2020(05)

■ジリジリの社会訓練

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「定例会でーす。えっと、向島さんからお知らせがあるんだっけ?」
「はいッ! えっとですね、ウチに新しく入った松兄が定例会にも参加することになったので、よろしくお願いしますッ」
「どうもー、松兄こと松居奏多でーす。ただ今の紹介の通りなのでー、よろしくお願いしまぁーす」

 定例会の会議の冒頭、そう紹介があって奏多が定例会に参加するということになったらしい。対策委員の方には春風が参加することになったから、MMPの新メンバーもそれぞれインターフェイスの組織で活動していくようだ。
 まあ、実は春風から聞いてたんだけど。カノンが定例会寄りになるから対策委員では自分が向島の実質的な代表としてしっかりしないとと責任感の塊のようなことを言っていたけど、奏多はさすがと言うか何と言うか。ラフだなあ。

「えっと、松兄はミキサーだっけ?」
「そうですね~。そういうコトだし、同期としてサキちーよろしくゥ」
「え…?」
「ちょっとサキちーツレないなあ! 俺ら初対面ってワケでもないっしょ!? いい加減慣れて欲しーんだけど!?」
「……あ、はい。どうも」

 これは俺じゃなくてもわかるぞ。明らかにサキが困惑している。つか今まで何回か顔を合わせてたと思うんだけど、サキちーなんていう呼び方してなかっただろ。何で急に変えてきた? あっ、サキの殻が閉じた。

「対策委員にはとりぃに加入してもらったし、ウチの新メンバーそれぞれに向いてそうな方に入ってもらったつもりではあるんだーッ」
「そうなんだ。向島さんは人数が増えて活気が戻ってきたねー。うんうん、このキャラの濃さが向島さんって感じだねー。これから1年生も勧誘して行かなきゃだし、楽しみだね奈々」
「ホントにッ! 菜月先輩が提唱されたゲッティング☆ガールの魂は継承しつつ、来る者は拒まず去る者は全力で引き留めにかかる精神っす、うっすうっす」
「えっと、松兄が定例会に来るってことはカノンはどうするの? 対策委員寄りになるのかな、それとも緑大さんみたく2人体制?」
「2人体制っすね。奏多コイツ、一応情報系で成績もいいしシステム系のことに強いんで、サキと一緒に機材周りのことをいい感じにしてくれればなー的な? で、俺がすがやんポジでやってく感じっす」

 あっ、サキがあからさまに「コイツと一緒にやるの?」という顔をしている! いや、言って今までは別にそんなに引いてる感じでも仲が悪そうな感じでもなかったけど、絶対さっきのサキちー呼びが引っかかってるヤツだな。
 純粋なミキサーがサキしかいない俺たちの代だから、ミキサーが増えてくれるのは俺からすればただただ頼もしい。ただ、サキからするとめんどくせーと思うのかな。基本やると決めたら何でも1人でパーッとやっちまってる奴だし。
 サキに任されている主な仕事というのは、インターフェイスの機材周りのこと……たとえばMDストックの音声ファイル化やそれに伴うストックリストのデジタル化とその検索システムの開発っていう風に聞いている。任期の2年かけてじっくりやってくれって。
 サキは1人でやるものだと覚悟を決めてもう取りかかってたから、今更誰かと話し合うことが出来るのかとも思う。しかも、たった今のサキちー呼びで完全に警戒感しかなくなってる奏多相手にだ。……やっぱ俺が間に入ることになんのかな。

「すがやん」
「どうしたサキ」
「……この人、前からこんなだっけ」
「多分違った。でも今までが様子見でこれが素の可能性は全然ある」
「どうせ情報系なら春風が良かった……」
「あはは……や、奏多も悪い奴じゃないんだぜ?」
「えっ、サキちー何でそんながっくり来てんの!? つかぶっちゃけ春風より俺の方がこーゆーの得意だからなー?」
「人としての相性の問題」
「あっそう。でも、世の中好きな奴とだけ接してりゃいーワケでもないからね。大学はそれで良くても働き出したらそーはいかねーのよ。サキちー、俺で社会訓練しなよ。悪いようにはしないからさっ」

 あっ、サキがわざとらしくドデカい溜め息を吐いて呆れてますアピールをしている! これ以上言葉は要らないと言わんばかりだ!

「……それで、プログラムとかが得意って自称してるけど、どれくらい出来るの」
「今の手持ちの環境じゃあんま見せてあげらんないけど、まーいろいろやってんね。入院してたときとかヒマ過ぎて勉強かアプリ作るしかやることなかったし。サキちー今まで半年間ほぼ毎日コードばっか組んでたことってそうそうないっしょ? ブロンズだけどオラクルマスターも取ってるし、応用情報も持ってんのよ俺。浪人中もヒマだったから」
「え、意外にやるね」
「そーでしょ!? いやー、やっぱ資格って能力をアピールしやすい!」
「オラクルマスター持ってるってことはSQLもある程度わかってるってことだよね。それはちょっと頼りになるなあ」
「そーなのよ。ムダにサキちーより2年長く生きてねーのよ」

 本来星大レベルのアタマしてんのに春風を見守るためだけに向島大学にランクを落としてるヤツだもんなあ。でも、持ってる資格を並べるだけでサキもちょっと警戒を解いてるな。そうだよな。デキる奴ならサキもそれ相応の態度でいてくれるはずなんだよ。

「これから奏多とチームを組むのはわかった。でもその呼び方はやめてくれない?」
「やだ」

 これがデコボココンビってヤツなんだろうな。でもこの2人にかかる期待はめちゃくちゃ大きいんだ。何てったって、これから変わっていくインターフェイスの、新しい仕組み作りってヤツの最先端だもんな!


end.


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多分、新メンバー2人を対策委員や定例会に割り振るようカノンに勧めたのは奈々。兼任はしんどいぞ~っつってね。
ここで新たにサキと奏多っていうチームが結成されたワケだけど、サキは基本的に奏多が苦手そう。能力は認めつつなんだろうけど。
大好きなサキ君のピンチ(?)にそれを恐らく向かい側とかの星ヶ丘の席から見ていたであろう彩人はどうする!w

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