2020(04)

■Love is at full speed

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「はー……い草のいい匂いだ」
「本当ですね。部屋もまあまあの広さがありますし。えーっと、コートは……ここにかければいいかな。そう言えば、菜月先輩はこの寒い中でも随分と薄着でいらっしゃいますね」
「こっちだと星港の街なかと違ってあんまり屋外を歩いたりすることはないからな」
「えーと、とりあえずWi-Fiに繋いでっと。パスワード、は……テレビに書いてあるのか。よーし。スマホも充電しておこう」

 今回泊まる宿にチェックインして、部屋の設備を確認する。おお、これはヒノキ風呂か。大浴場もあるみたいだけど、部屋の中にも浴槽は用意されているらしい。それから、施設案内のファイルにこの周辺にある飲み屋の割引クーポンが挟まっていた。
 去年圭斗先輩とご一緒させていただいたときもなかなか緊張したけど、菜月先輩とツインのお部屋で2泊3日…? 邪な煩悩が降って湧いて降って湧いて……もしも菜月先輩と結婚なんかしちゃったらどんな感じの家に暮らすのかなとか考えてしまってどうも申し訳ございませんでした!

「へえ、今時の宿はパソコン部屋なんてあるんだな」
「ビジネスユースを視野に入れてあるのかもしれませんね」
「なるほどな。動画を見たりゲームをするのかと思ったけど、普通に考えれば確かにそうだ。でも、今更だけどわざわざ緑風になんかどうした」
「菜月先輩にお会いしたかったというのもありますし、春風と話していたときにプラネタリウムにしてもクレープにしても緑風関連の話題になることが多かったので。それに、去年圭斗先輩と一緒に来ているので他の土地より旅行のハードルが低かったというのもあります」
「その、ハルカ? 新しい1年生の子の」
「そうですね。この時期にまさかのゲッティングガールで奈々がきゃっきゃしています」
「気持ちは物凄くわかる。諦めかけた、むしろ次の春に懸けるタイミングだぞ」
「このタイミングでの加入なので、初心者講習を頼むと新メンバーを紹介されたんですよ」
「ああ、そういう。納得した」

 春風も奏多も情報科学部だし、春風はロボット大戦にも出たいということでサークル関係のこと以外にも通じる話題があった。先のすがやんの件もあってめちゃくちゃ話してたから結構仲良くなってるんだよな。あと、意外に宇宙が舞台だったりロボット関係のアニメゲームを通ってるらしいんだ。イコール、話題に事欠かない。

「で、その子の恋愛相談を、お前が」
「ええ……何故か恋愛経験が豊富だと思われてしまったようで……」
「……まあ、ドンマイ」
「結果として大したアドバイスをすることも出来ず、本人たちが自然に解決したようなので良かったのですが」
「それじゃあ上手く行ったのか」
「それがですね、すがやんは覚えていらっしゃいますか? 緑ヶ丘からの留学生の」
「ああ、あの感じの良さそうな子だろ。陰気極まる悪の集団MMPには不相応な陽のオーラを纏った」
「ええ、春風はそのすがやんとつい先日付き合い始めましてですね」
「そう言えばスピード展開って言ってたな」
「それはもう。出会って2週間あるかないかでくっつきましたからね」
「くっつかないときは何年かかってもくっつかないのに、くっつくときは本当に一瞬だもんな。恋愛なんか全然わかんないモンだ」
「全くです」

 まっ……たくです! 何年かかっても菜月先輩に告白出来ていない俺という存在がここにありますので、春風とすがやんの超スピード展開をリアルタイムで目の当たりにしてしまって焦ってるんだよな…! だって、菜月先輩が俺じゃない誰かと一瞬で結ばれてしまう可能性だってあるじゃないか! 環境が変わるとそういう可能性もあるんだ。

「先程クレープ店で撮った写真を春風に送ったら早速「羨ましいです」と返信がありました」
「甘い物が好きな子なんだな」
「そうですね。甘い物は好きなようですね。嗜好としては菜月先輩と似た雰囲気がありますね。アナウンサーとして目指す方向性も菜月先輩の番組を聞いて定まった感がありますし」
「ちょっと待て。今何て言った」
「あ」
「アナウンサーとして目指す方向性が、どうやって決まったって?」

 圧が…! 圧が冗談じゃない! 菜月先輩は、やってるときはともかく後から同録を聞いたりそれを外に出すことを極端に嫌うお方だから……それをわかっていて出した俺も俺なんだけど、これは完全に自滅だ。でもMMPでやってる番組のサンプルとして俺が出せるのは菜月先輩との昼放送以外になかったんだ。

「あの、その……申し訳ございません……カノンから星とか宇宙が好きな子がMMPに入りたがっていると聞いたので、ついサンプルとして昼放送の星空回をいくつか聞かせてしまいました」
「……まあ、仕方ない。それでサークルに入ってくれたんだろ?」
「そうですね。菜月先輩のようなアナウンサーになりたいと言って練習に励んでいるようです」
「ゲッティング☆ガールのためなら犠牲も致し方ない」

 飲みながらダメージを回復するしかないなと菜月先輩は宿周辺の居酒屋ガイドに目をやる。いや、わかってたんだけどなー……何と言うか、これは明らかに自滅だよな。でも、今の時代は過去の番組をファイル化していつでもどこでも聞ける形にするのがスタンダード。いくら菜月先輩が望んだとしても、番組が埋もれるような時代じゃあ、ない。

「ええと……飲みに行くのはさすがにこの近辺になるとは思うのですが、自棄酒にはならないよう……」
「お前が余計なことを言わなければ自棄で飲むこともないぞ」
「ご尤もでございます…!」


end.


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いつぞやカノンは星を付け忘れてたけど、菜月さんはしっかりとゲッティング☆していくので失敗を認めたと言えさすが黒幕である。
本当はノサカも早く言いたいしいつか言わなきゃと強く強く思っているのだけど、いざ菜月さんを前にすると何も出来ずに終わってしまうのである
本気の時の菜月さんの圧はそれはそれはもう怖いんだけど、それすらも久々となるとノサカにとってはとても尊いものである

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