2020(04)
■はじめの一歩が遅れても
++++
対策委員の会議の後、ちょっと聞いて欲しいことがあると海月から引き留められる。夏合宿でペアだったよしみもあるし、この後で特に何か予定があるとかでもなかったからいいよと返事をして2軒目だ。
「話聞いてもらうし奢ります」
「いや、お構いなく」
「じゃあ、唐揚げも付けるし食べよう。もちろん唐揚げは私持ちでね」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
それぞれの親子丼と唐揚げを注文してしばし待つ。その間に海月の本題に入ってもらう。ちょっと聞いて欲しいというその話は真面目な話題だろう。夏の感じを見ていても、海月のビッグマウスは自分を鼓舞するためのもので、実際はちょっとネガティブなところもある奴だから。
「そう、本題。ウチの放送部で、ファンフェスにステージで出ることになったんだよ」
「へー、すげーじゃん。お前も出るの?」
「それなんだけどさあ。やってみたい気もしたんだけど、インターフェイスでもファンフェスに出るじゃん、この感じだと。2つの練習を同時にやるのがちょっと怖くって。それで悩んでたら参加募集期間を過ぎちゃって」
星ヶ丘の放送部で出ることになったというステージは、部の中で有志を集めてやるらしい。集まった人間で即席の班を組んで3時間の枠を分け合うそうだ。2月中旬頃が部内での参加申し込みの締め切りだったけど、悩んでいるうちに過ぎてしまったとか。
海月は1コのことしか出来ないっつーか、2つ以上のことをやろうとするとあっちもこっちも真剣に考え過ぎてごっちゃになっちまう性質の奴だ。本人もそれを理解しているから、インターフェイスと部活の両立が出来るのか悩んでしまったのだろう。
「あ、親子丼来た。いただきます」
「いただきます。ん、うまっ」
「美味しいねえ。ゴローさんからファンフェスの話があったときに、ウチの班の人たちみんな出るって即答したけど、私だけうーんって悩んじゃって」
「彩人もみちるも出るんだな。みちるはともかく、彩人は定例会だから確実にダブルブッキングじゃんか。やれるって自信があるんだな」
「うん。彩人は結構ガツガツやってるし、やっぱ本人的にはステージのプロデューサーとしてやれる場は逃したくないみたいだから。でもインターフェイスじゃミキサーなのに、その練習とか大丈夫なのかなって思う。普段やってないのに」
「たまにだけど、自分を追い込むことで能力以上のモンが出る奴っているじゃん。多分彩人ってそういうタイプなんじゃねーの?」
「いいなあ」
同じ班の同期である彩人とみちると自分を比較して、どうして自分はこんなに要領が悪くて自信もないんだろうとしょぼくれている。パートも違うし比べてもしょうがないことではあるんだけど、要領に関しては本人のことだから俺にはどうもこうも。
「それで海月、お前はそのファンフェスのステージをやりたいのかやりたくないのか」
「やってみたくは、ある、かも。でも、インターフェイスのラジオもあるし」
「インターフェイスのラジオがなかったらどうなんだ」
「やってると思う」
「じゃあ今からでもやったらいいんだよ。お前のことだし、ステージに向けて動いてる彩人とみちるを見たらどうして自分はやれてないんだろうっつってまーためそめそするぞ」
「でも、夏の時みたいにまた失敗したらって思ったら怖くって」
「お前さあ、いくらなんでも夏から進歩してねーっつーことはねーだろ。学祭もやってんだから経験値は積んでるはずだ。ラジオに関しては今から番組制作会もある」
「即興の班っていう怖さもあって」
「逆に即興だからこその強みを見つけてこうぜ」
「何があるかなあ」
「あー、えーと、夏に言ってたことを踏まえたら、即興の班だからこそ純粋にアナウンサーやってる人と組める可能性があるとか? 班員じゃ気付かないことを指摘してもらえるとか? 大体、インターフェイスだって即興の班でやってるだろ」
励ませば励ますほど海月はその裏の裏にある不安な点を掘り起こして来る。ネガティブっつーのは言い換えれば慎重ってことらしいんだけど、グレート……何だっけ。そのナントカって自称してる肩書きに対して中の奴がうじうじし過ぎっつーのはある。
