2020(05)
■広い世界の超空洞
＋＋＋＋
「へえ、この子が向島に新しく加入した子で？ すがやんの彼女」
「果林先輩、こっちの事情で出て来てもらってあざっす」
「ううん、ごはんのお誘いでしょ？ 出て来るに決まってるじゃん」
「高木先輩も中継役ありがとうございます」
「まあ、ワンクッションあった方がいいよね」
すがやんから連絡が入って、一緒にごはんを食べに行くことになった。そして改めて紹介される実物の彼女。話にはチラッと聞いてたんだけどね。その子が、俗に四次元胃袋と呼ばれるアタシの食べっぷりに興味があるとかで誘われたんだよね。
と言うか、こないだの初心者講習会の現場にいたはずだからアタシのことを見たことくらいはあるとタカちゃんからツッコミが入って思い出す。アナ講習までやっといて１人１人のことにまで全然気が回んなかったわ。
一通り自己紹介が済んで、すがやんの車に乗り込む。そしてやって来たのは向島大学近くの“たなべ”っていうお店。めん処って書いてるからうどんとかそばが美味しいのかな？ 麺類か～。３、４人前くらいは頼んでいいかなあ？
「わあ、久し振りだな」
「高木先輩はサキとくるみと来て以来っすもんね」
「そうだね」
「あ、ここなんだ！ すがやんに声かけようって言って結局今までずるずる来ちゃったよ」
「春風は来たことある？」
「いえ、初めてですね」
店に入ると店主のおやっさんみたいな人が威勢よく出迎えてくれる。壁という壁には客として来てる学生の写真がモザイクアートみたいに貼ってあって、学生に親しまれてるお店って感じ。ここまで写真ばっかりだと何が何だかわかんないわ。
「果林先輩が食うべきなのは、この満腹セットっす。MMPじゃ登竜門なんすよ」
「ほほーう。すがやん、アタシを試そうと」
「いや、食い切るのはわかってるっす。ちなみに俺は結構ギリっす」
「まあ、すがやんは普通レベルだもんね。野坂はどう？」
「野坂先輩は楽勝っす」
「じゃアタシも楽勝か。とりあえずこれを頼もうかな。これ、頼み方は？」
「うどんかそばか、それの温冷を選んでください」
「今の季節ならまだ温かいうどんかな」
「私もこの満腹セットを食べようかな」
タカちゃんはなっち先輩も大好きだっていうチキンカツ鍋定食を、すがやんはチキンカツ定食を頼むことになった。店主のおやっさんからは女子が満腹なのに男子はどうしたと煽られてるけど、身の程は弁えているとの返事。そんなに多いの？ 楽しみ～。
「えっと、春風も普通に満腹セットを頼んでるけど、結構食べる方なの？」
「一般的な女子よりは食べる方です。あの、レナと話が合って仲良くさせてもらってるんですが」
「あ、そうなんだ。良かったね友達出来て」
「はい。そうなんですが、一緒に食事に行くとレナの頼む物や食べ方が、これぞまさしく女子の食べ方という感じで羨ましくもありつつ、本当はもう少し食べたいと思っているのですが大盛りやデザートを追加したりするのが少し恥ずかしくて。きちんと噛んで食べてもいるのですが……」
「レナも別にそんなことで引きゃしねーのに。MMPの人だって、結局あの焼肉の後でだって誰も引いてなかったじゃんか」
「まあねえ。食べたいなら食べろがアタシのモットーだから、我慢しないで食べたらいいのにとしか言えないよね」
「結局MMPの３年生追いコンでは遠慮せずにたくさんお肉をいただいたのですが、私より小柄なのに野坂先輩を圧倒する胃袋を持つ方がいらっしゃるという話を聞いて、ぜひ一緒に食事をしたいと徹平くんに無理を言って今日の機会を設けてもらったのです。私も、食べたいように食べる勇気を持って、一歩踏み出してみたいのです！」
「へえ、いい心意気じゃん。応援するしかないですよねー」
――とか何とか話しているとみんなそれぞれ頼んだ定食セットがやってきた。満腹セットというその名に恥じない大きめの定食。写真じゃ実際の大きさがわかんなかったけど、これは結構いいじゃんね。790円はコスパ良さそう。
「タカちゃんのカツ鍋も美味しそうだねえ」
「ご飯との相性が最高なんですよ。果林先輩、一切れ食べます？」
「そしたらアタシのチキンカツと交換ね。うん！ この味はオンライスだわ。あっでも煮ないカツもおいしっ！」
「ん～！ チキンカツがとても美味しいです！ うどんもお出汁が最高ですね！」
