2021
■破壊の美を越える物
++++
「どうしましょう唯香さん、掃除が終わらないんですが」
「アタシが知ったことじゃないし。アンタが散らかしたんだからアンタが片付けるのが筋だし」
緑ヶ丘大学では、春の大連休の頃に文化会発表会という行事が開かれる。緑ヶ丘大学にある文化部がみんなで協力して、部活の活動成果を発表するっていう会なんだけど、それは大々的に行われる合同新歓行事っていう感じで、1年生を引き込むという目的もある。
発表会が近付いて来ると曜日も時間も関係なくサークル棟には誰かしらが籠もって作業をするっていう感じになっている。アタシの所属する美術部もそうなんだけど、ちょっと見ない間に部屋がとにかく汚くなっていて、足の踏み場もなくなってた。
その原因は、立体の造形作品を得意とする浦和実苑。コイツが作った物をそこたらじゅうに散らかしたまんま放置してるから。なんなら遊びで作った物だけじゃなくて本命の作品までその辺に転がしてるから、踏んで壊すのも時間の問題っていうね。
「とりあえずこのハンバーガータワーは捨てていいっしょ、縁起でもない」
「これはダメです! これを作るためにしばらく主食がハンバーガーになったんです。他の作品と比べても苦労が大きかったんですからこれは捨てられません」
「じゃあ見えないトコにやっといてくれる? それが視界に入るとげんなりするし」
「ええ……力作なのですが」
「力作だから精神に影響を与えんだよ」
実苑が大事そうに抱えているのはハンバーガーを積み重ねてピラミッド状にした模型だ。文化会発表会の経験者になるとこの模型がとんでもなく恐ろしく見える。だけど、実苑はこれの実物をまだ見たことがないからこんなに大事そうに出来るんだ。
「とりあえずさ、本命の作品は安全なトコにやんなよ。踏まないトコにさ」
「そうですね、そうしましょうか。えーっと、どこにありましたっけ」
「行方不明になる前にやるんだよ本来はそれを」
絵描きが仕事の息抜きに別の落書きを始めるみたいな感覚で、実苑も本命の作品制作の合間に簡単な物を作っていたらしい。その息抜きの作品のクオリティもえげつないし、量も結構なことになってたから足の踏み場がなくなった。
なんなら展示する本命の作品を作り終わってからも遊びでいろいろ作ってたから、最初の方に出来てたそれが息抜きの模型の下に埋もれちゃったっていうね。遊ぶなら展示する物を囲ってからにしろって去年の学祭の時も言われてなかったかコイツ。
「こんなとき、唯香さんのように僕もパソコンの上で完結すれば片付けも楽だったんでしょうか」
「ファイルの片付けもそれはそれで大変だし。ナメんなし」
「そう言えば、唯香さんは撮った写真をどのように管理しているのですか?」
「日付とかで結構細かくフォルダ分けしてるし、加工の仕方でファイル名変えてパッと見でわかるようにはしてる。ワケわかんなくなるじゃん、加工したのが増えると」
「そうですよね。デジタルのいいところであり、面倒なところでもありますよね」
「加工はいくらでもやり直しが利くから終わりがないと言えばないし。昔みたくフィルムの上限があるでもないからどんだけでも撮れちゃうし」
「僕の作品は一発勝負ですからね。なかなかヒリヒリしますよ。些細な手先の狂いが見た目に大きく影響しますからね」
「アンタの器用さはマジで凄いと思うわ」
「僕は作った作品を展示が終わった時点で破壊するのがこの上なく楽しいと思うんですよ。むしろ、破壊するために作っていると言っても過言ではありませんね」
実苑によれば、壊すところまでが作品制作の過程なのだという。壊しようによっては元の形を成していた時よりもはるかにいい作品になるとか。アタシにはあんまりよくわからない感性だけど、確かに学祭の後にも作った物を楽しそうにぶっ壊してたなと。
一応、作った物は写真として残しているし、壊した後の破片をひとつ保存しているからそれでいいらしい。今、床を埋め尽くしている息抜きの模型たちもそのうち破片にされてしまうんだけども、破壊活動は発表会が終わってからだと決めているそうだ。場所がない。
