2021
■名刺が代名詞
++++
大学に入学して2週間ほどになり、新しい生活も大体こんなモンかと雰囲気を掴んできたところだ。この感じなら何とかやれそう。俺は入学式の時にビラをもらった映像のサークルに入って、友達や先輩とも出会っていた。
「おーい当麻!」
「雨竜。おはよう」
「おーす! サークル行くんだろ? 一緒に行こうぜ!」
俺を見つけるなり飛んできたこの清田雨竜にしても、サークルで出来た友人の1人だ。俺と同じ学部学科ということもあって授業で会うことも多いけど、履修が全部一緒というわけではないから常に一緒でもない。
雨竜は勢いがあって活発な性格だというのが第一印象で、今のところその印象が変わるような出来事は起こっていない。AKBCの先輩たちも雨竜は元気だねえと見守っているような感じだ。
「あっそうだ! 今日はさ、俺が授業で知り合った奴も一緒にサークルに行くことになってて――っていない! どこ行きやがったアイツ! おーい! どこだー!」
「嫌がるのを無理矢理引きずってきて逃げられたとかじゃなくて?」
「嫌がってはなかったんだよ! つか、常にボーッとしてるような奴だから、俺がお前を見つけて走った瞬間にはぐれたっぽい!」
「その程度のことではぐれるのか…?」
「アイツははぐれるんだよ! おーい!」
それくらいではぐれるようなボーッとした奴が果たして大学に入れるのかというのも疑問ではあるけど、一応大学入学に必要な成績はあったんだろう。聞いただけだと、これから社会的に大丈夫か不安になるような奴だ。
おーいおーいと雨竜がデカい声を上げてその人を捜していたものだから、目立って仕方ない。周りからの視線を一点に集めてしまっている。俺は少し恥ずかしかったけど、雨竜はそんなことには目もくれずその人を捜している。
「あれー? マジでどこ行った? アイツデカいからすぐ見つかると思ったんだけどな」
「いや、やっぱり逃げられたんだって」
「違うっつーのに!」
そんな風に、出会ったばかりの奴のことをバカ正直に信じることが出来るのも雨竜のいいところなのかもしれない。俺は半信半疑のまま雨竜の後について、あと5分やってダメなら先行くからなと通告を出す。
「おーい! 北星ー!」
「あ~、いた~」
「お前探したぞ! どこ行ってたんだ!」
「気付いたら~、いなくなってて~。動かない方がいいかな~と思ったけど~、トイレ行きたくなって~」
「はーっ……何にせよ、見つかって良かった。ほら、サークル行くぞ」
「は~い」
雨竜の呼びかけに返事をしたのは、背が180センチを軽く越えてくる長身と、ウェーブがかかった漆黒と言うのがそれらしい髪が印象的な人だ。どこか間延びした喋り方や雨竜とはぐれた経緯に、大丈夫かなと不安を覚える。
「雨竜、彼は?」
「ああ、コイツは授業で一緒になった上川北星ってんだ。見た通りボーッとしてる奴だけど、映像制作スキルは一級品! つか、生活能力も何もかも映像に全振りしてんだよ。だから普段はこうなんだ」
「はあ」
「上川北星です~。この人のお友達ですか~?」
「ちょっお前! この人って! まーた名前忘れたのか! 清田雨竜だっつってんだろ! 雨竜! う・りゅ・う! 作った映像を「うるさい」ってぶったぎられた雨竜だよ!」
「そうだ~、うるさい雨竜~」
「雨竜、この調子で自己紹介しても、俺絶対忘れられるよな」
「一応~、何か映像があれば~、それとセットで覚える努力はする~」
「――とまあ、こんな感じの奴だから社会生活とか協調性っつーのを覚えさせるにもサークルに連れてってみようと思ったんだよ」
社会生活と協調性。確かに彼は覚えなければならないかもしれない。雨竜はちょっと世話焼きなところがありそうだ。しかし、この北星とやら、人を外見的特徴や名前ではなく映像作品で判別するとはなかなか新しい。あれ、つまり映像を作ってない人には興味ない?
