2020(05)
■引っ越し祝いのお土産爆撃
++++
「大して面白みのない部屋っすけど、どうぞ」
「それじゃあ邪魔するな」
引っ越して少し経ったけど、元々部屋にそこまで荷物を置く方じゃないから殺風景と言うのが適した空間に、今日は拓馬さんを招待した。それというのも、北辰へ新婚旅行真っ最中の伊東と宮ちゃんが土産を山のように送って来たんだ。1人暮らしで食う量じゃねえなというのは明らか。
拓馬さんには夏頃、大石からの緑風土産をお裾分けしてもらっていたというのもあるし、そのお返しも兼ねて。それから、バンドの関係でせっかく拓馬さんとちょこちょこ会うようにもなって、俺が星港市内に戻ったということもあって一度はこうして家に招待するのもいいかなと。
「へえ、これがお前の新居か。なかなか良い部屋じゃねえか」
「あざっす。俺のこだわりがこの寝室っすね」
「こだわってるにしちゃ狭いな。何畳だ?」
「5畳っすね。クローゼットはありますけど、寝ること以外に何の機能も持たない最高の環境っす」
「まあ、確かに寝ることだけを追求した部屋と言えば聞こえはいいな。へえ、カウンターキッチンがあって。結構新しい物件か? キッチンも水回りも綺麗だけど」
「そうっすね。築年数も新しめで。1LDKっす」
「でも、星港市内だったらまあまあ家賃高めだろ」
「ここで6.3万っすね」
「思ったより安いな」
「そうなんすよ。拓馬さんの家って2LDKでしたっけ」
「そうだな。寝室と実況部屋とリビングは分けたかった。でも西海は星港より賃料の相場がやっぱちょっと低いから、俺の部屋でも駐車場込み5.5万だな」
「マジで安いっすね」
星港市内、かつ地下鉄星城線の駅近物件としては新しくてまあまあ安くて、我ながらいい部屋を見つけたと思っている。寝室と別にある部屋も、そこだけでもムギツーの部屋より広い。だからこたつとドラムパッドを同時に置けるだけの広さはあるだろう。ただ、こたつのシーズンはもう終了している。
「ああ、それで今日の本題なんすけど」
「そうだった。何か土産がどうとか言ってなかったか」
「そうなんすよ。俺のダチが北辰に新婚旅行に行ってて、その土産を送って来たんす。良ければ拓馬さんにもどうかなと思って」
「お前ももうダチが結婚する歳か」
「就職する前に結婚した方が手続きとかの関係が楽だって理由で入籍に踏み切ったそうっすね」
「税金とか保険とか、年末調整とかもあるもんな。確かに、時間がある時にやっといた方がいい」
「で、これが土産の入って来た箱なんすけど」
「……やたらデカくねえか」
「デカイんすよ。ダチの嫁さんも俺の悪友なんすけど、アイツがとにかく何でもかんでも規模をデカくしたがる奴で、大方この土産もアイツがあれもこれもって詰めたんじゃねえかなとは」
北辰土産の定番のお菓子なんかも入っていたが、今回は海鮮系の食い物がとにかく多いという印象だ。確かに俺は海鮮も好きだし飯を食う量は多い方だが、賞味期限の都合もあるし、とにもかくにも量の多いそれを1人だけで何とか出来るとも思わなかった。宮ちゃんのやることだもんな……。
宮ちゃんが1人でやることならともかく、俺に対しては伊東の分も乗っかって来てるからこの規模になってんだろうなとは。実家だとか浅浦だとか、近場に対するモンは一気に送って後からバラせばいいんだろうが、俺がまた別枠だったんだろう。それにしたって引っ越しかと思うレベルの量だぞ。
「でも、北辰は空港を歩いてるだけでも土産を選びきれねえとは聞いたことがある」
「そうなんすね。卒論のフィールドワークで全国いろんなトコに行ったんすけど、北辰は未踏だったんすよね。とりあえず、食いますか。飯は炊いてあるんで」
「そしたら、もらおうか」
「まずはいくらと、鮭の漬けっす。飯にかけて食うのが美味いらしいっす」
丼いっぱいの飯に、漬けのいくらと鮭をオン。海鮮親子丼と言ったところだろうか。現地で食うのが一番いいんだろうが、これはこれで悪くない。そしてこれも送られてきたビールをブースト。ちなみに、飯も送られてきた北辰の米を炊いている。
「美味い」
「美味いっすね」
「俺は魚介類よりは肉の方が好きだけど、これはいい」
「北辰で肉っつったら、やっぱ羊とかになるんすかね」
