2021
■強者の風格
++++
「っあ~っ! 今のなかなかいいねえ松居君。やー、休憩休憩」
「休憩したらもう1本お願いします」
「また今度な。ずっと松居君の相手してたら明日体動かなくなるから」
「くそ、逃げられた」
「よし。松居君に先輩が飲みモンの1本でも奢ってやろーじゃねーの。語らおうぜ」
向島大学に入学して少し。せっかくなら大学生らしくバドミントンサークルに入ることにした。入学式があってオリエンテーションがあって~ってしてる間にとにかくめちゃくちゃな数のサークルのビラをもらった中にあったんだ。
俺はコートの片隅に座って、目の前で繰り広げられていた壮絶な打ち合いにただただ圧倒されていた。このサークルの中でも指折りの実力者と評される4年生の前原先輩と、長身で長いリーチが武器の1年、松居君だ。これが経験者のガチなヤツか。
「おーいかっすー、お前も来いよ。前原さんが奢ってくれるってさ」
「っておい! 増やすな!」
「パチスロ勝ったんしょ?」
「勝ったっつってもまた次があるんだよ」
「おーい1年、マエトモがパチスロで勝つのなんかレアだし、集れる内に集っとくのが正解だぞ」
「おい真希! 何だレアって! まあいいや。春日井君もいいよ。バドサーへの加入記念だ」
「えっ、ホントにいいんすか!」
体育館の外にある自販機で、好きな飲み物を買ってもらう。前原さんはコーラ、松居君は紅茶、そして俺はオレンジジュースを選んで脇の階段に腰掛ける。陽気が春だなって感じ。
「いやー、やっぱ前原さん強いっすね。勝てそうで勝てない辺りがやらしいっす」
「基本緩くやってっから。強いヤツとやって負けそうになった時だけこう、クッてなるんだよな。だから、俺にエンジンかけさせた松居君は強い」
「カッケー! 言ってみてー! 俺も前原さんに本気出させるくらい上手くなれますかね?」
「練習次第じゃね? 1年や2年で追いつかれてたまるかって感じだけど。ま、春日井君とは緩く楽しんで、育てるスタンスでやってくし」
4年生の前原さんは、緩いキャラクターで通っていて、俺たち1年にも気さくに話しかけてくれる。こっちも「この先輩にはそんなに力を入れなくてもいいのかな?」とついオープンになっちまうんだよな。結果、場に馴染ませてくれるんだ。
「松居君てずっとバドやってたの?」
「おいかっすー、その松居君ての他人行儀だからやめてくれよ。同期だろ?」
「え、じゃあ何て呼べばいい?」
「いろいろあるだろ、名前で呼び捨てるとか」
「名前何だっけ」
「松居奏多」
「じゃ奏多な! よろしく!」
「おう」
「春日井君て名前何だっけ?」
「春日井希っす!」
「松居君は結構軽いノリで人にあだ名とか付けて呼んでくよな」
「基本、壁とかないんで。一応先輩に対してはさん付けで呼びますけどね。フランクな人とかなら普通にあだ名とかで呼ぶかもっすね」
「まあ、ウチのサークルはそーゆーのに厳しいヤツもいねーし。松居君の雰囲気も受け入れられると思うから」
実際このバドミントンサークルで今現在話した人はみんないい人だなって印象がある。男子も女子も関係なくみんなわちゃわちゃして楽しんでる。なんか、大学に入る前からイメージしてたサークルそのものって感じ。憧れの場所にいるんだ~って嬉しくなるよな。
「ああそうだ。前原さんて他のサークルとかの情報も持ってます?」
「まだどっか見学に回んの?」
「や、幼馴染みも一緒にこの大学に入学したんすけど、天文部に興味があるって言ってるんす」
「天文部ならダチがいるけど、ちなみにその幼馴染みってマジメに天文したくて天文部に入ろうとしてる?」
「そうっすね。星のことばっか話してるような奴なんで」
「だったらやめといた方がいいよ。あそこ天文部っつーのは名ばかりで、実質的には飲みサーだから」
「あ~……そうか~……」
やっぱり、大学のサークルはピンキリって話は本当だったんだな。飲んでばっかりいるサークルとか、犯罪紛いのことをやってるサークルとかもあるから選ぶときには気を付けろって言うもんな。天文部が怪しいと聞いた奏多はかなりガックリ来ているようだ。
