうどいい感じだ」
「えー! サキ、そんなこと考えてそこに座ってたのー!?」
「いや」
「過去の文献読むの、楽しいよな。どうやって今に至ったかを知ったり、これからどうなるかを想像したり」
「……文献調査って、考古学って言うより史学寄りの領域でしょ」
「サキだっけ。わかってんじゃん」
「……そっちこそ。まあ、話の分かる人ではあるんじゃない。菅谷君。すがやんでいいの?」
「すげー……サキがめっちゃ喋ってる」
「すがやんすごーい! って言うか、あたしたちにも喋ってよサキ! あたしたちがバカだから話してくれてないみたいなことー!?」
「や、別に」

 サキによれば、菅谷くんが言ったように普段はノートを読みながらみんなの様子を見ているだけで十分楽しいから自分が喋る必要性を感じていないらしい。その気持ちは物凄くわかるなあ。俺もそんな感じだもんね。

「先輩、俺このサークルに入ります」
「えっ、まだサークル巡りしてるところなんでしょ? 決めちゃって大丈夫?」
「はい。番組やるのも面白そうだし、いろんなタイプの人と友達になれそうだし。あだ名まで付けてもらっちゃったからには」
「よっしゃ! すがやんよろしくな!」
「すがやんよろしくー!」
「そういうことなんで皆さんよろしくお願いします。サキ、よろしくな」
「……まあ、よろしく」


end.


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これでMBCC1年生6人が揃いました。すがやんはいろいろ回ってそうだなって思ったんですよね。亮真のいる実質アウトドア部も見に行ってたのね。
サキは最初にササキトリオになってたくらいだから早い段階でいたけど、同期たちと喋ることは少なかった様子。無口キャラだったのかしら。
ここからすがくるサキがどんな風に仲良くなっていったのかしら。すがサキはともかくくるちゃんよ。そこはノリかな?

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