「つか、お前がいろいろごっちゃになるのって、ネタ帳を1冊に統一してるからじゃね?」
「えっ、これダメ?」
「お前夏の時点でステージのことを書いてるメモ帳をひっくり返してラジオのこと書いてたじゃん」
「うん。表と裏で表紙2つあるからね」
「対策委員になって気付いたけど、お前そのネタ帳のラジオ側の方に対策委員の議事録付けてね? せめてさ、ステージとラジオは別のノートに分けた方がいいと思うんだよな。スイッチの切り替え的な意味でもさ」
「メモ帳って何だかんだ使い切らないし勿体ないなって思っちゃって」
「ステージだけで1冊使い切れ! その、何だっけ、ステージナントカなら!」
「グレートフルマスターオブセレモニー兼ステージミューズ」
「そーだ、それそれ。何遍聞いても覚えらんねーな」
「シノ、唐揚げ食べていいよ」
「サンキュ。うっま。海月、お前も食えよ」
「ありがと。あと、話聞いてくれてありがとね。こんなこと相談できるのシノだけでさ」
「俺で良かったら何でも言えよ。あんまお前の気持ち考えて物言うとかは出来ないけどさ」
「ううん。あれっ、そう言えばシノって私のこといつからくららじゃなくて名前で呼んでたっけ?」
「あー、多分ササの影響。ササアイツ、彩人と仲良いだろ。彩人はお前のこと普通に名前で呼んでるからそれでうつった。嫌だったらくららに戻すけど」
「ううん、海月でいいよ。私、ゴローさんに今からでもファンフェスのステージ出れるか聞いてみる」
「おう。頑張れ」
end.
++++
思い出したようにシノくら。相談役としてのシノはなかなかパワープレーで解決しがち。本人も人の気持ちは考えてないとは言ってる。
ただ、それくらいゴリ押ししてくれるくらいの方が多分海月も気が楽。言い切ってくれるくらいの方が。
そしてさすが戸田班の精鋭たち、ゲンゴロー発ファンフェスの話も参加すると即答していたようですね。がさす~。
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対策委員の会議の後、ちょっと聞いて欲しいことがあると海月から引き留められる。夏合宿でペアだったよしみもあるし、この後で特に何か予定があるとかでもなかったからいいよと返事をして2軒目だ。
「話聞いてもらうし奢ります」
「いや、お構いなく」
「じゃあ、唐揚げも付けるし食べよう。もちろん唐揚げは私持ちでね」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
それぞれの親子丼と唐揚げを注文してしばし待つ。その間に海月の本題に入ってもらう。ちょっと聞いて欲しいというその話は真面目な話題だろう。夏の感じを見ていても、海月のビッグマウスは自分を鼓舞するためのもので、実際はちょっとネガティブなところもある奴だから。
「そう、本題。ウチの放送部で、ファンフェスにステージで出ることになったんだよ」
「へー、すげーじゃん。お前も出るの?」
「それなんだけどさあ。やってみたい気もしたんだけど、インターフェイスでもファンフェスに出るじゃん、この感じだと。2つの練習を同時にやるのがちょっと怖くって。それで悩んでたら参加募集期間を過ぎちゃって」
星ヶ丘の放送部で出ることになったというステージは、部の中で有志を集めてやるらしい。集まった人間で即席の班を組んで3時間の枠を分け合うそうだ。2月中旬頃が部内での参加申し込みの締め切りだったけど、悩んでいるうちに過ぎてしまったとか。
海月は1コのことしか出来ないっつーか、2つ以上のことをやろうとするとあっちもこっちも真剣に考え過ぎてごっちゃになっちまう性質の奴だ。本人もそれを理解しているから、インターフェイスと部活の両立が出来るのか悩んでしまったのだろう。
「あ、親子丼来た。いただきます」
「いただきます。ん、うまっ」
「美味しいねえ。ゴローさんからファンフェスの話があったときに、ウチの班の人たちみんな出るって即答したけど、私だけうーんって悩んじゃって」
「彩人もみちるも出るんだな。みちるはともかく、彩人は定例会だから確実にダブルブッキングじゃんか。やれるって自信があるんだな」
