2020(05)

■ごはんもりもり情報もりもり

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「うっわ、うまそー!」
「ホントに! おいしそ~! L先輩すっごいですね、こんなの自分で作っちゃうんですか!? すっごーい!」
「いや、ちゃんと出来るのはこれだけだぞ。まあ、好きなだけ食べてもらって」
「やったーいただきます!」

 高崎先輩がムギツーからいなくなったけど、餃子を食べたいときにはシノを誘えば乗って来るということがわかった。学内でトレーニングをしていたというくるみも来ることになって、3人での餃子大会だ。
 何と言うか、最近では餃子を食べたいから作ると言うよりは、無心で作業したいから餃子を作るという感じだ。バイト中に餃子を包む時は別に何も感じないんだけど、家で餃子を包んでいるとこう、気持ちが落ち着いて、精神が研ぎ澄まされるって言うか。

「あっ、L先輩、下からメシ取って来ていいっすか?」
「あ、やっぱお前も飯食うタイプだよな。取って来い取って来い」
「くるみ、お前もメシ食う?」
「あたしは餃子だけでいいや。ありがと」

 シノは飯を食うだろうなと思ってたけど、万が一があるかもしれないから飯を用意してなかったんだよな。余らせてもしょうがないし。どっかの先輩が飯を炊いてないと怒る人だったけどさ。くるみはさすがにトレーニングの後なので飯は食わずに餃子を主食にするそうだ。

「やっぱ餃子にはメシっすよねー!」
「えっ、シノそれ丼!?」
「そうだけど?」
「丼に山盛りなんてお相撲さんじゃないと食べないよ!」
「いやいや、育ち盛りの男子たるものこれっくらい食わねーと! ねえL先輩!」
「いや、俺に同意を求めるなよ。俺が量食わないの知ってるだろ」
「そうっした……」
「シノって自炊とかしてるの?」
「あー、頑張ってはいる。さすがに毎食じゃないけどなー」
「へ~。何作るの?」
「肉を焼いたり、炒めたり? 今はレトルトみたいなモンをあっためたり混ぜたりするのがメインだけど、もうちょっと台所に立つことに慣れたらガッツリとした料理もしてみようと思って」

 料理の腕前で言うと俺もシノと大差ない。餃子とか、バイト先のメニューにあるようなものだけは出来るようになってるけど。カズ先輩がやってたみたいなガッツリとした料理っていうものにはあまり挑戦したことがないけど、それが出来なくても食っていけてるっていうのはいい時代だなと思う。

「今ってスマホで調べたらすぐ何でもレシピ出るじゃないっすか」
「便利だよな。材料で検索したらバーッと出てくんの」
「あたし料理のレシピ動画とかよく見るよー。自分で料理するのは今練習中なんだけど、動画で見れると作業工程が具体的にイメージ出来て練習しやすいんだよ」
「俺も料理のレシピ動画とか見たことあるんだけどさー、俺には合わないな」
「何で? 映像で見れるの良くない?」
「それはいいんだけどさ、いちいち塩小さじ何杯、水何ccみたいなことを測るところまで見せて来るじゃん。いやいや、必要な材料と工程だけ文字で見せてくれりゃ1分で終わるのに何でそれを10分も見せられんのって感じで。しかも動画だからコピペも出来ない。いいなって思っても材料メモすんのめんどくせーんだよ」
「シノの言いたいことはちょっとわかる。文字情報だけパッと確認する方が早いよな」
「なるほど、そういう考え方もあるか。あたしもブロガー兼動画投稿者として参考になったよ」

 どういう情報をどんな風に処理するのかには個人差があるとくるみは学習したようだ。動画で見られるのは視覚的に着地点がわかっていい。それは確かにいいんだけど、文字情報と写真だけのレシピにもそれなりの利点はある。
 俺たちみたいな料理初級者がちゃんと料理をしようと思ったら他人が教えてくれるレシピに頼らざるを得ない。テレビなのか本なのか、ネットなら記事なのか動画なのか……今のシノの話を踏まえても選択肢は多い方がいいなと思う。

「レシピ見ながら買い物リストとか作ってさ」
「あっ、やりますやります! まあ、俺はレシピを見ながらじゃなくて、冷蔵庫を見ながらっすけど」
「それでも十分やってるじゃねーか」
「このメモアプリなんすけど。高木先輩に教えてもらったんすよね。スーパーとかドラッグストアとか、その場所に行ったときに通知出してくれて便利なんすよ」
「あ、買い忘れを防げる的な?」
「そうっす。高木先輩はこれをエージ先輩と共同で管理できるようにしてて、たまにエージ先輩がこれで買い物をして来てくれるとかって。リストはリアルタイムで更新されるんすよ」
「……つか、アイツのやってることが友達の域を越えてんだよな。完全に同居してる相手との買い物メモじゃんか」
「あっ。このアプリ、作業の進捗とかToDoリストを共有してもよさそう! シノ、何てアプリか教えてー!」
「あっ、いいぜ。えっとなー」

 高木の生活はどうなってんだと思いつつも、何だかんだエージが世話してるから何とかなってんだろうと思われる。いや、でも普段からエージは高木にだらしないだの何だのと叱り付けてるのに結果世話してるから助長すんじゃねーかと思わないこともない。この感じだったらシノの方がまだ全然1人暮らしを頑張れそうだ。

「L先輩の餃子うめーからメシ全然足りないっすわ。ちょっとおかわり取ってきます」
「おー、取って来い取って来い」
「えっ、シノまだ食べるの…? 餃子は美味しけどさあ」


end.


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くるちゃんが何気に大学方面によく来ているようです。トレーニングがなかなか進んでそうだしミドカのポイント溜まってそう。
作り過ぎた餃子は確かに冷凍保存すればいいんだろうけど、それだけで冷凍庫をいっぱいにするワケにもいかないものね
そんでタカエイが安定のアレなんだけど、エイジが買って来るのは多分食品よりも消耗品とかなんだろうなあ、ティッシュとかコロコロとか。

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