「えっと、自己紹介な? 一応高校の時に趣味でちょっと作ったヤツがあったと思うから、それを見てもらえばいいのかな?」
「見せて~」
「はい、どうぞ」
高校の時にドローンを使って撮影した風景映像をたまたまスマホの中に入れてたから、自己紹介がてらそれを彼に見せる。するとどうだ、映像にやるその眼差しが、それまでの抜けた感じではなくかなり鋭く力が入っている。
「ドローンの操縦上手いね。君、名前は?」
「本浦当麻」
「当麻~。よろしくね~」
「よろしく」
「俺~、編集だけじゃなくて~、撮影も一応出来るけど~、ドローンはあんまり得意じゃないから~、当麻、好き~」
「えっ、ああ、ありがとう」
「今度一緒にドローン飛ばそ~」
「そしたら、サークル室にも先輩のだけどドローンがあるから、借りれるか聞いてみようか。その先輩すっごい上手いんだよ操縦が」
「いいね~。行こ~行こ~」
「――ってちょっと待て! 何でもう当麻にそんな懐いてんだよお前! 俺は未だにあの人呼ばわりなのによ!」
「だって~、当麻はドローン上手だから~」
「くっそ……どーせ俺は好きなだけでまだ何も上手くねーよ!」
「好きなのは、いいことだよ~。でも、今はうるさいから~」
「当麻、俺泣きそう」
「ドンマイ。俺もお前もこれからだし、頑張ろうな」
雨竜の精神は結構ダメージを負ってしまったようだけど、少しすればケロッとしてまたうるさくなるだろうから大丈夫だろう。そして北星だ。知り合ったばかりだけどもうわかる。コイツは野放しにすると危険だと。雨竜じゃなくても大丈夫かよって心配になるな。
end.
++++
青敬の1年トリオがどう出会ったかと思ったときに、北星は誰かが引きずらないと絶対サークルには来ないなと。その役割は学籍番号が近そうな雨竜に決定。
北星はドローンが得意でないと自称してますが、多分北星比で得意でないだけで当麻や雨竜よりは断然上手そう。ハマちゃんと同じくらい?
北星の作った映像を見た先輩たちがマジパねえ!って驚いてくれるお話もいつかやりたいなあ。
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大学に入学して2週間ほどになり、新しい生活も大体こんなモンかと雰囲気を掴んできたところだ。この感じなら何とかやれそう。俺は入学式の時にビラをもらった映像のサークルに入って、友達や先輩とも出会っていた。
「おーい当麻!」
「雨竜。おはよう」
「おーす! サークル行くんだろ? 一緒に行こうぜ!」
俺を見つけるなり飛んできたこの清田雨竜にしても、サークルで出来た友人の1人だ。俺と同じ学部学科ということもあって授業で会うことも多いけど、履修が全部一緒というわけではないから常に一緒でもない。
雨竜は勢いがあって活発な性格だというのが第一印象で、今のところその印象が変わるような出来事は起こっていない。AKBCの先輩たちも雨竜は元気だねえと見守っているような感じだ。
「あっそうだ! 今日はさ、俺が授業で知り合った奴も一緒にサークルに行くことになってて――っていない! どこ行きやがったアイツ! おーい! どこだー!」
「嫌がるのを無理矢理引きずってきて逃げられたとかじゃなくて?」
「嫌がってはなかったんだよ! つか、常にボーッとしてるような奴だから、俺がお前を見つけて走った瞬間にはぐれたっぽい!」
「その程度のことではぐれるのか…?」
「アイツははぐれるんだよ! おーい!」
それくらいではぐれるようなボーッとした奴が果たして大学に入れるのかというのも疑問ではあるけど、一応大学入学に必要な成績はあったんだろう。聞いただけだと、これから社会的に大丈夫か不安になるような奴だ。
おーいおーいと雨竜がデカい声を上げてその人を捜していたものだから、目立って仕方ない。周りからの視線を一点に集めてしまっている。俺は少し恥ずかしかったけど、雨竜はそんなことには目もくれずその人を捜している。
「あれー? マジでどこ行った? アイツデカいからすぐ見つかると思ったんだけどな」
「いや、やっぱり逃げられたんだって」
