2020(05)

■憧れの枠の中

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「シーノー! いるー? シーノー!」

 ピンポンピンポンとインターホンが何回も押されて、明らかに業者とかじゃねーなって感じのヤツ。つか、声的にくるみっぽいけど、来るなら事前に連絡くらいしとけってちゃんと言っとかねーと。

「いるけど、何だよ」
「あっシノいた! シノってご飯食べるでしょ? 白いご飯!」
「食うけど、炊く前の米でもくれんの?」
「惜っしー。今日の差し入れはお米じゃなくて、ごはんのおとも」
「ごはんのおとも?」
「ああ、くるるの友達ってアンタだったんだ。智也ってここに住んでたんだね」

 立ち話も難だしめんどくせーから上がってもらうことにして、詳しい話を聞く。くるみがわざわざ大学近くに来てるのも謎……でもないか、大学のジムでトレーニング続けてるんだとすれば。
 あと、コイツな。ゼミ合宿にいた、来須麻衣だっけ。コイツとくるみが一緒にいるのがよくわかんねーっていうな。学部も違うし共通点が何かあんのか? まあ、コミュ力あるから気が合えば一瞬なんだろうけど。

「へえ、シノとまいみぃちゃんってこれからゼミで一緒になるんだね。あっそうか。高木先輩のゼミの後輩ってことは、そうだよね! ちょっと考えればわかることだった!」
「つか、お前らはどこ繋がりなんだよ」
「アタシらはお互いが発信してるコンテンツのファン同士で、所謂オン友だね。オンライン上の友達」
「ああ、くるみのブログと? お前も何か動画投稿やってんだっけ」
「それで今日さ、まいみぃちゃんとコラボさせてもらって~! ついさっきまでその動画撮ってたの! 生あいまいみぃーを見れた上に、あたしも一緒にやらせてもらってー! ねえどうしようシノ、凄くない!? ねえ凄いよね! まいみぃチャンネルに出ちゃったの!」
「あ、えーと。よくわかんねーけど良かったな。うん」

 くるみのテンションが爆上げになっててよくわかんねーけど、そのコラボ動画ってヤツを撮影したのはくるみ的にはとにかくヤバかったと。つか、麻衣のチャンネルってそんなにすげーのか。

「それで、撮影に使った野菜でごはんのおとも作ったんだけど、量があるからどうしようって言ってたトコにくるるが「この近くに友達住んでるから」って言って現在に至る。まさか智也だとは思わなかったけど」
「ああそう。まあ、食えるモンならありがたくもらうわ。飯と合わせると美味いんだな?」
「そーね。ご飯と合わせる前提で濃いめの味付けにしてるから、単品ではむしろ食べにくいかも。あと、なるべく早めに食べきること」
「任せとけよ。食う量ならMBCC屈指の俺だぜ? MBCCで2番! いや、果林先輩が引退した今となっちゃ1番食うからな!」
「うんうん。シノならこれくらいペロリだよ」
「確かに合宿のときも結構食べてたし、くるるが言うならロスにならなくて済みそうかな。アタシ食品ロスを極力出したくないんだよ」
「わかる。だからスーパーとかでも多少割高でも使い切れる量しか買わねーもん。安くても捨てるのが一番勿体ないしな」
「智也アンタわかってんじゃん!」

 まあ、まだ俺の調理技術とかが追いついてないから適切な保存方法であーだこーだ出来てねーって可能性もあるんだけど、その辺はおいおいかな。技術が追いついてきたら1週間分の献立を組み立てて、とかもやってみたいとは思っている。

「つか何でごはんのおともって思ったけど、麻衣って確かお米同好会だっけか」
「そうそう。自分の菜園で育てた野菜を使ったごはんのおともを作るの担当ね。アタシもこの辺に住んでるし畑も近いじゃんね。だからくるるに来てもらったんだよ」
「なるほどな」
「あたしさっきからちょっと気になってたんだけど、シノとまいみぃちゃんて名前で呼び合うほど仲がいいんだね」
「だってササキ2人いるっしょ? 智也か陸かって区別するしかないじゃん。まさか茶髪の方とか背高い方って呼ぶワケにもいかんでしょ」
「それがサークルになるとササキが3人になるんだよなあ」
「は!? まだ増えるの!? どーやって区別してんの!?」
「ササはよくある佐々木だからササ、俺が篠に木だからシノ、もう1人が佐崎だからサキって」
「はあ。アンタ教授からもシノキ君て呼ばれてんじゃん。絶対ゼミの同期も本名知らないよ」
「まあ、それはそれとしてって感じ? 昔から一発でササキって呼ばれねーから慣れてるし悟ってもいるっていう」
「あっそう。アンタがシノの方が良くてもアタシは智也って呼び続けるわ。アタシがわかんなくなるから」
「それは任せる」

 名前で言えば来須ってのも結構珍しい名前じゃねーかなって思うけど、珍しいからこそ一発で覚えられるのかもしれない。ササキだもんなー。よくある響きの名前だもんな。珍しくも何ともねーもんな。

「そう言えばくるみってゼミとかって決まってんの?」
「うん。あたしも2年生から。ずーっと憧れだった商品開発系のゼミに入ることに決まってます! もー、倍率高かったから受かるかなって不安だったけど通っててー!」
「よかったじゃんな! 人気ゼミに入れるかなって不安になる気持ちは誰よりもわかるぜくるみ!」
「は? 実質無競争当選のMBCCのミキサーが何か言ってんだけど? くるるの気持ちがよりわかるのは一般人のアタシですけど?」
「バカ麻衣お前、いくらミキサーでも俺は! 成績が良くねーんだ!」
「ああ、そういう」
「シノ、秋学期の成績はどうだった? ササと先輩たちに顔向け出来そう?」
「……えーと。せっかくだし、飯でも炊くかなー」

 強いて言えば、取りこぼしがあるとか必修落としたとかっていう風に絶望的な悪さではなかったんだけど、めちゃくちゃいいってワケでもなかったから、一言で言えば中途半端っていう。良くもないしオチも付かないし、飯に逃げるしかねーよなあ。

「あっ、ご飯炊くならあたしもまいみぃちゃんのおかずで食べたい!」
「はいはい。くるみの分も炊けばいいんだな。麻衣、お前はどーすんだよ」
「そしたらごちそうになろうかな」


end.


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コラボ動画なるものを撮影していたらしいくるちゃんとまいみぃです。くるちゃんは大興奮の様子。どんな動画になったのかな?
コムギハイツに住んでいるとこんな感じで人が突然押し掛けてくるとかもよくあることになります。生活リズムを把握されると増えてくるぞ
それから、MBCCのササキ問題。前に高崎も突っ込んでたけど、それが真理。3人ササキがいるのにどうして全員名字から取ってんだ。

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