「うわー、春風がご飯食べてる顔が最高に可愛い。アタシも引き摺られてもっと食べたくなっちゃうなあ。すがやん困ったねえ、ご飯食べる度に惚れ直すよこれは」
「果林先輩、その話MMPの方でも擦られてんすよ。肉食ってる春風に見惚れてんだろっつって」
「ありゃ。そうでしたか。でもごはん食べる時はいちいち取り繕ってもいられないし、一番素が出る時だと思うからね。一緒にご飯食べてて楽しければ、その人とは上手くやれる。それがアタシの持論」
「春風、レナはああ見えて結構ワイルドなところがある子だし、女子らしさとかそういう言葉や固定概念みたいなことが一番嫌いなんだよ。だから素のままでいていいと思うよ。話が合ってるってことは、ロボット愛が強いレナの素も見てるはずだし」
「確かに、そう言われればそうですね。今度レナをステーキハウスに誘ってみようと思います。果林先輩、高木先輩、助言をありがとうございます」
いえいえ。そうタカちゃんと声が揃えば、それが食事再開の合図になる。って言うか普通に美味しいから手が止まんないしまだイケちゃうね。楽しくない食事の場だと、まだ食べられても止めちゃうもんね。ヒゲに捕まった時とか。
「すがやん、サキは単品で何を頼んでたって？」
「牛すじうどんっす。これはセットになってないんで単品で食うしかないみたいっすね」
「じゃ牛すじうどん食べよーっと」
「え、果林先輩まだ食べるんすか？」
「満腹セットがごはんで牛すじうどんが汁物ね。親父さーん、牛すじうどんとカレーライス追加でお願いしまーす！」
「増えてるし！」
「徹平くん、この近くにもカフェがあるんですか？ 良ければ食後にデザートなど、食べに行きたいのですが……」
end.
＋＋＋＋
春風が一歩踏み出す勇気を持ってみようという回。まさか四次元胃袋に怯えるではなく励まされる人が出ようとは。
果林と春風は初対面だね！と思ってたんだけど、春の初心者講習会あったやんと思ってナレベでTKGに教えてもらいました。
満腹セットを食べた後でデザートが食べたいなあと言えちゃう春風、すがやんにもちょっとずつ遠慮しなくなってきてるね！
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「へえ、この子が向島に新しく加入した子で？ すがやんの彼女」
「果林先輩、こっちの事情で出て来てもらってあざっす」
「ううん、ごはんのお誘いでしょ？ 出て来るに決まってるじゃん」
「高木先輩も中継役ありがとうございます」
「まあ、ワンクッションあった方がいいよね」
すがやんから連絡が入って、一緒にごはんを食べに行くことになった。そして改めて紹介される実物の彼女。話にはチラッと聞いてたんだけどね。その子が、俗に四次元胃袋と呼ばれるアタシの食べっぷりに興味があるとかで誘われたんだよね。
と言うか、こないだの初心者講習会の現場にいたはずだからアタシのことを見たことくらいはあるとタカちゃんからツッコミが入って思い出す。アナ講習までやっといて１人１人のことにまで全然気が回んなかったわ。
一通り自己紹介が済んで、すがやんの車に乗り込む。そしてやって来たのは向島大学近くの“たなべ”っていうお店。めん処って書いてるからうどんとかそばが美味しいのかな？ 麺類か～。３、４人前くらいは頼んでいいかなあ？
「わあ、久し振りだな」
「高木先輩はサキとくるみと来て以来っすもんね」
「そうだね」
「あ、ここなんだ！ すがやんに声かけようって言って結局今までずるずる来ちゃったよ」
「春風は来たことある？」
「いえ、初めてですね」
店に入ると店主のおやっさんみたいな人が威勢よく出迎えてくれる。壁という壁には客として来てる学生の写真がモザイクアートみたいに貼ってあって、学生に親しまれてるお店って感じ。ここまで写真ばっかりだと何が何だかわかんないわ。
「果林先輩が食うべきなのは、この満腹セットっす。MMPじゃ登竜門なんすよ」
「ほほーう。すがやん、アタシを試そうと」
「いや、食い切るのはわかってるっす。ちなみに俺は結構ギリっす」
「まあ、すがやんは普通レベルだもんね。野坂はどう？」
「野坂先輩は楽勝っす」
「じゃアタシも楽勝か。とりあえずこれを頼もうかな。これ、頼み方は？」
「うどんかそばか、それの温冷を選んでください」
「今の季節ならまだ温かいうどんかな」
「私もこの満腹セットを食べようかな」
