2020(04)
■ハート戦線凍結中
++++
「あー! 誰だよハートの6と8止めてるのー! 俺パス5回だー!」
「はーい、シノは終わりねー。うわっ、ハートの端っこの方ばっかりじゃん!」
「これは酷い」
「それじゃあシノは焼き芋の番をしてもらって」
「しょーがねーなー」
暖炉とか薪ストーブのあるコテージへの旅行、日程2日目。今回の旅行では薪ストーブを楽しむという他に、軽くデジタルデトックスをしようというテーマも掲げていた。写真撮影などを除いて必要以上にスマホに触らないでおこうという方向性でやっている。
せっかくだからアナログゲームなどをして遊ぼうということで、今は七並べをやっている。だけどこれがただの七並べではなく、すがやんが向島留学でやっていたトランプ2組を使う“大七並べ”なるゲームだ。単純にトランプを2倍しただけだけど、戦略性が少し変わってなかなか面白い。
ただ、一般的な七並べと同じように、7に近いカードを止めるという戦法は非常に有効なようで、誰かがハートの6と8を止めていて全く列が進んで行かないんだ。それでシノがパス5回で負けになった。俺の手元にもハートの札がいくらかある。誰だか知らないけど出してもらわないと非常に困る。
「こういう狡いことをしそうなのは陸かサキか」
「レナ、偏見が過ぎない? でもササはやりそうだね」
「いや、俺じゃないぞ」
ハートに関してはな。
スペードの8は1枚止めてるけど、大七並べだから1枚止められたところでもう1枚同じ札があるから上手くやれば全く出せないこともないんだよな。ちなみに今回エースとキングは繋がらない。玲那が俺とサキを牽制してるけど、そういう自分はどうなんだと問いたい。
「う~ん、とりあえず出しとくかー」
「あっ! クラブの9出た! すがや~ん! やったーあたし10持ってたんだよね!」
「ありがと。俺ジャック持ってるんだ」
「……どうしようかなあ」
玲那の熟考がなかなかに不気味だ。誰がそういう戦術を使ってもおかしくはないんだよな。俺もスペードの8を1枚止めてるし。で、早々に戦線離脱したシノは焼き芋の番をしてるんだけど、ハート止めてんの誰だよと恨みは忘れてない様子。
しかし、ハートの6と8は合計4枚あるはずなんだけど、本当に1枚も場に出てないんだよな。何となく場の流れじゃないけど、空気を読んで出さないでおこうみたいなことはあるんだろう。でも4枚が4枚出てこないって。どうなってんだ。そらシノは死ぬよ。手札の半分がハートだったんだから。
「レナ、ハートを出すなら今だよ」
「持ってないよ」
「またまたぁ。持ってんだろ?」
「本当に違う。私が止めてるのは別の絵柄」
「レナも止めてるんじゃん! もー!」
「それで、何を悩んでるんだ?」
「実は私の手札もシノまではいかないにしてもハートが多い。確かに出せる札は持ってるけど、下手に出すと……ね。後は察して」
「なるほどな。パスの回数が少ないなら使うのも手ではあるな」
下手に自分が出せる札を素直に出してしまうとハートの列を止めている誰かを助けることになってしまう。だから敢えてパスをすることでハートを止めている誰かが痺れを切らすのを待つ方がいいのではないか、ということだ。確かに、俺もそろそろスペードの8を出さなきゃかなあと思い始めた頃合いだ。
「じゃあ、パスで」
「俺もパス」
「……俺、パス5回だからもう終わりだ」
「えー! サキ~!」
「ダイヤとスペードが出ないんだからどうしようもないでしょ」
スペードに関してはすみませんでした。
これでサキも戦線離脱……って、本当に手札がダイヤとスペード中心って感じだな。それから少しのハートと。クラブは結構列の方に出揃ってるから、それで何とか繋いでたんだろうな。実際他のメンバーもクラブでやりくりしてる状態だから。
「でも、2人いなくなるとどこの列を使って行けばいいかわかってくるな」
「そうだな。クラブも埋まって来たし、次はどこの列に戦線が移るかな」
「すがやん、実はまだ持ってたりしない?」
次は戦線がダイヤに移ってるんだけど、俺の手持ちにダイヤはあまりない。仕方ない、みんなが困ってるのはハートだろうからスペードの8は出してしまおう。
