2020(05)
■陰から繋ぐ
++++
「よーう、すがやん。よく来てくれたな」
「どうしたんだ? 奏多が急に俺に用事なんて」
「まあ、何だ。立ち話も難だしどっか入るか」
奏多とは春の番組制作会に向けて向島勢の練習に付き合う中で知り合ったんだけど、背がバカ高い色男ってイメージが強いし、俺が直接話すのはカノンか春風って感じだから、実は奏多とはそこまでしっかりと向き合ったことはない。なのに急に呼び出されて、どうしたんだと。
「最近どう? 春風とは」
「あー……まあ、何て言えばいいのかな。特筆するような事件は特になく、ごくごく平和って感じ」
「ああそう。それならいいんだ」
「それが本題?」
「や、どっちかっつーと、すがやんよりレナの方が気になってんだ俺は」
「レナ? またどうして」
「春風と仲がいいみたいだけど、どーゆー子なのかなと。ほら、すがやんあの子と同じサークルの同期で1年やってんじゃん?」
「レナはクールで、知的で、芯が強い感じのロボット好きな子って感じ。冷静でありつつ常にポジティブって印象だな。フットワークも軽いし。バイクひとつでどこでも行っちまうから。……何かあった?」
奏多と言えば、春風と小学校から一緒の幼馴染みであるらしい。印象としてはどこか緩い奏多を優等生の春風が叱り付けるという雰囲気がある。その奏多が春風と仲が良いというレナを気にする理由がイマイチ見えてこない。
「まあ、アレだよ。言って俺は“松兄”だけあって春風やすがやんみたいなストレートの大学1年生よか歳は上なんだよな」
「えっ、そーだったん?」
「高校の時に事故に遭って長く入院してたからそれで1年長くいて、あと、浪人もしてるから今21。歳だけなら3年生とタメ」
「へー。でも確かにそう言われたら大人っぽい雰囲気あるもんな」
「サンキュ。そう言ってくれんのすがやんだけだぜ。みんな春風に引き摺られてだらしないだのふらふらしてるだのって酷い言い様よ」
春風と比べると確かに奏多はちょっと軽そうな雰囲気があるけど、それだけ春風と奏多はセットって感じで一緒にいたんだろう。軽く見えて物事を俯瞰で見てるタイプにも見えそうだけどな。
「……じゃなくて何でレナが出てくんのかって話」
「掻い摘んで言うと、春風の兄貴が地元じゃ悪い意味で顔が売れてて、それでアイツ友達があんま出来なかったんだよ」
「あの子と遊んじゃいけませんー的な?」
「的な。その春風があんまり楽しそうに友達の話をしてるモンだから、その友達ってどんな奴なんだーって俺が兄貴に突っつかれてるってワケ。悪い言い方をすりゃ内偵だな」
「え、春風の兄貴ってヤンキーとか?」
「いや、全然。実際はただ車とかバイクが好きなだけなんだけど、その車体が厳ついからそういう連中にも知り合いが多いんだよ。兄貴本人は全く不良とかじゃないし、何ならめちゃくちゃ真面目に自動車整備とかの勉強してた人だよ。あっ、今年26とかで、結構年上なんだけどさ」
自分が不良だと思われてる所為で春風になかなか友達が出来なかったことを兄貴としてちょっと心配してるそうだ。ワルい友達がいるのも事実だし、好きなことをやめることも出来なかったのが春風に申し訳ないと思っていたそうだ。
春風も機械とかが好きなのは完全に兄貴の影響だし、自分のために兄貴に好きなことをやめてほしくはなかったそうなので、友達がいないのもそれはそれとして受け入れていたらしい。でも本当は友達が欲しかったんだと。
最近になってレナと趣味が似通っていることで仲良くなって、一緒に遊びに行ったりもしてるしよっぽど楽しいのか家でもレナの話をするんだそうだ。しかもロボットとかバイクが好きって、兄貴がレナを気にする気持ちがわからないでもない。
「春風って初対面の奴には基本堅苦しい喋り方じゃん? あれも不良の妹だから悪い奴って思われないようにするのが始まりでさ。今じゃ初対面の人に対する礼儀がどうしたって言ってんだけどさ」