「ジンギスカンか。本場で食ってみてえな」
「ジンギスカンと言えば、ヤバいって噂のキャラメルも送られてきてるんすよ」
「ネタで食わすヤツじゃねえか」
「そうなんすよ。俺にやることじゃねえだろって感じなんすけど、拓馬さん、コイツを食わせるアテとかあります?」
「……まあ、実況のメンバーの中にぶち込めば減ってくだろうとは。つか今度の合わせの時にでも持って来たらいいんじゃねえのか」
「確かに」
噂のキャラメルは次のバンド練習の時に持ち込むことにして、俺は飯に戻る。海鮮親子丼だけで飯は終わらない。次に用意するのは自前の醤油と、土産の箱を開封してすぐ冷蔵庫の中にしまったバターだ。
「拓馬さん、バター醤油丼も出来ますよ」
「バター醤油丼?」
「飯の上にバターを乗せて、その上から醤油を数滴」
「飯にバター醤油なんか合うのか。ジャガイモならともかく」
「ジャガイモはジャガイモであるんでそれは後で食いましょう。飯にも合うらしいんすよね、バター醤油って」
「ふーん。それじゃあ食ってみるか」
俺と拓馬さんが丼2、3杯は食っても大丈夫な量の飯は炊いてあるし、他にも開けたい物はある。夏は延々とブドウを食っていたが、広大な土地からなる豪勢な土産物を大胆に食らう大会というのもいいだろう。
「つか、お前のダチ夫婦? 新婚旅行が国内ってのもまた慎ましやかだな。学生の卒業旅行でも海外に行く奴は行くだろ」
「花粉シーズンに入ったんで北に逃げたんすよ。海外だとまた未知の花粉症が発症する可能性があるとかで」
end.
++++
いちえりちゃんが旦那の都合で北に逃げているようなのですが、そのお土産が高崎の新居に届いた様子。量がすごい。
春山さんが帰省の度にお土産を爆買いしてたんですけど、そうなってしまう土地なんだろうなあ北辰というのは。買い物が楽しい。
扱いに困るらしい件のキャラメルだけど、実況者集団の中にぶちこんだら何かしてくれるだろう? こんなときに犠牲になるのは大体チータ君なんだよなあ
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「大して面白みのない部屋っすけど、どうぞ」
「それじゃあ邪魔するな」
引っ越して少し経ったけど、元々部屋にそこまで荷物を置く方じゃないから殺風景と言うのが適した空間に、今日は拓馬さんを招待した。それというのも、北辰へ新婚旅行真っ最中の伊東と宮ちゃんが土産を山のように送って来たんだ。1人暮らしで食う量じゃねえなというのは明らか。
拓馬さんには夏頃、大石からの緑風土産をお裾分けしてもらっていたというのもあるし、そのお返しも兼ねて。それから、バンドの関係でせっかく拓馬さんとちょこちょこ会うようにもなって、俺が星港市内に戻ったということもあって一度はこうして家に招待するのもいいかなと。
「へえ、これがお前の新居か。なかなか良い部屋じゃねえか」
「あざっす。俺のこだわりがこの寝室っすね」
「こだわってるにしちゃ狭いな。何畳だ?」
「5畳っすね。クローゼットはありますけど、寝ること以外に何の機能も持たない最高の環境っす」
「まあ、確かに寝ることだけを追求した部屋と言えば聞こえはいいな。へえ、カウンターキッチンがあって。結構新しい物件か? キッチンも水回りも綺麗だけど」
「そうっすね。築年数も新しめで。1LDKっす」
「でも、星港市内だったらまあまあ家賃高めだろ」
「ここで6.3万っすね」
「思ったより安いな」
「そうなんすよ。拓馬さんの家って2LDKでしたっけ」
「そうだな。寝室と実況部屋とリビングは分けたかった。でも西海は星港より賃料の相場がやっぱちょっと低いから、俺の部屋でも駐車場込み5.5万だな」
「マジで安いっすね」
星港市内、かつ地下鉄星城線の駅近物件としては新しくてまあまあ安くて、我ながらいい部屋を見つけたと思っている。寝室と別にある部屋も、そこだけでもムギツーの部屋より広い。だからこたつとドラムパッドを同時に置けるだけの広さはあるだろう。ただ、こたつのシーズンはもう終了している。
「ああ、それで今日の本題なんすけど」
「そうだった。何か土産がどうとか言ってなかったか」