「そのハンバーガーは今すぐにでも壊してもらっていいんだけどね」
「ああ、これは壊しませんよ」
「は!? 破壊までがアンタのアートなんじゃないの!?」
「これはこのままの形で残したいと強く思っているので。たまにあるんですよ、壊さずにとってある物が。これもその仲間入りを果たしますよ」
「よりによってそれがかよ」
「上手く出来ましたからね。会心の出来ですよ」
緑大文化会からすれば、ハンバーガーは春の季語だ。深夜の401教室に積み上げられる無数のハンバーガー、それが夜食のタワーとなって発表会の準備をする連中に襲い掛かる。何の変哲もなく一番安いハンバーガーの中に、たまに混ざるチーズバーガー。ああ恐ろしい。
「あ、展示用の作品が見つかりました」
「っていうか、展示用の作品が行方不明になったことに対する焦りとか不安とかはなかったのか」
「この部屋から出してないので、そのうち出て来るだろうと」
「で? 壊れたりしてなかった?」
「無事ですね。むしろ、埋もれていたおかげで綺麗な状態を保っているようにも見えますね」
「絶対気の所為だし」
「今度はこの台の上に乗せて布をかぶせておきますので。踏まないでくださいね」
「それはいいんだけど、あと10日ほど、ちゃんと自分で管理してよね」
「任せてくださいよ。定位置を決めましたからね! これで完璧ですよ。あと10日で息抜きの作品が増えてもこれですぐに掘り出せます」
「まだ息抜きを増やす気だったか」
end.
++++
春の文化部をいくつか。去年は結局春以外触れられなかった文化部だけど、今年はせめて学祭の季節くらいに軽く触れたいなあ。
ミソノは破壊までが作品制作の一貫らしい。そういやチョコレートを削り出して像を作ってた話もフェーズ1であった。あれも壊して美味しくいただいたんだろうなあ
ゼミでは尖ってるあずみんもミソノと絡むと良心になってしまうので、部でも尖ったあずみんをぜひやりたいものである。リン様現象なんだよこれが
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「どうしましょう唯香さん、掃除が終わらないんですが」
「アタシが知ったことじゃないし。アンタが散らかしたんだからアンタが片付けるのが筋だし」
緑ヶ丘大学では、春の大連休の頃に文化会発表会という行事が開かれる。緑ヶ丘大学にある文化部がみんなで協力して、部活の活動成果を発表するっていう会なんだけど、それは大々的に行われる合同新歓行事っていう感じで、1年生を引き込むという目的もある。
発表会が近付いて来ると曜日も時間も関係なくサークル棟には誰かしらが籠もって作業をするっていう感じになっている。アタシの所属する美術部もそうなんだけど、ちょっと見ない間に部屋がとにかく汚くなっていて、足の踏み場もなくなってた。
その原因は、立体の造形作品を得意とする浦和実苑。コイツが作った物をそこたらじゅうに散らかしたまんま放置してるから。なんなら遊びで作った物だけじゃなくて本命の作品までその辺に転がしてるから、踏んで壊すのも時間の問題っていうね。
「とりあえずこのハンバーガータワーは捨てていいっしょ、縁起でもない」
「これはダメです! これを作るためにしばらく主食がハンバーガーになったんです。他の作品と比べても苦労が大きかったんですからこれは捨てられません」
「じゃあ見えないトコにやっといてくれる? それが視界に入るとげんなりするし」
「ええ……力作なのですが」
「力作だから精神に影響を与えんだよ」
実苑が大事そうに抱えているのはハンバーガーを積み重ねてピラミッド状にした模型だ。文化会発表会の経験者になるとこの模型がとんでもなく恐ろしく見える。だけど、実苑はこれの実物をまだ見たことがないからこんなに大事そうに出来るんだ。
「とりあえずさ、本命の作品は安全なトコにやんなよ。踏まないトコにさ」
「そうですね、そうしましょうか。えーっと、どこにありましたっけ」
「行方不明になる前にやるんだよ本来はそれを」