「まあ、俺のダチ? 磐田っつーんだけど、そいつとあと数人だけはちゃんと天文してるっつー話なんだけどな。去年とか、光ファイバーをプログラムで制御するプラネタリウムとかいうのを作っちまうし。そんなモンお前がいなくなったら保守出来んだろーがよって感じだよな」
「ああ、ちゃんとやってる人もいるにはいると」
「つっても天文部が30人とか40人とかいる中の3、4人な。残りは天文部の活動として開かれる飲み会に重きを置いてんだ」
「ちなみにその飲みで女が潰されてマワされたりとかってのは」
「ギリ聞いたことはないけど、飲み会はなかなか激しいらしい」
「マジかー……全力で止めた方がよさそうかな」
「松居君、その幼馴染みって女の子?」
「そうっすね。その兄貴がすげーシスコンで、アイツに何かあったら俺がぶっ殺されるんすよ」
「大変だな奏多。どんなお嬢様なんだろ」
「お嬢様なんてもんじゃない、じゃじゃ馬だよ。パッと見はお淑やかなお嬢様だけど、格闘技の経験あるし腕っ節は下手な男より強いくらいだ」
「すげー! かっこいーじゃん! 何やってたの?」
「空手だけど、そんないーモンじゃないっての。本来俺が見守らなくてもいいくらいなんだ」
ブツブツ文句を言いながらもその幼馴染みの子のことを心配してる奏多は優しい奴なんだなと思う。その話を聞いた前原さんも、もしその子が来たらちゃんと天文やってる連中に囲ってもらうわと話を付けてくれる様子。人脈ってすげー。
「松居君、ドンマイ」
「前原さん、タバコ1本分けてください」
「おいおい1年。未成年じゃねーの?」
「俺今ハタチっす。今年21で」
「あ、1コ下なのね。ならどーぞ」
「――って奏多何かさらっとすげーコト言わなかった!? 2コ上!?」
end.
++++
ある程度人数が増えてくるとこうなってくるよなあというワケで、向島のバドミントンサークルのお話。真希ちゃんもチラリ。
前原さんの緩さと奏多の緩さって結構相性いいんじゃないかなあと思う。1年間結構仲良くやってそう。
口ではぼとぼと言いつつもちゃんと春風の見守り役をず~っとやってる奏多である。あと1年ほどよろしく頼みます。
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「っあ~っ! 今のなかなかいいねえ松居君。やー、休憩休憩」
「休憩したらもう1本お願いします」
「また今度な。ずっと松居君の相手してたら明日体動かなくなるから」
「くそ、逃げられた」
「よし。松居君に先輩が飲みモンの1本でも奢ってやろーじゃねーの。語らおうぜ」
向島大学に入学して少し。せっかくなら大学生らしくバドミントンサークルに入ることにした。入学式があってオリエンテーションがあって~ってしてる間にとにかくめちゃくちゃな数のサークルのビラをもらった中にあったんだ。
俺はコートの片隅に座って、目の前で繰り広げられていた壮絶な打ち合いにただただ圧倒されていた。このサークルの中でも指折りの実力者と評される4年生の前原先輩と、長身で長いリーチが武器の1年、松居君だ。これが経験者のガチなヤツか。
「おーいかっすー、お前も来いよ。前原さんが奢ってくれるってさ」
「っておい! 増やすな!」
「パチスロ勝ったんしょ?」
「勝ったっつってもまた次があるんだよ」
「おーい1年、マエトモがパチスロで勝つのなんかレアだし、集れる内に集っとくのが正解だぞ」
「おい真希! 何だレアって! まあいいや。春日井君もいいよ。バドサーへの加入記念だ」
「えっ、ホントにいいんすか!」
体育館の外にある自販機で、好きな飲み物を買ってもらう。前原さんはコーラ、松居君は紅茶、そして俺はオレンジジュースを選んで脇の階段に腰掛ける。陽気が春だなって感じ。
「いやー、やっぱ前原さん強いっすね。勝てそうで勝てない辺りがやらしいっす」
「基本緩くやってっから。強いヤツとやって負けそうになった時だけこう、クッてなるんだよな。だから、俺にエンジンかけさせた松居君は強い」
「カッケー! 言ってみてー! 俺も前原さんに本気出させるくらい上手くなれますかね?」
「練習次第じゃね? 1年や2年で追いつかれてたまるかって感じだけど。ま、春日井君とは緩く楽しんで、育てるスタンスでやってくし」
