2021

■キャンパスのイメージ

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「おっす春風。お前もう履修登録終わった?」
「ああ、奏多。今終わったところ」
「それじゃメシでも食わね? 近況報告を兼ねてさ」
「近況報告も何も、昨日もその前も会ってるでしょう。まあいいけど。ご飯食べるんでしょ? 行きましょう」

 向島大学に入学して3日間。入学式、オリエンテーションとこなして最終日は健康診断と履修登録。単位に関する専門用語は一度説明を聞いただけではきちんと理解出来ないのだけど、必修科目を選ぶだけで履修票が埋まってしまったので自由な時間割になるのは今後のことになるのかな。
 今、私に声をかけて来たのは、幼馴染みの松居奏多。奏多は年齢で言えば2つ年上なのだけど、高校の時に事故で大怪我をして長期入院した結果卒業が1年遅れてしまった。さらに去年1年間は浪人をしていたので私と同時に大学入学。知っている人がいるのは心強いような、それが奏多だというのが不安なような。

「見よう見まねで履修したものの、必修だけでほとんど埋まっちまって。何かこう、大学のイメージとしてあった自由なキャンパスライフとは程遠いっつーか」
「確かに1限から5限まで、みっちりと必修科目があったなという印象では。でも、それだけ勉学に励みなさいということなんじゃないの」
「いや、でもさ、もうちょっとゆる~っとした時間割を想像してた」
「学年が上がれば余裕が出来るんでしょう、わからないけど」
「ちくしょ~、こんなんじゃ自由にバイトも出来やしない」

 実を言えば、私ももう少し時間割には余裕がある物だと思っていたから、ここまでみっちりと埋まってしまった現実に驚いてしまって。お互いの履修票を見せ合っても、同じ学科だからか時間割はほとんど同じ。これから毎日奏多の顔を見ることになりそう。

「春風お前体育何にした?」
「私はストレッチとヨガの科目を取ろうと思って」
「そんなのあんのか。へー」
「今年から新設になる科目だから抽選になるかもしれないけど、登録してみた」
「確かに女子に人気高そうだな」
「ダメなら合気道をやるから」
「お前これ以上強くなんのかよ」
「奏多は?」
「俺はバドミントン。安定だろ?」
「ずっと続けてるものね。いいと思う」

 奏多は昔からずっとバドミントン部に所属していて、それなりの腕前をしている。大学に入っても体育でバドミントンをやるのはバドミントンが好きだというのもあるし、道具が揃っていて取り掛かりやすいという事情があるみたい。私は水泳に空手に剣道にといろいろなことをして来たから、大学でも新しいことを。

「英語とか第2言語とかって班とかレベルでクラス分けされるみたいじゃん?」
「そうみたいね。でも、班は学籍番号で決まるし、さすがに鳥居と松居では同じクラスにはならないでしょう」
「別に同じクラスになりたいとかじゃねーよ。あっ、ワンチャンノートとかプリントとか、出席の代返とか?」
「そんなこと、頼まれてもやらないから」
「だから頼んでねーっての! ほら、大学生活のイメージってヤツ! イメージ!」
「代返ねえ……確かに、イメージがあるというのはわからなくもないけど」
「第2言語何にした? 俺はロシア語」
「ロシア語!? またどうして」
「単純に出来たらカッコ良さそうじゃん。それに、少人数クラスでみ~っちりやってくれるんだと。ただ授業を聞き流すより面白そうだなと思って」
「へえ、それは興味深いかも。私はスペイン語にした」
「何で?」
「世界の主要な天文台とか観測所がスペインに多くあるから、スペイン語は天文学とは切っても切れない言語なの」
「ふーん。よくやるな、相変わらず」

 私は星が好きで、個人的に星や宇宙のことを調べたり、科学館でプラネタリウムを見たりするのが趣味。将来はそのプラネタリウムに関わる仕事がしたいと思っていて、大学でもそれに繋がることをしたいなと考えている。
 大学の学科は情報科学部のメディア文化学科。ここではプログラミングだけではなく、映像や音声メディアをどう使ってどのように人に届けるかということも勉強できるそう。プラネタリウムに生きそうな気がして。

「そーいや、めちゃくちゃビラ配ってたじゃんサークルとかの。今もその辺にわらわらいるじゃん」
「ああ……人混みで疲れたというのが正直なところで……手元に残ったビラを見る気にもなれず。天文部に興味はあるんだけど、イベント盛りだくさんというのが気になるところで」
「おっ。お前も遊びに目覚めるか?」
「私は別に遊びたいわけではないからね。ここで言われるイベントというのが観測会などであればとてもいいなと思うのだけど、大学のサークルの質はピンキリだとも言うし……」
「ああ、まともなサークルに見せかけた飲みサーだとかヤリサーだとか、いろいろあるわな。クスリに誘われたり詐欺グループの小間使いにされたりとか。その辺は自分で見定めてくれよ。お前に何かあったら俺が真宙君にぶっ殺されんだからな」
「兄さんは過保護だけど、確かに危ないサークルや犯罪紛いのことに巻き込まれたりというのもあるようだから、気を付けないと」
「危ないと思ったらすぐ言えよ。そのために俺が近くにいるんだからな」
「もう。奏多まで年上ぶって。自分も気を付けることね。綺麗な人にはすぐ騙されそうだけど」
「うるせーよ」

 見学に行くだけ行って、危なそうだと思えばすぐに引いて縁がなかったと思えばいい。星の勉強は1人でも出来ることだから。でも、大学生活のイメージにはサークル活動も確かにあるし、憧れではある。急ぐことでもないから、じっくり見定めていきましょうか。

「奏多……食堂でお腹いっぱい食べようと思ったら結構お金がかかりそうじゃない?」
「腹もちのいいモン持ち歩けばいいんじゃね?」


end.


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フェーズ2初年度の終わりの方に出て来た春風と奏多が2年目には初っ端から登場です。最初から知り合いの1年生最高
ねえねえあれこれどうした?みたいな話をしてたらいいなと。でもさすがに全部が全部合わせるワケじゃない2人。その辺は独立。
ただ、奏多が基本春風の見守り役であることには違いないので何かが起こる前に引き留めてやらないといけないのであった。果たしてどうなる。

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