2020(05)
■引き出しのパターン
++++
ゴローさんが放送部でファンタジックフェスタに出ようと言い出して2ヶ月ほどが経とうとしていた。ステージに出たいと言った有志は気付けばそこそこ集まり、部で取る枠の上限に決めていた3時間でファンフェス事務局に申し込んだそうだ。
源班からは定例会や学業などで忙しいというマリンさん以外の全員が参加することになった。海月も最初はちょっと悩んでいたようだったけど、シノに相談した結果やってみようと吹っ切れた様子。俺ももちろん話を聞いた瞬間やると返事をした。
「谷本君、おはよう」
「おはようございます」
「ごめんね、プロデューサーなのにキーボード持って来てもらって」
「いえ、全然っす」
今回のステージでは、既存の班の枠には関係なくメンバーをシャッフルして作る即興の班でやっていくそうだ。新4年生の引退で十分な人員がいないところもあるし、他の班のやり方などを学んでさらなるレベルアップに繋げて欲しいとのこと。
所沢さん曰く、ゴローさんは考える事のレベルが普通の放送部員からは変にかけ離れているそうだ。「各パート1人ずついれば1時間くらいは普通に回せる」とか「予算は少ない物だと思っていた」などと言っては他の班長たちを困惑させるまでが班長会議での様式美と。
朝霞さんや戸田さんっていう、放送部の歴代班長たちの中でも特に異色の人たちに揉まれたゴローさんの常識が一般部員の常識とはかけ離れている。ファンフェスの件でも一般部員に受け入れられるようどう折り合いをつけるかが難しかったそうだ。
「はいこれ。今まで使ってた楽譜」
「あざっす。菅野さんの書いた曲の楽譜を見せてもらえるだけでも今回のステージに出て良かったっす」
「ゲンゴローが谷本君を俺に預けてくれたんだよね。音楽路線で行くならウチに面白い子がいるよって」
班のシャッフルで、俺は今村さんという2年生がリーダーになる班に決まった。この人は旧小林班からなる今村班の班長で、プロデューサーだ。と言うか、この班はPとかアナとか言うよりキーボードとかギターとか、楽器でパートを語る方がそれらしい。
集められたメンバーも見事に音楽をかじった人間ばかりだけど、さすがに寄せ集めの班では普段のようなライブ形式のステージにはしにくいとのこと。でも楽器を使うスタンスは崩さずにやっていきたいとは最初に宣言があった。
「でも、驚いたよ。谷本君、カンさんと面識があったんだね。1年生って同じ班の4年生ですら面識あるかないかギリギリなのに、よその班でしょ?」
「それこそウチの班の先輩つてに紹介してもらったんすよ。源班って、インターフェイスの活動に出てるじゃないっすか。そこで知り合った青敬の連中がMVを作りたいっつって来たんすよ。で、朝霞さんに相談したら既存の曲だと権利関係が難しいんじゃないかって言って、曲作れる奴なら知ってるからって言って菅野さんを紹介してもらったんすよ」
「へえ、そういう繋がりがあったんだ。その曲って聞ける?」
「あっ、動画になってるっすよ。あんま映像をマジマジ見られんのは恥ずかしいんで、曲だけ聞いてください」
今村さんに頼んでいたのは、今までに菅野さんが書いたという曲の楽譜を見せてもらうことだ。こないだ卒業した菅野さんは、1年の頃からディレクターとして、キーボーディストとしてステージ用の曲を大量に書き下ろしていたそうだ。
同期の朝霞さんに聞いても元カノのマリンさんに聞いてもあの人は変人だと言っていたから、すげー変な人だったことには違いないだろう。犬猿の仲の2人が同じ見方をしてるんだから。でも、書き上げる曲は物凄いという評価も一致している。ただ、朝霞さんに関しては作業スタンスやその量を変だとお前が言うなとは戸田さん談。
「さすがカンさんって感じのいい曲だけど、それをやってる谷本君も上手いね」
「あざっす。でも、すげー難しかったっす」
「そうなんだよ。カンさんの曲って難しいのも結構あってさ。ステージの曲は誰でも出来るようなのもあるんだけど、バンドの曲とかは聞く人が聞くとすげー気持ち悪いんだって」
「見た目以上にテクを要求されてんなーってヤツすか」
