2021

■戦うアレルギー反応

公式学年+1年

++++

「えっ……じょい!」
「智也うっさ!」
「シノ、花粉症?」
「や、多分違うんだけど、どーも今年怪しくって、っじょい!」
「そんなん絶対花粉症じゃん。きったないなあ。マスクしといてよ」
「持ってねーよ」

 2年に上がって最初の木曜日。木曜3限は演習Ⅰという科目を履修しなければならない。この演習というのがいわゆるゼミだ。それはいいんだけど、一緒にスタジオに入ったシノがまあこの調子で。怪しいなんてモンじゃない。絶対花粉症じゃないか。
 佐藤久ゼミが開講されるのは社会学部第1スタジオという教室で、8号館の地下1階にある。地下だから空気が籠もるし、学内には業者さんが入って掃除してくれるんだけど実質佐藤ゼミが占拠しているこの教室には掃除も入らない。塵や埃は溜まる一方だ。
 地上からの風が吹き込む度にかなり派手めのくしゃみを飛ばすシノにはみんな苦笑い。ただ、まいみぃの言う「マスクしといて」というのが真理。シノのためにも周りのためにもこの時期はマスクをしておくのがいいだろう。

「ん」
「亮真?」
「シノに」
「ありがとう。シノ、亮真がマスクとティッシュくれたから。これしとけ」
「あざっす」

 俺の左隣にはシノが座ってるんだけど、右隣には春休みにあったゼミ合宿で仲良くなった相倉亮真くんが座っている。彼はあまり口数の多い方ではないんだけど、博識だし行動的だし、とてもいい男だと(もちろん今は友人として)思う。
 シノの周りにもシノが合宿で仲良くなっていたまいみぃこと来須麻衣さんと、羽場光弘くんが座っている。プレゼミ生として参加した最初のゼミ合宿でどう立ち回ったかが正式にゼミ生となった初回に響いているような感じがある。

「って言うか、ウチら張り切りすぎじゃない? まだ3限始まるまで15分前なんだけど」
「遅れるよりはいいと思うよ。何事も余裕を持ってさ」
「ミトゥーはのんびりし過ぎなんだって」
「うーん、僕は忙しなさすぎるのは苦手だからね」
「アタシは多少忙しないくらいの方がアツいね」
「お前らってホント雰囲気通りの発言するよな」
「シノ、大丈夫なの花粉症」
「鼻かんでマスクしたら気持ち落ち着き始めたような気がする。まだプラシーボかもだけど。亮真マジで神だわ」
「大変だね。花粉症のなり始めって、なかなか認めたくない気持ちが大きいらしいよ。僕は花粉症じゃないからよくわかんないけど」
「俺も去年はそう言ってたんだよ。ミツ、お前もいつ花粉症になるかわかんねーぞ」
「アタシも畑とか山ン中とか行くしいつなってもおかしくないんだよね。あー、UVケアにも忙しい忙しい」

 確かに去年の今頃のシノはサークル室でくしゃみを連発していたサキに対して余裕をかましていたなあという記憶がある。それが1年でこうなるかと。改めて花粉症の恐ろしさを痛感する。そして俺もいつなるかわからないし予防法を調べてみよう。

「そう言えば亮真は自然科学研究会だし、今もマスクとティッシュ持ってたけど花粉症は大丈夫なのか?」
「薬を飲んでる」
「やっぱ花粉症なのか。見た感じ平気そうだけどいい薬なんだな」
「病院で処方してもらって、継続して服用するタイプ」
「へー、アンタ病院に通ってんだね。ガチで治そうと思ったらやっぱ病院か」
「学内の保健センターでも診てもらえるらしいな」
「シノ、この辺に住み始めたんだったら時間ある時にでも保健センターで診てもらったら?」

 保健センターではさすがに亮真が受けているような本格的な治療までは行かないけれど、鼻炎やなんかを軽く抑える薬なんかは出してもらえるそうだ。学費も払ってるし、使えるなら使った方がいいだろう。シノは近所だし。

「花粉症と言えば、アタシ自分が何にアレルギー持ってるかとか血液検査してみたいんだよね。別に心当たりがあるとかじゃなくて興味本位なんだけどさ」
「食品とか動物とか植物とか、いろいろあるんだっけ。小麦アレルギーを発症してお店を続けられなくなったパン屋さんの話を知ってるなあ」
「小麦アレルギーになったら結構シンドいんでしょ? 避けなきゃいけない物が多くて」
「うん。小麦は意外な物にも含まれてるみたいだからね」
「その点、米はその心配もあんまり要らないからね」
「米粉パンも美味しいよね」
「ねえパン同好会、何でもかんでもパンの話にすんなっての」
「ごめんって。悪気はないんだよ」
「お米同好会も十分米の話してんだよなあ」

 お米同好会のまいみぃとパン同好会の羽場くんの会話がステレオで入ってくるのはシノにはなかなかしんどいだろう。一応昼は食べたけど、話を聞いてたらまーたお腹が空いてくるヤツ。どっちも主食だもんな。

「俺、イネの花粉もダメなんだ」
「え、スギとかヒノキだけじゃないんだ」
「それ、実質アウトドア部としては致命的じゃん」
「季節問わずしんどい。だからちゃんと治したくて」
「なら確かに病院に行くよ」
「注射がいいって聞くけど保険適用外だから、お金を貯めて今年中にはやりたい」
「そっか、米そのものは美味しくもイネ花粉があったか」
「今回の薬で、秋をどう立ち回れるか」

 頑張れーと今いるメンバーが亮真に声援を送ったところで、続々とゼミ生がスタジオへの階段を下りてくる。話に花を咲かせている間にもうすぐ1時になっていた。みんなどこの席に座ろうか牽制し合ってる。先に来ていた俺たちは余裕のポーズで。

「えっじょい!」
「だーから智也うっさいっての!」
「人が花粉を運んでくるパターンもある。辛抱だ」


end.


++++

+1年で2年生となった時間軸ではしっかり花粉症になってしまったシノです。シノのくしゃみはなかなかうるさそう。
ササは亮真と、シノはまいみぃ&ミツの主食コンビと仲がいいようです。今後、ゼミの班編成はどうなるのかな
新しいメンバーできゃっきゃしてるのがとても楽しい。+1じゃない時間軸でも何とかしてあげたいのだが

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