「違うっつーのに!」
そんな風に、出会ったばかりの奴のことをバカ正直に信じることが出来るのも雨竜のいいところなのかもしれない。俺は半信半疑のまま雨竜の後について、あと5分やってダメなら先行くからなと通告を出す。
「おーい! 北星ー!」
「あ~、いた~」
「お前探したぞ! どこ行ってたんだ!」
「気付いたら~、いなくなってて~。動かない方がいいかな~と思ったけど~、トイレ行きたくなって~」
「はーっ……何にせよ、見つかって良かった。ほら、サークル行くぞ」
「は~い」
雨竜の呼びかけに返事をしたのは、背が180センチを軽く越えてくる長身と、ウェーブがかかった漆黒と言うのがそれらしい髪が印象的な人だ。どこか間延びした喋り方や雨竜とはぐれた経緯に、大丈夫かなと不安を覚える。
「雨竜、彼は?」
「ああ、コイツは授業で一緒になった上川北星ってんだ。見た通りボーッとしてる奴だけど、映像制作スキルは一級品! つか、生活能力も何もかも映像に全振りしてんだよ。だから普段はこうなんだ」
「はあ」
「上川北星です~。この人のお友達ですか~?」
「ちょっお前! この人って! まーた名前忘れたのか! 清田雨竜だっつってんだろ! 雨竜! う・りゅ・う! 作った映像を「うるさい」ってぶったぎられた雨竜だよ!」
「そうだ~、うるさい雨竜~」
「雨竜、この調子で自己紹介しても、俺絶対忘れられるよな」
「一応~、何か映像があれば~、それとセットで覚える努力はする~」
「――とまあ、こんな感じの奴だから社会生活とか協調性っつーのを覚えさせるにもサークルに連れてってみようと思ったんだよ」
社会生活と協調性。確かに彼は覚えなければならないかもしれない。雨竜はちょっと世話焼きなところがありそうだ。しかし、この北星とやら、人を外見的特徴や名前ではなく映像作品で判別するとはなかなか新しい。あれ、つまり映像を作ってない人には興味ない?
「えっと、自己紹介な? 一応高校の時に趣味でちょっと作ったヤツがあったと思うから、それを見てもらえばいいのかな?」
「見せて~」
「はい、どうぞ」
高校の時にドローンを使って撮影した風景映像をたまたまスマホの中に入れてたから、自己紹介がてらそれを彼に見せる。するとどうだ、映像にやるその眼差しが、それまでの抜けた感じではなくかなり鋭く力が入っている。
「ドローンの操縦上手いね。君、名前は?」
「本浦当麻」
「当麻~。よろしくね~」
「よろしく」
「俺~、編集だけじゃなくて~、撮影も一応出来るけど~、ドローンはあんまり得意じゃないから~、当麻、好き~」
「えっ、ああ、ありがとう」
「今度一緒にドローン飛ばそ~」
「そしたら、サークル室にも先輩のだけどドローンがあるから、借りれるか聞いてみようか。その先輩すっごい上手いんだよ操縦が」
「いいね~。行こ~行こ~」
「――ってちょっと待て! 何でもう当麻にそんな懐いてんだよお前! 俺は未だにあの人呼ばわりなのによ!」
「だって~、当麻はドローン上手だから~」
「くっそ……どーせ俺は好きなだけでまだ何も上手くねーよ!」
「好きなのは、いいことだよ~。でも、今はうるさいから~」
「当麻、俺泣きそう」
「ドンマイ。俺もお前もこれからだし、頑張ろうな」
雨竜の精神は結構ダメージを負ってしまったようだけど、少しすればケロッとしてまたうるさくなるだろうから大丈夫だろう。そして北星だ。知り合ったばかりだけどもうわかる。コイツは野放しにすると危険だと。雨竜じゃなくても大丈夫かよって心配になるな。
end.
++++
青敬の1年トリオがどう出会ったかと思ったときに、北星は誰かが引きずらないと絶対サークルには来ないなと。その役割は学籍番号が近そうな雨竜に決定。
北星はドローンが得意でないと自称してますが、多分北星比で得意でないだけで当麻や雨竜よりは断然上手そう。ハマちゃんと同じくらい?
北星の作った映像を見た先輩たちがマジパねえ!って驚いてくれるお話もいつかやりたいなあ。
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