「それ。まあ、カンさんが卒業した今となってはある曲をやっていくか自分たちで頑張って曲を書いてみるか……はたまた音楽を交えたステージの新たなスタイルを模索するしかないからね。新たなスタイルの模索っていうのは、この場限りの班だからこそ挑みやすいなと思って」
「……確かに、同じメンバーだとそれまでと同じやり方にこだわっちまいそうっすもんね」
先輩たちの話によれば、かつての朝霞班は毎回全然違うことをやってたっていうけど、戸田班や他の班ではやることと言うか、班のカラーが決まり切っているそうだ。だから新しいことをやろうという気にはなかなかならないし、仮に思いついてもそれを実際にやることはほとんどない。
「ちょっと、俺も今村班式のやり方をいろいろ吸収して源班に帰るっす。プロデューサーとしてなりふり構ってらんないっすからね」
「楽器があればちょっとした効果音くらいは探さなくても自分で作れるからね。時間の短縮にもなっていいと思うよ」
「その発想はなかったっす。単純に曲を弾くことにしか使ってなかったっすけど、そうか。効果音を作るっていう発想か。ステージだけじゃなくてラジオドラマにも使えそうだな」
「谷本君の機種はただのキーボードじゃなくてシンセサイザーでしょ? やろうと思えば何でも出来るよ。カンさんもシンセひとつでいろいろやってたし。あの人の曲を弾けるなら可能性はめちゃくちゃあると思うな」
そうか、俺のキーボードの性能をちゃんと知ることでステージやラジドラにも生きて来る可能性があるのか。ちょっと、研究してみる価値はあるな。
end.
++++
菅野班が小林班になって、その次はどうなった?と思った結果こうなった。来年度の星ヶ丘のお話でも出て来てほしい。いまむー楽器決まってないけど。
実際彩人は戸田班と小林班のどっちにしようかと悩んでいたしこっちの班のやり方も体験出来るのはいいのかも。もう源班ではあるんだけど
この時点では朝霞Pの台本を部のフォーマットに落とし込む仕事も結構出来てるのかな? Pさんの引き出しはどんなモンだったのやら
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ゴローさんが放送部でファンタジックフェスタに出ようと言い出して2ヶ月ほどが経とうとしていた。ステージに出たいと言った有志は気付けばそこそこ集まり、部で取る枠の上限に決めていた3時間でファンフェス事務局に申し込んだそうだ。
源班からは定例会や学業などで忙しいというマリンさん以外の全員が参加することになった。海月も最初はちょっと悩んでいたようだったけど、シノに相談した結果やってみようと吹っ切れた様子。俺ももちろん話を聞いた瞬間やると返事をした。
「谷本君、おはよう」
「おはようございます」
「ごめんね、プロデューサーなのにキーボード持って来てもらって」
「いえ、全然っす」
今回のステージでは、既存の班の枠には関係なくメンバーをシャッフルして作る即興の班でやっていくそうだ。新4年生の引退で十分な人員がいないところもあるし、他の班のやり方などを学んでさらなるレベルアップに繋げて欲しいとのこと。
所沢さん曰く、ゴローさんは考える事のレベルが普通の放送部員からは変にかけ離れているそうだ。「各パート1人ずついれば1時間くらいは普通に回せる」とか「予算は少ない物だと思っていた」などと言っては他の班長たちを困惑させるまでが班長会議での様式美と。
朝霞さんや戸田さんっていう、放送部の歴代班長たちの中でも特に異色の人たちに揉まれたゴローさんの常識が一般部員の常識とはかけ離れている。ファンフェスの件でも一般部員に受け入れられるようどう折り合いをつけるかが難しかったそうだ。
「はいこれ。今まで使ってた楽譜」
「あざっす。菅野さんの書いた曲の楽譜を見せてもらえるだけでも今回のステージに出て良かったっす」
「ゲンゴローが谷本君を俺に預けてくれたんだよね。音楽路線で行くならウチに面白い子がいるよって」
班のシャッフルで、俺は今村さんという2年生がリーダーになる班に決まった。この人は旧小林班からなる今村班の班長で、プロデューサーだ。と言うか、この班はPとかアナとか言うよりキーボードとかギターとか、楽器でパートを語る方がそれらしい。