タカちゃんはなっち先輩も大好きだっていうチキンカツ鍋定食を、すがやんはチキンカツ定食を頼むことになった。店主のおやっさんからは女子が満腹なのに男子はどうしたと煽られてるけど、身の程は弁えているとの返事。そんなに多いの？ 楽しみ～。
「えっと、春風も普通に満腹セットを頼んでるけど、結構食べる方なの？」
「一般的な女子よりは食べる方です。あの、レナと話が合って仲良くさせてもらってるんですが」
「あ、そうなんだ。良かったね友達出来て」
「はい。そうなんですが、一緒に食事に行くとレナの頼む物や食べ方が、これぞまさしく女子の食べ方という感じで羨ましくもありつつ、本当はもう少し食べたいと思っているのですが大盛りやデザートを追加したりするのが少し恥ずかしくて。きちんと噛んで食べてもいるのですが……」
「レナも別にそんなことで引きゃしねーのに。MMPの人だって、結局あの焼肉の後でだって誰も引いてなかったじゃんか」
「まあねえ。食べたいなら食べろがアタシのモットーだから、我慢しないで食べたらいいのにとしか言えないよね」
「結局MMPの３年生追いコンでは遠慮せずにたくさんお肉をいただいたのですが、私より小柄なのに野坂先輩を圧倒する胃袋を持つ方がいらっしゃるという話を聞いて、ぜひ一緒に食事をしたいと徹平くんに無理を言って今日の機会を設けてもらったのです。私も、食べたいように食べる勇気を持って、一歩踏み出してみたいのです！」
「へえ、いい心意気じゃん。応援するしかないですよねー」
――とか何とか話しているとみんなそれぞれ頼んだ定食セットがやってきた。満腹セットというその名に恥じない大きめの定食。写真じゃ実際の大きさがわかんなかったけど、これは結構いいじゃんね。790円はコスパ良さそう。
「タカちゃんのカツ鍋も美味しそうだねえ」
「ご飯との相性が最高なんですよ。果林先輩、一切れ食べます？」
「そしたらアタシのチキンカツと交換ね。うん！ この味はオンライスだわ。あっでも煮ないカツもおいしっ！」
「ん～！ チキンカツがとても美味しいです！ うどんもお出汁が最高ですね！」
「うわー、春風がご飯食べてる顔が最高に可愛い。アタシも引き摺られてもっと食べたくなっちゃうなあ。すがやん困ったねえ、ご飯食べる度に惚れ直すよこれは」
「果林先輩、その話MMPの方でも擦られてんすよ。肉食ってる春風に見惚れてんだろっつって」
「ありゃ。そうでしたか。でもごはん食べる時はいちいち取り繕ってもいられないし、一番素が出る時だと思うからね。一緒にご飯食べてて楽しければ、その人とは上手くやれる。それがアタシの持論」
「春風、レナはああ見えて結構ワイルドなところがある子だし、女子らしさとかそういう言葉や固定概念みたいなことが一番嫌いなんだよ。だから素のままでいていいと思うよ。話が合ってるってことは、ロボット愛が強いレナの素も見てるはずだし」
「確かに、そう言われればそうですね。今度レナをステーキハウスに誘ってみようと思います。果林先輩、高木先輩、助言をありがとうございます」
いえいえ。そうタカちゃんと声が揃えば、それが食事再開の合図になる。って言うか普通に美味しいから手が止まんないしまだイケちゃうね。楽しくない食事の場だと、まだ食べられても止めちゃうもんね。ヒゲに捕まった時とか。
「すがやん、サキは単品で何を頼んでたって？」
「牛すじうどんっす。これはセットになってないんで単品で食うしかないみたいっすね」
「じゃ牛すじうどん食べよーっと」
「え、果林先輩まだ食べるんすか？」
「満腹セットがごはんで牛すじうどんが汁物ね。親父さーん、牛すじうどんとカレーライス追加でお願いしまーす！」
「増えてるし！」
「徹平くん、この近くにもカフェがあるんですか？ 良ければ食後にデザートなど、食べに行きたいのですが……」
end.
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春風が一歩踏み出す勇気を持ってみようという回。まさか四次元胃袋に怯えるではなく励まされる人が出ようとは。
果林と春風は初対面だね！と思ってたんだけど、春の初心者講習会あったやんと思ってナレベでTKGに教えてもらいました。
満腹セットを食べた後でデザートが食べたいなあと言えちゃう春風、すがやんにもちょっとずつ遠慮しなくなってきてるね！
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