「奏多はさ、春風のことも兄貴のこともちゃんとわかってるからずっと側にいて深い友達やってんだな。肩書きとか好きなモンとか関係なく、その人を見てさ。だからあの春風も奏多には遠慮がない」
「ま、なんつーかさ。あのシスコン兄貴がまーあうるせーのよ。春風に変な奴が近付かないように見張っとけーとか、友達のことを調べて裏切らないか見とけーとか」
「うわっ……」
「あっ、引いたろ? その言いつけを未だに律儀に守ってる俺も俺なんだけどさ。本当は星大志望だったのにわざわざ向島大学に入学までしてさ。あ、真宙君が春風の彼氏に会いたがってるとは。伝えたからなすがやん」
「怖っ」
「まーまー。怖かったら俺も同席するし、何ならレナも巻き添えにしたらいいんだよ」
その真宙君という春風の兄貴が俺に会いたがっている、と。さっきちょろっと聞いたシスコンっぷりを聞くと、殴られやしないだろうかと不安にもなってくる。一応心の準備をしといた方が良さそうだ。それから、レナを巻き込むのはマストで。
「あのさあ奏多」
「ん?」
「もし俺が春風の兄貴のお眼鏡に適わなかったらどうなんのかな」
「や、春風と同等に星の話をしてる時点で合格だろ。さすがのシスコン真宙君でも、星の分野にはノータッチだからさ」
「はあ」
「ま! 何にせよ、お前になら春風を任せられる! ……っていう風に真宙君には言ってるんでそのようにヨ・ロ・シ・ク」
「その流し目やめろよなー……」
end.
++++
松兄こと奏多とすがやん、1対1で何を話すのかと言えばやっぱり春風のことになるんでしょう。奏多だから知っている春風の背景など。
少し年の離れたシスコン兄貴……どこかで聞いたことがある感じだけど、きっと狸の方のシスコンはもっと過激になるでしょう。
きっと春風はすがやんの話よりレナの話の方が家などではきゃっきゃとして話してるだろうから、レナの身辺調査の方が現段階では重要なんだろうなあ
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「よーう、すがやん。よく来てくれたな」
「どうしたんだ? 奏多が急に俺に用事なんて」
「まあ、何だ。立ち話も難だしどっか入るか」
奏多とは春の番組制作会に向けて向島勢の練習に付き合う中で知り合ったんだけど、背がバカ高い色男ってイメージが強いし、俺が直接話すのはカノンか春風って感じだから、実は奏多とはそこまでしっかりと向き合ったことはない。なのに急に呼び出されて、どうしたんだと。
「最近どう? 春風とは」
「あー……まあ、何て言えばいいのかな。特筆するような事件は特になく、ごくごく平和って感じ」
「ああそう。それならいいんだ」
「それが本題?」
「や、どっちかっつーと、すがやんよりレナの方が気になってんだ俺は」
「レナ? またどうして」
「春風と仲がいいみたいだけど、どーゆー子なのかなと。ほら、すがやんあの子と同じサークルの同期で1年やってんじゃん?」
「レナはクールで、知的で、芯が強い感じのロボット好きな子って感じ。冷静でありつつ常にポジティブって印象だな。フットワークも軽いし。バイクひとつでどこでも行っちまうから。……何かあった?」
奏多と言えば、春風と小学校から一緒の幼馴染みであるらしい。印象としてはどこか緩い奏多を優等生の春風が叱り付けるという雰囲気がある。その奏多が春風と仲が良いというレナを気にする理由がイマイチ見えてこない。
「まあ、アレだよ。言って俺は“松兄”だけあって春風やすがやんみたいなストレートの大学1年生よか歳は上なんだよな」
「えっ、そーだったん?」
「高校の時に事故に遭って長く入院してたからそれで1年長くいて、あと、浪人もしてるから今21。歳だけなら3年生とタメ」
「へー。でも確かにそう言われたら大人っぽい雰囲気あるもんな」
「サンキュ。そう言ってくれんのすがやんだけだぜ。みんな春風に引き摺られてだらしないだのふらふらしてるだのって酷い言い様よ」
