2020(05)
■お久し振りです先輩
++++
朝霞さんの新居にお呼ばれして、久々に一緒に飲むことになった。朝霞さんの新しい部屋は前の部屋からも結構近い。前の部屋は大学に近いんだけど、今の部屋はより生活しやすい道の近くにある。それから、ロフトもあって台所もキレイだし、良い部屋見つけたなと。
「何か、朝霞さんの部屋に物が少ないと落ち着かないっすね。DVDとかめちゃ減りませんでした?」
「実際結構減らした。減らさないと増やせないし。ネットで見れるヤツは実家に戻した」
「増やす気ではあるんすね」
「ネットで配信されてないのは円盤で見るしかないからな」
1階の部屋は普通にリビングのようになっているし、ロフトにはパソコンと防音ブースが置いてある。それからギターもこっちにあって、ネットでの活動はロフトをメインにやるようだ。パソコンも上と下に1台ずつあって、それらは用途が違うらしい。
「そうだ、光洋に行って来たからお土産」
「あざっす。光洋? 何しに行って来たんすか?」
「去年卒業した先輩が光洋の人だから、その人に会いに行って来た」
「わざわざ会いに行くって、朝霞さんその先輩のこと相当好きなんすね」
「まあ……越谷さんは俺が一番尊敬してて、今でも目標にしてる先輩だからな。人としての器は言うまでもないけど、ステージをやる上では他の人にはない説得力だったり理論だったり……いろんなことを教えてもらった」
洋平さんの誕生会の時にOBの先輩も来てくれてたんだけど、越谷さんという先輩は来ることが出来なくてリモートでの会話になってたのを覚えている。戸田さんからも脳筋のこっしーとしてたまに名前を聞いていたけど、朝霞さんがこれだけ言う人なんだから相当凄かったんだろう。
「これ、土産な。お馴染みの鳥サブレ。戸田班の班員とかリク君とかと分けて食べてくれ。あと、これがシュウマイ」
「すんません至れり尽くせりで。ありがたくいただきます」
「ところで、俺が出てった後の部屋に人は入って来たか?」
「や、まだっす。これからっすかね。だから防音対策の模様替えはやってますよ」
「それがいい。両隣に人がいるの大変だよな。1回角部屋に住んだら両隣に人がいるのが耐えられない」
「あっ、そういやこの部屋も角部屋っすよね」
「実況とかギターもやるから極力上下左右に人が少ない方がいいだろ」
「そうっすね。いくら段ボールブースがあるっつっても接する人が少ないのが一番の対策っすもんね」
ちょうど段ボールブースの話になったので、ロフトにも上がらせてもらうことに。ロフトのパソコンはゲーミングPCというヤツで、下のパソコンはよくあるごく普通のパソコンだ。赤いレフティのギターが立てかかっていて、段ボールの防音ブースがある。
本当にこれで防音出来るのかよと最初は思ったんだけど、意外にちゃんと防音してるんだ。引っ越し後の朝霞さんはこれを隣の部屋と接してない側の壁際に置いて防音対策をしているようだ。そもそも前のアパートより音が漏れないそうだけど、念には念を。
「彩人、お前は最近どうなんだ」
「最近はステージの台本を書いてますね。ファンフェスにステージで出るんすよ」
「放送部でか」
「そうっすね。ゴローさんが丸の池と学祭だけじゃ少なくね、みたいなことを言い出して、出たい奴を集めて部全体で3時間枠を取るっつって」
「そうか、ステージで出るのか。インターフェイスの方とはカブってないのか?」
「インターフェイスは土曜日で部は日曜日らしいっす」
「その辺は抜かりないんだな」
「も~う、部長としてのゴローさんって自由奔放なんすよね。所沢さんがすっごい振り回されてて気の毒だなって感じっす」
「あの所沢を振り回すとか相当だな。でも、ファンフェスのステージとインターフェイスのラジオを両立出来るのか。いい時代になったな。源が俺らの時の部長だったらどれだけ良かったか」
「朝霞班と戸田班でやってきたからこそ今のゴローさんになったんだと思いますけどね」
朝霞さんが3年だった時は本当に壮絶だったという話はいろんな人から聞いている。それこそ冗談抜きで命の危険があったりしたそうだ。だから、朝霞さんからすれば今の部活は本当にいい部になったように見えるんだろう。