集められたメンバーも見事に音楽をかじった人間ばかりだけど、さすがに寄せ集めの班では普段のようなライブ形式のステージにはしにくいとのこと。でも楽器を使うスタンスは崩さずにやっていきたいとは最初に宣言があった。
「でも、驚いたよ。谷本君、カンさんと面識があったんだね。1年生って同じ班の4年生ですら面識あるかないかギリギリなのに、よその班でしょ?」
「それこそウチの班の先輩つてに紹介してもらったんすよ。源班って、インターフェイスの活動に出てるじゃないっすか。そこで知り合った青敬の連中がMVを作りたいっつって来たんすよ。で、朝霞さんに相談したら既存の曲だと権利関係が難しいんじゃないかって言って、曲作れる奴なら知ってるからって言って菅野さんを紹介してもらったんすよ」
「へえ、そういう繋がりがあったんだ。その曲って聞ける?」
「あっ、動画になってるっすよ。あんま映像をマジマジ見られんのは恥ずかしいんで、曲だけ聞いてください」
今村さんに頼んでいたのは、今までに菅野さんが書いたという曲の楽譜を見せてもらうことだ。こないだ卒業した菅野さんは、1年の頃からディレクターとして、キーボーディストとしてステージ用の曲を大量に書き下ろしていたそうだ。
同期の朝霞さんに聞いても元カノのマリンさんに聞いてもあの人は変人だと言っていたから、すげー変な人だったことには違いないだろう。犬猿の仲の2人が同じ見方をしてるんだから。でも、書き上げる曲は物凄いという評価も一致している。ただ、朝霞さんに関しては作業スタンスやその量を変だとお前が言うなとは戸田さん談。
「さすがカンさんって感じのいい曲だけど、それをやってる谷本君も上手いね」
「あざっす。でも、すげー難しかったっす」
「そうなんだよ。カンさんの曲って難しいのも結構あってさ。ステージの曲は誰でも出来るようなのもあるんだけど、バンドの曲とかは聞く人が聞くとすげー気持ち悪いんだって」
「見た目以上にテクを要求されてんなーってヤツすか」
「それ。まあ、カンさんが卒業した今となってはある曲をやっていくか自分たちで頑張って曲を書いてみるか……はたまた音楽を交えたステージの新たなスタイルを模索するしかないからね。新たなスタイルの模索っていうのは、この場限りの班だからこそ挑みやすいなと思って」
「……確かに、同じメンバーだとそれまでと同じやり方にこだわっちまいそうっすもんね」
先輩たちの話によれば、かつての朝霞班は毎回全然違うことをやってたっていうけど、戸田班や他の班ではやることと言うか、班のカラーが決まり切っているそうだ。だから新しいことをやろうという気にはなかなかならないし、仮に思いついてもそれを実際にやることはほとんどない。
「ちょっと、俺も今村班式のやり方をいろいろ吸収して源班に帰るっす。プロデューサーとしてなりふり構ってらんないっすからね」
「楽器があればちょっとした効果音くらいは探さなくても自分で作れるからね。時間の短縮にもなっていいと思うよ」
「その発想はなかったっす。単純に曲を弾くことにしか使ってなかったっすけど、そうか。効果音を作るっていう発想か。ステージだけじゃなくてラジオドラマにも使えそうだな」
「谷本君の機種はただのキーボードじゃなくてシンセサイザーでしょ? やろうと思えば何でも出来るよ。カンさんもシンセひとつでいろいろやってたし。あの人の曲を弾けるなら可能性はめちゃくちゃあると思うな」
そうか、俺のキーボードの性能をちゃんと知ることでステージやラジドラにも生きて来る可能性があるのか。ちょっと、研究してみる価値はあるな。
end.
++++
菅野班が小林班になって、その次はどうなった?と思った結果こうなった。来年度の星ヶ丘のお話でも出て来てほしい。いまむー楽器決まってないけど。
実際彩人は戸田班と小林班のどっちにしようかと悩んでいたしこっちの班のやり方も体験出来るのはいいのかも。もう源班ではあるんだけど
この時点では朝霞Pの台本を部のフォーマットに落とし込む仕事も結構出来てるのかな? Pさんの引き出しはどんなモンだったのやら
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