春風と比べると確かに奏多はちょっと軽そうな雰囲気があるけど、それだけ春風と奏多はセットって感じで一緒にいたんだろう。軽く見えて物事を俯瞰で見てるタイプにも見えそうだけどな。
「……じゃなくて何でレナが出てくんのかって話」
「掻い摘んで言うと、春風の兄貴が地元じゃ悪い意味で顔が売れてて、それでアイツ友達があんま出来なかったんだよ」
「あの子と遊んじゃいけませんー的な?」
「的な。その春風があんまり楽しそうに友達の話をしてるモンだから、その友達ってどんな奴なんだーって俺が兄貴に突っつかれてるってワケ。悪い言い方をすりゃ内偵だな」
「え、春風の兄貴ってヤンキーとか?」
「いや、全然。実際はただ車とかバイクが好きなだけなんだけど、その車体が厳ついからそういう連中にも知り合いが多いんだよ。兄貴本人は全く不良とかじゃないし、何ならめちゃくちゃ真面目に自動車整備とかの勉強してた人だよ。あっ、今年26とかで、結構年上なんだけどさ」
自分が不良だと思われてる所為で春風になかなか友達が出来なかったことを兄貴としてちょっと心配してるそうだ。ワルい友達がいるのも事実だし、好きなことをやめることも出来なかったのが春風に申し訳ないと思っていたそうだ。
春風も機械とかが好きなのは完全に兄貴の影響だし、自分のために兄貴に好きなことをやめてほしくはなかったそうなので、友達がいないのもそれはそれとして受け入れていたらしい。でも本当は友達が欲しかったんだと。
最近になってレナと趣味が似通っていることで仲良くなって、一緒に遊びに行ったりもしてるしよっぽど楽しいのか家でもレナの話をするんだそうだ。しかもロボットとかバイクが好きって、兄貴がレナを気にする気持ちがわからないでもない。
「春風って初対面の奴には基本堅苦しい喋り方じゃん? あれも不良の妹だから悪い奴って思われないようにするのが始まりでさ。今じゃ初対面の人に対する礼儀がどうしたって言ってんだけどさ」
「奏多はさ、春風のことも兄貴のこともちゃんとわかってるからずっと側にいて深い友達やってんだな。肩書きとか好きなモンとか関係なく、その人を見てさ。だからあの春風も奏多には遠慮がない」
「ま、なんつーかさ。あのシスコン兄貴がまーあうるせーのよ。春風に変な奴が近付かないように見張っとけーとか、友達のことを調べて裏切らないか見とけーとか」
「うわっ……」
「あっ、引いたろ? その言いつけを未だに律儀に守ってる俺も俺なんだけどさ。本当は星大志望だったのにわざわざ向島大学に入学までしてさ。あ、真宙君が春風の彼氏に会いたがってるとは。伝えたからなすがやん」
「怖っ」
「まーまー。怖かったら俺も同席するし、何ならレナも巻き添えにしたらいいんだよ」
その真宙君という春風の兄貴が俺に会いたがっている、と。さっきちょろっと聞いたシスコンっぷりを聞くと、殴られやしないだろうかと不安にもなってくる。一応心の準備をしといた方が良さそうだ。それから、レナを巻き込むのはマストで。
「あのさあ奏多」
「ん?」
「もし俺が春風の兄貴のお眼鏡に適わなかったらどうなんのかな」
「や、春風と同等に星の話をしてる時点で合格だろ。さすがのシスコン真宙君でも、星の分野にはノータッチだからさ」
「はあ」
「ま! 何にせよ、お前になら春風を任せられる! ……っていう風に真宙君には言ってるんでそのようにヨ・ロ・シ・ク」
「その流し目やめろよなー……」
end.
++++
松兄こと奏多とすがやん、1対1で何を話すのかと言えばやっぱり春風のことになるんでしょう。奏多だから知っている春風の背景など。
少し年の離れたシスコン兄貴……どこかで聞いたことがある感じだけど、きっと狸の方のシスコンはもっと過激になるでしょう。
きっと春風はすがやんの話よりレナの話の方が家などではきゃっきゃとして話してるだろうから、レナの身辺調査の方が現段階では重要なんだろうなあ
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