2020(04)

■nutritional supplement

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「えーっと……駅前ってどっちだ? って言うか寒っ!」

 最近、春風の話を聞いていて自分のことをどうにかしなければと思ってしばし。しかしながら、大学卒業を前に菜月先輩は住んでいたマンションの部屋を引き払って完全に実家に戻られてしまった。ということで、向島にいないならこっちから乗り込んでやるとやってきましたは緑風駅。
 緑風には去年圭斗先輩と一緒に来させてもらったんだけど、あれは圭斗先輩の運転される車に乗っていただけだったし、降り立ったのも菜月先輩の地元である光星という市の周辺。ここは緑風エリアのど真ん中、まさに玄関口と言うのに相応しい緑風駅。高速バスを使ってやって来たんだけど、地方都市の割に意外にきれいな感じだ。
 菜月先輩から待ち合わせに指定されているのは駅前側の出入り口の前。星港なんかの大きな駅と違って出口は駅前か北口しかないということで、駅前にさえいればこっちが見つけると指示があった。とりあえず、看板に従って表に出る。あ、緑風は路面電車が走ってるんだったな。これもいいな。

「ヘンクツ」
「あ、菜月先輩。ご無沙汰しております」
「ご無沙汰って。こないだ追いコンで会ったばっかりだろう」
「いえ、あれから2週間弱は空いてしまっているので」
「まあいい。さて、うちは特に何をするとかどこに行くとか考えてないぞ」
「時間が時間ですので俺は何か食べたいなと思っているのですが」
「普通の人ならそこで回転寿司でもと言いたいところだけど、お前だからな。さてどうしたものか。地元じゃないから土地勘がないんだ。適当に食べたい物を調べてくれればそのように動くぞ。この周辺でも、ちょっと動くでも。今ならまだ駐車場は無料の範囲だし」

 そう、何と何と、菜月先輩はついにお車を所有されたということで、今日この場所にも納車されたばかりの新車で来られているとのこと。路面電車が走っているとは言え、それは緑風市の中心部の話。どこの都市でも、街の中心から離れれば車が必要不可欠な事には変わらない。向島でもだ。

「とりあえず、宿のチェックインもあるから極端に離れ過ぎない方はいいんだろうけど」
「そうですねえ。どうしましょうか」

 さらにさらに、夜は飲み歩こうということになったので、菜月先輩も宿に宿泊されるとのこと。ツインルーム、2名様だぞ……いや、真面目に、俺だから何もないんだろうなあ。すがやんならもうちょっと進展するしササだったら一緒に泊まる女の子が妊娠するだろう。俺だから何もない! 圭斗先輩褒めてください俺の理性を!

「無難にラーメンでも食べるか? 魚介NGな男が緑風に食を求めるな」
「うう……申し訳ございません」

 そう! 緑風は海産物が美味しいと言われる土地にも関わらず! 俺は魚介類が好きではない! 去年もそんな感じで残念を極めていたのだけど、例によって今年も同じ轍を踏んでしまうという……食の好みは1年ちょっとでそうコロッと変わらない。
 無難にラーメンを食べに行くことになって、近くの駐車場に止めてある菜月先輩のお車へ。燦然と輝く初心者マークに、新車の匂いだ! 菜月先輩曰く、家族以外にまだ誰も乗せたことがないとのこと。もしかしなくても俺が最初の同乗者か!? 何たる光栄!

「ちょっと、せっかく緑風まで来たのに悪いけど、ご当地ラーメンとは別の店に行くぞ」
「え、あ、はい。菜月先輩の赴くままに」
「うちがこっちで好きな店っていうのがあって。結構戻るんだけど、戻るだけの価値はあるかなと。知ってるけど一応聞くか。唐揚げは好きだな」
「大好きです!」
「食べ応えがあるんだぞ、あそこの唐揚げは」
「それは楽しみです」
「ところで、お前はこっちで何をするとか考えてるのか」
「最近MMPに入った1年生の女子から相談を受ける過程でいろいろ話を聞いていたのですが、去年磐田先輩が作ったという光ファイバー式のプラネタリウム? その原案となった物がこちらにあるそうなのでそれを見たり」
「他には」
「その1年生と先日クレープ店に行ったのですが、その本店があるそうなので、そこに行ったりなどですかね」
「引退済みなのに1年生と仲良くなってるんだな。しかもお前が日頃からカボチャ扱いしている女子と」
「まあ、それは成り行きでですね」

 春風によれば、例のクレープ店には本店にしかないメニューがあるそうなので、せっかく緑風に来たのであればそれを食べておきたいと思ったなど。それから、ついでなので緑風の天文台に行ってプラネタリウムを見て自慢してやろうという性格の悪い3年生であった。

「その1年生は何をお前に相談するんだ。勉強の話か?」
「情報の子なのでロボット大戦の話も少ししましたが、主に恋愛相談など」
「ロボット大戦はともかく恋愛相談? お前がか」
「俺には不相応な話題であるということは自分がよく理解していますのでどうぞ笑っていただければと。ですがなかなかないスピード展開でして、圭斗先輩であればさぞ下衆い話にしていただけるであろうなあという」
「それは楽しみだ。夜にでも聞かせてくれ」
「では、酒の肴に」

 どこに行くとかじゃなくて菜月先輩の車でこうして2人でいろいろなことを話しているという現実で軽くお腹いっぱいになりそうだし目的の半分は達成したも同然なんだけどな。でもせっかくの2泊3日日程だし、今後の分まで菜月先輩成分を補充しておかなくては……。


end.


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ノサカの単独緑風遠征編です。さすがに車はないのでバスでやってきました。バイトもしてるのでそこまで大した出費じゃない。
菜月さんが新車に乗っていたり、ノサカがその助手席に乗っていたりするのが新しい季節の訪れを感じますね。初心者マークが燦然と輝いている。
圭斗さんにこの遠征の話をすると、理性を褒められるより先に攻める気があるのかと怒られる方が先だと思うの

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