絵描きが仕事の息抜きに別の落書きを始めるみたいな感覚で、実苑も本命の作品制作の合間に簡単な物を作っていたらしい。その息抜きの作品のクオリティもえげつないし、量も結構なことになってたから足の踏み場がなくなった。
なんなら展示する本命の作品を作り終わってからも遊びでいろいろ作ってたから、最初の方に出来てたそれが息抜きの模型の下に埋もれちゃったっていうね。遊ぶなら展示する物を囲ってからにしろって去年の学祭の時も言われてなかったかコイツ。
「こんなとき、唯香さんのように僕もパソコンの上で完結すれば片付けも楽だったんでしょうか」
「ファイルの片付けもそれはそれで大変だし。ナメんなし」
「そう言えば、唯香さんは撮った写真をどのように管理しているのですか?」
「日付とかで結構細かくフォルダ分けしてるし、加工の仕方でファイル名変えてパッと見でわかるようにはしてる。ワケわかんなくなるじゃん、加工したのが増えると」
「そうですよね。デジタルのいいところであり、面倒なところでもありますよね」
「加工はいくらでもやり直しが利くから終わりがないと言えばないし。昔みたくフィルムの上限があるでもないからどんだけでも撮れちゃうし」
「僕の作品は一発勝負ですからね。なかなかヒリヒリしますよ。些細な手先の狂いが見た目に大きく影響しますからね」
「アンタの器用さはマジで凄いと思うわ」
「僕は作った作品を展示が終わった時点で破壊するのがこの上なく楽しいと思うんですよ。むしろ、破壊するために作っていると言っても過言ではありませんね」
実苑によれば、壊すところまでが作品制作の過程なのだという。壊しようによっては元の形を成していた時よりもはるかにいい作品になるとか。アタシにはあんまりよくわからない感性だけど、確かに学祭の後にも作った物を楽しそうにぶっ壊してたなと。
一応、作った物は写真として残しているし、壊した後の破片をひとつ保存しているからそれでいいらしい。今、床を埋め尽くしている息抜きの模型たちもそのうち破片にされてしまうんだけども、破壊活動は発表会が終わってからだと決めているそうだ。場所がない。
「そのハンバーガーは今すぐにでも壊してもらっていいんだけどね」
「ああ、これは壊しませんよ」
「は!? 破壊までがアンタのアートなんじゃないの!?」
「これはこのままの形で残したいと強く思っているので。たまにあるんですよ、壊さずにとってある物が。これもその仲間入りを果たしますよ」
「よりによってそれがかよ」
「上手く出来ましたからね。会心の出来ですよ」
緑大文化会からすれば、ハンバーガーは春の季語だ。深夜の401教室に積み上げられる無数のハンバーガー、それが夜食のタワーとなって発表会の準備をする連中に襲い掛かる。何の変哲もなく一番安いハンバーガーの中に、たまに混ざるチーズバーガー。ああ恐ろしい。
「あ、展示用の作品が見つかりました」
「っていうか、展示用の作品が行方不明になったことに対する焦りとか不安とかはなかったのか」
「この部屋から出してないので、そのうち出て来るだろうと」
「で? 壊れたりしてなかった?」
「無事ですね。むしろ、埋もれていたおかげで綺麗な状態を保っているようにも見えますね」
「絶対気の所為だし」
「今度はこの台の上に乗せて布をかぶせておきますので。踏まないでくださいね」
「それはいいんだけど、あと10日ほど、ちゃんと自分で管理してよね」
「任せてくださいよ。定位置を決めましたからね! これで完璧ですよ。あと10日で息抜きの作品が増えてもこれですぐに掘り出せます」
「まだ息抜きを増やす気だったか」
end.
++++
春の文化部をいくつか。去年は結局春以外触れられなかった文化部だけど、今年はせめて学祭の季節くらいに軽く触れたいなあ。
ミソノは破壊までが作品制作の一貫らしい。そういやチョコレートを削り出して像を作ってた話もフェーズ1であった。あれも壊して美味しくいただいたんだろうなあ
ゼミでは尖ってるあずみんもミソノと絡むと良心になってしまうので、部でも尖ったあずみんをぜひやりたいものである。リン様現象なんだよこれが
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