2020(05)

■束の間の奇跡

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「おー! すげー! キレイな部屋じゃんか!」
「これが足の踏み場もない惨状になるのもさほど遠くはなかろう」

 社会人になるのをきっかけに引っ越したという朝霞の部屋にカンとリン君の3人で押し掛ける。確かに今のところは綺麗にしているけど、リン君の心配は多分現実のものになりそうだ。でも、前の部屋を見たことがある人間ならまず思うよなあ。
 玄関から入ってすぐ台所があって、コンロは2口、トイレとバスは別。部屋に進んでいくと、ロフトみたいな空間が見えるんだ。曰く、日常生活は下で、実況などの活動は上の空間でやるという風に分けているらしい。

「お茶なら出せるけど欲しい奴いる?」
「ではもらおう」
「あっ、俺も俺もー」
「俺も欲しいな」
「わかった、全員な」

 部屋は汚いのが基本だけど、それでも朝霞の部屋に行くと季節に応じた温度の緑茶を出してもらえる辺り、ちゃんとしてるなと思う。今の季節はティーバッグで淹れる熱いお茶だ。それを見越して人数分のどら焼きを買ってきた。

「でも、広くなったよなー。この部屋何畳?」
「下が6畳で上が5畳だな」
「前の部屋は?」
「8畳」
「あれっ、狭かったわ。何で広く感じたんだろ」
「現段階では物が少ないからだろう」
「それか」

 現段階では物が少ない。それに尽きるんだろうな。以前の部屋を埋め尽くしていたCDやDVDのうち、ネット配信サービスとかで何とか出来る物は実家に戻したそうだ。そのおかげで今は物が少ないけど、増やすために間引いたという感じなのだろう。
 そして俺たちの興味は下の生活空間ではなく、上のロフトに移る。実況をしたりするスペースにしたそうだけど、どんな風になっているのかと。この空間だとさすがにデスクとチェアというワケにはいかないから、ローテーブルだ。
 ローテーブルにパソコンが置かれていて、壁際には防音用の段ボールブースとギターが置かれている。この場所であれば仮に実写配信をするにしても壁が白いし“現状は”さほど気遣う必要はなさそうだ。朝霞のことだし、すぐ汚くしそうだけど。

「つかお前の座椅子って座り心地いいよな」
「長時間座る物だから、グレードは上げておかないとだろ」
「一理あるな。下の座椅子が元々使っていた物だろう。上の座椅子は新調したのか」
「そうだね。元々使ってるヤツが結構馴染んでるしいい感じだから、同じのをもう1つ買ったんだ。何か、引っ越し祝いって言って京川さんが「これで好きな家財道具買いなよ」ってお金くれたんだよ」
「マジかよ。キョージュアイツ太っ腹だな」
「いや、でもグループの通帳から出てるらしいそれをさすがに貰えないだろ。遠慮してたんだけど堂々巡りだし。結局それはありがたくいただいて、実況に使いそうな物を買うことにしたんだ」
「で、座椅子と」

 朝霞が気に入っているという座椅子にカンは飛び乗って座り心地を確認しているけど、本当にずっと座っていられるらしい。結構いい座椅子なんだな。でも、自分の形ってあるだろうしカンに座られると違和感が出ないのかな。

「ああ、朝霞に引っ越し祝いを渡す話は俺はプロさんから事前に聞いてたんだけどさ」
「えっ、スガ! 聞いてたのかよ!」
「USDXの通帳を触る機会が多いのはキョージュに次いでスガノだろう。金の話なら相談のひとつくらいあって然るべきだ」
「京川さん何か言ってた?」
「お前の配信で貰ってる投げ銭はお前に還元しとこう、的な話だった」

 朝霞はUSDXのサブチャンネルで結構生配信をやっていて、そこで投げ銭をちょこちょこいただいている。サブチャンネルの使い方はメインチャンネルに出すまでもない動画をメインに上げる予定だったけど、今では配信が主になりつつある。

「サブチャンを私物化してる感がちょっと気になってるんだけど、今まで通りやってて大丈夫かな」
「それは問題ないって」
「そうか、よかった。俺さ、ストーリーとかを考察するようなゲームとか、1人で進めていくようなゲームをやりたいって思っててさ。個人チャンネルを作ってそこでやった方がいいかなと思ってたけど、USDXのサブチャンを使っていいならそこでやるわ」
「――と言うか、プロさん的にはUSDXというグループを個人活動ででも動かしてたいみたいだから、やりたいことがあるならサブチャンを使ってくれって」
「それじゃあ、俺が既存の曲のリミックスを配信するとかも?」
「いいんじゃないか?」
「いいね~」

 4月になると俺たち4人は環境が変わるし全員集まることが出来なくなるかもしれない。だから、個人単位ででもやりたいことがある人はガンガンやってくれ、というスタンスのようだ。個人単位の動画で思い出される代表的な物はソルツミだ。

「あ、このまま座ってると座椅子にケツくっついちまうな。朝霞ー、そのクッション貸してー」
「どうぞ」
「あっ、これもいいじゃん」
「ちなみにこの中にはお客さん用の布団が詰めてある。例えば、お前たちがここで泊まってくわーってなったときにここから開くと掛け布団が出て来る」
「敷布団は?」
「ない」
「かてーよ!」

 前の部屋には客人用の布団など用意してなかったそうだけど、星港市内であれば溜まり場になる可能性もあると思って簡単な布団を用意したそうだ。まあ、俺たちはすぐにでもその恩恵に与りそうだ。いや、俺たちを想定としているのか。

「カンノ、この部屋で寝る気ならお前がマットレスや小さなカーペットなどを持ち込むべきではないのか」
「えっ、俺がかよ! 実費で!?」
「そうそうグループの金をちょこちょこ溶かすワケにはいかんのだぞ」
「そうやって持ち込むとこの部屋に物が増えて朝霞が片付けられなくなるんだろうなあ」


end.


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すっかりUSDXの間でも片付けの出来ない子扱いの朝霞Pです。今はまだ奇跡的に綺麗な部屋を保っているのだけど、時間の問題ね
みんないる実写動画は基本プロ氏宅で撮ってるけど、多分そのうち朝霞Pの部屋のロフトが撮影場所になってるんだろうなあ。
グループ的には個人活動であろうがコンスタントに何らかの動きがある方が大事で、配信やりたいなあって言ってくれてるならやってもらった方がいいんでしょう。

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