2020(05)

■Heart's North Star

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「――というワケで、この2人がMMPの新メンバーっす! はい自己紹介して」
「情報科学部情報メディア学科の鳥居春風といいます。アナウンサーです」
「同じく情報の松居奏多。ミキサーっす」

 卒業式が終わって、昼は会食、夜になれば卒コンとなかなかに忙しい。振り袖袴姿の菜月先輩はそれはもう素敵で、これ以上ないほど眼福だったんだけれども。しかしながらそれはしばらくの別れという現実を突きつけて来るんだよなあ。
 夜の卒コンには、新しくMMPに入った春風と奏多も参加することになっていた。と言うか俺を除く3年生ともここで初対面になる。明後日には一応3年生追いコンという行事を開いてもらえるんだけども、追いコン兼新歓コンパ的な会になったそうだ。

「ん、美男美女じゃないか。良かったね奈々、この時期と言えゲッティングガールが成功して」
「もう、ホントですよッ! 圭斗先輩と菜月先輩が卒業しちゃいますけど、美男美女成分はこの2人で補充ですよッ! ねえ野坂先輩ッ! 松兄も結構なイケメンですよねッ!」
「間違いない。背も高いし体つきもいいし。気だるげな流し目の色気は圭斗先輩の微笑みの破壊力とも並ぶ――」
「まーた始まったぞ」

 4年生も3年生も、この時期に1年生が入ることなんかあるんだなあと2人をまじまじとみつつも歓迎している。元いた団体でも4年生を送るこういう行事があるんじゃないのかとは聞かれていたけど、追いコンや卒業式後に挨拶はしてあったそうだ。

「すみません、4年生の先輩を送り出す会に面識もない私たちが参加させてもらって。私が無理を言ってしまったばっかりに」
「ん、いいんじゃないかな」
「うんうん」
「アナウンサーとして、ラジオとは何たるかという物をイメージするのに野坂先輩から菜月先輩の番組を聞かせていただきました。そのお礼とご挨拶をしたくて。菜月先輩がアナウンサーとして目指す目標です。これからも私の心の北極星として行く先を照らし続けていただければと思います」
「ちょっ、固い固い。うちはそんな大層なものじゃないし」
「いえ! 星空をテーマにした番組をいくつか聞かせていただいて、こんな風に話を届けることが出来るんだと感銘を受けました! いつかお会いしたいと思っていたのです。それが叶ってとても嬉しく思っていて」
「はあ。えーと、お役に立てているのなら何より」
「菜月さん、野坂が1人増えたみたいだね」
「全くだ。ノサカと仲が良いという話は聞いてたけど、まさかこんな所まで似なくていいんだけどな」
「ん、いつ聞いたんだい?」
「こないだ緑風で飲んでたんだ」
「野坂君、詳しい話をいいかな?」

 圭斗先輩に捕まって、始まるのは尋問だ。それに対しては春風との話で緑風の話題になってと事実を言いつつ軽くスルー。ちょっと2人で飲んだからって何かあるはずないじゃないか、俺だぞ。理性を褒められるどころか攻める気はあるのかと怒られましたよね。
 その間にも春風は菜月先輩と話をしているようだった。菜月先輩も星空だけじゃなくて機械類がお好きな方だから、嗜好としてはまあまあ似通ってるんだよな。尤も、菜月先輩はあまり専門的な知識はなく、単純に何かいいなってレベルで好きなだけなんだけど。

「えっと、春風だっけ。僕は三井裕っていう4年で、インターフェイスで一番上手いアナウンサーだったんだよ。もう少しMMPに入るのが早ければアナウンサーとしてのいろんなことを僕が手取り足取り教えてあげられたんだけど」
「それは残念です」
「春風、三井は無視でいいぞ。基本ホラ吹きだし、目が合った女の子に惚れて付き纏う奴だから」
「そんなストーカーみたいなことしないよ。菜月は口が悪いなあ」
「うちは事実しか言ってない。現に今だって春風を狙ってるじゃないか。春風、危ないからこっちおいで」
「あ、はい」
「そんな~!」

 これは何だかんだで菜月先輩もこの時期のゲッティング☆ガールを喜んでいますね? 春風が自分に懐いているのをいいことに、これは既に囲っている。緑風で仰ってたもんな。慎ましやかな雰囲気で透明感があってキレイと可愛いを併せ持つ子だと彼氏がべた褒めしていたと言ったら「そんなに可愛い子ならうちも会うのが楽しみだ」と。

「大体この子は彼氏持ちだ。残念だったな」
「べっ、別にそんな下心とかないからね!」
「お~っ、菜月さ~ん、情報が早いっすね~。相手はご存知です?」
「緑ヶ丘の留学生の子だろ? すがやんだっけ」
「さすがっすね~」
「えっ、誰!? てか留学生!? って何!?」
「超スピード展開でラブラブとは」
「いや、菜月、留学生って何? それで何で菜月はそれを知ってるの!?」
「あ、あの……菜月先輩、ちなみにその話は誰から……」
「春風のことを知ってて4年生とも繋がってる人間が誰かを考えてもらえれば」
「野坂先輩ですね!」

 マズい。春風が怒っている。でも、どうして自分が緑風にいるのかという話をするためには仕方なかったんだ。いや、仕方なくないか。単純に話題としてとっつきやすかったんだよな。

「野坂先輩!」
「や、ゴメンて。緑風で新メンバーの話になってさ。その流れで」
「……まあ、野坂先輩には天文台のパンフレットを頂いたり素敵なお土産話を聞かせていただきましたので、今回のことは不問とします」
「あざっす」
「でも、私も緑風に行ってみたいですね。天文台での観測会にも参加してみたいですし、クレープも食べたいです」
「緑風に行くの自体はそこまでハードル高くないけど、天文台に行くのは車があるといいから、それこそすがやんに頼んでみたらいいんじゃないかと」
「菜月先輩にも緑風のおすすめスポットなどを教えていただきたいです」
「うちが好きなのは帆船かな。船の中を見学出来るんだ。港町にあるんだけど。恋人の聖地でもある。それはともかく船と海はいいぞ。あと、春はチューリップ祭りがあって」
「海もお花もいいですね」
「菜月先輩、次回はぜひその帆船を見に連れて行ってもらえませんか?」
「……覚えてたらな」


end.


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MMPの卒業式後の飲み会ですね。ここでノサカ以外の3年生と4年生に新メンバーお披露目となります。これは春に向けて盛り上がるね!
フェーズ2ではなかなか出番のない三井サン、ここでお久し振り。この人はキャラぶれがないので逆にやりやすいなあ。就職決まったのかしら。
春風の方向性がちょっとわかったかもしれない。女子版のノサカ。仲良くなり切ってない人や先輩には少し固いのね。

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