2021

■僕たちササキトリオ

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 4限が終わって、体育の時に知り合った彼と再び待ち合わせる。学部オリエンテーションのときにあったラジオブース体験で一緒になった篠木智也君だ。向こうが俺のことを見たことあるなって覚えててくれて、体育の時に声をかけて来てくれたんだ。
 ラジオブースの体験に立候補していただけあって、ああいうラジオめいたことに興味があるようだった。俺はマイクで喋る方をやらせてもらったんだけど、彼は機材の方をやってたんだ。それで、ラジオのサークルに見学に行こうかという話になって。

「えっと、サークル棟ってどっちだ?」
「あれじゃないかな、自販機の前の」
「おーし、行ってみっか!」

 何故か学部オリエンテーションでもらった放送サークルMBCCのビラには月水金の4限後からサークル棟205号室でやっていると書かれている。今日は月曜日だし、4限が終わったタイミング。これは行くしかないだろうと。
 それらしい建物に入り、フロアガイドでここがどういう建物であるかを確認する。ここがサークル棟であることに間違いないらしい。205号室の場所をチェックして、その部屋へと進んでいく。初めてのサークル見学はちょっと緊張する。

「失礼します。放送サークルの部屋はここでいいでしょうか。サークルの見学をしたいんですけど」
「あっ、どうぞ。五島先輩、どこに座ってもらいます?」
「あー、そっちでいいんじゃん?」
「えっと、そしたらそっち側に座ってもらって。荷物はこっちのラックに置いてもらって大丈夫です」

 今は俺たちの応対をしてくれているメガネをかけた黒いジャケットの人と、その人が先輩って呼んだということは恐らくは3年生以上であろうスポーティーな感じの人がいるような感じだ。そして、入り口側の隅の方には小柄なメガネの人がちまっと座っている。

「そしたら、名前と学部を教えてもらっていいかな」
「佐々木陸です。社会学部メディア文化学科です」
「同じく社学メディ文の篠木智也っす」
「えっと、2人ともササキ君ね。……ササキかあ。一応どういう漢字で書くか聞いてもいい?」
「俺はよくある3文字の佐々木です」
「これ? よくある3文字の」
「あ、はい、それです」
「俺は長篠とかの篠に木で篠木っす」
「シノ」
「竹かんむりに」
「ああ、はい。この篠に木ね」
「そうっす」

 ジャケットの先輩が漢字を書きながら俺たちの名前を記録している様は、まるでバイトの面接とかそんなような雰囲気を感じる。あまり慣れてなさそうだからこの人はきっと2年生の先輩だろう。

「どうしましょうねえ五島先輩。今日来たササキ君たち、みんな漢字が違うみたいですよ」
「そーねえ。入ってくれるんなら正しく名前を覚えてやらないといけねーもんなあ。えっと? デカイのが?」
「よくある3文字の佐々木くんですね」
「で、茶髪が」
「篠に木の篠木くんですね」
「で、理系が」
「佐崎くんですね」

 俺と智也君の他にまだササキ性の人間がいたのかと一瞬探したけど、思い当たるのは隅っこで何を発するでもなく座っていた小柄な彼だ。この感じからすると彼もサークル見学に来た1年生のササキ君なのだろう。

「えっと、ササキ君?」
「……情報科学部の、佐崎大樹。にんべんに左の佐に、崎で、佐崎」
「俺は社会学部の」
「聞いてたよ。3文字の佐々木君」

 大樹君は物静かな人なのだろうか。コミュニケーションを取ろうと思ったけど、会話がなかなか続かない。話し方もぽつりぽつりという感じだけど、ラジオに興味があるんだな。いや、智也君のように機材の方に興味があるのかもしれない。

「それじゃあ便宜上お前がササ。お前がシノ。そんでお前がサキで、お前らササキトリオな」
「えっと、その呼び名? ……は、一体」
「下の名前で呼んでもいいけど、せっかくササキが3人いてみんな漢字が違うんだから、話のタネにも出来るじゃんな。それに、こうでもしねーと俺たちがちゃんと覚えらんねーし」
「そうは言っても五島先輩、まだ入ってもらえるって確定したワケでもないのにいいんですか?」
「いーのいーの。細かいことは気にすんなって。入ったら入ったでどーせDJネームは決めなきゃいけねーんだ。今日来るってことはウチに1番興味あるような連中だし、半分入ったようなモンだろ」

 確かに、春学期が始まって初日のタイミングでここに来ている3人はここに1番興味があるんだろう。俺個人としては、入るかもわからない1年生の名前をちゃんと覚えてくれようとしてる先輩たちにとても好感を持っている。もう少し話を聞いてみたいと思う。

「そしたら高木、サークルの概要説明して尺稼いどいて。やってるうちにアナも誰か来るだろ」
「えっ!? 俺が説明をするんですか!? ここは3年生の五島先輩がするんじゃ…?」
「俺は会計の仕事で忙しーのよ。お前も慣れてかなきゃいけねーし、練習だ練習」
「ええー……十分本番だと思うけどなー……」
「何か言ったかー?」
「何でもないです。それじゃあ、簡単に説明をします。ああ、俺は社会学部メディア文化学科2年で、MBCCの機材管理担当をやってる高木隆志っていいます」

 3年生の五島先輩が後輩の高木先輩に面倒そうな仕事を押し付けているのかと思いきや、本当に電卓を叩いてお金の勘定を始めたのでビックリした。そして俺たちササキ3人は、少したどたどしい説明を真剣に聞く。
 社会学部のラジオブースより機材は少ないように見えるけど、少ない機材でも確かな技術が身に付けられるんだそうだ。学内での活動だけでなく他校の人との交流もあるとか。練習とか、交流とか、本格的な活動に入って行くのが楽しみだ。

「――っていう感じで活動してるんだ。えっと、話はそれるけど、3人って酒を飲んだ経験ってある?」
「はい?」


end.


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高崎がサークル見学時のタカちゃんに聞いていた「お前、酒はイケる口か?」のTKG版はこうなるようです。
ササシノのサークル見学回。この2人より先にひっそりとサキが来ていたみたい。何となく、すがくるがMBCC6人の中では比較的加入が遅そう。
そして話を勢いよくぐいっぐい進めてくれる辺りがさすがのゴティパイセン。ゴサチもやりたいし、フェーズ2の2年目はゴティ先輩出張って行こうぜ

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