4年生の前原さんは、緩いキャラクターで通っていて、俺たち1年にも気さくに話しかけてくれる。こっちも「この先輩にはそんなに力を入れなくてもいいのかな?」とついオープンになっちまうんだよな。結果、場に馴染ませてくれるんだ。
「松居君てずっとバドやってたの?」
「おいかっすー、その松居君ての他人行儀だからやめてくれよ。同期だろ?」
「え、じゃあ何て呼べばいい?」
「いろいろあるだろ、名前で呼び捨てるとか」
「名前何だっけ」
「松居奏多」
「じゃ奏多な! よろしく!」
「おう」
「春日井君て名前何だっけ?」
「春日井希っす!」
「松居君は結構軽いノリで人にあだ名とか付けて呼んでくよな」
「基本、壁とかないんで。一応先輩に対してはさん付けで呼びますけどね。フランクな人とかなら普通にあだ名とかで呼ぶかもっすね」
「まあ、ウチのサークルはそーゆーのに厳しいヤツもいねーし。松居君の雰囲気も受け入れられると思うから」
実際このバドミントンサークルで今現在話した人はみんないい人だなって印象がある。男子も女子も関係なくみんなわちゃわちゃして楽しんでる。なんか、大学に入る前からイメージしてたサークルそのものって感じ。憧れの場所にいるんだ~って嬉しくなるよな。
「ああそうだ。前原さんて他のサークルとかの情報も持ってます?」
「まだどっか見学に回んの?」
「や、幼馴染みも一緒にこの大学に入学したんすけど、天文部に興味があるって言ってるんす」
「天文部ならダチがいるけど、ちなみにその幼馴染みってマジメに天文したくて天文部に入ろうとしてる?」
「そうっすね。星のことばっか話してるような奴なんで」
「だったらやめといた方がいいよ。あそこ天文部っつーのは名ばかりで、実質的には飲みサーだから」
「あ~……そうか~……」
やっぱり、大学のサークルはピンキリって話は本当だったんだな。飲んでばっかりいるサークルとか、犯罪紛いのことをやってるサークルとかもあるから選ぶときには気を付けろって言うもんな。天文部が怪しいと聞いた奏多はかなりガックリ来ているようだ。
「まあ、俺のダチ? 磐田っつーんだけど、そいつとあと数人だけはちゃんと天文してるっつー話なんだけどな。去年とか、光ファイバーをプログラムで制御するプラネタリウムとかいうのを作っちまうし。そんなモンお前がいなくなったら保守出来んだろーがよって感じだよな」
「ああ、ちゃんとやってる人もいるにはいると」
「つっても天文部が30人とか40人とかいる中の3、4人な。残りは天文部の活動として開かれる飲み会に重きを置いてんだ」
「ちなみにその飲みで女が潰されてマワされたりとかってのは」
「ギリ聞いたことはないけど、飲み会はなかなか激しいらしい」
「マジかー……全力で止めた方がよさそうかな」
「松居君、その幼馴染みって女の子?」
「そうっすね。その兄貴がすげーシスコンで、アイツに何かあったら俺がぶっ殺されるんすよ」
「大変だな奏多。どんなお嬢様なんだろ」
「お嬢様なんてもんじゃない、じゃじゃ馬だよ。パッと見はお淑やかなお嬢様だけど、格闘技の経験あるし腕っ節は下手な男より強いくらいだ」
「すげー! かっこいーじゃん! 何やってたの?」
「空手だけど、そんないーモンじゃないっての。本来俺が見守らなくてもいいくらいなんだ」
ブツブツ文句を言いながらもその幼馴染みの子のことを心配してる奏多は優しい奴なんだなと思う。その話を聞いた前原さんも、もしその子が来たらちゃんと天文やってる連中に囲ってもらうわと話を付けてくれる様子。人脈ってすげー。
「松居君、ドンマイ」
「前原さん、タバコ1本分けてください」
「おいおい1年。未成年じゃねーの?」
「俺今ハタチっす。今年21で」
「あ、1コ下なのね。ならどーぞ」
「――って奏多何かさらっとすげーコト言わなかった!? 2コ上!?」
end.
++++
ある程度人数が増えてくるとこうなってくるよなあというワケで、向島のバドミントンサークルのお話。真希ちゃんもチラリ。
前原さんの緩さと奏多の緩さって結構相性いいんじゃないかなあと思う。1年間結構仲良くやってそう。
口ではぼとぼと言いつつもちゃんと春風の見守り役をず~っとやってる奏多である。あと1年ほどよろしく頼みます。
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