「はい」
「あー! ササじゃんかスペードの8!」
「サキには悪いけど止めさせてもらってた」
「ホントに」
「はーよかったスペードが出た~」
「でもサキが終わった時に結構埋まったからそこまで影響はなさそうだね。そうなるといよいよハート勝負になってくるかな」
「玲那、パスあと何回?」
「私? もう出来ないよ」
玲那がパス5回になったけど、まだ場にハートの6と8は出ない。そして俺もそのパス乱舞に付き合っていたらパス5回。スペードの8も出してしまったしこれで終わりだ。残るはすがやんとくるみ。
「あっ、ササも終わり!? すがやんとの一騎打ちだね!」
「おーいみんな、ハート4枚止めてんのくるみだぞー。俺マジで持ってねーから負けるぞー」
「えっ、くるみ!?」
「すがやん! ウソは良くないと思うよ!」
「でも俺残り2枚なんだよな~。しかもダイヤの3とエース。はいおっしまい」
「えー!? すがやんいつの間に!」
ちょうど焼き芋も焼けたし、いいタイミングでゲームセット。すがやんが静かに手札を減らし続けていたのに気付かずくるみがずっとハートを止め続けていたようだ。って言うかよくそれだけ固まったな。
「やったー焼き芋おいしそ~!」
「芋に無邪気に群がるのとハートの6と8全部止めてたのが同じ人間とはとても思えない」
「いや、でもくるみって実際アレだぜ、淡々としてるところもあるから。勝負事とか仕事とか」
「なるほどな。そこのところの読み合いに負けたのか」
end.
++++
1年生6人の七並べ大会。MMP式でやってるんですけど、連中はとにかく規模がデカけりゃいいと思ってるところがある。
くるみの戦術にみんなハマったけど、それをあっさりかわしてこっそり1抜けするすがやんはきっと場数の違い。
ササもレナもそれなりにやってたけど、戦術は手札次第で変わって来るから難しいね。もう1回やるとまた結果は変わるだろうね
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「あー! 誰だよハートの6と8止めてるのー! 俺パス5回だー!」
「はーい、シノは終わりねー。うわっ、ハートの端っこの方ばっかりじゃん!」
「これは酷い」
「それじゃあシノは焼き芋の番をしてもらって」
「しょーがねーなー」
暖炉とか薪ストーブのあるコテージへの旅行、日程2日目。今回の旅行では薪ストーブを楽しむという他に、軽くデジタルデトックスをしようというテーマも掲げていた。写真撮影などを除いて必要以上にスマホに触らないでおこうという方向性でやっている。
せっかくだからアナログゲームなどをして遊ぼうということで、今は七並べをやっている。だけどこれがただの七並べではなく、すがやんが向島留学でやっていたトランプ2組を使う“大七並べ”なるゲームだ。単純にトランプを2倍しただけだけど、戦略性が少し変わってなかなか面白い。
ただ、一般的な七並べと同じように、7に近いカードを止めるという戦法は非常に有効なようで、誰かがハートの6と8を止めていて全く列が進んで行かないんだ。それでシノがパス5回で負けになった。俺の手元にもハートの札がいくらかある。誰だか知らないけど出してもらわないと非常に困る。
「こういう狡いことをしそうなのは陸かサキか」
「レナ、偏見が過ぎない? でもササはやりそうだね」
「いや、俺じゃないぞ」
ハートに関してはな。
スペードの8は1枚止めてるけど、大七並べだから1枚止められたところでもう1枚同じ札があるから上手くやれば全く出せないこともないんだよな。ちなみに今回エースとキングは繋がらない。玲那が俺とサキを牽制してるけど、そういう自分はどうなんだと問いたい。
「う~ん、とりあえず出しとくかー」
「あっ! クラブの9出た! すがや~ん! やったーあたし10持ってたんだよね!」
「ありがと。俺ジャック持ってるんだ」
「……どうしようかなあ」
玲那の熟考がなかなかに不気味だ。誰がそういう戦術を使ってもおかしくはないんだよな。俺もスペードの8を1枚止めてるし。で、早々に戦線離脱したシノは焼き芋の番をしてるんだけど、ハート止めてんの誰だよと恨みは忘れてない様子。
