2021

■リアル・クローズ?

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「雄介さん! 可愛い1年生がスタッフになってくれたというのは本当ですか!?」
「そこにいるだろう。有馬、これは3年のA番専任スタッフの綾瀬だ」
「新しくスタッフになりました有馬蓮です。よろしくお願いします」
「キャー! 可愛い! 私は3年の綾瀬香菜子です! よろしくー!」

 新スタッフの1年が加入したとどこから聞いたか知らんが、来るなり綾瀬は騒々しい。センタースタッフは常に足りんくらいであるから、新しいスタッフの加入を喜ぶのはオレも同じ気持ちではあるが、それでもここまで騒ぐことかと。
 しかし、いくら1年であっても有馬は上背が180センチ弱ある男だ。童顔というワケでもない。川北のような小柄なカマトトマスコットならともかく、これを可愛いと言うには些か疑問だ。何でも可愛いと表現するのは女の性質なのだろうか。

「有馬、喧しかろう」
「い、いえ、大丈夫です」
「それならいいが。これに烏丸が加わるとさらに拍車がかかるぞ」
「有馬くんお洋服可愛いね! そういう服ってどこで買うの? 良かったらお店教えてー」
「あ、えっと……その、すみません……」
「え、どうしたの? あっ、もしかして初対面でガツガツ絡まれるの苦手だった? ゴメンね」
「い、いえ……そういうわけではないんです。初対面の人からは、この服のことで引かれるのが基本なので……」
「なんだ、そんなこと」
「一応、この服は僕が自分で作った物で……」
「えー! すごーい! 既製品かと思った! ちょっと近くで見せてくれる? はー、すごー……ミシン何使ってる? 行きつけの手芸用品店とかある?」

 この情報センターにおいて、レースやフリルをあしらったピンクの服などに引きそうなのはまだ一般的感性に近い川北であるが、有馬は既に常に携える手作りのテディベアで奴をクリアしている。つまり、有馬は残りの連中もクリアしたも同然なのだ。
 綾瀬にとっては着たい服を着て歩くことはごく普通のことであり、大の男がパステルピンクの服を着ようがテディベアを携えていようがそれはその人間の個性で尊重されるべきであり、他者がどうこう言うべきでないという考えなのだろう。

「ユースケ! 新しい1年生がスタッフになってくれたんだって?」
「お、噂をすれば来たか。有馬、これが4年の烏丸だ」
「新しくスタッフになりました有馬蓮です。よろしくお願いします」
「レン君ね! よろしくー」

 噂をすれば烏丸がやってきた。烏丸も有馬の風貌どうこうを気にするような奴ではない。むしろ、烏丸の言動が有馬を混乱させないかの方が心配なくらいだ。

「烏丸さん見てくださいよ有馬くんのこのお洋服! 有馬くん、自分で作ってるんですって」
「へー、すごいねー。俺も昔は服を自分で作っててさー」
「そうなんですか? 烏丸さんにお裁縫の特技があったんですね」
「長く着てると胸倉を揺すられたり振り回されて投げられるうちに服が破れて体に引っかかるだけになるじゃない? さすがに寒いから、その辺にある長い布を巻くんだよ」
「ま、巻く…?」
「それより、胸倉を揺するとか振り回されるとか、少し物騒ですね……ですが綾瀬さん、一枚布を巻く民族衣装などはありますし、そんな感じなのかと……」
「綾瀬、有馬。烏丸の昔話はお前たちの想像力では理解出来ん。大方タオルや何かを巻いて服代わりにしていたという話だろう」

 忘れそうになった頃に烏丸は昔話をぶっ込んでくる。奴の昔話は一言で言えば虐待の記憶だ。本人はそれをあっけらかんと話すのだが、聞いている方の精神にダメージが入るなどは多々だ。オレは慣れたが、あの春山さんすらドン引きしていた内容だ。

「今思うと多分そんな感じだね。うん。あれはきっとタオルだったかもしれない。ユースケは凄いなあ。口は悪いけど頭が良くて、優しくて。ぜひこのシャーレに生殖細胞をあだっ!」
「しばらく大人しかったと思ったら、まだ諦めとらんかったか」
「うう……ユースケの生殖細胞はきちんと研究してその遺伝子を後世に残すべきなのに……」
「研究はともかく、子孫云々は然るべき時にオレ自身がそうする」
「ユースケの生殖器にその能力がない可能性だってあるかもしれな、いたいー!」
「ええと……綾瀬さん、4年生の先輩はいつもこんな感じなんでしょうか…? 林原さんはかなりの武闘派なんですね」
「うん、こんな感じだね。でも悪い人ではないし、雄介さんに関しては烏丸さんの言った通り、口は悪いけど頭が良くて優しい人だから。安心して有馬くん。普通にしてれば殴られることはないから」
「烏丸さんは……」
「頭のいい人には変人が多いって言うでしょ? その類」
「わかりました」

 烏丸に関しては、綾瀬という後輩が出来てようやく妹の面倒を見る小学1年生くらいにはなったかと思ったが、やはり根本が何も変わっていないことには違いない。
 綾瀬が「頭のいい奴には変人が多いというその類」だと簡単にまとめたように、余程の事情がない限り烏丸にはあまり深入りすべきでないのであろう。そして、奴の言うことを深く気にしてはいけない。

「カナコちゃんさあ、人のことを変人って言うけど、自分だって結構な変態なんだしそれは失礼じゃないかな~」
「えー! 烏丸さんには言われたくないですよー!」
「オレからすればお前たちはどっちもどっちだ。それに烏丸の口から失礼という単語が出たという事実に驚きを隠せん」
「だってー。俺はただ研究熱心な学生じゃない」
「オレの遺伝子どうこうということを除けばな」
「ユースケの等身大模型を作ることは諦めてないからね! それがダメなら1分の1スケールの生殖器模型!」
「はーっ……仕事をするならする、しないなら帰れ。お前は一応シフトに入っているのだろう」
「それじゃあB番入りまーす」


end.


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やっぱ情報センターはこうでなくっちゃな! 春山さんがいない分パワーダウン感は否めないけど。あと今日はミドリいないからリン様が大変。
昨年度の話によればレンレンの服をカナコとダイチは褒めてたらしいので、この2人にレンレンを囲ませてみたものの。
きゃっきゃするダイチカナコに鋼のリンアオ、それからおろおろするミドリという構図だけど、レンレンはミドリと一緒に引いててほしいね

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