「そうなんすよ。俺のダチが北辰に新婚旅行に行ってて、その土産を送って来たんす。良ければ拓馬さんにもどうかなと思って」
「お前ももうダチが結婚する歳か」
「就職する前に結婚した方が手続きとかの関係が楽だって理由で入籍に踏み切ったそうっすね」
「税金とか保険とか、年末調整とかもあるもんな。確かに、時間がある時にやっといた方がいい」
「で、これが土産の入って来た箱なんすけど」
「……やたらデカくねえか」
「デカイんすよ。ダチの嫁さんも俺の悪友なんすけど、アイツがとにかく何でもかんでも規模をデカくしたがる奴で、大方この土産もアイツがあれもこれもって詰めたんじゃねえかなとは」
北辰土産の定番のお菓子なんかも入っていたが、今回は海鮮系の食い物がとにかく多いという印象だ。確かに俺は海鮮も好きだし飯を食う量は多い方だが、賞味期限の都合もあるし、とにもかくにも量の多いそれを1人だけで何とか出来るとも思わなかった。宮ちゃんのやることだもんな……。
宮ちゃんが1人でやることならともかく、俺に対しては伊東の分も乗っかって来てるからこの規模になってんだろうなとは。実家だとか浅浦だとか、近場に対するモンは一気に送って後からバラせばいいんだろうが、俺がまた別枠だったんだろう。それにしたって引っ越しかと思うレベルの量だぞ。
「でも、北辰は空港を歩いてるだけでも土産を選びきれねえとは聞いたことがある」
「そうなんすね。卒論のフィールドワークで全国いろんなトコに行ったんすけど、北辰は未踏だったんすよね。とりあえず、食いますか。飯は炊いてあるんで」
「そしたら、もらおうか」
「まずはいくらと、鮭の漬けっす。飯にかけて食うのが美味いらしいっす」
丼いっぱいの飯に、漬けのいくらと鮭をオン。海鮮親子丼と言ったところだろうか。現地で食うのが一番いいんだろうが、これはこれで悪くない。そしてこれも送られてきたビールをブースト。ちなみに、飯も送られてきた北辰の米を炊いている。
「美味い」
「美味いっすね」
「俺は魚介類よりは肉の方が好きだけど、これはいい」
「北辰で肉っつったら、やっぱ羊とかになるんすかね」
「ジンギスカンか。本場で食ってみてえな」
「ジンギスカンと言えば、ヤバいって噂のキャラメルも送られてきてるんすよ」
「ネタで食わすヤツじゃねえか」
「そうなんすよ。俺にやることじゃねえだろって感じなんすけど、拓馬さん、コイツを食わせるアテとかあります?」
「……まあ、実況のメンバーの中にぶち込めば減ってくだろうとは。つか今度の合わせの時にでも持って来たらいいんじゃねえのか」
「確かに」
噂のキャラメルは次のバンド練習の時に持ち込むことにして、俺は飯に戻る。海鮮親子丼だけで飯は終わらない。次に用意するのは自前の醤油と、土産の箱を開封してすぐ冷蔵庫の中にしまったバターだ。
「拓馬さん、バター醤油丼も出来ますよ」
「バター醤油丼?」
「飯の上にバターを乗せて、その上から醤油を数滴」
「飯にバター醤油なんか合うのか。ジャガイモならともかく」
「ジャガイモはジャガイモであるんでそれは後で食いましょう。飯にも合うらしいんすよね、バター醤油って」
「ふーん。それじゃあ食ってみるか」
俺と拓馬さんが丼2、3杯は食っても大丈夫な量の飯は炊いてあるし、他にも開けたい物はある。夏は延々とブドウを食っていたが、広大な土地からなる豪勢な土産物を大胆に食らう大会というのもいいだろう。
「つか、お前のダチ夫婦? 新婚旅行が国内ってのもまた慎ましやかだな。学生の卒業旅行でも海外に行く奴は行くだろ」
「花粉シーズンに入ったんで北に逃げたんすよ。海外だとまた未知の花粉症が発症する可能性があるとかで」
end.
++++
いちえりちゃんが旦那の都合で北に逃げているようなのですが、そのお土産が高崎の新居に届いた様子。量がすごい。
春山さんが帰省の度にお土産を爆買いしてたんですけど、そうなってしまう土地なんだろうなあ北辰というのは。買い物が楽しい。
扱いに困るらしい件のキャラメルだけど、実況者集団の中にぶちこんだら何かしてくれるだろう? こんなときに犠牲になるのは大体チータ君なんだよなあ
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