「それから、俺個人のことになるんすけど、朝霞さんが書いた過去の台本を放送部のフォーマットに変換するって仕事をゴローさんから任されてます」
「俺の台本を?」
「可、不可、その他ブースに埋まってたヤツっす。今って過去の台本を誰でも読めるんすけど、朝霞さんの台本は常人には理解出来ないらしいんすよね。で、ゴローさんが朝霞さんの台本を誰でも理解出来るようにして残すって言い出して」
「そうか……嬉しいし、有り難い話だな。彩人、よろしく頼む」
「いえいえ。俺もフォーマット変換作業で修行させてもらってるんで。でも、俺も書かなきゃダメっすね。常日頃からアンテナ張っとかないと」
俺のプロデューサー修行はまだまだ始まったばかり。実力で俺の書いた本が採用されるように力を付けて行かないと。今までみたく軽々しく朝霞さんを頼ることは出来ないし、したくないと思うけど、朝霞さん自体はまだこの町にいると思うだけで何となく心強い。
「源班にもまた1年が入って来るじゃないすか。そうなったときに俺もプロデューサーとして? こう、ねえ。あるじゃないすかいろいろ」
「新しい出会いに意気込んでるようだけど、お前はただ意気込むだけじゃいられないだろ。女性恐怖、完全に治ったワケじゃないんだったら」
「かと言って、守られてばかりでも怯えてばかりでもいられないんで」
「無理はすんなよ」
「大丈夫っす」
end.
++++
引っ越し後の朝霞Pの部屋はまだきれいにしているようですが、そのうちまたごっちゃあ……ってなるんだろうな!
そういや朝霞Pはファンフェスでインターフェイスのラジオを部活のステージを両立しようとして謹慎喰らってた人。いい時代になったね
守られてばかりでも怯えてばかりでもいられないという思いはつばちゃんもかつて通っていたなあとふと思い出した。ある意味彩人も旧時代の犠牲者なのかもしれない
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朝霞さんの新居にお呼ばれして、久々に一緒に飲むことになった。朝霞さんの新しい部屋は前の部屋からも結構近い。前の部屋は大学に近いんだけど、今の部屋はより生活しやすい道の近くにある。それから、ロフトもあって台所もキレイだし、良い部屋見つけたなと。
「何か、朝霞さんの部屋に物が少ないと落ち着かないっすね。DVDとかめちゃ減りませんでした?」
「実際結構減らした。減らさないと増やせないし。ネットで見れるヤツは実家に戻した」
「増やす気ではあるんすね」
「ネットで配信されてないのは円盤で見るしかないからな」
1階の部屋は普通にリビングのようになっているし、ロフトにはパソコンと防音ブースが置いてある。それからギターもこっちにあって、ネットでの活動はロフトをメインにやるようだ。パソコンも上と下に1台ずつあって、それらは用途が違うらしい。
「そうだ、光洋に行って来たからお土産」
「あざっす。光洋? 何しに行って来たんすか?」
「去年卒業した先輩が光洋の人だから、その人に会いに行って来た」
「わざわざ会いに行くって、朝霞さんその先輩のこと相当好きなんすね」
「まあ……越谷さんは俺が一番尊敬してて、今でも目標にしてる先輩だからな。人としての器は言うまでもないけど、ステージをやる上では他の人にはない説得力だったり理論だったり……いろんなことを教えてもらった」
洋平さんの誕生会の時にOBの先輩も来てくれてたんだけど、越谷さんという先輩は来ることが出来なくてリモートでの会話になってたのを覚えている。戸田さんからも脳筋のこっしーとしてたまに名前を聞いていたけど、朝霞さんがこれだけ言う人なんだから相当凄かったんだろう。
「これ、土産な。お馴染みの鳥サブレ。戸田班の班員とかリク君とかと分けて食べてくれ。あと、これがシュウマイ」
「すんません至れり尽くせりで。ありがたくいただきます」
「ところで、俺が出てった後の部屋に人は入って来たか?」
「や、まだっす。これからっすかね。だから防音対策の模様替えはやってますよ」
「それがいい。両隣に人がいるの大変だよな。1回角部屋に住んだら両隣に人がいるのが耐えられない」