「うん。彩人は結構ガツガツやってるし、やっぱ本人的にはステージのプロデューサーとしてやれる場は逃したくないみたいだから。でもインターフェイスじゃミキサーなのに、その練習とか大丈夫なのかなって思う。普段やってないのに」
「たまにだけど、自分を追い込むことで能力以上のモンが出る奴っているじゃん。多分彩人ってそういうタイプなんじゃねーの?」
「いいなあ」
同じ班の同期である彩人とみちると自分を比較して、どうして自分はこんなに要領が悪くて自信もないんだろうとしょぼくれている。パートも違うし比べてもしょうがないことではあるんだけど、要領に関しては本人のことだから俺にはどうもこうも。
「それで海月、お前はそのファンフェスのステージをやりたいのかやりたくないのか」
「やってみたくは、ある、かも。でも、インターフェイスのラジオもあるし」
「インターフェイスのラジオがなかったらどうなんだ」
「やってると思う」
「じゃあ今からでもやったらいいんだよ。お前のことだし、ステージに向けて動いてる彩人とみちるを見たらどうして自分はやれてないんだろうっつってまーためそめそするぞ」
「でも、夏の時みたいにまた失敗したらって思ったら怖くって」
「お前さあ、いくらなんでも夏から進歩してねーっつーことはねーだろ。学祭もやってんだから経験値は積んでるはずだ。ラジオに関しては今から番組制作会もある」
「即興の班っていう怖さもあって」
「逆に即興だからこその強みを見つけてこうぜ」
「何があるかなあ」
「あー、えーと、夏に言ってたことを踏まえたら、即興の班だからこそ純粋にアナウンサーやってる人と組める可能性があるとか? 班員じゃ気付かないことを指摘してもらえるとか? 大体、インターフェイスだって即興の班でやってるだろ」
励ませば励ますほど海月はその裏の裏にある不安な点を掘り起こして来る。ネガティブっつーのは言い換えれば慎重ってことらしいんだけど、グレート……何だっけ。そのナントカって自称してる肩書きに対して中の奴がうじうじし過ぎっつーのはある。
「つか、お前がいろいろごっちゃになるのって、ネタ帳を1冊に統一してるからじゃね?」
「えっ、これダメ?」
「お前夏の時点でステージのことを書いてるメモ帳をひっくり返してラジオのこと書いてたじゃん」
「うん。表と裏で表紙2つあるからね」
「対策委員になって気付いたけど、お前そのネタ帳のラジオ側の方に対策委員の議事録付けてね? せめてさ、ステージとラジオは別のノートに分けた方がいいと思うんだよな。スイッチの切り替え的な意味でもさ」
「メモ帳って何だかんだ使い切らないし勿体ないなって思っちゃって」
「ステージだけで1冊使い切れ! その、何だっけ、ステージナントカなら!」
「グレートフルマスターオブセレモニー兼ステージミューズ」
「そーだ、それそれ。何遍聞いても覚えらんねーな」
「シノ、唐揚げ食べていいよ」
「サンキュ。うっま。海月、お前も食えよ」
「ありがと。あと、話聞いてくれてありがとね。こんなこと相談できるのシノだけでさ」
「俺で良かったら何でも言えよ。あんまお前の気持ち考えて物言うとかは出来ないけどさ」
「ううん。あれっ、そう言えばシノって私のこといつからくららじゃなくて名前で呼んでたっけ?」
「あー、多分ササの影響。ササアイツ、彩人と仲良いだろ。彩人はお前のこと普通に名前で呼んでるからそれでうつった。嫌だったらくららに戻すけど」
「ううん、海月でいいよ。私、ゴローさんに今からでもファンフェスのステージ出れるか聞いてみる」
「おう。頑張れ」
end.
++++
思い出したようにシノくら。相談役としてのシノはなかなかパワープレーで解決しがち。本人も人の気持ちは考えてないとは言ってる。
ただ、それくらいゴリ押ししてくれるくらいの方が多分海月も気が楽。言い切ってくれるくらいの方が。
そしてさすが戸田班の精鋭たち、ゲンゴロー発ファンフェスの話も参加すると即答していたようですね。がさす~。
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