しかし、ハートの6と8は合計4枚あるはずなんだけど、本当に1枚も場に出てないんだよな。何となく場の流れじゃないけど、空気を読んで出さないでおこうみたいなことはあるんだろう。でも4枚が4枚出てこないって。どうなってんだ。そらシノは死ぬよ。手札の半分がハートだったんだから。
「レナ、ハートを出すなら今だよ」
「持ってないよ」
「またまたぁ。持ってんだろ?」
「本当に違う。私が止めてるのは別の絵柄」
「レナも止めてるんじゃん! もー!」
「それで、何を悩んでるんだ?」
「実は私の手札もシノまではいかないにしてもハートが多い。確かに出せる札は持ってるけど、下手に出すと……ね。後は察して」
「なるほどな。パスの回数が少ないなら使うのも手ではあるな」
下手に自分が出せる札を素直に出してしまうとハートの列を止めている誰かを助けることになってしまう。だから敢えてパスをすることでハートを止めている誰かが痺れを切らすのを待つ方がいいのではないか、ということだ。確かに、俺もそろそろスペードの8を出さなきゃかなあと思い始めた頃合いだ。
「じゃあ、パスで」
「俺もパス」
「……俺、パス5回だからもう終わりだ」
「えー! サキ~!」
「ダイヤとスペードが出ないんだからどうしようもないでしょ」
スペードに関してはすみませんでした。
これでサキも戦線離脱……って、本当に手札がダイヤとスペード中心って感じだな。それから少しのハートと。クラブは結構列の方に出揃ってるから、それで何とか繋いでたんだろうな。実際他のメンバーもクラブでやりくりしてる状態だから。
「でも、2人いなくなるとどこの列を使って行けばいいかわかってくるな」
「そうだな。クラブも埋まって来たし、次はどこの列に戦線が移るかな」
「すがやん、実はまだ持ってたりしない?」
次は戦線がダイヤに移ってるんだけど、俺の手持ちにダイヤはあまりない。仕方ない、みんなが困ってるのはハートだろうからスペードの8は出してしまおう。
「はい」
「あー! ササじゃんかスペードの8!」
「サキには悪いけど止めさせてもらってた」
「ホントに」
「はーよかったスペードが出た~」
「でもサキが終わった時に結構埋まったからそこまで影響はなさそうだね。そうなるといよいよハート勝負になってくるかな」
「玲那、パスあと何回?」
「私? もう出来ないよ」
玲那がパス5回になったけど、まだ場にハートの6と8は出ない。そして俺もそのパス乱舞に付き合っていたらパス5回。スペードの8も出してしまったしこれで終わりだ。残るはすがやんとくるみ。
「あっ、ササも終わり!? すがやんとの一騎打ちだね!」
「おーいみんな、ハート4枚止めてんのくるみだぞー。俺マジで持ってねーから負けるぞー」
「えっ、くるみ!?」
「すがやん! ウソは良くないと思うよ!」
「でも俺残り2枚なんだよな~。しかもダイヤの3とエース。はいおっしまい」
「えー!? すがやんいつの間に!」
ちょうど焼き芋も焼けたし、いいタイミングでゲームセット。すがやんが静かに手札を減らし続けていたのに気付かずくるみがずっとハートを止め続けていたようだ。って言うかよくそれだけ固まったな。
「やったー焼き芋おいしそ~!」
「芋に無邪気に群がるのとハートの6と8全部止めてたのが同じ人間とはとても思えない」
「いや、でもくるみって実際アレだぜ、淡々としてるところもあるから。勝負事とか仕事とか」
「なるほどな。そこのところの読み合いに負けたのか」
end.
++++
1年生6人の七並べ大会。MMP式でやってるんですけど、連中はとにかく規模がデカけりゃいいと思ってるところがある。
くるみの戦術にみんなハマったけど、それをあっさりかわしてこっそり1抜けするすがやんはきっと場数の違い。
ササもレナもそれなりにやってたけど、戦術は手札次第で変わって来るから難しいね。もう1回やるとまた結果は変わるだろうね
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