「あっ、そういやこの部屋も角部屋っすよね」
「実況とかギターもやるから極力上下左右に人が少ない方がいいだろ」
「そうっすね。いくら段ボールブースがあるっつっても接する人が少ないのが一番の対策っすもんね」
ちょうど段ボールブースの話になったので、ロフトにも上がらせてもらうことに。ロフトのパソコンはゲーミングPCというヤツで、下のパソコンはよくあるごく普通のパソコンだ。赤いレフティのギターが立てかかっていて、段ボールの防音ブースがある。
本当にこれで防音出来るのかよと最初は思ったんだけど、意外にちゃんと防音してるんだ。引っ越し後の朝霞さんはこれを隣の部屋と接してない側の壁際に置いて防音対策をしているようだ。そもそも前のアパートより音が漏れないそうだけど、念には念を。
「彩人、お前は最近どうなんだ」
「最近はステージの台本を書いてますね。ファンフェスにステージで出るんすよ」
「放送部でか」
「そうっすね。ゴローさんが丸の池と学祭だけじゃ少なくね、みたいなことを言い出して、出たい奴を集めて部全体で3時間枠を取るっつって」
「そうか、ステージで出るのか。インターフェイスの方とはカブってないのか?」
「インターフェイスは土曜日で部は日曜日らしいっす」
「その辺は抜かりないんだな」
「も~う、部長としてのゴローさんって自由奔放なんすよね。所沢さんがすっごい振り回されてて気の毒だなって感じっす」
「あの所沢を振り回すとか相当だな。でも、ファンフェスのステージとインターフェイスのラジオを両立出来るのか。いい時代になったな。源が俺らの時の部長だったらどれだけ良かったか」
「朝霞班と戸田班でやってきたからこそ今のゴローさんになったんだと思いますけどね」
朝霞さんが3年だった時は本当に壮絶だったという話はいろんな人から聞いている。それこそ冗談抜きで命の危険があったりしたそうだ。だから、朝霞さんからすれば今の部活は本当にいい部になったように見えるんだろう。
「それから、俺個人のことになるんすけど、朝霞さんが書いた過去の台本を放送部のフォーマットに変換するって仕事をゴローさんから任されてます」
「俺の台本を?」
「可、不可、その他ブースに埋まってたヤツっす。今って過去の台本を誰でも読めるんすけど、朝霞さんの台本は常人には理解出来ないらしいんすよね。で、ゴローさんが朝霞さんの台本を誰でも理解出来るようにして残すって言い出して」
「そうか……嬉しいし、有り難い話だな。彩人、よろしく頼む」
「いえいえ。俺もフォーマット変換作業で修行させてもらってるんで。でも、俺も書かなきゃダメっすね。常日頃からアンテナ張っとかないと」
俺のプロデューサー修行はまだまだ始まったばかり。実力で俺の書いた本が採用されるように力を付けて行かないと。今までみたく軽々しく朝霞さんを頼ることは出来ないし、したくないと思うけど、朝霞さん自体はまだこの町にいると思うだけで何となく心強い。
「源班にもまた1年が入って来るじゃないすか。そうなったときに俺もプロデューサーとして? こう、ねえ。あるじゃないすかいろいろ」
「新しい出会いに意気込んでるようだけど、お前はただ意気込むだけじゃいられないだろ。女性恐怖、完全に治ったワケじゃないんだったら」
「かと言って、守られてばかりでも怯えてばかりでもいられないんで」
「無理はすんなよ」
「大丈夫っす」
end.
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引っ越し後の朝霞Pの部屋はまだきれいにしているようですが、そのうちまたごっちゃあ……ってなるんだろうな!
そういや朝霞Pはファンフェスでインターフェイスのラジオを部活のステージを両立しようとして謹慎喰らってた人。いい時代になったね
守られてばかりでも怯えてばかりでもいられないという思いはつばちゃんもかつて通っていたなあとふと思い出した。ある意味彩人も旧時代の犠牲者なのかもしれない
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